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地球環境は人間を映し出す鏡――世界最高峰の賞に輝いた自然写真家に聞く 2023年9月14日

  • 〈SDGs×SEIKYO〉 自然写真家 高砂淳二さん

 海の生き物をはじめ地球の神秘を撮影してきた自然写真家の高砂淳二さん。昨年、自然写真の世界最高峰といわれる「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の“自然芸術性”部門で、日本人初の最優秀賞を受賞しました。約40年にわたり、世界中の海を見つめてきた高砂さんに、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」を巡ってインタビューしました。(取材=樹下智、澤田清美)

ペンギンたちの楽園として知られる、南大西洋のフォークランド諸島=ここからの写真は全て高砂さん提供
ペンギンたちの楽園として知られる、南大西洋のフォークランド諸島=ここからの写真は全て高砂さん提供

 
 ――高砂さんはダイビング専門誌の専属カメラマンを経て、1989年に独立されました。自然写真家になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
  
 大学時代に1年間休学して、オーストラリアを旅した時、ダイビングのライセンスを取りました。海の中で“ぷかー”っと浮く浮遊感がたまらなく好きになり、水上から差し込む光がきれいで、「うわぁ、これはとんでもないものを見てしまった」と思ったんですよ。
  
 ダイビング仲間に水中で写真を撮っている人がいて、「自分の写真が売れた」って言うんですよね。「なに!? そんな仕事があるのか」と思いまして。それから、プロの水中写真家を目指すようになりました。
  
 ――水中の撮影から、自然全体へと被写体を移していったのはなぜですか。
  
 専属カメラマンの時代から、とにかく気になったものは撮らなきゃと思って、カメラを向けていました。普通、雑誌のカメラマンだったら、全体の構成を考えながら撮影するのですが、クマノミ(海水魚)が気になって、そればっかり撮って、編集長に怒られた時もありました(笑)。
  
 でも、徐々にいい作品も撮れるようになって、だんだん自然全体に意識が向くようになりました。独立した後、動物や植物も撮り続ける中で、「どうして、こんなにいろんな生き物がいて、しかもその中で、なぜ人間という不思議な生き物がいるんだろう」っていう疑問で、僕の頭の中はパンパンになっていきました。
  
 ――そこで、ハワイに行って、人間と自然について探求されたんですね。
  
 はい。先住民族の方のもとに毎日通って、いろいろなことを教わりました。「世の中が成り立つように、全ての生き物にそれぞれの役目があるんだよ」って。人間には二つの役割があって、一つは、全体のバランスが崩れないように自然を看ること。もう一つは、一生かけてアロハ(愛)を学ぶことだ――そう言われたんです。
  
 ――環境を破壊する人類は、真逆のことをしているように思いますが……。
  
 ええ。それを考えると、人間はいない方がいいんじゃないかって感じる人も多いと思います。でも、相手の立場に立って考えて、相手を思いやれる力というのは、人間が圧倒的に強いと思うんです。「人間にも役割があるんだ」って、先住民の方の話を聞いて、ふに落ちました。だからこそ、環境問題を解決して、バランスを戻していく必要があると、強く感じます。

セントローレンス湾(カナダ)の流氷上で生まれ育つアザラシの赤ちゃん
セントローレンス湾(カナダ)の流氷上で生まれ育つアザラシの赤ちゃん

 
 ――約40年間、自然と向き合い続けてきて、特に感じる変化は何でしょうか。
  
 やっぱり、暑さですよね。例えば、カナダのセントローレンス湾で北方から移動してくる流氷の上で生まれるアザラシを撮影してきたんですけど、年々暖かくなってきて、氷が薄くて撮影の際にヘリコプターで降りられない年が増えました。
  
 4年前は、まだ氷が厚い方で、無事にアザラシの赤ちゃんの撮影ができたのですが、その約2週間後に、氷が全部解けてしまったことが分かりました。アザラシの赤ちゃんが独り立ちするには、氷上で4週間は生活する必要があるので、僕が撮影した子たちは、おそらく全員死んじゃったんだと思います……。
  
 ――とても悲しい話ですね。
  
 その翌年は、氷が全くなくて、アザラシのお母さんはやむなく陸地に上がって出産したらしいです。それは、赤ちゃんが敵に狙われやすい危険な環境です。
 人間は暑くても冷房を使えば、変わりなく暮らしていけますけど、こうした動物たちは、少し気温が上がるだけで生きていけなくなる。地球温暖化による海水温の上昇や海洋酸性化で、海で暮らす動物や海洋生物の生態系は危機にさらされています。サンゴの白化現象もたくさん見てきましたが、サンゴ礁は40年で半分以下になったといわれています。

沖縄のサンゴの海
沖縄のサンゴの海
 
 
海洋プラごみの被害

 ――海洋プラスチックごみの問題も深刻です。
  
 ええ。僕も1990年代から、その影響を見てきました。太平洋のど真ん中に浮かぶミッドウェー島に、アホウドリを撮影しに行った時のことです。ハワイから2000キロも離れていて、ほとんど誰も住んでいないような島で、プラスチックごみを食べて死んだアホウドリがたくさんいたんです。
  
 海流の影響で流れ着いたプラスチックごみを、アホウドリのお母さんが餌だと勘違いして、子どもたちにあげるんですね。それがおなかにたまって、他のものを食べられなくなって、栄養失調になって死んでしまう。死骸を見ると、胃の形になってプラスチックごみが固まっているんです。そういった死骸が、ごろごろ転がっていました。
  
 ――90年代で、既にそうした状況だったんですね。
  
 今はもっと多くのプラスチックごみが、海にあふれていると思います。9割以上の海鳥の胃に、プラスチックごみが入っているとまでいわれています。また、ウミガメの半数が、ビニール袋などを飲み込んでいるともいわれていますね。
  
 ――プラスチックごみが海で細かく分解されたマイクロプラスチックも問題視されています。
  
 海に浮かんで目を凝らすと、水面に細かいプラスチックが見えることがあります。先日も、日本の海の調査船に乗せてもらったんですけど、5分くらい網を海中で引っ張ると、いっぱいプラスチックごみが入っていて。海水を実験室に持って帰って、目に見えるごみを全部取り除いても、顕微鏡で見るとまだまだいっぱいあるんですよね。2050年には、魚よりプラスチックごみの量の方が多くなるって予測されていますが、本当にそうなるような気がします。

海洋プラスチックごみを食べて死んだ、ミッドウェー島のアホウドリ
海洋プラスチックごみを食べて死んだ、ミッドウェー島のアホウドリ

 
 ――高砂さんは自身の撮影活動の経験から、“自然や生き物に心を開いて敬意をもって接していけば、自然や生き物も心を開いてくれる”と言われています。
  
 ハワイの先住民の方から、環境は自分を映す鏡だから、自分と環境の関係を正しくするには、アロハの心、敬意や感謝の心をもって接していかないといけないと教わりました。海に一緒に入った時に、「どうだった?」と聞かれて、「いやー、気持ちよかったですよ」って答えたら、「それなら海も喜んでるな」って言われたんです。
  
 ――仏法では「依正不二」といって、人間(=正報)と、その人間を取り巻く環境(=依報)は分かちがたく関連していると説いています。
  
 日本でも西洋文化が入ってくる前は、人間と自然は一体だという感覚が、もっと当たり前だったっていいますよね。そういった心持ちで被写体に向き合うと、やっぱり向こうの反応が違うんです。
  
 森に入る時も、“撮ってやるぞ!”ってズカズカ入るんじゃなくて、“お邪魔します”って静かに入っていく。生き物の様子をよく見て、気にしてるなと思ったら少し下がって、安心してるなと思ったら少し近づく。遊びたそうにしていたら、面白いことをしてあげる。子守歌を歌いながら撮影する時もあります。そうすると、向こうも自然と緩むんですよね。

ハワイ・マウイ島のカアナパリ沖を泳ぐウミガメ
ハワイ・マウイ島のカアナパリ沖を泳ぐウミガメ
 
 
究極のハーモニー

 ――そうした撮影を続けてこられ、昨年、自然写真の世界最高峰の賞に輝かれました。93カ国から16部門に3万8000以上の応募があった中での快挙です。
  
 ありがとうございます。受賞作品となった「Heavenly flamingos」は、南米ボリビアにあるウユニ塩湖に降り立ったフラミンゴを撮影したものです。
  
 この時も、究極の自然のハーモニー(調和)を織りなすフラミンゴたちにカメラを向けるため、2時間近くかけて、しゃがみながらゆっくり近づいていきました。標高3700メートルにある湖なので、酸素が薄くて、もう頭が痛くて(笑)。
  
 でも、捕食の瞬間とか、あっと驚くような生態を捉えた写真が評価されやすい欧米のコンテストで、自然に溶け込むように努力して、自然のハーモニーを撮影しようと頑張った作品が最優秀賞を受賞できたのは、率直にうれしいです。
  
 ――高砂さんは環境NPOの副代表理事も務めています。最後に、環境問題に向き合う上で大事にしていることを教えてください。
  
 二酸化炭素の排出量をどう削減しようとか、プラスチックごみをどう減らそうとか、いろんな施策や方法を考えるのも重要です。でもその前に、感謝や愛情をもって地球に接していくという“気持ち”を大切にする必要があると思います。
  
 この数十年間、人間は地球に甘えてばっかりで、取りたいものは取り放題で、使い終わったら海に全部流せば大丈夫って思ってきた。今、その付けが回ってきている。人間と地球は一体ですから、そういう感謝も愛情もない態度で接していけば、自分たちの首を絞めることになります。
  
 感謝や愛情があれば、例えば、大地にダメージを与えないよう、無造作に除草剤をまくことをやめるとか、具体的な行動につながっていくと思います。
  
 人間も壮大な自然のハーモニーの一部として、人間にしかない役割があるはずです。愛、感謝、敬意といった心を、僕たちの周囲や自然環境に広げていきたいですね。

自然写真の世界最高峰といわれる「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の“自然芸術性”部門で最優秀賞を受賞した「Heavenly flamingos」
自然写真の世界最高峰といわれる「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の“自然芸術性”部門で最優秀賞を受賞した「Heavenly flamingos」

 
たかさご・じゅんじ 1962年、宮城県石巻市生まれ。ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。世界中の国々を訪れ、海、虹、星空などの風景や、生き物などの撮影活動を続けている。『Aloha 美しきハワイをめぐる旅』『光と虹と神話』『PLANET OF WATER』などの著書・写真集を多数発刊。みやぎ絆大使、いしのまき観光大使、海の環境NPO法人「The Oceanic Wild life Society」の副代表理事も務める。

  
●ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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