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〈SDGs×SEIKYO〉 伝統とは、皆で育てるもの。――郷土芸能「根子番楽」の継承 2023年10月5日

4:49

 秋田県北秋田市阿仁根子で800年以上受け継がれてきた「根子番楽」。2004年に国の重要無形民俗文化財に指定された同番楽で、篠笛奏者を務めるのが長田博子さん(45)=支部女性部長〈地区女性部長兼任〉。郷土芸能が今、地域コミュニティーに果たしている役割とは――。(今回はSDGsの11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」について考えます。取材=石塚哲也、外山慶介)

この記事のテーマは「住み続けられるまちづくりを」

 太鼓、篠笛などの伴奏に乗せて舞う「根子番楽」は、武士を主人公にした舞が多く、古くから“根子に住む長男だけが受け継ぐもの”とされてきた。しかし、時代が進み、少子高齢化や過疎化も相まって、全ての子どもや女性、近年は近隣地域の住民も参加するようになった。長田さんは、篠笛奏者として舞台に立ち、後継の育成にも尽力している。

 根子で生まれ育った長田さん。番楽に携わる父・松夫さん(故人)は、口癖のように「世界へ根子番楽を発信したい」と語っていた。毎週のように番楽のメンバーとも“番楽の未来”について意見を交わす。そんな父も、番楽も、長田さんは誇らしく感じていた。

 小学校の授業で学んだり、父の姿を見たりしてはいたが、高校卒業後、県の郷土芸能祭で観客席から見た根子番楽の舞台に、強く魅了された。

 「テンポの速い、はやしの調べから生まれる勢いと、勇壮な舞。この素晴らしい郷土の宝を後世に残したい」と思い、根子番楽の練習に参加するように。当時は、はやしの吹き手が少なかったこともあり、22歳で篠笛奏者となった。

 8年後、結婚を機に根子の隣にある上小阿仁村へ。長男と長女を出産した。生活環境の変化、また、子どもたちの発育にも“周囲と違う”と感じられるところがあった。育児に追われ、番楽の練習からも足が遠のいた。そんな時、長田さんは一つの出あいを得る。創価学会のある会合で信仰体験を聞いたのだ。

 父が番楽に勝るとも劣らず、人生を懸けていたのが信心だった。長田さんも10代から未来部担当者の女子部(当時)の先輩に励ましてもらいながら、学校生活、就職、転職と、自身の悩みを信心で乗り越えてきた。

 会合で聞いた体験発表は、同世代の友が障がいのあるわが子と歩む決意と、その日々の中に希望を見いだす内容だった。会合からの帰路、長田さんの心は軽くなっていた。

 “私は独りじゃない”

 人生の課題と向き合う仲間と縁して、自他共に元気になれる――創価学会という存在に感謝した。会合に誘ってくれた先輩にも。そして池田先生の“地域でなくてはならない人に”との指針を胸に刻み、“私も、人と人をつなげる役割を担いたい”と祈り始める。

 長田さんの仕事は障がい者福祉施設の介護職だが、その知識を求められ、ママ友の相談に乗るようになった。時には、行政の支援先等も紹介した。

 番楽にも再び足を運ぶようになった。
 「人と人をつなぐという使命を、自分の中で決めてから、どんなことにも精力的になれたと思います」

 根子に生まれ育った人、結婚等で近隣地域に出た人、Iターンで根子に移住してきた人。いろいろな人々を、番楽を通してつなげたい。根子出身でありながら、結婚して他地域に住み、番楽に関わる長田さん自身が、さまざまな垣根を越え、人々の心を結ぶ存在になった。

 根子番楽の関係者はこう語る。
 「伝統を変えたくない人もいれば、新しいことをやりたい人もいる。長田さんは、そんな私たちの架け橋なんです」

 根子番楽に携わって23年。長田さんは地道に番楽経験者に声をかけ続け、女性の篠笛奏者も増えた。また根子周辺の地域も含めて、小・中学校で、郷土芸能について学ぶ「ふるさと学習」が行われ、後継者も着実に増加。長田さんの2人の子どもたちも舞台を見て「かっこいい」と番楽を始めた。

 長田さんは語る。
 「これからも根子と関わって、番楽と関わっていきたい。先輩たちが誇りを持って伝承してきた番楽を、若い子たちにも伝えて、みんなで育てていきたいんです」

 地域に暮らす人と人が出会い、共に生きる喜びや楽しさを分かち合う。郷土芸能に参加し、守ろうとする営みそれ自体が、「住み続けられるまちづくり」なのだと、取材を通して学んだ。

【SDGs×SEIKYO特設HPはこちら】
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写真で見る「根子番楽」と「根子集落」
毎週水曜日は根子番楽の練習。練習が終わると、皆で飲食をともにしながら番楽の未来について語りあったり、プライベートの話で盛り上がったりもする
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車1台しか通れない根子トンネルを抜けると集落が広がる
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廃校になった旧根子小学校の体育館が根子番楽伝承館としてのこる
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