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〈インタビュー〉 創業90年の銭湯をリニューアル 若者が集まる新たなスタイル  2023年10月7日

  • 銭湯「黄金湯」店主・オーナー 新保卓也さん・朋子さん夫妻

 「学生記者が取材する『SDGs×SEIKYO』」では、本社所属のスチューデントリポーター(学生記者)が、SDGsに関わる人物にインタビューをしていきます。(この取材は学生記者のshinが担当しました)

 〈サウナブームに沸く一方、銭湯の廃業が相次ぐ温浴業界。新保卓也さん・朋子さん夫妻は、若い世代に人気の「黄金湯」(東京都墨田区)をはじめ、3つの銭湯を経営している〉
 

今回のテーマは「住み続けられるまちづくりを」

 ――「黄金湯」は、ひらけた番台にDJブースやビールサーバーが設置されているなど、入り口から“新たな銭湯”といえる店構えですね!
  
 朋子さん 「黄金湯」は1932年に創業して以来、約90年、地域の方々に愛され続けてきました。しかし、90年もたてば、建物は老朽化します。私たちは、途中から経営を引き継ぎましたが、この老朽化と、敷地が狭いことを考慮しつつ、すでに近くで経営していた「大黒湯」との差別化も検討しました。

 そこで、もともと銭湯になじみの薄い、若い世代や海外のお客さまをターゲットとすることで、地元だけでなく、東京、日本、そして世界に開かれた“新たな銭湯”の在り方を示そうと決めたんです。そして、2020年にリニューアルを果たすことができました。

DJブース(手前)とビールサーバー(奥)
DJブース(手前)とビールサーバー(奥)

 ――現在では、ウェブ上で予約を受け付けているサウナと宿泊施設は、いつ見てもほとんど満員になっています。人気の秘訣はどこにあるのでしょうか。
  
 卓也さん クラフトビールや宿泊施設、食堂など、今までにないようなサービスに魅力を感じていただいているんだと思います。しかし、その全てが“最高の銭湯体験”を考えてつくったものなんです。

 「湯上がりにビールが飲めたら最高じゃない」「そのままご飯を食べて、寝ることができたら最高じゃない」と、銭湯を中心にしながら、お客さまに喜んでもらえる、あらゆるものを考えてきました。

 銭湯の原則としては、「快適」と「清潔」と「適温」の3つを大切にしています。特に「適温」は全国各地の銭湯を巡りながら、“気持ち良い”と思った環境を再現したいと、1度単位で追求しています。

 一方で当初、周囲からは「若い世代は熱湯に入らないから費用もかかるし、浴槽は減らした方がいい」と言われたんですが……。
  
 朋子さん 実は私が熱湯、大好きなんです(笑)。熱湯に入らないと、入った気がしなくて(笑)。だから、熱湯を残しつつ、お客さまが好みに合わせて選べるよう、湯船は、熱湯、ちょうどいい薬湯、ぬるめの炭酸、水温16度と24度の2種類の水風呂の5つを用意しています。しかも、これにサウナがついてくる。最高でしょ?(笑)。お客さまのことを考えながらも、やはりお湯には1番、愛やこだわりを詰め込んでいます。

 また、サウナも“うちにしかないもの”を追求し続け、限られた空間の中で、どうしたらお客さまにリラックスしていただけるか考えてきました。

 独自の製法で水蒸気を発生させる、発汗性を高めるサウナストーンを使ったり、扇風機やひさしを駆使して外気浴における最高の風通しを実現したり、狭いからこそ、サウナ、水風呂、外気浴の3つのスペースをスムーズに行き来できる動線をつくったりと、さまざまな工夫を凝らしています。
 

こだわりの木材と石材、オートロウリュの湿度でしっかりと汗がかけるサウナ
こだわりの木材と石材、オートロウリュの湿度でしっかりと汗がかけるサウナ

 ――もはや銭湯の域を超えていますね! 私も入りたくなってきました……(笑)。どうしてそこまで銭湯にこだわるのでしょうか。
  
 卓也さん 今は昔と違い、ほとんどの家庭に浴室があります。銭湯は“もう必要とされていないんじゃないか”とさえ思うこともありました。

 しかし、銭湯、すなわち公衆浴場とは国民の衛生を保つためにある場所です。今でも、毎日のように来てくれる方がいらっしゃるということは、その銭湯の使命は変わっていない。そうしたお客さまのために、毎日近所で入ることができる銭湯を、文化として残し続けたい。

 また何よりも、お湯につかれば、つかの間かもしれないけれど嫌なことを忘れられたり、明日頑張ろうと思えたりもします。それが銭湯の良いところだし、そういったお客さまの姿を見ると、心からうれしいわけです。

 朋子さん スーパー銭湯や温泉にはない距離感の近さ、人と人との結びつきも銭湯ならではだと思います。うちの銭湯で育ったから、どうしてもアルバイトとして雇ってほしいというお客さまがいたり、子どもの頃から通ってくれていた人が社会人になっていく成長ぶりを見届けたりと、銭湯でしか経験できなかったうれしいエピソードも数多くあります。

 また、SDGsの目標である「住み続けられるまちづくりを」について考えてみると、銭湯自体が一つのコミュニティーとして、その目標を達成する一助になっているのではないかとも思っています。

 私たちの銭湯で、イベントを行うと、多様なお客さまが来られて、その場で意気投合する方もたくさんいます。例えば以前、DJブースを生かして、レコードのフリーマーケットを開催しました。高齢の方がたくさんレコードを持ってきてくださって、それに対し、若い方が興味を持ち、世代を超えたコミュニケーションが生まれました。

 湯船につかって疲れた体を癒やすとともに、人と話して幸福を感じてもらう――そんな伝統や文化を持つ銭湯という場所が、SDGs達成を目指す今こそ求められているのではないでしょうか。
  
 ――一方でコロナ禍やガス代の高騰など、銭湯経営の上で厳しい状況が続いていると思います。どのように乗り越えてこられたのでしょうか。
  
 卓也さん 温浴業界だけでなく、伝統産業は全てそうだと思いますが、お客さまがいるからこそ、残り続けているわけです。お客さまがいなくなってしまったら、それまで育まれてきた伝統や文化まで廃れてしまいます。だからこそ、時代のニーズに合わせ、変えるべきは大胆に変えていく――このことを念頭に、私たちは、今までにないアプローチをし続けてきました。
 

クリエーターとコラボし、デザインしたのれん
クリエーターとコラボし、デザインしたのれん

 「黄金湯」をリニューアルする際、アーティストの高橋理子さんにロゴやグッズなどディレクションブランディングを担当してもらい、高橋さんの紹介で建築家の長坂常さんに、これまでの銭湯にないようなデザイン性あふれる設計をお願いしたのも、その思いがあってのことです。
  
 ──これから挑戦されたいと思われていることはありますか。

 卓也さん いずれは世界へ進出していきたいと考えています。「黄金湯」のような銭湯を海外で展開し、日本の銭湯文化や気持ち良さをもっと広めていきたいです。
  
 朋子さん 銭湯の本質である“気持ち良い”は、海外の人にも共感してもらえると思っています。銭湯を通じて日本文化を知ってもらいたいし、銭湯の大事な要素を広めていければ、もっともっと、みんなが幸せを感じられるようになると信じています。

〈プロフィル〉

 しんぼ・たくや、ともこ 夫・卓也さんは「大黒湯」を営む家族の次男。OA機器の営業職から独立し、リサイクルショップを自営した後、妻・朋子さんと家業の「大黒湯」を継ぐ。2018年、別のオーナーが廃業にしようとしていた「黄金湯」を引き継いだ。クラウドファンディングで寄付を集め、大規模改修を実施。2020年にリニューアルオープンし、従来の銭湯の枠にとらわれない、新しい試みが話題となる。本年5月には、イギリスBBCが運営する「BBC Travel」にて、東京のベスト銭湯5選に選出された。

〈取材後記〉

 銭湯は時を超えて地域とともに発展し、人々の健康をそしてコミュニティーを支えてきたのだと実感した取材でした。年々減少する銭湯ですが、まずはあなたの身近にある銭湯を訪れることで、新たな発見があるかもしれません。入浴によって心身の健康を得られること以上に、経済面や環境面でもSDGsに貢献できる。お風呂でゆったりくつろぎながら、地域の持続可能性について考えてみてはいかがでしょうか。(Shin)
 

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●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください→ sdgs@seikyo-np.jp

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1980年東京都生まれ。文筆家、「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。ジェンダー、恋愛、人間関係、カルチャーなどをテーマにさまざまな媒体で執筆。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。著書に『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門──暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)など多数。女子美術大学非常勤講師。

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