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〈インタビュー〉 宗教の社会的役割 宗教こそ人間らしく生きるための基盤 2022年10月21日

  • 新潟青陵大学大学院教授 碓井真史さん

 メディアの過剰な報道によって、問題点がかえって見えにくくなっている旧統一教会の問題について、碓井真史氏に話を聞いた。(「第三文明」11月号から)
 

1959年、東京都生まれ。日本大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻修了。博士(心理学)。専門は社会心理学。道都大学教授、新潟青陵女子短期大学教授などを経て、2006年より現職。新潟市のスクールカウンセラーとしても活動している。著書に『あなたが死んだら私は悲しい――心理学者からのいのちのメッセージ』(いのちのことば社)、『人間関係がうまくいく 図解 嘘の正しい使い方――ホンネとタテマエを自在にあやつる! 心理法則』(大和出版)ほか多数。ホームページ「心理学総合案内 こころの散歩道」は、アクセスが3000万件を超えている
 
1959年、東京都生まれ。日本大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻修了。博士(心理学)。専門は社会心理学。道都大学教授、新潟青陵女子短期大学教授などを経て、2006年より現職。新潟市のスクールカウンセラーとしても活動している。著書に『あなたが死んだら私は悲しい――心理学者からのいのちのメッセージ』(いのちのことば社)、『人間関係がうまくいく 図解 嘘の正しい使い方――ホンネとタテマエを自在にあやつる! 心理法則』(大和出版)ほか多数。ホームページ「心理学総合案内 こころの散歩道」は、アクセスが3000万件を超えている  
宗教の問題ではなくカルトの問題

 旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題について、マスメディア報道や、ネットでの議論が過熱しています。これまでの行状から考えると、旧統一教会がカルトであることは間違いありません。しかし、それとは別の問題として、テレビのコメンテーターなどの発言には信仰者の気持ちを理解していない言説が見られるのも事実です。日本の場合は、そもそも宗教が嫌いな人が多く、知識人でも宗教に疎い人が少なくないからでしょう。専門家として登場する宗教学者も、あくまで研究対象として宗教を扱っているだけで、必ずしも信仰者の感覚がわかっていない場合もあります。
 
 今回の問題の本質は宗教の問題ではなく、カルトの問題だという認識をまず持つべきだと思います。
 
 カルトから抜け出すのは大変なことです。例えば、教祖の予言が外れたとして、普通であれば教団から離れそうなものですが、むしろどんどん傾倒してしまうことがあります。
 
 社会心理学に「認知的不協和」という理論があります。人は自身の認知と異なる認知に直面すると、その矛盾の解消のために自分の外側の認知を過小評価したり、都合よく解釈したりします。
 
 カルトに置き換えれば、自身の認知はカルト教団内の論理であり、外側の認知は法律や世間一般の常識にあたります。法律や世間一般の常識を過小評価したり、都合よく解釈したりするために、カルト教団の論理のおかしさに気づかないのです。
 

 旧統一教会の問題については、弁護士や専門家、ボランティアらが以前から地道に取り組んできました。2016年施行の消費者裁判手続特例法や、19年に施行された改正消費者契約法はその成果です。今の過熱報道は、問題の本質や論点を曖昧にしてしまうリスクがあり、これまでの地道な取り組みを蔑ろにしかねません。
 
 ネットでの議論などを見ていると、「どうせ他の宗教団体も同じだろう」と考えている人が少なくないようですが、これこそが、旧統一教会を肯定する論理です。教団を「マインドコントロールだ!」と責めれば、相手は「それを言うなら他の宗教団体も同じじゃないか」と反論してきます。さらには、「学校教育や国家の運営にだって同じ側面がある」「これは宗教弾圧であり、人権侵害だ。私たちだけ悪者にするな」という反論さえ出てきます。
 
 「どうせ他の宗教団体も同じ」という考え方は、旧統一教会のカルト性を見落とすだけでなく、社会に貢献している宗教までも否定してしまうのです。殺人犯が包丁で人に斬りかかるのと、外科医が手術で患者の体にメスを入れるのを同じ行為と考える人はいません。旧統一教会と他の多くの宗教団体はそれくらい次元が違うのです。同一視していいわけがありません。
 

宗教弾圧の萌芽

 特に取り沙汰されているのは、教団と政治の関係性です。個々の議員が教団と関係を持っていたことは否定できませんが、何も政権が教団に支配されていたわけではないでしょう。
 
 旧統一教会が政治に浸透していく際の手法は実に巧妙です。教団内のグループは、地域で花を植える活動や、SDGsの取り組みに励むことで自治体から表彰されたり、首長を招いて勉強会を実施し、その様子をネットやSNSで宣伝したりしてきました。教団にはそうした関連団体がたくさんあり、名称だけでそれと見抜くことは容易ではありません。
 
 すべてを承知の上で、集票のために政治家がカルト教団と関係を持っているならば、それは大きな問題です。しかし、巧妙な手口で近づいてきた教団を見破ることができず、ほんの少しの関係があったことを取り上げて、鬼の首を取ったように責め立てるのは筋が悪い話です。
 
 今般の問題を政争の具にしてしまえば、カルト被害者の救済を遅らせるだけでなく、他の宗教団体を巻き込む形での宗教弾圧につながりかねません。ごくわずかな関係があっただけで、ここぞとばかりに自民党の個々の議員への批判を強めている政党がありますが、そのやり口は、中世の「魔女狩り」や、アメリカのマッカーシズム(共産主義者追放運動)を想起させます。政治的立ち位置を問わず、目的を果たすためならフェイクニュースも辞さない人々がいますが、自分たちの正体を隠して人々を騙している旧統一教会の手口と何が違うのでしょうか。
 

 旧統一教会を糾弾すべきなのは、彼らが宗教団体だからではなく、反社会的な犯罪にもつながる行為を行っているからです。怪しげだからという理由で宗教団体を排除しようとするならば、それは政府が気に食わない宗教団体を恣意的に潰せる社会を目指すことになります。憲法に規定される信教の自由の最も基本的な部分を、もう一度理解し直す必要があります。オウム真理教の場合も、国家は教義を断罪していません。あくまでテロ行為を取り締まったのです。
 
 テロには直接的に国家を覆す力はないものの、人々の怒りや恐怖心、不安を煽り立てる力はあります。人々が動揺し、それに政府が突き動かされてしまえば、それこそがテロリストの思うつぼですし、結果的に国家が覆されてしまいかねない。テロや反社会的な行動を起こす団体には、冷静さを保って毅然とした態度で臨まなければなりません。
 

宗教教育の必要性

 日本における人々の宗教への理解度の低さは、宗教教育の拙さも要因にあると思います。教育基本法には、公立の学校では「特定の宗教のための宗教教育」や「その他の宗教的活動」をしてはならないことと同時に、「宗教に関する寛容の態度」や「宗教の社会生活における地位」を尊重しなければならない旨が規定されています。
 
 ところが実際には、前者ばかりが強調され、後者が蔑ろにされているのです。それが人々の宗教への忌避感につながっていると私は考えます。旧統一教会の問題の本質が見極められないのは、社会や学校教育が宗教と距離を取り過ぎてきたからです。その点は、社会や学校現場の側が反省しなければなりません。
 
 子どもへの宗教教育を一切してはならないのであれば、墓参りや七五三などの冠婚葬祭すら否定されてしまいます。また、生命尊厳などの倫理観や価値観は宗教性に基づいている場合がほとんどでしょう。
 
 子どもに対する強制的な宗教教育(入会させるなど)が批判されていますが、これは何も乳幼児への布教を否定しているわけではありません。意思疎通が可能な子どもが明確に拒否しているにもかかわらず、信仰を強制するのは否定すべきというのが専門家らの共通認識です。そもそも信仰のような内発的なものを「強制」することはできません。
 

 WHO(世界保健機関)は、肉体的にも精神的にも社会的にも満たされている状態を健康だと定義しています。かつて、この肉体・精神・社会に新たに「スピリチュアル」などを加えるかどうかが議論されたことがあります。多くの日本人はこのスピリチュアルが理解できません。よく「霊的」という訳語が当てられますが、これも少し違うように思います。私は「宗教的」「宗教性」といった言葉がふさわしいと思っています。
 
 親に虐待され、友達にいじめられてもなお、自分の命には価値がある。重い障害を持って生まれてきて、動くことも話すこともできない。それでも生まれてきて良かった、生きる価値がある。これこそが宗教的な感覚であり、スピリチュアルという言葉が指すところなのです。
 
 カルトは宗教性が希薄なところにこそつけ入ってくるものです。旧統一教会のことはしっかりと糾弾しつつ、同時に今の日本に求められているのは、政治や教育、そして人々の宗教観をより良くしていくことだと思います。

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