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〈インタビュー〉 宗教の社会的役割 あらゆる人が安心できるコモンズ(共有地)の提供を 2022年10月14日

  • 大正大学教授 寺田喜朗さん

 新宗教の興隆の背景にあったものは何か。その歴史から、求められる役割を探る。(「第三文明」11月号から)
 

1972年、鹿児島県・屋久島生まれ。東京学芸大学卒業、同大学院教育学研究科修士課程修了、東洋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。東洋大学、東京学芸大学非常勤講師、大正大学准教授などを経て現職。専門は宗教社会学。コミュニティと宗教、新宗教、宗教運動論・宗教組織論などを研究。日本宗教学会理事、「宗教と社会」学会常任委員。著書に『旧植民地における日系新宗教の受容』、共著に『東日本大震災後の宗教とコミュニティ』『戦後史のなかの「国家神道」』『よくわかる宗教学』などがある
 
1972年、鹿児島県・屋久島生まれ。東京学芸大学卒業、同大学院教育学研究科修士課程修了、東洋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。東洋大学、東京学芸大学非常勤講師、大正大学准教授などを経て現職。専門は宗教社会学。コミュニティと宗教、新宗教、宗教運動論・宗教組織論などを研究。日本宗教学会理事、「宗教と社会」学会常任委員。著書に『旧植民地における日系新宗教の受容』、共著に『東日本大震災後の宗教とコミュニティ』『戦後史のなかの「国家神道」』『よくわかる宗教学』などがある  
居場所と機会を与えた新宗教

 いわゆる「新宗教」が急速に教勢を拡大するのは、第2次世界大戦後のこと。敗戦後の混乱で、さまざまな秩序や価値観が瓦解・動揺する中、宗教界においても変化が起きます。従来、僧・神職などプロの宗教者に委ねられてきた「現世安穏・後生善処」を在家が自ら学び、唱え、布教する、新しい民衆運動が次々に発生しました。
 
 高度経済成長期(1955年ごろ~73年ごろ)になると、新宗教はさらに大規模化します。背景には大都市における浮動人口の集積がありました。産業構造が転換し、農山村から都市へと大規模な人口移動(都市化)が進行したわけですが、こうした人々は檀家・氏子意識が希薄で宗教的な帰属先を持たない浮動層だったのです。
 
 同時に、大都市では「企業社会」化が進行していました。新卒一括採用、年功序列、定年制等といった「日本型労使関係」が、官公庁や大企業を中心に広がり、「サラリーマン」と家事専従者である「主婦」が急増しました。ただし、大多数の中小零細企業の従業員や日雇い労働者は、低賃金かつ不安定な暮らしを余儀なくされていたことを忘れてはいけません。
 

 戦後日本の労働運動は、GHQ(連合国軍総司令部)の方針転換もあり、産業別の労働組合が力を失い、会社ごとに組織される企業組合が主流となりました。ところが、中小零細企業の多くに組合はなく、そもそも日雇い労働者を包摂する労働組合は組織されなかったので、弱い労働者の「受け皿」がない状態が定着したのです。
 
 加えて、政府は61年に国民皆保険・皆年金制度を実現しますが、その後、それ以外の社会保障を企業に委ねます。その結果、各種福利厚生は企業任せ、育児・介護などの負担は自己責任(家族任せ)になりました。当時は経済成長の恩恵で気がついていない人が多かったわけですが、公的サポートが脆弱な国の仕組みは、この時期に確立したのです。
 
 官公庁や大企業に雇用されていない労働人口の多くは、大都市に集中する浮動層ですが、こうした人々を積極的に受け入れたのが新宗教でした。「あなたも幸福になれる」と説き、悩みや不安に寄り添い、自信と生きがい、人生の目標を与えたのです。周りにも似たような境遇の人が多く、何でも語り合える雰囲気がありました。
 

 加えて教団組織には、実力主義が貫徹されるフラット(平坦)な構造、つまり性別・出自・学歴・職業・年収など世間的な肩書が通用しない(信仰の強さや布教力こそが評価される)、実績に基づく平等主義があったのです。
 
 創価学会もこうした背景の下で大きく教勢を拡大したわけですが、他の教団と違ったのは組織化の程度、とりわけ主婦を積極的に糾合したところだと思われます。
 
 当時の主婦は、就業の機会に乏しく、理不尽な境遇に悩んでいても離婚の選択は困難でした。そうした中で、狭い世界(家庭)にとどまることを余儀なくされていた主婦に家庭の外の「居場所」を提供し、活躍できる「機会」を用意したのです。多くの主婦にとって、地域社会で活躍できる組織の存在は、貴重かつ大変に魅力的だったでしょう。
 

大きく変化した社会モデル

 ところが、高度経済成長期が終わると、新宗教の教勢は軒並み縮小傾向へ向かいます。
 
 背景には、いくつもの要因が複雑に絡まっていると思われます。少子高齢化・人口減少、情報化、時代の変化に伴う劇的な現証(信仰体験)の希少化、オートロック化などの住宅環境の変化、個人情報保護の流れなど、信徒同士の結び付きを弱め、運動停滞を招く要因はさまざまに考えられます。
 
 中でも大きな要因と考えられるのが、女性を取り巻く環境の変化です。積極的・消極的に生涯独身を選ぶ人が多くなり、シングルマザー世帯も増えています。なお、約123万のシングルマザー世帯の半数は貧困世帯、平均年収は約200万円です。
 
 さらに、共働き世帯も増えています。共働きの家庭であっても、ワンオペで女性が家事・育児に従事することは珍しくありません。親族ネットワークや地域社会の弱体化で、周りに頼れる親戚や住民がいないため、必然的に負担が大きくなります。不安定な非正規雇用者も増えているので、女性や家族をめぐる格差は、今後も拡大していくことが予想されます。
 

 その結果、女性の会合参加や布教活動へのコミット(関与)が難しくなり、それが教勢鈍化の土台になっている――こうしたことが言えると思います。従って、新しい時代の女性・家族のあり方にどのように対応していくかは、新宗教共通の課題といえるでしょう。
 
 ただし、教勢の鈍化をもって新宗教の存在意義が失われたと見るのは早計だと思われます。社会のさまざまな側面で「つながりの希薄化」が進む中、むしろ期待は増しているのではないでしょうか。
 
 実際、創価学会の皆さんは、東日本大震災において、悲嘆に暮れ限界状態に陥った被災者に「生きる意味」を示し、再び歩み出せるよう寄り添い続けました。 
 
 私自身、創価学会本部の協力で、福島常磐総県の実地調査(2011~18年)へ赴きましたが、現地の皆さんの生きざまに強い感銘を受けました。役職者は自らも被災し、心に深い傷を負いながら、仲間や地域の人々の励ましに奔走していました。特に、池田大作名誉会長の「心の財だけは絶対に壊されない」とのメッセージを届けようと奮闘する姿は、「信仰は人間をどのように強くするのか」を考えるよい機会となりました。
 

 閉塞感が蔓延し、誰もが不安や不遇感を抱えて生きている現状があると思います。安倍元首相銃撃事件が示すように、孤立し、極端な行動に走ってしまう事件も相次いでいます。だからこそ、「あそこへ行けば安心できる」と感じられる「コモンズ」(入会地=村の共有林など住民誰もが利用可能な共有地)が必要です。
 
 その点、創価学会はコモンズを提供できる「場」と「力」を有しているのではないでしょうか。実際、全国各地に会館が設置され、そこには多様な世代、さまざまな職種の人々が集っています。
 
 その強みを生かして、苦悩する人々に寄り添ってほしいと思います。それは、会館を訪れる人の悩みに耳を傾けることかもしれないし、悩みを聞いた上で、公共機関につなげることかもしれません。「私たちはあなたの味方ですよ」「いつでも来てくださいね」という姿勢を示し続けることが、現代の閉塞感を打破することに寄与すると思うのです。
 

コミュニティを維持するために

 コロナ禍もあり、今後の新宗教がどのような道を歩むのか、正確な予測は極めて困難です。ただ確実に言えるのは、アソシエーション(結社)として生まれた教団をコミュニティ(共同体)として維持していく、つまり持続可能性に留意した発想の有無が、教団の未来を左右するということです。
 
 宗教2世・3世問題が話題になっていますが、2世以降にとって教団は生得的(選択不能)なコミュニティとして存在しています。ですから、家庭や地域における信仰の継承がますます重要な意味を持ってきます。家庭円満で、子どもの成長に合わせて適切な教導ができているか。先輩・後輩との温かい絆や交流が維持されているか。こうしたことが、今まで以上に重要な鍵になると考えられます。
 

 さらに、コロナ禍で生まれたオンラインへの対応も、コミュニティの観点から考えると重要です。
 
 創価学会では、いち早く会合のオンライン化に対応したと聞きました。恐らく、ZoomやLINEなどの操作方法を必死に覚えたりして、周りの会員に伝えた方がいらっしゃると思います。もちろん「慣れた対面の会合のほうがいいな」とか、「不慣れな人にスマホの操作方法を教えるのは大変だな」と感じられた方もいらっしゃるでしょう。
 
 しかし、その取り組みには、単なる会合運営以上の価値が秘められていると思うのです。現在、日本ではデジタル後進国の汚名をそそぐために、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が強力に推進され、行政や自治体の公共サービスなど、さまざまな領域でオンライン化が進んでいます。
 
 この流れ自体は不可欠で、後戻りはできないと思います。一方、市民一人一人、とりわけ高齢者がデジタル化に問題なく対応できているかと言えば、甚だ心もとないわけです。むしろ現状では、世界有数のデジタル・ディバイド(情報格差)があり、それによって生じる格差がどんどん深刻化している傾向が見られます。 
 

 その意味で創価学会の皆さんの取り組みは、格差是正に裨益する(役立つ)ものであり、かつて読み書きができない人々に教義や経文を教え、民衆へ宗教を広げた「在家主義」の精神に連なるものです。 
 
 宗教というと、オウム真理教や旧統一教会の事件もあり、世間では批判的に語られがちですが、負の側面ばかりに注目するのは、かなり問題があると思います。宗教は人間のエゴイズム(利己主義)を抑制し、利他的な思考・行動を促します。人知を超えた存在に思いをはせることで、反省や謙虚さ、努力の大切さ、他者とのつながりや感謝の念が惹起されます。さらに、正直にまじめに正しく生きること、そして「よりよい社会」を築く意欲を喚起します。
 
 「不安の時代」「不確実性の時代」といわれる今だからこそ、「宗教」あるいは「宗教性」について、真摯に考察していく必要があると感じています。

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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