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〈インタビュー〉 現代社会における宗教の役割 2022年12月2日

  • 東京工業大学教授 弓山達也さん

 あらためて宗教の存在意義が問われる昨今の状況と、今後の展望について、弓山達也氏に話を聞いた。(「第三文明」12月号から)
 

1963年、奈良市生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。大正大学大学院文学研究科宗教学専攻博士課程満期退学。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、大正大学人間学部教授を経て、2015年から現職。専門は宗教社会学。現代世界の宗教性・霊性について研究する傍らで、財団法人やNPOの活動を通じ、学生と市民をつなぐネットワークを模索している。著書に『天啓のゆくえ』(日本地域社会研究所)、共著に『平成論「生きづらさ」の30年を考える』など多数。
1963年、奈良市生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。大正大学大学院文学研究科宗教学専攻博士課程満期退学。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、大正大学人間学部教授を経て、2015年から現職。専門は宗教社会学。現代世界の宗教性・霊性について研究する傍らで、財団法人やNPOの活動を通じ、学生と市民をつなぐネットワークを模索している。著書に『天啓のゆくえ』(日本地域社会研究所)、共著に『平成論「生きづらさ」の30年を考える』など多数。
現れてくる宗教的なもの

 旧統一教会の問題については、かつてのオウム真理教の問題との類似性が指摘されています。宗教団体の反社会性という点では同じですが、少なくともアカデミズム(学術界)の受け止め方はずいぶん違っているように思います。

 オウムの事件が起きたとき、アカデミズムの人々は宗教団体であるがゆえに起きた出来事だと捉えました。だからこそ、宗教に関するさまざまな議論が巻き起こったわけです。
 他方、今般の旧統一教会の問題は、お布施の強要という会員に対する抑圧・収奪の体制や、自民党議員と教団との関係性ばかりが指摘され、宗教的な側面はほとんどクローズアップされていません。それにもかかわらず、世間には「宗教=危険」という漠然とした印象が蔓延しています。

 明らかに一線を越えている旧統一教会が、社会的な非難や指弾を受けるのは当然です。
 しかし、その一例をもって宗教全般が危険だと捉えたり、宗教団体の政治参加を問題視したりというのは、社会にとって極めて危うい議論です。旧統一教会の問題を契機に社会から宗教を排除しようとする空気感がありますが、宗教が存在しない社会というのは、図書館や書店、映画館といった施設がない地域のようなもので、文化的に貧しいと言わざるを得ません。

 興味深い現象があります。それは、仮に社会から宗教コミュニティーがなくなったり、宗教を排除したりしたとしても、結局のところは“宗教的なもの”が現れてくるという現象です。私はこれまで東日本大震災の被災地に定期的に足を運んできました。少なくない被災地域では、未曽有の災害によって宗教コミュニティーが失われてしまったものの、時間がたち、地元住民や移住者、ボランティアの人たちによる新たなコミュニティーが成立してくると、「祭をやろう」という話が出てくるのです。

 こんなケースもあります。地域から疎外された水俣病事件の被害者らは、かつては「神や仏などあるものか」と思っていました。それがやがて「本願の会」という患者団体ができ、その活動のなかで野仏をつくったりしているのです。東日本大震災の被災地にしろ、水俣にしろ、宗教団体をつくったり、宗教的なスローガンを掲げたりはしていないものの、救いを求めるなかで結果的に宗教的な表現形態を取っているのです。

 他方、共産主義もまた“宗教的なもの”の一つです。
 善悪の階級闘争の末にプロレタリア独裁を目指すという思想については、多くの宗教学者が宗教的な構造だと指摘しています。共産主義の特徴の一つに、人類の歴史や世界を意味づけ、維持したり変革したりすることがあります。これは長らく宗教が担ってきた役割であり、そうした宗教の枠組みからどのように自由になるかという問題意識から生まれたのが共産主義なのです。

 裏を返せば、宗教の側は共産主義から学習すべき点があると言えます。ユートピアを目指しながらも、結局は人々を抑圧する国家をつくってしまった共産主義。それと同じことが宗教においても起き得るということです。その一例が、旧統一教会の問題です。

教団に所属することの重要性

 私は宗教には本来的に三つの役割があると考えています。
 第一に、人々をつなぎ合わせ社会を統合すること。第二に、人々に善悪の基準や倫理観を与えること。第三に、人々に意味や価値、使命感を与えることです。

 近代以前はこの三つの役割を宗教が果たすことによって、人類の文化が育まれてきました。それが近代以降には、教育や医療、福祉、政治などの専門化が進み、宗教が担ってきた役割が分散します。唯一、代替不可能だったのは死の問題です。死に直面したときにその意味を見いだしたり、苦しみを和らげたり、死後について思いを巡らしたりといったことだけは、今なお宗教の重要な役割となっています。

 専門化は一面では人々の生活を豊かにしましたが、一方で宗教との距離が開いてしまったために多くの人々は生活や人生に意味を見いだせなくなってしまいました。とはいえ、先述したように宗教がなくなろうとも“宗教的なもの”は再び現れてくるという見方もあります。
 かつての私は、どちらかといえば後者の考え方を持っており、宗教教団はなくなったとしても、人々は宗教的に生きていけると思っていました。ちょうど15年ほど前に、占いやパワースポットなどのスピリチュアリティのブームが起きた頃のことです。

 しかし、今では考えを改めています。この15年間の研究のなかで、教団の重要性に気がつきました。定量的な共同調査を行ってみたところ、教団に属さずにスピリチュアルな生き方をしている人々のなかには、幸福度が低かったり、他者と共生していく志向性が弱かったりするケースが多いことが明らかになったのです。

 あるいは、終末期の患者に対する宗教者によるスピリチュアル・ケアを見ていると、宗教者が醸し出す力や背後にある教団の力、そのさらに背後にある神仏の働きを感じることが少なくありません。病院に来る宗教者は、服装などの見た目は一般の人と何ら変わりません。患者との対話の内容も、基本は傾聴に徹して何か特別なことを言っているわけではない。それでも、患者は癒やされるのです。

 同じようなことは、創価学会の座談会に参加したときにも体験しました。法衣を着ているわけではない市井の人々にもかかわらず、会員の方々が語る言葉には、不思議と信仰を持たない人とは明らかに違う何かがあるのです。安定的で独善に陥らない信仰のためには、やはり教団に所属するということが大切なのだと思います。

宗教が持つ両側面

 今や世界中の津々浦々に創価学会の会館が存在しています。10年以上前に東京・巣鴨にある戸田記念講堂で絵本の展覧会が開催された折には、私も娘と一緒に足を運びました。今後はますます地域の文化施設としての役割を担っていただきたいと思っています。
 地域に開かれた会館という点では、東日本大震災がその可能性を示してくれた部分があります。岩手県・宮城県・福島県の沿岸部の会館は、会員のみならず地域の人々にとって一時的な避難場所となったのです。

 創価学会が支持する公明党は、連立与党としての経験が20年を超え、多くの地方議会でも重要な立場にあります。その点、創価学会には一宗教団体という枠には収まらない社会的な責任が生じていると言えます。セキュリティーの問題などはあるにせよ、学会の会館が地域の人々を主役にする場として機能すれば、学会にとっても地域にとっても良いはずです。

 宗教団体として、これまで以上に社会に開いていくためには、宗教間の対話も大切です。創価学会のような圧倒的な規模の宗教団体ともなれば、すでに他教団とは比較にならないほど社会的なつながりを持っています。
 ゆえに、これまでは他宗教と歩調を合わせなくともやってこられた。ただ、これからの宗教教団は今まで以上に社会的責任を求められます。圧倒的な規模を誇るのであればなおさら、宗教界の横綱として宗教間の対話を先導してもらいたいと思っています。
 オウム真理教や旧統一教会に象徴されるように、宗教は常に危険性をはらんでいます。しかし同時に、宗教には人々を豊かにさせる面もある。

 先の共同調査では、宗教に心寄せる度合いが高い人ほど主観的な幸福度が高く、図書館や美術館、音楽のコンサートなどに行く頻度も多いということがわかりました。教団に属せば、定期的な集まりやお布施もある。それを負担だと見る人もいるかもしれません。
 しかし、それらのことを補ってあまりある喜びや豊かな人間関係を得られるのです。ゆえに、危険性だけを取り上げて恐れるのではなく、危険性を熟知した上で関わっていくこと。すなわち宗教リテラシーが大切なのです。

 人々の宗教リテラシーを高めるためには、宗教文化教育が必要不可欠です。日本の教育現場では宗教そのものがタブー視されていますが、私は小中学校でも宗教の基本的なことは教えられるし、教えるべきだと思っています。
 宗教戦争を起こすのも宗教だし、この国を代表する美術作品を生み出してきたのも宗教です。
 今後は、そうした宗教が持つ両側面を語っていくことが重要だと思います。

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