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【創価学園NAVI】 企業やスポーツ界が注目する「言語技術」――創価中学校が授業に導入 2021年4月16日

  • 日本語の四技能(聞く・話す・読む・書く)を徹底的にトレーニング

 自分の考えを相手に分かりやすく説明するには、どうすればいいのか。絵や写真、動作、気持ちなどを言語化して表現する――そうした言葉の使い方のトレーニングを積むと、考えが整理され、論理的な思考力が養われていく。創価中学校(東京・小平市)では、企業やスポーツを含め各界で注目されているこの「言語技術」を、3年前から授業に取り入れている。

 「この星の配列を説明するには、何から話せばいいんだろう」
 
 「星の大小の大きさが説明する時のポイントになるよね」
 
 「まず形、色、模様などの要素に分解して、説明の仕方を考えよう」
 
 3月上旬、1年生の「言語技術」の授業。生徒たちは、中国の国旗とにらめっこしながら、“言葉だけ”で、その図柄を正確に伝える方法を議論していた。
 
 言語技術とは、英語のLanguage Artsの訳語で、アメリカ、フランス、ドイツなどの欧米諸国を中心に行われている体系的な母語教育のことである。
 
 日本では、「つくば言語技術教育研究所」(三森ゆりか所長)が長年にわたりその重要性を主張し、教育方法の研究と実践を提唱してきた。
 
 いち早く着目したのは、企業や各種スポーツの団体。JR東日本・西日本や、JOC(日本オリンピック委員会)ナショナルコーチアカデミー、日本サッカー協会などで「言語技術教育」が取り入れられている。
 
 フットサル界のある外国人指導者は、日本人プレーヤーに共通することとして、「質問ができないこと」「うなずくだけで考えが言語化できないこと」が問題だと指摘する。言語技術のトレーニングは、チームメートやコーチ陣とのコミュニケーションを促進するだけでなく、状況を分析し、自分で判断する力などを養うという。

中国の国旗について、形、模様、色の要素に分けて説明する創価中学生。この説明のトレーニングを通して、論理的に物事を考える力も磨いていく
中国の国旗について、形、模様、色の要素に分けて説明する創価中学生。この説明のトレーニングを通して、論理的に物事を考える力も磨いていく

 東京・創価学園では、この「言語技術」に注目し、創価高校で2016年度から「つくば言語技術教育研究所」の知見をベースにした授業を実施。生徒たちの論理的思考力の向上とともに、英語の学習とも連携し、文部科学省の教育事業「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の取り組みの中心的な授業となった。
 
 その後、より早い時期での言語技術の習得が生徒の学びを深めると考え、18年度から創価中学校のカリキュラムにも組み込んだ。
 
 国語科の梶田詠一教諭は語る。
 
 「日本語は、理由を明示しなかったり、あいまいな表現ができたりする言葉のため、語り手の考えや意思が明確でなくても、受け手へ“なんとなく”伝わってしまう言語です。
 しかし、英語などの欧米の言語ではそのような表現はしません。世界を舞台に活躍しようと考えるなら、まず母語の日本語で明確にかつ論理的に自分の意見を語る能力が求められます。
 創価学園では中学時代にその基礎力を養ってほしいと考え、言語技術を授業に取り入れました」

伝わる喜び

 「言語技術」を学ぶ授業では1年間をかけ、主に①対話②作文③情報伝達④情報分析のトレーニングを徹底して行う。このサイクルを3年間毎年、実施することで、生徒たちの言葉を扱う感覚が磨かれていく。
 
 毎回の授業で行う基礎トレーニングの一つに「問答ゲーム」がある。
 
 このゲームは、生徒2人が質問側と返答側に分かれ、一定の時間、対話を続けるもの。返答側は次の四つのルールを順守し、話を進めなくてはならない。
  
 ①質問に対して、最初に答えの結論を言う
 ②主語を必ず入れる
 ③結論の理由を言う
 ④結論を別の表現や言い回しで再提示する
  
 実際にやってみると、知らず知らずに主語が抜けてしまったり、答えの理由が不明瞭だったりと、意外に難しい。
 
 トレーニングを繰り返し行うことで、日ごろインターネット等で情報を見る際も「主語は何か」「理由はあるか」「これはどういうことだろう?」と、自然と意識して読むようになるという。

グループディスカッションを行い、学びを深める生徒たち
グループディスカッションを行い、学びを深める生徒たち

 創価中学校では現在、多くの授業で、ディスカッションなどを通して生徒たちが互いに学び合う「アクティブ・ラーニング」を導入している。
 
 「言語技術」のトレーニングは、その学びの質を高める土台にもなっている。
 
 中学3年生の大坪秀信さんは、「『説明する時は、まず大きな情報を伝えてから小さな情報に入る』など、話し方の“型”を知ることができたことで、友達との学び合いも変わってきました」と語る。
 
 これまでは、思っていることをうまく言葉にできず、人と話をすることをわずらわしく思うことがあったと振り返る大坪さん。
 
 「今は、『伝わる喜び』を実感しています。相手に理解してもらえ、共感が生まれるのが、とてもうれしいです。寮生活をしているので、実家の両親に、よく電話をするんですが、電話口での会話も弾むようになりました」

個の力を引き出す

 「聞く・話す・読む・書く」の言語の四技能は、全ての教科を学ぶ上で必要となる。しかし、その技能自体を体系的に学ぶ機会は少ない。
 
 今年、創価中学校を卒業し、創価高校に入学した松井希星さん(高校1年)は、小学生の頃から、文章を書くことに抵抗感があった。
 
 読書感想文でも、記述式のテストでも、何からどう書いていけばいいのかを迷い、納得がいくものを仕上げるのに、とても時間がかかった。
 
 「中学に入る前は、“書き方”を習うことがほとんどありませんでしたが、言語技術の授業を通して、苦手意識がなくなっていきました」
 
 松井さんは「再話」というトレーニングが、3年間で一番印象に残っているという。
 
 これは教員が話す物語を、生徒たちが聞きながらメモし、提示された文字数に合わせて、その物語を要約する訓練だ。
 
 物語の流れを理解しつつ、何が物語の要所なのかを考え、自分の言葉で適切にまとめ上げる力が求められる。

授業では毎回、教員から文章の構造、説明の仕方、質問方法など、言語技術の基礎を教わりながら、生徒たちは実践のトレーニングを積む
授業では毎回、教員から文章の構造、説明の仕方、質問方法など、言語技術の基礎を教わりながら、生徒たちは実践のトレーニングを積む

 松井さんはこうした文章をまとめるトレーニングを重ねるうちに、社会科や理科など、他の教科の記述式問題への取り組み方が変わっていったという。
 
 「それまでは、記述の演習プリントが配られると、すぐに答えとなる内容を教科書から探し出し、丸暗記することに集中していました。それが、自分の言葉で書こうと努力するうちに、問われた課題の要点を理解することができ、記憶にもしっかり残るようになったと実感しています」

論理的思考力を養い、可能性を開く

 梶田教諭は力を込めて語る。「言語技術のトレーニングは、野球でいう“素振り”のようなものです。繰り返すことで自分のフォームができて、思い通りに、自分の考えや感情を表現できるようになっていきます。その効果は、実際の生活の場や、他の授業の中にも表れ、生徒たちの可能性を大きく開いていくことでしょう」
 
 創立者の池田先生は、かつて学園生に訴えた。
 
 「〈読む力〉〈書く力〉は、〈考える力〉を強く、たくましく育みます」
 
 「皆さんの中には、すばらしい“宝”が眠っている。どんな人の中にも、その人ならではの個性輝く“力”がひそんでいる。それを引き出すのが、〈読む力〉〈書く力〉であり、〈考える力〉です」
 
 “世界水準”の言葉の力を磨き、個性を輝かせる学園生たちの未来は頼もしい。

 
 
 ◆「言語技術」って何?
 
 言語技術教育とは欧米諸国を中心に実施されている“世界水準”の母語教育。文字から語彙(ごい)、つづり方、文法、そして「聞く・話す・読む・書く」の母語の四技能を徹底的に鍛え、論理的思考力を養っていく。欧米の学校では週5時間程度、言語技術の授業が行われる。日本では、国語の授業で言語技術の内容が一部、実施されているものの、体系化されたカリキュラムが整っていないため、学校独自の言語技術教育が注目を浴びる。(参考=『ビジネスパーソンのための「言語技術」超入門』三森ゆりか著、中公新書ラクレ)

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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