C05B192F9EFB435526EAF4B45E968857
【電子版先行】〈アメリカ創価大学 第22回卒業式から〉 米エマソン協会元会長 サーラ・ワイダー博士の講演(要旨)
【電子版先行】〈アメリカ創価大学 第22回卒業式から〉 米エマソン協会元会長 サーラ・ワイダー博士の講演(要旨)
2026年6月7日
- 世界に励ましを送る一人に
- 世界に励ましを送る一人に
アメリカ創価大学(SUA、カリフォルニア州オレンジ郡アリソビエホ市)の第22回卒業式が5月22日(現地時間)に行われ、米エマソン協会元会長のサーラ・ワイダー博士が講演した。ここでは、その要旨を紹介する。
アメリカ創価大学(SUA、カリフォルニア州オレンジ郡アリソビエホ市)の第22回卒業式が5月22日(現地時間)に行われ、米エマソン協会元会長のサーラ・ワイダー博士が講演した。ここでは、その要旨を紹介する。
©Soka University of America
©Soka University of America
私は、1981年にアメリカのニューメキシコ大学を卒業しました。それは、SUAに1期生が誕生する20年も前のことです。もし当時、SUAが開学していたとしたら、どれほど皆さんと一緒に学びたいと思ったことでしょうか。
一人一人の思考力を磨き、学生の主体性を尊重しながら自由な挑戦を後押しするSUAの環境の中で、「共に考えること」を通じて人間を育んでいく――。そのような深い教育理念に貫かれているこの場所で、私も勉強したかったのです。
そうは言っても、私自身、母校には感謝の念が尽きません。
ここで、私の学生時代の思い出を話しますので、卒業生の皆さんにも、在学中の記憶に思いをはせてもらいたい。その中で、一見、ささいに思えるような瞬間が、いかに人生で大きな意味を持ちうるかを、ぜひ心にとどめていただきたいと思います。
私には、生涯の“研究の扉”を開いてくれた、ポール・シュミット教授とゲイル・ベイカー教授が頭に浮かびます。二人は、アメリカの超越主義の思想家(エマソンやソローなど)全てに焦点を当てて教えてくれました。そして、「人はいかに生きるべきか」という本質的な問いを心にとどめるよう、学生たちを励ましていました。
「心にとどめる」――私はこのフレーズを長年愛してきました。今、私たちは何を心にとどめるべきなのでしょうか。
現代は「心なき時代」のように感じます。なぜなら、さまざまな違いを理由に人間が排除されたり、地球環境が傷つけられたり、国内外で人々の生活が破壊されたりといった「残酷さ」に直面し、落胆する現実を目の当たりにしているからです。
私は、1981年にアメリカのニューメキシコ大学を卒業しました。それは、SUAに1期生が誕生する20年も前のことです。もし当時、SUAが開学していたとしたら、どれほど皆さんと一緒に学びたいと思ったことでしょうか。
一人一人の思考力を磨き、学生の主体性を尊重しながら自由な挑戦を後押しするSUAの環境の中で、「共に考えること」を通じて人間を育んでいく――。そのような深い教育理念に貫かれているこの場所で、私も勉強したかったのです。
そうは言っても、私自身、母校には感謝の念が尽きません。
ここで、私の学生時代の思い出を話しますので、卒業生の皆さんにも、在学中の記憶に思いをはせてもらいたい。その中で、一見、ささいに思えるような瞬間が、いかに人生で大きな意味を持ちうるかを、ぜひ心にとどめていただきたいと思います。
私には、生涯の“研究の扉”を開いてくれた、ポール・シュミット教授とゲイル・ベイカー教授が頭に浮かびます。二人は、アメリカの超越主義の思想家(エマソンやソローなど)全てに焦点を当てて教えてくれました。そして、「人はいかに生きるべきか」という本質的な問いを心にとどめるよう、学生たちを励ましていました。
「心にとどめる」――私はこのフレーズを長年愛してきました。今、私たちは何を心にとどめるべきなのでしょうか。
現代は「心なき時代」のように感じます。なぜなら、さまざまな違いを理由に人間が排除されたり、地球環境が傷つけられたり、国内外で人々の生活が破壊されたりといった「残酷さ」に直面し、落胆する現実を目の当たりにしているからです。
SUAの創立者である池田先生と語り合うワイダー博士。池田先生が、ワイダー博士の亡き母をしのび記念植樹を提案すると、博士は「樹木を愛し、伸びゆくものを愛した母も、きっと喜ぶでしょう」と声を弾ませた(2006年7月、東京・八王子市の創価大学で)
SUAの創立者である池田先生と語り合うワイダー博士。池田先生が、ワイダー博士の亡き母をしのび記念植樹を提案すると、博士は「樹木を愛し、伸びゆくものを愛した母も、きっと喜ぶでしょう」と声を弾ませた(2006年7月、東京・八王子市の創価大学で)
同苦の働き
同苦の働き
エマソンも約175年前、同じように残酷さに直面していました。彼が1850年代半ばのマサチューセッツ州コンコードで執筆活動をしていた当時のアメリカは、「奴隷制」を国家の基本的・不変的な創設原理だと捉える風潮が広がる「心なき時代」でした。
エマソンは、正義のために働く能力のある多くの人々が、行動を起こせないでいる悲しい現実に目を向けました。それは、彼らに意志や強い目的意識が欠けていたからではなく、むしろ声を奪われ、抑圧されていたからだと彼は見ていました。
エマソンは、日記にこう書き残しています。
「破壊することは安易で、容易なことだ。素晴らしい目的に燃え、喜びに満ちた少年や、無垢で快活な少女がいたとしても、皮肉屋は、たった一言で彼らを凍りつかせ、心をくじくことができる。落胆というものは、最も優れた、最も前向きな人のもとにもやってくる」(『Journals and Miscellaneous Notebooks of Ralph Waldo Emerson』第13巻、ハーバード大学出版、趣旨)
たった一つの意地の悪い言葉によって、その人の才能の芽がつまれてしまうことがあります。そのような、不意に訪れる残酷な“心をくじく一撃”を経験した人も多いのではないでしょうか。
エマソンの言葉を借りれば、「才気のある悪人」が現れ、私たちの「ささやかな希望」を軽んじ、おとしめてしまうのです。
エマソンは、その行為は想像力の欠如であり、人間の可能性への裏切りであり、知性の誤った使い方であると述べています。そして、こう結論づけています。
「人々を助け、活力を与え、希望を抱かせること……それは容易なことではない。新しい思想によって、そして毅然とした行動によって国家を救うこと、それこそが神聖な人々の働きである」(同)
エマソンの言葉は、長い歳月を超えて響き渡り、現代の私たちに直接語りかけてきます。しかし厳密には、その時代に根差した言葉であるため、現代に合わせたより包摂的な言葉に置き換えて捉える必要があります。
そこで私は、SUA創立者の池田大作先生が、1996年のコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジでの講演で、「世界市民」の要件として示した指針に目を向けます。
〈池田先生は同講演で、「生命の相関性を深く認識しゆく『智慧の人』」「人種や民族や文化の“差異”を恐れたり、拒否するのではなく、尊重し、理解し、成長の糧としゆく『勇気の人』」「身近に限らず、遠いところで苦しんでいる人々にも同苦し、連帯しゆく『慈悲の人』」の三つを挙げている〉
その先生の指針をヒントに、先ほど紹介したエマソンの言葉を、次のように表現し直してみたいと思います。
「人々を助け、活力を与え、新しい思想と毅然とした行動によって希望を抱かせること。そして、全ての生命の相関性を認識し、あらゆる人に内在する平等性と可能性を認めること。それこそが想像力豊かな同苦の働きである」
この言葉が示している“人を励ます営み”こそ、心なき時代における「心ある行動」だと私は考えています。
エマソンも約175年前、同じように残酷さに直面していました。彼が1850年代半ばのマサチューセッツ州コンコードで執筆活動をしていた当時のアメリカは、「奴隷制」を国家の基本的・不変的な創設原理だと捉える風潮が広がる「心なき時代」でした。
エマソンは、正義のために働く能力のある多くの人々が、行動を起こせないでいる悲しい現実に目を向けました。それは、彼らに意志や強い目的意識が欠けていたからではなく、むしろ声を奪われ、抑圧されていたからだと彼は見ていました。
エマソンは、日記にこう書き残しています。
「破壊することは安易で、容易なことだ。素晴らしい目的に燃え、喜びに満ちた少年や、無垢で快活な少女がいたとしても、皮肉屋は、たった一言で彼らを凍りつかせ、心をくじくことができる。落胆というものは、最も優れた、最も前向きな人のもとにもやってくる」(『Journals and Miscellaneous Notebooks of Ralph Waldo Emerson』第13巻、ハーバード大学出版、趣旨)
たった一つの意地の悪い言葉によって、その人の才能の芽がつまれてしまうことがあります。そのような、不意に訪れる残酷な“心をくじく一撃”を経験した人も多いのではないでしょうか。
エマソンの言葉を借りれば、「才気のある悪人」が現れ、私たちの「ささやかな希望」を軽んじ、おとしめてしまうのです。
エマソンは、その行為は想像力の欠如であり、人間の可能性への裏切りであり、知性の誤った使い方であると述べています。そして、こう結論づけています。
「人々を助け、活力を与え、希望を抱かせること……それは容易なことではない。新しい思想によって、そして毅然とした行動によって国家を救うこと、それこそが神聖な人々の働きである」(同)
エマソンの言葉は、長い歳月を超えて響き渡り、現代の私たちに直接語りかけてきます。しかし厳密には、その時代に根差した言葉であるため、現代に合わせたより包摂的な言葉に置き換えて捉える必要があります。
そこで私は、SUA創立者の池田大作先生が、1996年のコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジでの講演で、「世界市民」の要件として示した指針に目を向けます。
〈池田先生は同講演で、「生命の相関性を深く認識しゆく『智慧の人』」「人種や民族や文化の“差異”を恐れたり、拒否するのではなく、尊重し、理解し、成長の糧としゆく『勇気の人』」「身近に限らず、遠いところで苦しんでいる人々にも同苦し、連帯しゆく『慈悲の人』」の三つを挙げている〉
その先生の指針をヒントに、先ほど紹介したエマソンの言葉を、次のように表現し直してみたいと思います。
「人々を助け、活力を与え、新しい思想と毅然とした行動によって希望を抱かせること。そして、全ての生命の相関性を認識し、あらゆる人に内在する平等性と可能性を認めること。それこそが想像力豊かな同苦の働きである」
この言葉が示している“人を励ます営み”こそ、心なき時代における「心ある行動」だと私は考えています。
SUAの第22回卒業式の最後に祝福のテープが舞うと、場内は歓呼に包まれた(5月22日、SUAの創価芸術センターで)
SUAの第22回卒業式の最後に祝福のテープが舞うと、場内は歓呼に包まれた(5月22日、SUAの創価芸術センターで)
真心の貢献を
真心の貢献を
4月中旬、私はフィーゼル学長らを通じて、卒業生の皆さんに一つの質問を投げかけました。それは「心がくじけそうになった時に、SUAで何が皆さんを支え、励ましてくれましたか?」という問いです。
卒業を目前に控えた多忙な時期だったと思いますので、「皆さんには回答を考える時間がないかもしれない」と覚悟していました。しかし、その予想に反して、皆さんからの回答が次々に届き、私は心から励まされました。その内容の一部を紹介します。
まず、「遠くまで見渡せる景観や美しい花々や緑に支えられた」との答えが寄せられました。また、「このキャンパスを同じように愛している鳥やウサギ、シカといった“隣人”たちにも励まされた」とも。
さらに、自然の美しさだけでなく、「友情」の美しさもあると教えてくれました。「クラスメートと一緒に食事し、太陽の日差しを浴びながら会話を楽しむことで元気づけられた」と。
こうした皆さんの回答から、澄んだ青空が広がるSUAの開かれたキャンパスには、多様な「開かれた心」を包み込むような美しさがあることを実感しました。
4月中旬、私はフィーゼル学長らを通じて、卒業生の皆さんに一つの質問を投げかけました。それは「心がくじけそうになった時に、SUAで何が皆さんを支え、励ましてくれましたか?」という問いです。
卒業を目前に控えた多忙な時期だったと思いますので、「皆さんには回答を考える時間がないかもしれない」と覚悟していました。しかし、その予想に反して、皆さんからの回答が次々に届き、私は心から励まされました。その内容の一部を紹介します。
まず、「遠くまで見渡せる景観や美しい花々や緑に支えられた」との答えが寄せられました。また、「このキャンパスを同じように愛している鳥やウサギ、シカといった“隣人”たちにも励まされた」とも。
さらに、自然の美しさだけでなく、「友情」の美しさもあると教えてくれました。「クラスメートと一緒に食事し、太陽の日差しを浴びながら会話を楽しむことで元気づけられた」と。
こうした皆さんの回答から、澄んだ青空が広がるSUAの開かれたキャンパスには、多様な「開かれた心」を包み込むような美しさがあることを実感しました。
オレンジ郡アリソビエホ市の丘に広がるSUAのキャンパス。本年5月3日に開学25周年を迎えた
オレンジ郡アリソビエホ市の丘に広がるSUAのキャンパス。本年5月3日に開学25周年を迎えた
最後に、次の質問を皆さんに投げかけたいと思います。
「人の心を励ますものとは、何でしょうか?」
「私たちは、自身と、自分が出会う人々の中に、どのような心を育んでいけるのでしょうか?」
この質問は、個別に回答してもらうのではなく、これからの人生を通し、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。なぜなら互いの「励まし」についての考えを分かち合い、たたえ合う中で、喜びが生まれるからです。そして、それは私たちを次の一歩へと導き、全ての人が共に繁栄できる世界を築くための心の働きについて、深めていくことになります。
私はその働きを「心を励ますもの(ハートナーズ)」と呼んでいます。
エマソンは1841年の講演「改革者としての人間」で、こう述べています。
「われわれは、心から精力を公共の福祉にささげながらきょうのパンをかち得たかどうかを自問して、各自、心の曇りを晴らさなければならない」(『エマソン選集』4、原島善衛訳、日本教文社)
励まされることは素晴らしいことですが、同時に、励まされるだけでとどまってはいけないとも思います。あなたは自分が受けた励ましを、日々の生活の中で、どのように他者への誠実な貢献として形にしているでしょうか。
皆さんには、励まし、励まされた多くの経験があるでしょう。そのいくつもの物語は、私たちが“共に幸福に生きたい”と願う世界を形作る大切な瞬間の連続なのです。
共に繁栄できる世界とは、空想の世界ではありません。皆さんに回答してもらった“SUAで励まされた経験”のように、励まし、励まされる現実の実践の中で創り上げていく世界なのです。
心ある時代、心ある世界を築くために、ここに集った私たちの深いつながりを心にとどめて、共に世界中を心から励ます一人となっていきましょう。
最後に、次の質問を皆さんに投げかけたいと思います。
「人の心を励ますものとは、何でしょうか?」
「私たちは、自身と、自分が出会う人々の中に、どのような心を育んでいけるのでしょうか?」
この質問は、個別に回答してもらうのではなく、これからの人生を通し、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。なぜなら互いの「励まし」についての考えを分かち合い、たたえ合う中で、喜びが生まれるからです。そして、それは私たちを次の一歩へと導き、全ての人が共に繁栄できる世界を築くための心の働きについて、深めていくことになります。
私はその働きを「心を励ますもの(ハートナーズ)」と呼んでいます。
エマソンは1841年の講演「改革者としての人間」で、こう述べています。
「われわれは、心から精力を公共の福祉にささげながらきょうのパンをかち得たかどうかを自問して、各自、心の曇りを晴らさなければならない」(『エマソン選集』4、原島善衛訳、日本教文社)
励まされることは素晴らしいことですが、同時に、励まされるだけでとどまってはいけないとも思います。あなたは自分が受けた励ましを、日々の生活の中で、どのように他者への誠実な貢献として形にしているでしょうか。
皆さんには、励まし、励まされた多くの経験があるでしょう。そのいくつもの物語は、私たちが“共に幸福に生きたい”と願う世界を形作る大切な瞬間の連続なのです。
共に繁栄できる世界とは、空想の世界ではありません。皆さんに回答してもらった“SUAで励まされた経験”のように、励まし、励まされる現実の実践の中で創り上げていく世界なのです。
心ある時代、心ある世界を築くために、ここに集った私たちの深いつながりを心にとどめて、共に世界中を心から励ます一人となっていきましょう。
キャンパスのあちこちで、学友たちのにぎやかな声が響く
キャンパスのあちこちで、学友たちのにぎやかな声が響く