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【創価学園NAVI】 少人数で地球的課題を探究。しかも、オールイングリッシュで!――関西創価高校のLC(ラーニング・クラスター) 2021年5月13日

  • 世界を学び、自身の使命を見いだす

 核兵器廃絶、人種差別、気候変動、移民問題……。大阪・交野市の関西創価高校では、こうした地球的課題に立ち向かう世界市民の育成に力を入れている。その取り組みの一つが、LC(ラーニング・クラスター)だ。大学のゼミのように少人数で学び合うという。その授業をのぞいてみた。

なぜ、生物学者レイチェル・カーソンは“地下水の汚染は地球全体の水質汚染につながる”と訴えたのか?――英語で真剣なディスカッションを重ねる関西創価高校のLCの生徒たち(4月22日、同校で)。現在は新型コロナウイルス感染防止のため、オンライン授業を行っている
なぜ、生物学者レイチェル・カーソンは“地下水の汚染は地球全体の水質汚染につながる”と訴えたのか?――英語で真剣なディスカッションを重ねる関西創価高校のLCの生徒たち(4月22日、同校で)。現在は新型コロナウイルス感染防止のため、オンライン授業を行っている
地球的課題を英語で探究

 4月下旬。放課後、関西創価高校の特別教室に、帰りのホームルームを終えた生徒たちが集まってきた。教室に入るや、英語であいさつ。生徒同士の雑談も英語だ。
 
 このLC(ラーニング・クラスター)は、英語を学ぶ授業ではない。英語で地球的課題を探究するプログラムである。
 
 現在、生徒たちは「気候変動」を年間テーマに、探究を進めている。この日は、アメリカの生物学者レイチェル・カーソンの著書『Silent Spring(沈黙の春)』の英文を題材にディスカッションを行い、地球環境を巡る問題を学んでいた。
 
 担当する井口和弘教諭(英語科)は語る。「英語は、諸課題を学ぶ上で欠かせないツールです。英語でリサーチを行うと、世界各地の最新の文献や現地のニュースを直接、知ることができるからです。LCでは英語の習得とともに、諸課題に向き合い、解決の方途を探る力を磨いています」

 同校のLCは、2014年にスタート。アメリカ創価大学(SUA)が実施する同名のプログラムを、高校生向けに編成し直したものである。毎年11月に1・2年生の希望者の中から、英語の筆記試験と面接を行い、約20人を選抜する。
 
 ラーニング・クラスターの日本語訳は「学びの共同体」。その名の通り、同校では教員と生徒が一体となって、1年をかけ、じっくり地球的課題の探究を行い、解決の道筋を探っていく。
 
 扱う課題は毎年異なり、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)や、創立者・池田先生が世界に向けて提言した内容などから定める。プログラムは1年で完結し、2年連続の受講も可能だ。
 
 昨年のテーマは、「多様性の尊重」。アメリカで起こった「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」運動の広がりなどから、主に「人種差別問題」に焦点を当てて学びを深めた。
 
 “LC生”は、リサーチした内容を全校集会などで発表したり、校内の一角でポスターセッションを行ったりと、学んだことを全校に発信し、学園生全体の地球的課題への意識を啓発してきた。
 
 またLCは、英語を学ぶ学園生にとって、“憧れの的”にもなっている。
 
 同校では15年以降、毎年、英検1級に数人、準1級に20人以上が合格。
 
 卒業時の2級相当の学力保持者(TOEFL、TOEICなどの各種英語試験を含む)は、全体の6割を超える。これは、LCが始まった7年前と比べて2倍以上になる。
 
 今春卒業した武田美由紀さんも英検1級の1次試験に見事、合格した。彼女はLCで学び始めた頃、英語力が追い付いていないことに悩み、教員に泣いて相談したこともあった。こまやかなサポートを受け、授業に食らいつく中で、苦手なリーディングの力が飛躍的に伸び、自信を持つことができたという。SUAの進学も勝ち取った。
 
 同校において、LCは「世界に挑む素養」を鍛える場になっている。

「なぜ」を追求

 LCでは、生徒の「質問する力」を養うことに重点を置く。
 
 年間プログラムの半ば頃から、生徒3、4人で一つのグループを作り、各グループに1人の教員が入る。担当教員は皆、海外で教育を受け、大学院で修士号を取得している。海外での研究の経験を生かして、生徒たちが抱く疑問や質問の中身を深掘りして、もっと詳しく考えられるようにサポート。「なぜ」を突き詰める過程を通して、論理的・批判的思考力を磨いていく。

地球温暖化に関する英語のドキュメンタリー映画を視聴
地球温暖化に関する英語のドキュメンタリー映画を視聴

 
 またLCの最大の特色は、大学や国際機関との連携である。
 
 生徒たちは毎年、国内や海外でフィールドワークを行い、各分野の専門家などと意見交換する。
 
 LC開設から現在まで、チョウドリ元国連事務次長や核時代平和財団のクリーガー前会長をはじめ、IAEA(国際原子力機関)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などの関係者、東京大学公共政策大学院、国連大学などの教授、専門家らと交流してきた。
 
 「フィールドワークでは、単に専門家の方の話を聞くのではなく、文献を調べたり、アンケートを取ったりして、生徒たちが考え抜いた解決策をぶつけ、それに対して講評していただくことをメインにしています。生徒にとって、学んだ成果を専門家に見てもらうことは、大きな刺激になるとともに、自身の将来を見つける機会にもなっています」(井口教諭)
 
 コロナ禍で海外に行けなかった昨年度も、オンラインで識者とのセッションを実施。アメリカ・モアハウス大学キング国際チャペルのカーター所長を招いて、人権を論じ合い、世界市民の意識を持つ重要性を学んだ。
 
 「LCでの学びを通して、英語力が格段に上がり、さらに人権が尊重される社会構築に貢献したいとの思いが生まれました。勉強面でも人間的な面でも、成長を実感でき、とてもうれしい」(渡邊志乃さん、3年)
 
 「地球的課題は決して遠い世界の問題ではなく、私たちの生活と深く関わっていると分かりました。社会にまん延する無関心を破るために、自身のいる場所から対話の波を起こしていきたい」(辻慧大さん、3年)

アメリカ・モアハウス大学キング国際チャペルのカーター所長(右上)らとのオンラインセッション(本年1月)。この様子は全校にライブ配信された
アメリカ・モアハウス大学キング国際チャペルのカーター所長(右上)らとのオンラインセッション(本年1月)。この様子は全校にライブ配信された
卒業生の挑戦

 LCでの学びは、卒業後の進路にも、大きな影響を与えている。
 
 松山美華さんは、LCで難民の人権について探究。“難民の人権を守れる存在になりたい”と志し、創価大学の法学部に進んだ。
 
 アメリカに交換留学した際は、率先して現地で難民の就労支援のボランティアに従事。帰国後は、移民の日本語学習のサポートにも携わった。
 
 こうした経験から、教育を通して難民・移民の支援に関わることを希望。筑波大学大学院に進学し、国際教育を学ぶ。将来は多くの中・高校生に世界の諸課題に関心を持ってもらえる教育を行いたいと、心を燃やす。
 
 SUA3年の小西沙織さんは、高校時代から発展途上国への水とトイレの供給に関する研究を行っている。いつか実際に現地の人々の思いを直接知り、インフラ整備に携わりたいと思うようになった。
 
 そんな彼女は、LCでの1年間の研究成果をまとめた「高校生平和提言」を今も大切にする。

LCでの1年間の諸課題に関する探究の様子と提案をまとめた「高校生平和提言」。具体的な提案とともに生徒たちの平和への思いが記されている
LCでの1年間の諸課題に関する探究の様子と提案をまとめた「高校生平和提言」。具体的な提案とともに生徒たちの平和への思いが記されている

 「学べば学ぶほど、課題解決の難しさを痛感して、自身に無力感を覚えることも少なくありません。そんな時、自分が書いた『高校生平和提言』を読み返し、当時、抱いた平和への純粋な気持ちや使命感を思い起こし、決意を新たにしています」
 
 彼女は先日、第一志望の大手総合商社の内定を勝ち取り、東南アジア諸国のインフラ整備に携わる第一歩を踏み出す。
 
 他にも卒業生の挑戦は目覚ましい。
 
 SUA4年の辻岡美和さんは、カリフォルニアのフィールドワークに参加した際、アメリカの高校生が核兵器への知識や興味が薄いことにショックを受けた。大学に進学後、核兵器廃絶へ意識を啓発する学生団体を立ち上げ、被爆者の講演会などを開催。市民社会レベルで、廃絶への連帯を築く重要性を心に刻んだ。
 
 創大の文学部を首席で卒業した野口良美さんも海外フィールドワークが人生を変えた。ある識者との懇談の場で“希望を持つことで、人々は行動を起こすことができる”との信念を聞き、自身も希望を広げゆく人生にと決めた。大学では自殺問題を研究。人類学の名門・香港中文大学の大学院に進み、さらなる研究の道を誓う。
 
 井口教諭は力を込める。「LCでの学びの目的は、難解な地球的課題に挑むことを通して、“自身の使命を見いだす”ことです。創立者の池田先生は全ての生徒をかけがえのない“世界の宝”と信じ、励ましを送り続けてくださっています。私たち教員も生徒一人一人の無限の可能性を信じ抜き、挑戦の機会を十分に整え、生徒たちの未来を開いていきます」
  
  

 ◆国内外でフィールドワーク
 
 関西創価高校では毎年、国内外の各地でフィールドワーク(現地調査)を行い、地球規模の課題解決への探究を深めてきた。生徒たちは課題に関係する現場に足を運び、現地の人にインタビュー調査を行うなど、机上では知ることができない深い学びを得ている。2019年1月に実施したアメリカ・カリフォルニア州でのフィールドワークでは、元国連事務次長のアンワルル・チョウドリ博士に、1年間の研究成果などを説明し、講評を受けた。コロナ禍で移動が制限される現在は、大学教授や専門家らとオンラインでつながり、意見交換を行っている。

海外フィールドワークでカリフォルニア州を訪れた生徒に“皆が「平和の文化」構築の主体者に”と呼び掛けるチョウドリ元国連事務次長(左から2人目、2019年1月)
海外フィールドワークでカリフォルニア州を訪れた生徒に“皆が「平和の文化」構築の主体者に”と呼び掛けるチョウドリ元国連事務次長(左から2人目、2019年1月)

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