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〈教育本部ルポ・つなぐ〉第31回=「ただいま」と言える場所を守りたい
〈教育本部ルポ・つなぐ〉第31回=「ただいま」と言える場所を守りたい
2025年8月10日
伝統の阿波踊りを目前に控えた、徳島県のいつもの夏。とある施設の玄関に、「行ってきます!」の声が響く。朝から部活動に向かう中学・高校生たちらしい。
その背中を「行ってらっしゃい!」と、いつも変わらぬ笑顔で見送る人がいる。一宮伸恵さん(地区女性部長)。児童養護施設の職員である。
一宮さんは部屋に戻ると、小学生たちに「きょうは何をしよっか」と声をかけ、夏休みの宿題を見たり、一緒に遊んだりして過ごす。
伝統の阿波踊りを目前に控えた、徳島県のいつもの夏。とある施設の玄関に、「行ってきます!」の声が響く。朝から部活動に向かう中学・高校生たちらしい。
その背中を「行ってらっしゃい!」と、いつも変わらぬ笑顔で見送る人がいる。一宮伸恵さん(地区女性部長)。児童養護施設の職員である。
一宮さんは部屋に戻ると、小学生たちに「きょうは何をしよっか」と声をかけ、夏休みの宿題を見たり、一緒に遊んだりして過ごす。
一宮伸恵さん
一宮伸恵さん
ここでは、さまざまな理由から家庭における養育が困難となった幼児から高校生までが、一つ屋根の下で暮らしている。
子どもと直接関わる職員は、24時間365日、交代制の勤務形態の中で、家庭的な雰囲気を大切にして生活を共にしている。
児童養護施設の子どもたちは、見た目も様子もいわゆる“今どきの同世代”と変わらない。一方、複雑な家庭環境に育ってきたがゆえに抱えているであろう葛藤を、推し量ることは難しい。
ふとした瞬間に心が不安定になったり、感情が爆発したりして、ついトラブルを起こしてしまう子もいる。
子どもたちが成長していく上で、何よりも大切なのは「いつでも安心して帰れる居場所」があり、「自分を信じて、待っていてくれる大人」がいることだ。「そんな場所、そんな存在になれたなら」。それが児童養護施設で働いて二十余年、一宮さんの一貫した祈りにほかならない。
高校生の時、テレビ番組で海外の児童養護施設の様子を見た。複雑な背景を抱えながらも、けなげに生きる子どもたち。日本にも同様の実態があることを知る。自分も力になりたい――そんな思いが芽生えた。
専門学校に通いながら児童養護施設のアルバイトもして経験を重ね、保育士資格を取得。卒業後、現在の施設に職員として入所した。
「どうすれば一人一人と信頼関係を結べるか」。その一点に心を砕いてきた。“あなたは大事な存在なんだよ”と、思いを伝える努力を惜しまない。子どもに声をかける時は「名前」を必ず呼んでから話し出す。
宿直明けに退勤する際は、寂しそうにしている子どもたちに手紙をそっと渡すこともある。
そんな小さな安心感の積み重ねが、確かな変化を生み出す。感情を抑えきれずに暴れてしまった子が少しずつ落ち着き、笑うことも泣くこともままならなかった子が、やがて喜怒哀楽を豊かに表現できるようになる。
ここでは、さまざまな理由から家庭における養育が困難となった幼児から高校生までが、一つ屋根の下で暮らしている。
子どもと直接関わる職員は、24時間365日、交代制の勤務形態の中で、家庭的な雰囲気を大切にして生活を共にしている。
児童養護施設の子どもたちは、見た目も様子もいわゆる“今どきの同世代”と変わらない。一方、複雑な家庭環境に育ってきたがゆえに抱えているであろう葛藤を、推し量ることは難しい。
ふとした瞬間に心が不安定になったり、感情が爆発したりして、ついトラブルを起こしてしまう子もいる。
子どもたちが成長していく上で、何よりも大切なのは「いつでも安心して帰れる居場所」があり、「自分を信じて、待っていてくれる大人」がいることだ。「そんな場所、そんな存在になれたなら」。それが児童養護施設で働いて二十余年、一宮さんの一貫した祈りにほかならない。
高校生の時、テレビ番組で海外の児童養護施設の様子を見た。複雑な背景を抱えながらも、けなげに生きる子どもたち。日本にも同様の実態があることを知る。自分も力になりたい――そんな思いが芽生えた。
専門学校に通いながら児童養護施設のアルバイトもして経験を重ね、保育士資格を取得。卒業後、現在の施設に職員として入所した。
「どうすれば一人一人と信頼関係を結べるか」。その一点に心を砕いてきた。“あなたは大事な存在なんだよ”と、思いを伝える努力を惜しまない。子どもに声をかける時は「名前」を必ず呼んでから話し出す。
宿直明けに退勤する際は、寂しそうにしている子どもたちに手紙をそっと渡すこともある。
そんな小さな安心感の積み重ねが、確かな変化を生み出す。感情を抑えきれずに暴れてしまった子が少しずつ落ち着き、笑うことも泣くこともままならなかった子が、やがて喜怒哀楽を豊かに表現できるようになる。
勤務する施設の子どもから一宮さんへの真心のプレゼント
勤務する施設の子どもから一宮さんへの真心のプレゼント
子どもたちの成長を、願わない日はない。施設を巣立ち、それぞれの道を歩む一人一人の幸せを、祈らない日もない。教え子の結婚式に招待されたことがある。彼は式のあいさつで、児童養護施設で育ったことを誇らしく語った。一宮さんのほおを、涙がつたった。
「人間だって、花と同じように、光がいる。人も、人から大事にされないと、心が枯れてしまう。だから君が、みんなの太陽になれ」――池田先生が教えてくれたこの生き方を貫くことに、間違いはなかった。
夏休みも折り返し。一緒につくりたい思い出は、まだまだたくさんある。共に働く職員たちと相談し、子どもたちとも語り合う。
「バーベキューをやろう!」「花火大会もいいね!」。
そんなやりとりが、何よりいとおしい。
夕暮れ時。阿波踊りの準備とおぼしき鳴り物の音が聞こえてくる。
施設の子どもたちが「ただいま!」と帰ってきた。いつものように、「おかえり」と迎える一宮さんの姿がある。
子どもたちの成長を、願わない日はない。施設を巣立ち、それぞれの道を歩む一人一人の幸せを、祈らない日もない。教え子の結婚式に招待されたことがある。彼は式のあいさつで、児童養護施設で育ったことを誇らしく語った。一宮さんのほおを、涙がつたった。
「人間だって、花と同じように、光がいる。人も、人から大事にされないと、心が枯れてしまう。だから君が、みんなの太陽になれ」――池田先生が教えてくれたこの生き方を貫くことに、間違いはなかった。
夏休みも折り返し。一緒につくりたい思い出は、まだまだたくさんある。共に働く職員たちと相談し、子どもたちとも語り合う。
「バーベキューをやろう!」「花火大会もいいね!」。
そんなやりとりが、何よりいとおしい。
夕暮れ時。阿波踊りの準備とおぼしき鳴り物の音が聞こえてくる。
施設の子どもたちが「ただいま!」と帰ってきた。いつものように、「おかえり」と迎える一宮さんの姿がある。
一宮伸恵さん(右から3人目)が笑顔で、地域の未来っ子たちと時間を共にする
一宮伸恵さん(右から3人目)が笑顔で、地域の未来っ子たちと時間を共にする
日頃から関わる地域の未来っ子たちと記念のカメラに
日頃から関わる地域の未来っ子たちと記念のカメラに
【ご感想をお寄せください】
kansou@seikyo-np.jp
※ルポ「つなぐ」の連載まとめは、こちらから。子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。
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