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【創価学園NAVI】 創価高校の「総合的な探究の時間」 2021年1月31日

  • 「問い続ける力」が学びを深める

 文部科学省の教育事業「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定校として多彩なプログラムを行う創価高校(東京・小平市)。これまでの実績を生かす授業として期待されるのが、昨年から始まった総合的な探究の時間「GCIS(世界市民探究)」である。授業の様子をのぞいてみた。

少人数で議論

 今月中旬、創価高校1年生の総合的な探究の時間「GCIS」のオンライン授業に参加した。
 
 同校では感染症拡大防止対策の一環として、18日からオンラインで授業が行われている。
 
 「それでは、授業終了まで、各グループに分かれて話し合いをしましょう」
 担当教員による約15分のレクチャーの後、ビデオ会議システムの機能を使った4、5人のグループワークが始まった。
 
 この授業では毎回、8割程度の時間が生徒同士の議論に費やされる。
 
 2学期末から3学期にかけて取り組む探究のテーマは大量の食料が廃棄される「食品ロス問題」。グループワークでは、冬休みに調べてきた互いの情報をもとに活発な議論が交わされた。

オンラインで行われた「総合的な探究の時間」。東京の創価高校では現在、感染症対策の一環で、オンライン授業を行っている
オンラインで行われた「総合的な探究の時間」。東京の創価高校では現在、感染症対策の一環で、オンライン授業を行っている

 ――あるグループでは飲食店側の対策と消費者側の需要の間に“ギャップ(隔たり)”があるのではないかと考えた。そこで、まず全国展開する大手レストランの対策について調べ、話し合いに臨んだ。
 
 ある大手レストランの店長にインタビューした生徒は語った。
 
 「企業全体で食品ロスへの対策を実施していても、各店舗での対策はあまり行われていないのではないかと、インタビューする前は思っていたの。だけど実際に話を聞いてみると、一つの店舗をとっても、豊富な対策を講じていることが分かったんだよね。そこで逆に気になったのが、個人経営の飲食店がどんな対策をとっているのか、ということなんだけど……」
 
 ほかの生徒たちも意見を述べる。
 
 「大手レストランと個人経営の飲食店がそれぞれ行う、食品ロスへの対策を調べて、その“差”を埋めるような提案を考えることも、大切かもしれないね」
 
 「確かに! それに加えて、それぞれの対策の手間と効率の関係性も調べたら、おもしろい発見や気付きがあるかもしれないよ」
 
 生徒たちは新たな問いを見つけ、さらに議論を重ねていった。

世界市民の自覚

 この「総合的な探究の時間」は、全国の高校で2022年度から開始する新学習指導要領の必履修科目。今までの「総合的な学習の時間」に代わる授業である。
 
 生徒たちは、地域の特色に応じた課題や社会問題の探究を通して、さまざまな教科で学んだことを応用し、総合的に学びを深めていく。
 
 創価高校では英語科、地歴公民科、情報科など異なる教科から5人の教員が集まって「探究科」を立ち上げた。そして、いち早く今年度から、1年生を対象に「総合的な探究の時間」を始めた。
 
 探究科の石野正好教諭は「スーパーグローバルハイスクール(SGH)での経験を生かし、新たに『総合的な探究の時間』を組み立てました」と語る。

 SGH指定校は文部科学省の支援を受けながら、現行の教育課程の枠を超えた教育・研究開発を行うことができる。
 
 16年度にSGHの指定を受けた同校の生徒はこれまで、広島や米カリフォルニアなど、国内外のフィールドワークを実施し、SDGs(持続可能な開発目標)や核兵器廃絶などに関する独自の探究学習を行ってきた。さらに各分野の研究者らに向けてプレゼンテーションを行ったり、地球規模課題に関する国際会議にも出席したりと、生徒がグローバルリーダーとして活躍する能力と資質を養ってきた。
 
 「5年間のSGHの取り組みを通して、『①問いをしっかり掘り下げ、②自分の考えをつくり、③発表する』という過程が、生徒の学びを深めるという手応えを得ました。新しい授業では、生徒がさらなる学び合いを通して、地球規模課題を自分のこととして捉え、“私が世界を変えていく”との世界市民の自覚を育む狙いを持っています」
 
 同校の総合的な探究の時間の名称は「GCIS」。これは「世界市民探究」の英語の頭文字から取った。

主体性を育てる

 1年次の授業では、「探究の基本」を楽しく学ぶ。
 
 探究活動が深まるための手順、効果的なアンケートの作り方、正確な文献の調査方法……。その上で、教員によるそれらのレクチャー以上に大切なのが、生徒の主体性を磨く「生徒同士の話し合い」だという。
 
 生徒のみの議論は時に活性化せず、話が前に進まないことも起きる。それでも教員は生徒から尋ねられるまで、あえてアドバイスしないように心掛けていた。
 
 「探究の仕方を学んでいる1年次においては、生徒の頭の中で問いに問いを重ねて、じっくりと思考を深めていく過程が大切だからです」(石野教諭)
 
 佐瀬美幸さん(1年)は最初、“一つの正解”がないことに戸惑ったという。
 
 「他の教科では『正しい答え』を求めますが、探究にはそれがありません。それぞれ違った意見をぶつける中で考えが深まっていきます。徐々に“いろんな答えがあっていいんだ”と思えるようになりました」
 
 常に「何でだろう」と探究を深める癖がつき、周囲の物事に対する関心が広がった。今では、海外のニュースについて、友達と議論することも。「興味が広がるにつれ、他の教科の授業も楽しくなりました」と喜びを語る。

アンケート結果を分析

 また授業では、生徒による「アンケートの作成や集計結果の分析」という探究法にも重点を置いていた。
 
 生徒たちは課題に対して一つの着眼点から仮説を立て、アンケートを作成。生徒やその家族に実施し、集計結果を分析して、考察を導き出していく。
 
 武田英雄さん(1年)は教えてくれた。
 
 「探究の学習で難しいのは、問いを立てることです。問いの焦点がぼやけていると、アンケートの内容もあやふやになり、集計結果の分析もしづらく、探究全てに影響していきます」
 
 武田さんはアンケートで期待していた結果が集まらず、分析に戸惑ったことがあるという。それでも、集計内容をもとにグループで考え抜き、できる限りの考察を導いた。真剣に探究に挑んだからこそ、同じテーマに取り組むグループの発表がよく理解でき、多くの気付きを得たと振り返る。
 
 探究科の江添正城教諭は語る。「生徒たちが課題への結論をうまく導き出せず、いわゆる“失敗”をすることがあります。しかし、この失敗は何度でもしていいのです。仮説が間違っていたのか、アンケートの問いが適切でなかったのか、と考える中で、論理的な思考力が身に付くからです」
 
 GCISの授業が始まって約半年。1年生の「問いを立てる力」は、着実に養われている。
 
 一つのテーマに対して「いくつ」の質問を作ることができるのか――2学期末に、この問い作りのトレーニングを行った。教員のみで構成されたグループでは20分で30個の問いを挙げるのが精いっぱいだったが、生徒たちのグループでは100個以上の問いが作られたのである。

創価高校の「総合的な探究の時間(GCIS)」で、グループに分かれて話し合う生徒たち。事前に調べた資料や情報を共有しながら考えをまとめていく(今月15日)
創価高校の「総合的な探究の時間(GCIS)」で、グループに分かれて話し合う生徒たち。事前に調べた資料や情報を共有しながら考えをまとめていく(今月15日)

 今後、2・3年次の探究内容は専門性を増す。
 
 「創立者の池田先生はこれまで地球規模課題の解決のために、世界の識者らと語り合い、多くの対談集を発刊されてきました。創立者の姿は、探究に励む生徒たちの模範であり、その対談には課題解決を考える糸口がちりばめられています。3年次には、その創立者の対談集から一冊を選んで、地球規模の課題に対する創立者の考察や提言を学びます。そして学園生として自らが果たすべき使命とは何か、を考える機会にしていきます」(江添教諭)
 
 今後も鍛え抜かれる「問い続ける力」によって、生徒たちの視野は、ますます大きく広がっていく。
   

 ◆「GCIS(世界市民探究)」って何?
 
 GCISとは創価高校の「総合的な探究の時間」の授業名。「世界市民探究」の英訳“Global Citizenship Inquiry Studies”のそれぞれの頭文字から取った。GCISは、今年度の1年生を対象に開始。地球規模課題に対して、①課題の設定②情報の収集③整理・分析④まとめ・表現の四つの過程に沿って探究を進める。2年次には、SDGsの内容に沿った課題を決め、①行政②企業③大学・研究機関④NPO・NGO法人の中からコースを定めて、連携先へのインタビューやアンケートを実施。最終的にアクションプラン(行動計画)を提案・発表していく。

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