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〈インタビュー〉 主演・吉永小百合さん×監督・阪本順治さん 映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」 2025年10月30日

  • 10月31日(金)から全国公開
吉永小百合さん㊨と阪本順治監督
吉永小百合さん㊨と阪本順治監督

 女性初のエベレスト登頂を果たした登山家・田部井淳子さん(故人)にスポットを当て、前人未到の快挙達成から、自身の病や死と向き合う姿などを描いた映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」が、あす31日(金)から全国公開される。主演を務める吉永小百合さん、メガホンを取った阪本順治監督に、田部井さんの魅力や作品の見どころについて聞いた。

■常に前へ

 「人生は山登りに似ている。山へ登った限りは下りなければならない」とは、心理学者ユングの言葉とされる。一つの山を登ったところで“終わり”ではない。山坂を下り、そして次なる目標へ――。それをほうふつとさせるのが、田部井淳子さんの人生だ。

 その名を世界に轟かせたエベレスト登頂の偉業は、彼女を光で照らすとともに、深い影も落とした。晩年は、がんを患い、余命宣告を受ける。だが、どんな困難にも立ち向かい、一歩また一歩と前に進み続けた。

 阪本監督 常に、ひとところにとどまらず、山もそうですけど、人生において新しい景色を見たい、新しい発見をしたいという強い思いを持って生きていらした。その行動力とか推進力みたいなものが、田部井さんのたくましさであり、魅力です。

 吉永さん 田部井さんは“常に前へ”という姿勢でした。過去の栄光に浸りもしないですし、どんな苦境でも“自分は前に進むんだ”という強い思いがありました。だから、がんの告知を受けた直後でも「病気であっても病人じゃない」と“宣言”する、そういうシーンもありましたが生き方が素晴らしいですよね。

■登山愛好家

 2012年、吉永さんは自身のラジオ番組で田部井さんと出会い、一瞬でファンになったという。田部井さんは比類なき「登山家」であることに違いはないが、本人はそう呼ばれることを好まず「登山愛好家」と自称した。エベレストに挑んだのも「最高峰」だからではなく「憧れの山」だったからと述懐している。

 吉永さん その日は、アジアの民族衣装をお召しになり、ピアスを着けて登場されたので、ビックリしました。本当にチャーミングで、明るくて、バイタリティーの塊のような方でしたね。その後、60歳を過ぎてからシャンソンを習い始め、2年後にはコンサートを開催するなど、多岐にわたって時間の限り挑戦されていました。興味を幅広く持つことで世界が広がる――その大切さを教わりました。

■苦境であるほど

 物語には、家族との関わり、病や死との向き合い方など、誰もが共感するであろう普遍的なテーマが盛り込まれている。そんな“人生の選択”の場面が幾つも描かれるが、見る人に何を感じてほしいのか――。

 阪本監督 劇中で描く田部井さんの人生と、(観客)ご自身の人生を重ね合わせて、何か共感できる部分があれば製作したかいがあります。元気な人はより元気に、元気のない人は元気になってほしいとの思いを込めました。

 苦境であればあるほど、その暗闇から光がはっきり見えることがあると思います。田部井さんは、その光を求めていて、自分なりのやるべきことを見つけてきた人だと思うんです。そんな「苦しい時こそ、笑う」という姿を伝えたい。

■映画界を支えて

 今作で124本目の映画出演となり、先日開幕した東京国際映画祭で「特別功労賞」を受けた吉永さん。一方、人間誰しもが内面に併せ持つ“正”と“負”を描き、「心の深さ」を映し出すことに定評のある阪本監督。日本の映画界を支える二人が歩む先には、何があるのだろう。

 吉永さん これまでに100人以上の役柄と出あい、その人生を演じてきました。やっぱり自分じゃない人になるという“すてきさ”があります。ただ私は不器用なので、その人を好きにならないと演じづらいかな(笑)。

 子どもの頃から映画が好きでした。学校の校庭で風に吹かれながら見た映写会から、映画の世界に憧れを抱くようになりました。それは強烈に記憶に残っていて。映画って素晴らしいなという感動がずっと、つながっています。演者でありながら今でも映画の一ファンなんです。

 阪本監督 喜劇でも、社会派作品でも、恋愛映画でも、描くのは人の自尊心だと思っています。プライドというと、人と比べて自分の優劣を考えてしまうものですが、自尊心はそうした比較などをせず、自分を認めてあげるために何をすればいいのかということ。人のために何かすることも、自分の自尊心を高めるのに役立つし、自尊心の在り方で生き方は変わります。

 どんなジャンルであっても、そこにスポットを当てるのが映画づくり。そういう思いで、これからも作品を手がけていきたいです。

◆吉永さん「今でも映画の一ファンなんです」
◆阪本監督「自尊心の在り方で人生は変わる」

 よしなが・さゆり 東京都出身。1959年、「朝を呼ぶ口笛」で映画に初出演し、数々の話題作で主演を務めてきた。近年の出演作は、映画「母と暮せば」(2015年)、「最高の人生の見つけ方」(19年)、「いのちの停車場」(21年)、「こんにちは、母さん」(23年)など。10年、文化功労者になる。

 さかもと・じゅんじ 大阪府出身。大学在学中に美術担当として映画界入り。1989年、映画「どついたるねん」で監督デビューし、注目を浴びる。2000年に手がけた映画「顔」で日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝く。吉永さんとのタッグは、「北のカナリアたち」(12年)以来13年ぶり。

【記事】木村英治 【写真】宮田孝一

◆あらすじ
©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会

 1975年、日本女子登山隊は、エベレストに挑戦する。途中、雪崩による負傷やシェルパ(案内人)が高山病となり、頂を目指すアタッカーは多部純子(青年期・のん=写真)一人に託された。ついに、純子は8848メートルの山頂に立つ。その偉業は、世界を驚かせた。
 一丸となって成し遂げたエベレスト登頂だったが、スポットライトは純子一人に向けられ……。
 苦難を前にしても、変わらず周囲を笑顔で包み込み、人生を懸けて山へ挑み続けた純子(吉永)が、最後に「てっぺん」の向こうに見たものとは――。

 公式ホームページはこちら

©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
完成披露試写会で舞台あいさつした吉永さん(中央)ら出演者と阪本監督(左端)
完成披露試写会で舞台あいさつした吉永さん(中央)ら出演者と阪本監督(左端)
◆プレゼント 原案エッセーを3人に

 映画の原案となった田部井淳子さんの、笑いあり、涙ありのエッセー『人生、山あり“時々”谷あり』(潮文庫)を、3人にプレゼント。応募方法は紙面でご確認ください。

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