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〈SDGs×SEIKYO〉 眠っている価値を“再創造”――古民家再生の建築士 2022年6月8日

 古民家再生専門の設計室を営む與那原浩さん(60)=愛媛県宇和島市、副県長(圏長兼任)=は、「古民家がよみがえると、なぜか周囲の人まで元気になる」という。これまで42棟の古民家を再生し、地域に生命を吹き込んできた。(取材=石塚哲也、内山忠昭)
 

この記事のテーマは「住み続けられるまちづくりを」

 
 国内には1950年以前の建物が約157万棟ある(総務省HPから)。日本の住宅は「スクラップ・アンド・ビルド(壊して建てる)」を繰り返してきたが、環境保護やSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、これら古民家の活用に注目が集まる。

 與那原さんの自宅も、江戸時代に建てられた「太宰家」と呼ばれる築200年超の古民家。妻・慶子さん=地区副女性部長=の実家の一部をリノベーション(改修し価値を高める)した。
 
 「伝統構法で建てられた古民家には、その地域の風土に合った適材適所の木材がふんだんに使われているんです。この太い丸太の梁と柱がつくり出す造形美は毎日見ていても飽きないですよ」
 

 
 「太宰家」の一部は宿としても貸し出され、コロナ禍前は、世界各国から観光客が訪れた。「驚いたことに、ほとんどがうちの宿を目的にして海外から宇和島に来られました。建物の風情や静寂を楽しみながら、農村の自然や文化も味わっておられた」
 
 木工職人だった父の影響もあり、工業高校で建築を学んだ。東京の設計事務所で働いていた90年、慶子さんと結婚。この年、夢だった1級建築士の資格も取得した。2000年、義父の闘病をきっかけに愛媛県宇和島市に移り住み、「與那原浩建築設計室」を開業した。
 

 
 沖縄で生まれ、群馬で育った與那原さん。愛媛には知り合いはほとんどいない。当初は、義父のつてで仕事を受けていたものの、すぐになくなった。建築家としての存在意義を見失いかけていた時、近くの内子町主催の「すまい塾」に参加。それがきっかけとなり、「町並み修景事業」に取り組むことになった。

 内子周辺地域では、歴史的建造物が数多く残る一方で、過疎化が進み、維持管理が行き届かなくなっていた。一軒一軒、建て主と話し合い、建物を保全、町並みを整えていく作業。うれしかったのは、住人たちの意識が変わり、地域への誇りを取り戻していく姿だった。「この地域に眠っている価値をよみがえらせていくことに、自分の使命を感じたんです」
 

 
 08年のリーマン・ショックによる不況の波や、近年のウッドショック(木材価格の高騰)など幾度も苦境が訪れた。

 そのたびに、池田先生の指導を読み返した。
 「経済不況に悪戦苦闘される同志の苦衷は、わが胸を搔きむしられるように迫ってくる。私自身、戸田城聖先生のもとで、絶体絶命の事業の苦境を、ただ一人、師子奮迅で支え、打開してきたからだ」

 夫婦で唱題を重ねた。「乾ける土より水を儲けんがごとく、強盛に申すなり」(新1539・全1132)と祈り抜いた。

 仕事はどこまでも誠実を貫いた。古民家再生の魅力だけでなく、デメリットも真摯に説明する。そうした中、「どうしても與那原さんにお願いしたい」と受注が舞い込むようになった。
 

 
 現在は、内子町に加え、宇和島市の岩松地区町並み保存対策整備事業審査会委員も務める。一軒一軒、古民家再生を手掛ける中で実感したことがある。

 「古民家再生って、価値を“再創造”することだと思うんです。今、自分が住んでいる地域や家を、新しい視点に立って見つめ直す。そこには、いろんな潜在的な価値があって、それを再創造していく中で、自分たちの地域に誇りが芽生えていくんです」

 古民家再生によって、地域に生命を吹き込む――それは、住み続けられるまちを目指すSDGsにつながっていく。暑い地域で涼しく暮らすには。雪深い地域に耐える家とは――。建物には、そうした先人たちの知恵が息づいている。私たちが住む地域や家屋のあちこちにも、いろんな価値が眠っているかもしれない。
 

 
【與那原さんのインタビュー記事はこちら】※「太宰家」のバーチャルツアー動画もあります

●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください→ sdgs@seikyo-np.jp

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