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〈SDGs✕SEIKYO〉 「顔の見える電力」で再エネを普及 2023年12月20日

  • インタビュー 株式会社UPDATER 代表取締役社長 大石英司さん

 SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」には、石油や石炭といった二酸化炭素を大量に排出する化石燃料による発電ではなく、太陽光、風力、水力といった「再生可能エネルギー」の割合を「大幅に増やす」ことが掲げられています。再生可能エネルギーの普及で先駆的な取り組みを行い、第4回「ジャパンSDGsアワード」でSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞した、株式会社UPDATER(旧・みんな電力株式会社)の大石英司代表取締役社長にインタビューしました。(取材=樹下智、澤田清美)

 ――大石さんは2011年、「みんな電力株式会社」を起業されました。主要事業「みんな電力」では現在、1万5000世帯の家庭、1000社の企業(6000拠点)に、再生可能エネルギーによる電力を供給しています。起業された経緯を教えてください。
  
 もともと僕は、総合印刷会社で新規事業の担当をしていました。電子出版・有料デジタルコンテンツの流通事業やファッションイベントの事業化などを手がけましたが、頭の中には、常に、「貧困の解消に寄与する事業を行いたい」という思いがありました。
 そんな中、たまたま電車で前に座った女性が、太陽電池付きのキーホルダーをバッグにぶら下げているのを見かけました。
  
 “この人だって電気をつくっているんだ。この人からなら高く買うけど、隣のおじさんがつくった電気なら安く買うな(笑)”と、ふと思い、気付いたんです。もし誰もが電気をつくれる時代になって、その誰かがつくった電気ということで価値が生まれたら、これほど簡単に富をつくれる方法はないなって。だって、普段、ほとんどの人が有料で電気を買っているわけですから。
  
 皆で電気をつくって、皆が好きな電気を選べるようになれば、富の分散化ができるのではないか。そうした思いで「みんな電力」という事業を立ち上げました。
  
 ――貧困の解消に取り組みたいと思った、きっかけは何だったのでしょうか。
  
 僕は東大阪市出身で、工場の多い下町育ちです。決して裕福な人たちだけが住む地域ではありませんでした。生活環境や教育環境の格差で、自分の思い通りの人生を生きられない人もいるという現実を前に、貧困をどうすれば解消できるのかが、自分の大きなテーマになっていきました。
  
 そこから、日本資本主義の父で、慈善活動にも身をささげた渋沢栄一、貧困層の自立支援活動でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスといった人物が僕のヒーローとなり、彼らの著作を多く読みました。どうせビジネスをするなら、こういった人たちを目指したいって思ったんです。

UPDATERのオフィス内には日本家屋の縁側をイメージした和室(上)や、スナック(下)を設置するなど工夫が凝らされている。自然に社員同士の交流が増えたという
UPDATERのオフィス内には日本家屋の縁側をイメージした和室(上)や、スナック(下)を設置するなど工夫が凝らされている。自然に社員同士の交流が増えたという

 ――起業してから、どのように事業を拡大していったのですか。
  
 2011年当時は、さまざまな業種の事業者が電力の販売に参入できる電力自由化も決まっていませんでしたし、再生可能エネルギーの固定価格買取制度も始まっていませんでした。
 
 最初は、携帯型太陽電池を開発したり、再エネの啓発イベントをやったりしましたが、事業はなかなか軌道に乗りませんでした。
 資金がなくなり、預金通帳の残額が561円にまでなった時もありました。それでも諦めるわけにはいかなかった。
  
 実は、以前にも何度か独立して起業しようとしたのですが、ずっと父に反対されていたんです。父は会社を辞めて、町工場を経営していたので、独立する苦労をよく知っていたのでしょう。でも、「みんな電力」を立ち上げる相談をした時は、「頑張ってみれば」と賛成してくれたんです。
 その会話が、生前の父と最後に交わした言葉になりました。家族のためにも、父との約束を果たすためにも、“こんなところで、へこたれてたまるか”と踏ん張り続けました。
  
 2013年に電力自由化が決まったことが、わが社の転機になりました。「顔の見える電力」というコンセプトを思いつき、16年から、再生可能エネルギーによる電力の供給を始めました。

八戸バイオマス発電所。株式会社UPDATERと契約する再生可能エネルギーの発電所の中から、消費者は自由に選ぶことができる。 写真提供=株式会社UPDATER
八戸バイオマス発電所。株式会社UPDATERと契約する再生可能エネルギーの発電所の中から、消費者は自由に選ぶことができる。 写真提供=株式会社UPDATER
網走バイオマス第2発電所
網走バイオマス第2発電所

 ――「顔の見える電力」とは、どういう意味でしょうか。
  
 コンセントの向こう側って、必ずどこかの発電所につながっていますよね。でも、“自分が電気代を払う発電所が選べないのは、おかしくない?”という単純な話です。
  
 だって自分の電気代が、思いっきり二酸化炭素を排出する化石燃料の発電所とか、たとえ太陽光発電所でも森林伐採をしまくっているメガソーラー発電所に払われていたら、いやですよね? 
 僕はやっぱり、子どもたちのため、将来世代のために、気候変動を防ぎたい。でも毎日使う電気が、その思いに矛盾しているのは、耐えられません。
  
 だったら、せめて自分が使う電気は再生可能エネルギーにしたいし、例えば、福島の復興のために頑張っている太陽光発電所に電気代を払って応援したい。そう感じる人は多いと思うんですね。

秋田潟上ウインドファーム発電所
秋田潟上ウインドファーム発電所
ソーラーシェアリング 抹茶の里
ソーラーシェアリング 抹茶の里
ATMでお金を引き出すように

 ――どうやって、電気代を払う発電所を選べるようにしたのでしょうか。
  
 電気というのは、お金の世界と似ています。
 例えば、北海道のATMで友人に1万円を送金して、その友人が東京のATMで引き出した場合、物理的には違う1万円でも、その価値は一緒ですよね。
 その1万円は、ATMでつながった、いわば“お金のプール”に一度入って、また引き出されます。
  
 電力供給の仕組みもこれに似ていて、発電所でつくられた電気は、送電網という“電力のプール”に一度入ります。
 その中で、他の発電所でつくられた電気とごちゃ混ぜになります。“電気のプール”である送電網から各家庭に電気が引き出される際には、どこの発電所の電気か判別がつかない状況です。
  
 そこで、わが社は「電力トレーサビリティー」というシステムを開発しました。
 Aという発電所で、いくら電気を送電網に入れたのか、そして、Bという家庭でいくら電気を引き出したのかという記録を、ブロックチェーンという技術を駆使して、30分おきに分かるようにしたんです。
  
 「Aさんが1万円入金した」「Bさんが1万円引き出した」というお金の移動の記録が、銀行のATMという“第三者”によって証明されるように、電気の出し入れの記録を、ブロックチェーン技術によってインターネット上で証明できるようにしました。
  
 要は、「どの発電所からどれだけの電気を買ったのか」を、“見える化”したんです。見える化できるからこそ、「ここの発電所からいくら電気を買いたい」という顧客の要望に応えることができます。
 わが社が契約している、太陽光、水力、風力などによる再生可能エネルギーの発電所は、全国900カ所に及びます。
  
 農園や温泉、薬局や教育機関など、さまざまな事業者、NPOなどの団体、また個人が発電所を設置しています。
 特定の発電所と契約を一定期間結ぶと、その地域の特産物などの特典が付く場合もあるんですよ。

度会ウィンドファーム
度会ウィンドファーム
二本松発電所
二本松発電所
CO2削減の最も手早い方法

 ――まるで、自治体に寄付をして返礼品が届く「ふるさと納税」のようですね。まさに、皆で電気をつくって、皆で好きな電気を選べる仕組みです。
  
 ええ。わが社と契約してくださっている企業は1000社を超えましたが、やはり“自社が再生可能エネルギーを使用しているか”“しかも環境破壊をしていない、地域創生につながる発電所から買っているか”が、社会的信用につながると考える会社が増えてきています。
  
 一方、個人のお客さまは1万5000世帯ですが、まだまだ再生可能エネルギーが一般家庭に普及していないのが現状です。
 もしも、100万世帯の家庭が再生可能エネルギーに自宅の電気を変えた場合、どれくらいの二酸化炭素が削減されるかご存じでしょうか。
  
 業界最大手の自動車会社が、年間を通して排出する量と同じ規模の二酸化炭素を削減できるんです。
 一人一人が意識を改革して力を合わせれば、それほど大きな力になります。自宅の電力を再生可能エネルギーに変えることが、最も手早く、効果的な気候変動対策になるんです。

網走バイオマス第2発電所
網走バイオマス第2発電所
わたしの電気発電所(精米所)
わたしの電気発電所(精米所)

 ――気候変動対策は、世界中の若者世代が立ち上がり、大人たちの意識を変え、各国政府を突き動かしてきた経緯があります。最後に、より良い未来をつくるために行動する若者たちへの期待について教えてください。
  
 わが社では「電力の見える化」のほかに、衣料や食品など製品の生産過程において、生産者にいくらお金が支払われたのかを「見える化」する事業などにも取り組んでいます。
  
 低賃金で働かされていたり、家具を安く作るために違法伐採が行われていたり、私たちの目の前にあふれている製品の裏側で、涙を流している人や環境破壊が、存在しているかもしれない。
 「顔が見えない社会」だから、その「ブラックボックス」の中に、社会問題がたくさん潜んでいるんです。
  
 成長至上主義で、大量生産・大量消費・大量廃棄が進む事態って、一言で言えば、この「顔の見えない社会」の進展だと、僕は思っています。その一つ一つを「見える化」して、誰も置き去りにしない公平な世の中をつくっていかなくてはいけません。
  
 ただ、この「ブラックボックス」に光を当てていくと、いろんな利権やしがらみの存在が明らかになってくる。
 今、その利権を持っている人たちにも、それぞれの正義があるんです。いわば、“正義”と“正義”のぶつかり合いです。
 若い世代の皆さんは、気候変動対策やSDGsといった社会問題の解決って、もっと倫理的でかっこいいことと思うかもしれませんが、突き詰めれば、ドロドロした人間の世界がそこにはあります。
  
 だからこそ、嫌気が差す時もあるかもしれませんが、どうか自分の志を最後まで貫いてほしい。
 問題に気付いたら放置せずに行動を起こして、辛抱強く最後まで続けてほしい。それが社会を変えていく力になると、僕は信じています。

橋爪建材ソーラーシェアリング
橋爪建材ソーラーシェアリング
三種根岸太陽光発電所
三種根岸太陽光発電所

 おおいし・えいじ 1969年、大阪府生まれ。明治学院大学経済学部でマーケティングを専攻。広告制作会社、凸版印刷株式会社を経て、2011年にみんな電力株式会社(現・株式会社UPDATER)を創業した。2016年より再エネ電力の小売り事業を開始。現在は、「顔の見えるライフスタイル」の実現に向け、電力以外の“顔の見える化”にも取り組む。

  
●ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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