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〈インタビュー〉 宗教の開拓的役割とは 関西学院大学教授 白波瀬達也(「第三文明」4月号から) 2026年4月13日

しらはせ・たつや 1979年生まれ。奈良県出身。関西学院大学社会学部卒。関西学院大学大学院社会学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。博士(社会学)。大阪市立大学都市研究プラザグローバルCOE特別研究員、関西学院大学社会学部助教、同准教授を経て、2022年から現職。著書に『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(中央公論新社)、『宗教の社会貢献を問い直す ホームレス支援の現場から』(ナカニシヤ出版)、共編著書に『現代日本の宗教と多文化共生 移民と地域社会の関係性を探る』(明石書店)、『釜ヶ崎のススメ』(洛北出版)など
しらはせ・たつや 1979年生まれ。奈良県出身。関西学院大学社会学部卒。関西学院大学大学院社会学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。博士(社会学)。大阪市立大学都市研究プラザグローバルCOE特別研究員、関西学院大学社会学部助教、同准教授を経て、2022年から現職。著書に『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(中央公論新社)、『宗教の社会貢献を問い直す ホームレス支援の現場から』(ナカニシヤ出版)、共編著書に『現代日本の宗教と多文化共生 移民と地域社会の関係性を探る』(明石書店)、『釜ヶ崎のススメ』(洛北出版)など

 宗教の持つ、行政の補完的役割にとどまらない社会の「開拓的役割」とは――。

宗教と社会貢献の研究の変遷

 宗教の社会貢献についてお話しする前に、このテーマがどのように研究されてきたかを振り返りたいと思います。
 
 宗教と社会貢献をめぐる研究が日本で本格化したのは、2000年代からです。1980年代から90年代にかけて発生した「オウム真理教事件」、とりわけ95年の地下鉄サリン事件以降、宗教全般を十把一絡げにして警戒するような空気が強まり、宗教の負の側面を扱う研究が進みました。その一方で、社会で積極的な役割を果たす宗教組織も確かに存在する――その事実を別の視角から拾い上げようとの意識が、研究者の間で共有されてきたのです。具体的には、稲場圭信氏(大阪大学大学院教授)や櫻井義秀氏(北海道大学大学院特任教授)らが旗振り役となり、宗教のポジティブな側面をとらえる研究が進んでいきました。

 私自身は、貧困、特にホームレス支援に携わる宗教団体のフィールドワークに取り組んできました。調査研究を重ねる中で印象的だったのは、信徒数の人口比で見れば少数派であるキリスト教系団体が、支援の現場では大きな役割を担っていたことです。そして、同じ支援においてもアプローチが大きく2つに分かれることが見えてきました。

 まず、信仰を語りながら食事提供等を続ける団体は、相手の罪責感の軽減や「居場所」づくりといった内面的な救済をもたらすことがある一方で、「ホームレス状態からの脱却」という点では効果が限定的な場合がありました。

 逆に、布教を差し控え、行政とも連携しながら福祉制度的な支援を行う団体は、支援からの自立など構造的課題への働きかけを進めやすい半面、当事者の精神的なつらさに深く踏み込むことが難しくなることもあります。

 「宗教の社会貢献」といっても、何を価値として評価するかで、その姿は変わります。よって、固定した定義を先に置くよりも、状況に応じて問い直しながら用いる必要がある――この発見は、宗教の力を狭い尺度で判断しないことの大切さを教えてくれました。

宗教団体の構造的な強み

 それでは宗教団体が社会活動を担う時、構造的な強みはどこにあるのでしょうか。まず非営利組織として見た場合、最大の強みは、多層的なネットワークを構築している点です。信仰の拠点として教会・寺院という最前線の単位があり、必要な時に人・物・お金が集まりやすい基盤があります。

 また、宗派を超えた連携を行う場合もあります。最たる例が、超宗派の認定NPO法人「おてらおやつクラブ」です。主に国内各地の寺院(2335寺院)から寄せられたお供え物の食品等を、協力団体(1061団体)を通じて経済的に困難な状況にある家庭へ届け、貧困問題の解決を目指しています(数値は本年2月時点)。こうした広がりは、一般のNPOではなかなか持ち得ないスケールといえるでしょう。

 そして、社会の担い手輩出の役割もあります。地域ボランティアなどさまざまな分野での活動、地域に必要だが担い手が足りない役割――それらを積極的に担うことは、宗教と社会の良い関係性を結ぶものといえます。ところが、宗教団体の社会活動は報道等では取り上げられにくい。そして一部の教団が起こした不祥事などばかりがクローズアップされる。すると、宗教のイメージが偏った形で再生産され、世の中に広まります。こうした流れは、宗教にとっても、社会にとっても健全とはいえないでしょう。

宗教の果たすべき「開拓的役割」

 それでは今後、宗教にはどのような役割が求められるでしょうか。まず、社会の宗教に対する眼差しの冷淡さは、敵意というよりはむしろ、情報不足による部分が大きいことを理解する必要があります。よって、これまで述べてきたような地道な社会貢献を愚直に積み重ね、信頼を育てていくことだと思います。地道な実践が続けば、やがて「信仰に裏打ちされた行動」への敬意が自然に芽生え、宗教に対する社会の印象も少しずつ変わっていくはずです。

 ただ、それだけでは十分ではありません。国や自治体など行政の福祉的取り組みを補完するだけでなく、社会制度の是正にも積極果敢に取り組むべきです。制度のはざまに落ち、生活困窮状態に陥った人、外国人など社会的に排除されがちなマイノリティに属する人をどう包摂できるかが問われているのです。場合によっては、政府と緊張関係になることもあるでしょう。それでも信仰的な信念から人道的要請に果敢に挑んでいく――宗教団体には、そうした「開拓的役割」も期待されます。

 私は、創価学会がこの「開拓的役割」を果たし得る団体の1つだと理解しています。会員一人ひとりが、信仰心の発露から、民生委員や保護司、地域ボランティアなどを進んで引き受けていると聞きます。また公明党の支持団体として、社会の変革にも寄与しています。もちろん、団体の大きさや、長年政権与党を担ってきた歴史があるため、「動き方」には慎重さが求められる場面も多いでしょう。それでも、全国各地に会館を持ち、多様な会員ネットワークを構築し、社会と政治の双方に接点を持つ創価学会が、日本が直面する人道的諸課題の解決にどう取り組むかは、非常に重要な「問い」であると思います。

 その問いに向き合う上で鍵になるのが、会館という資源をどう生かすかだと考えます。一般に、「地域・家の宗教」として根付いている寺院や神社と違い、新宗教の施設は、信仰を持たない人にとって心理的ハードルが高い。私もかつて、学術研究の一環で創価学会の会館を見学したことがありますが、研究者の私でさえ入りにくさを感じるのですから、地域の人々にとっては、なおさら心理的ハードルが高いでしょう。

 これまでも、災害時に地域の「避難所」として開放してきたという話も聞いています。その経験があるのですから、平時の交流を少しずつ広げていくのはどうでしょうか。会館が平時から地域の拠点として開放され、そこに多様な団体・個人が集うようになれば、行政の支援から取り残される人びとに手を伸ばす回路も増えます。まずは、月に一度の開放日など小さな実験から始めること。そして創価学会の側から「会館を地域に開きます」と宣言するよりも、地域からの「使いたい」という声に耳を傾け、具体的な要望に柔軟に対応し、段階的に会館を開放していければ、それぞれの地域に即したより良い関係性を結んでいけるはずです。皆さんの取り組みで、宗教と社会のより良い関係が築かれることを期待しています。

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