〈インタビュー〉 宗教団体の社会貢献活動を考える 大正大学教授 寺田喜朗(「第三文明」4月号から)
〈インタビュー〉 宗教団体の社会貢献活動を考える 大正大学教授 寺田喜朗(「第三文明」4月号から)
2026年4月13日
てらだ・よしろう 1972年、鹿児島県・屋久島生まれ。東京学芸大学卒業、同大学院教育学研究科修士課程修了、東洋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。東洋大学、東京学芸大学非常勤講師、大正大学准教授などを経て現職。専門は宗教社会学。日本宗教学会理事。著書に『旧植民地における日系新宗教の受容』、共著に『東日本大震災後の宗教とコミュニティ』『戦後史のなかの「国家神道」』『よくわかる宗教学』『近現代日本の宗教変動』などがある
てらだ・よしろう 1972年、鹿児島県・屋久島生まれ。東京学芸大学卒業、同大学院教育学研究科修士課程修了、東洋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。東洋大学、東京学芸大学非常勤講師、大正大学准教授などを経て現職。専門は宗教社会学。日本宗教学会理事。著書に『旧植民地における日系新宗教の受容』、共著に『東日本大震災後の宗教とコミュニティ』『戦後史のなかの「国家神道」』『よくわかる宗教学』『近現代日本の宗教変動』などがある
「宗教団体の社会貢献活動に関する調査」から見えた課題と展望を聞いた。
「宗教団体の社会貢献活動に関する調査」から見えた課題と展望を聞いた。
社会と宗教の“最初の壁”
社会と宗教の“最初の壁”
宗教団体が長年にわたり福祉や医療・教育、災害支援などに携わってきたことは、どれほど知られているでしょうか。昨年6月、公益財団法人「庭野平和財団」が主催し、私と立教大学・丹羽宣子助教が監修した全国調査では、「宗教団体の社会貢献活動を知らない」が62・6%で、前回調査(2016年)から8・8%増加しました。
また、知っている宗教団体の社会貢献活動(複数回答)を尋ねたところ、一番知られていると思われる「大学など教育機関の経営」が32・8%(前回36・1%)、「幼稚園など児童福祉に関する事業」20・3%(31・6%)、「医療機関の経営」20・3%(31・6%)、「災害時のボランティア活動」14・9%(19・4%)となった一方、「どれも知らない」が47・4%(39・4%)にのぼりました。
宗教団体が長年にわたり福祉や医療・教育、災害支援などに携わってきたことは、どれほど知られているでしょうか。昨年6月、公益財団法人「庭野平和財団」が主催し、私と立教大学・丹羽宣子助教が監修した全国調査では、「宗教団体の社会貢献活動を知らない」が62・6%で、前回調査(2016年)から8・8%増加しました。
また、知っている宗教団体の社会貢献活動(複数回答)を尋ねたところ、一番知られていると思われる「大学など教育機関の経営」が32・8%(前回36・1%)、「幼稚園など児童福祉に関する事業」20・3%(31・6%)、「医療機関の経営」20・3%(31・6%)、「災害時のボランティア活動」14・9%(19・4%)となった一方、「どれも知らない」が47・4%(39・4%)にのぼりました。
こうした数字からは、宗教団体の社会貢献活動の認知度が低下していることが分かります。つまり、宗教団体が社会基盤を支える活動をしていても、日常の視界には入りにくい。ここに社会と宗教の“最初の壁”があります。
評価の設問でも同じ傾向が見て取れます。社会貢献活動を「立派だからもっと活発に行ってほしい」は15・6%(23・9%)にとどまり、「やってもやらなくてもどちらでも」25%(23・2%)、「(活動しているのを)知らなかった」24・3%(20・4%)、「わからない」20・1%(11%)と続きます。この結果は関心が薄いだけでなく、受け止め方が揺らいでいるとも読めます。
一方で期待する社会貢献活動(複数回答)は、「災害ボランティア」が25・4%、「平和の増進」25・1%、「福祉」22・3%が上位です。反対に「期待する活動はない」も35・8%あり、期待と距離感が同居しています。よって今後は、「やっているかどうか」という事実だけではなく、「どう伝えていくか」という点も焦点になると考えます。
こうした数字からは、宗教団体の社会貢献活動の認知度が低下していることが分かります。つまり、宗教団体が社会基盤を支える活動をしていても、日常の視界には入りにくい。ここに社会と宗教の“最初の壁”があります。
評価の設問でも同じ傾向が見て取れます。社会貢献活動を「立派だからもっと活発に行ってほしい」は15・6%(23・9%)にとどまり、「やってもやらなくてもどちらでも」25%(23・2%)、「(活動しているのを)知らなかった」24・3%(20・4%)、「わからない」20・1%(11%)と続きます。この結果は関心が薄いだけでなく、受け止め方が揺らいでいるとも読めます。
一方で期待する社会貢献活動(複数回答)は、「災害ボランティア」が25・4%、「平和の増進」25・1%、「福祉」22・3%が上位です。反対に「期待する活動はない」も35・8%あり、期待と距離感が同居しています。よって今後は、「やっているかどうか」という事実だけではなく、「どう伝えていくか」という点も焦点になると考えます。
宗教界全体を覆う社会の心象
宗教界全体を覆う社会の心象
それでは、なぜ宗教団体の社会貢献活動は見えにくくなっているのか。その理由として大きいと感じるのは、宗教界全体を覆う社会の心象です。かつてのオウム真理教事件、そして現在の旧統一教会問題のように、特定教団の悪質な活動が宗教全般の印象を一気に冷やす局面がありました。
事件やスキャンダルは報道されやすい一方で、平時の地道な貢献活動はニュースになりにくい。結果として、社会の記憶に残るのは例外的な「1%」の事件で、「99%」の地道な活動が見えなくなる構図が生まれます。先述した活動評価への設問で「わからない」が2割に達しているのは、単に情報不足なだけではなく、判断材料が手元にないことの表れともいえるでしょう。
もう一つ、背景にあるのは「宗教は公の場に出るべきではない」という社会の空気です。日本では国家と宗教における「政教分離」が、しばしば「宗教は社会から距離を取るべきもの」という感覚と結びつきます。
それでは、なぜ宗教団体の社会貢献活動は見えにくくなっているのか。その理由として大きいと感じるのは、宗教界全体を覆う社会の心象です。かつてのオウム真理教事件、そして現在の旧統一教会問題のように、特定教団の悪質な活動が宗教全般の印象を一気に冷やす局面がありました。
事件やスキャンダルは報道されやすい一方で、平時の地道な貢献活動はニュースになりにくい。結果として、社会の記憶に残るのは例外的な「1%」の事件で、「99%」の地道な活動が見えなくなる構図が生まれます。先述した活動評価への設問で「わからない」が2割に達しているのは、単に情報不足なだけではなく、判断材料が手元にないことの表れともいえるでしょう。
もう一つ、背景にあるのは「宗教は公の場に出るべきではない」という社会の空気です。日本では国家と宗教における「政教分離」が、しばしば「宗教は社会から距離を取るべきもの」という感覚と結びつきます。
しかし海外では、宗教団体が学校や病院、福祉サービスを担い、時に公的資金で支えられることも珍しくありません。それは社会の側が、宗教を公共領域の担い手と位置づけているからです。日本の感覚はそれと逆方向に振れがちで、宗教団体が何かをしても「やっていることはよいが、宗教が前に出るのは……」というねじれた評価になりやすい。ここが、社会的共感の広がりを難しくしています。
また、宗教団体自身の伝え方にも課題があります。ネット時代の到来で、多様な団体が動画を発信することが可能になりましたが、これらの動画は、関心のある人・近い人には届きやすい半面、反対側の人々には届きにくい。今回の調査でも、情報源としてテレビ・ラジオがなお72・8%と突出し、SNSを含むネットは29・9%でした。
よって社会全体のイメージを改善するのであれば、当面は新聞・テレビなど既存メディアで、「宗教団体が社会の現場で何をしているか」が可視化される機会が増えることが重要でしょう。先入観や誤解を解くためにも、宗教団体の社会貢献活動が企業・NPOのそれと変わらないのだと同じ土俵で見てもらう必要があります。宗教全般を十把ひとからげにする視線をほぐし、活動の具体像を届け直す。そうした地道な積み重ねが欠かせません。
しかし海外では、宗教団体が学校や病院、福祉サービスを担い、時に公的資金で支えられることも珍しくありません。それは社会の側が、宗教を公共領域の担い手と位置づけているからです。日本の感覚はそれと逆方向に振れがちで、宗教団体が何かをしても「やっていることはよいが、宗教が前に出るのは……」というねじれた評価になりやすい。ここが、社会的共感の広がりを難しくしています。
また、宗教団体自身の伝え方にも課題があります。ネット時代の到来で、多様な団体が動画を発信することが可能になりましたが、これらの動画は、関心のある人・近い人には届きやすい半面、反対側の人々には届きにくい。今回の調査でも、情報源としてテレビ・ラジオがなお72・8%と突出し、SNSを含むネットは29・9%でした。
よって社会全体のイメージを改善するのであれば、当面は新聞・テレビなど既存メディアで、「宗教団体が社会の現場で何をしているか」が可視化される機会が増えることが重要でしょう。先入観や誤解を解くためにも、宗教団体の社会貢献活動が企業・NPOのそれと変わらないのだと同じ土俵で見てもらう必要があります。宗教全般を十把ひとからげにする視線をほぐし、活動の具体像を届け直す。そうした地道な積み重ねが欠かせません。
求められる宗教団体の協働
求められる宗教団体の協働
このように目下、宗教団体の社会貢献活動は逆風下にあるともいえますが、それでも宗教団体が果たす社会的役割が小さいわけではありません。むしろ、地域のつながりが細り、孤立や困窮が見えにくくなる時代だからこそ、担える機能は増しています。
とりわけ宗教団体には、国家と個人の間をつなぐ「中間集団」としての役割が期待されます。行政は制度として公平である一方、個々の生活の“割れ目”に手を差し伸べるには限界がある。ゆえに、中間集団に属する人間が、暮らしの悩みに耳を傾け、支援先につないだり、平時に人々が集う居場所をつくり、災害時には救援活動にも取り組んだりする。そうした多様な働きこそが、社会全体のセーフティーネットを厚くします。
その上で、宗教団体が社会の信頼を高めていくには、教団相互の協働も重要です。教義上の違いはあるにせよ、互いに社会のために何ができるかを考え、できることから実行することを期待します。
このように目下、宗教団体の社会貢献活動は逆風下にあるともいえますが、それでも宗教団体が果たす社会的役割が小さいわけではありません。むしろ、地域のつながりが細り、孤立や困窮が見えにくくなる時代だからこそ、担える機能は増しています。
とりわけ宗教団体には、国家と個人の間をつなぐ「中間集団」としての役割が期待されます。行政は制度として公平である一方、個々の生活の“割れ目”に手を差し伸べるには限界がある。ゆえに、中間集団に属する人間が、暮らしの悩みに耳を傾け、支援先につないだり、平時に人々が集う居場所をつくり、災害時には救援活動にも取り組んだりする。そうした多様な働きこそが、社会全体のセーフティーネットを厚くします。
その上で、宗教団体が社会の信頼を高めていくには、教団相互の協働も重要です。教義上の違いはあるにせよ、互いに社会のために何ができるかを考え、できることから実行することを期待します。
この点、創価学会が果たすべき役割は大きいでしょう。教団の指導者であった池田(大作)会長は積極的に宗教間対話を行い、世界の平和と人類の共生を志向しました。また創価学会は、災害・人道支援等の社会貢献におけるノウハウや人材を有しています。
それを踏まえて、例えば全国の会館施設を災害時に開放するだけでなく、日常から地域に開放してはどうでしょうか。会館を拠点に、他教団や市民団体などと共同で子ども・若者の居場所づくりや学習支援、子育て相談や防災訓練などを行うのです。こうした「顔の見える関係」を築くことができれば、宗教全体をめぐる誤解や先入観も少しずつほどけていくでしょう。そして何より、宗教団体の社会貢献活動を「社会的な共通資産」としてアピールできます。
今回の調査では、宗教団体の社会貢献活動が、社会の側にとっては「静かな実践」と受け止められていることが示唆されました。宗教者・宗教団体にとっては残念な結果でしたが、社会貢献活動の重要性が変わることはありません。「見ている人は見ている」ということを忘れないでいただきたいと思います。
この点、創価学会が果たすべき役割は大きいでしょう。教団の指導者であった池田(大作)会長は積極的に宗教間対話を行い、世界の平和と人類の共生を志向しました。また創価学会は、災害・人道支援等の社会貢献におけるノウハウや人材を有しています。
それを踏まえて、例えば全国の会館施設を災害時に開放するだけでなく、日常から地域に開放してはどうでしょうか。会館を拠点に、他教団や市民団体などと共同で子ども・若者の居場所づくりや学習支援、子育て相談や防災訓練などを行うのです。こうした「顔の見える関係」を築くことができれば、宗教全体をめぐる誤解や先入観も少しずつほどけていくでしょう。そして何より、宗教団体の社会貢献活動を「社会的な共通資産」としてアピールできます。
今回の調査では、宗教団体の社会貢献活動が、社会の側にとっては「静かな実践」と受け止められていることが示唆されました。宗教者・宗教団体にとっては残念な結果でしたが、社会貢献活動の重要性が変わることはありません。「見ている人は見ている」ということを忘れないでいただきたいと思います。