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〈SDGs×SEIKYO〉 レジ袋に「さよなら」を――インドネシアの環境活動家 メラティ・ワイゼンさん 2022年10月14日

  • インタビュー:美しきバリ島を守る
©World of Me Marie
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 2013年、12歳だったメラティ・ワイゼンさんは、妹イザベルさんと共に、インドネシアのバリ島で「レジ袋」の使用禁止を求める運動「バイバイ・プラスチックバッグ」を開始。そして19年、バリ島はレジ袋など使い捨てプラスチック製品の使用を禁止しました。社会を変える若者の力について、ワイゼンさんに聞きました。(取材=木﨑哲郎、サダブラティまや)

◆12歳で立ち上がる

 ――ワイゼンさんは10代の時、なぜ「レジ袋」の使用禁止を訴える運動を始めたのでしょうか。
  
 私が生まれ育ったバリ島は、自然が本当に豊かです。水田や川、雄大な山々、そして広大な海――自然の恵みの全てが、この島にはあります。

 ですが長年、プラスチックごみによる環境汚染が大きな課題でした。それは私が幼い頃から、文字通り「目の前」に存在する問題だったのです。

 海へ泳ぎに行くと、いつも腕や足にレジ袋などのごみが、まとわりつきました。田植えを学んだ時は、最初に、田んぼに散らかるごみの清掃を行わなければなりませんでした。こんな、ごみだらけの環境は、もうたくさんだと感じていました。

 また当時、学校の授業で、世界の偉人について学ぶ機会がありました。ネルソン・マンデラ(南アフリカの初の黒人大統領)や、マーチン・ルーサー・キング(アメリカ公民権運動の指導者)――そうした人々の戦いを知り、家に帰った私と妹は、胸をはずませて語り合いました。

 「私たちも何かできないかな? 大人になるまでなんて待てないよ。今、始めよう!」。当時、私は12歳、妹は10歳でした。

妹のイザベルさん㊨と、レジ袋禁止運動についてプレゼンテーションを(2015年) ©TED
妹のイザベルさん㊨と、レジ袋禁止運動についてプレゼンテーションを(2015年) ©TED
世界的な観光地であるバリ島の海 ©アフロ
世界的な観光地であるバリ島の海 ©アフロ
海辺に散乱するプラスチックごみ ©mauritius images/アフロ 
海辺に散乱するプラスチックごみ ©mauritius images/アフロ 
空港ロビーで署名運動も

 ――そこで取り組み始めたのが「レジ袋」の問題でした。どんな活動に注力しましたか。
  
 実は今、ジャカルタの高校に来ていて、この取材の後も、研修会を担当する予定なんです。これが、ずっと力を入れてきたこと、つまり各地の学校を巡り、子どもたちと環境問題について語り合うことです。

 子どもたちは、世界人口の一握りですが、未来の全てを握っています。私たちは、「社会の変化は、学校の教室から起きる」と信じています。

 こうした研修会のほか、ごみ問題に関するハンドブックを作成したり、手作りのエコバッグを配布したり、企業や政府関係者と何度も話し合ったり、さまざま活動を続けてきました。

 楽しい思い出の一つは「署名運動」です。最初は「100万人を目指そう! 簡単でしょ」と怖い物知らず。地域を回り大勢の人とつながろうと考えを練る中、利用客が多いバリの空港が頭に浮かびました。

 そこで、まず空港の用務員と仲良くなり、活動の目的を熱心に伝えました。そして、次は用務員の上司、そのまた上の役職者へと次々とつながり、出発ロビーでの署名運動を許可してもらえたのです。

 先に結果を言いますと、100万人には到底、届きませんでした(笑)。でも、多くを学ぶきっかけになりました。最終的には、オンラインを含め約9万人の署名を集めることができ、政府に提出しました。

 ちなみに「バイバイ・プラスチックバッグ」運動は、今では世界各国の60カ所にチームがあり、日本の東京、京都、兵庫にもメンバーがいます。

世界の若者たちと共に、気候変動対策を訴えるデモ行進を行うワイゼンさん(中央=2019年、米ニューヨーク市内で) ©Bigger Than Us
世界の若者たちと共に、気候変動対策を訴えるデモ行進を行うワイゼンさん(中央=2019年、米ニューヨーク市内で) ©Bigger Than Us
“プラごみ削減”の責任は誰に?

 ――そして2019年、バリ島での使い捨てプラスチック製品(レジ袋、ストロー、発泡スチロール)の使用が条例で禁止されました。
  
 一つ強調しておきたいのは、使い捨てプラスチック製品の禁止は、多くの団体や運動の努力の結果である、ということです。

 その上で、私たちの活動のユニークな点は、「子ども」が主体であったこと、そして「教育」に焦点を当てたことでした。

 今、インドネシア政府は、プラスチックごみの海洋流出を、2025年までに70%減らそうとしています。これは目標としては評価できますが、実行面では課題があります。

 特に、この目標は、企業よりも個々人の行動変化に重きを置いています。

 でも、きょう私が研修で訪れている学校では、当たり前のように飲料用のペットボトルが使われています。これは、プラスチックごみの削減においては問題ですが、責任の所在はどこにあるのでしょうか?

 ペットボトルの代替品そのものが存在しなかったり、それを購入する予算が学校になかったりする場合、プラスチックごみ削減の責任を、学校だけに押しつけるべきでしょうか?

 個人と地域レベルの変革はもちろん大切ですが、トップダウンによる企業や社会システムの抜本的な変化が、より求められていると感じてなりません。

美しい自然に彩られたバリ島 ©Amazing Aerial/アフロ
美しい自然に彩られたバリ島 ©Amazing Aerial/アフロ
“第三の季節”の「ごみ期」

 ――人々の意識啓発のために「清掃活動」にも力を注がれていますね。
  
 インドネシアには「乾期」「雨期」の二つの季節がありますが、私は、さらに“第三の季節”があると思っています。それは、雨期の後半にあたる2月ごろの「ごみ期」です。

 この季節になると、雨で流されたプラスチックごみが、川から海へとたどり着きます。そして海辺は、“ごみの大災害”ともいえる光景になるのです。

 そこで2017年から毎年2月に、「Bali’s Biggest Clean Up(バリ最大の清掃)」という名前のイベントを開催してきました。毎回、1万人以上の人々が参加してくれています。

 人々が環境問題と向き合うために大事なことは、それを「自分事」として捉える感覚です。

 例えば、海岸で泥まみれになったポテトチップスの袋を見つけたら、「自分が食べたお菓子の袋も、こうなっているのかな」と思うかもしれません。

 この清掃活動は、誰もが関わり、環境への意識を高めることができる、とても効果的なツール(方法)だと確信しています。これからも毎年、続けます。

毎年2月に開催している「バリ最大の清掃」運動。多くの子どもたちも参加する ©Bye Bye Plastic Bags
毎年2月に開催している「バリ最大の清掃」運動。多くの子どもたちも参加する ©Bye Bye Plastic Bags
何より「楽しむ」こと

 ――ワイゼンさんが設立した、青年のオンラインのプラットホーム「ユーストピア」についても教えてください。
  
 「バイバイ・プラスチックバッグ」運動で、世界中の子どもや学生たちとつながる中、いつも同じような質問をされたんです。「どうしたら、私も社会を変えられますか?」と。

 若者が行動を起こすに当たって、常に最大の壁になるのは、「どこで、何をどう始めたらいいのか分からない」ということだと気が付きました。

 そこで2020年、以前から構想を練っていた「ユーストピア」を正式に発足させました。これは、「チェンジメーカー(社会に変化を起こす人)」を育て、情報を共有するネット上の“学びの場”です。誰もが無料で参加できます。

 現在、多様な形で社会に影響を与える200人のチェンジメーカーたちによる研修プログラムを、記事や映像で提供しています。

 これまで、SDGsを深く学ぶ17日間のオンラインプログラムなども実施しましたし、チェンジメーカーを支援する奨学金制度も立ち上げました。

 私は、社会を変えたいと思っている人に、よく三つのアドバイスをします。

 一つ目は、「最終的なゴールを明確にする」ということ。目標がクリアであればあるほど、多くの人を糾合することができます。

 私たちの場合、「レジ袋をなくす」という、誰もが身近に感じる分かりやすいゴールを掲げたことが、功を奏したと思っています。

 二つ目は、「チームをつくる」ことです。ビジョンに共鳴してくれる仲間を集めていく。特に自分とは違ったスキルを持つ人は、チームに良い影響をもたらしてくれます。

 そして三つ目は、何より「楽しむ」こと。社会運動において、この「楽しむ」という点は、もっと重視されてしかるべきです。

 私たちは生活のさまざまな負担やプレッシャーを抱えて生きています。だからこそ、いかなる時も、自分が携わる運動がもたらす希望や喜びを、決して忘れたくないと思うのです。

海辺で自発的に清掃活動。「ごみだらけの海を見て、いてもたってもいられませんでした」(昨年9月) ©Melati Wijsen
海辺で自発的に清掃活動。「ごみだらけの海を見て、いてもたってもいられませんでした」(昨年9月) ©Melati Wijsen
Z世代の創造力

 ――SGIでは、人や自然を含めた全ての生命が根底で深くつながっており、一人一人が生命的次元で生き方を変える「人間革命」から、本当の社会変革が可能になる、と考えています。この点、どのように思われますか。
  
 私はインドネシア人の父、オランダ人の母のもと、特定の宗教をもたない家庭で育ちました。その中で私は、インドネシアに古くから伝わる「トリ・ヒタ・カラナ」という価値観を大事にしてきました。

 トリ・ヒタ・カラナには、身の回りの人々、自然、そして内なる生命と調和して生きる、という意味が含まれており、生き方そのものです。

 自分を深く掘り下げ、価値観や信念を根本的に変えていくことで、初めて社会を変えることができる。そうした皆さんの考え方は、まさに私たちチェンジメーカーにとって、とてもなじみ深いものです。

 チェンジメーカーは、何より自分自身が変革の模範とならなければなりません。自分を変えることができなければ、他者を変えることはできません。

 私自身、12歳から環境活動を開始して9年がたちました。一番大変だったことは、「変化はすぐには起こらない」という事実と、その中で、いかに人々の「希望」を保ち続けるか、ということでした。

 大きな力を発揮してくれたのが、Z世代の若者たち(現時点で10代から20代半ば)です。サーフィンの大会前に清掃活動を行ったり、アートを通じて意識啓発を進めたりと、いつも斬新な創造力で活動を盛り上げてくれます。

 世界には、さまざまな不正義がはびこっています。しかし、そこで下を向くのではなく、「自分が守りたいと思う、愛するものは何か」「こうあってほしいと願う未来は、どんな姿か」に目を向けていきたい。「愛」と「希望」こそ、私の力の源です。

 若者の皆さん、より良い世界をつくるために、一緒に立ち上がりましょう!

©World of Me Marie
©World of Me Marie

 <プロフィル> メラティ・ワイゼン
 インドネシア・バリ島出身の環境活動家。2013年、妹のイザベルと「使い捨てレジ袋」の廃止を求める運動を始め、幅広く活動を展開。米誌「タイム」が「世界で最も影響力を持つ10代」として取り上げるなど、国内外のメディアで紹介された。社会変革に挑む青年たちを結ぶプラットホーム「ユーストピア」も創設。国連やダボス会議で発言を重ね、近年はドキュメンタリー映画にも出演した。

  
●ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp

●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html

●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

 ※世界の気温上昇を、産業革命前と比較して1.5度以内に抑えることが国際的な目標となっている今、国連の「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディアと国連が協働し、「1.5℃の約束――いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」というキャンペーンが実施されています。加盟社の聖教新聞も参画しており、気候変動対策に関する情報を積極的に発信しています。

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