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気候変動の対策へ差異を超えて連帯を――国際環境NGOの代表に聞く  2023年7月13日

  • 〈SDGs×SEIKYO〉 「グリーンフェイス」事務局長 フレッチャー・ハーパーさん
©Variety/Getty Images
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 気候変動への対策や平和の実現など、地球規模の課題を解決するためには、多様な人々の力を結集していく必要があります。SDGs(持続可能な開発目標)の目標17には、「パートナーシップで目標を達成しよう」が掲げられています。持続可能な社会のために宗教が果たす役割、そして差異を超えてパートナーシップを築くカギは何か――宗教者のネットワークである国際環境NGO「グリーンフェイス」のフレッチャー・ハーパー事務局長に聞きました。(取材=樹下智、福田英俊)

©Piyaset/Shutterstock.com
©Piyaset/Shutterstock.com

 ――貴団体は、“気候変動と環境問題に立ち向かう多宗教の世界的運動を構築すること”を使命に掲げています。発足の経緯と、これまでの活動について教えてください。
  
 グリーンフェイスは1992年、米ニュージャージー州で始まりました。
 環境問題に関心のあるキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の信者が集まり、それぞれの聖典で、人間と環境について何を教えているかを研究したのが最初の活動でした。
  
 宗教者として何らかの環境保全活動をすべきだとの結論に至り、まずは宗教施設でのエネルギー節約と太陽光パネルの設置を推進していきました。
  
 環境が汚染された地域に住むのは往々にして、社会で最も弱い立場に置かれた人々です。そうした現実を直視するため、環境汚染が起きている貧困地域への視察も行いました。
  
 宗教団体の責任者をはじめ大勢の人々に視察した内容を伝え、政府関係者にも改善を訴えていきました。そうした取り組みが注目を集め、“自分たちも視察をしたい”と全米から問い合わせを受けるようになり、研修プログラムを始めました。
  
 ――気候変動対策にも積極的に取り組まれてきましたね。
  
 ええ。2014年、ニューヨークの国連本部で開かれた気候サミットに合わせて、40万人もの人々が地球温暖化対策を求めるデモ行進を行いました。その際、グリーンフェイスも企画・運営に携わり、多くの宗教関係者がデモに参加しました。
  
 多様な宗教が協力し、公共の場で気候変動対策の重要性を訴えることが、人々の心を変えるのに大きな役割を果たすのを目の当たりにした私たちは、パートナーと協力し、世界各地で同様の取り組みを開始しました。
  
 グリーンフェイスのパートナーは今、欧州、アフリカ、アジアへと広がっています。各国で意識啓発運動を行い、エネルギー政策を石油・天然ガス・石炭などの化石燃料から再生可能エネルギーへと、一刻も早く転換するよう政府に訴えています。

世界教会協議会(WCC)の総会で気候変動対策を訴えるグリーンフェイスのメンバー(昨年9月、ドイツ・カールスルーエ) ©グリーンフェイス
世界教会協議会(WCC)の総会で気候変動対策を訴えるグリーンフェイスのメンバー(昨年9月、ドイツ・カールスルーエ) ©グリーンフェイス

 ――5人以上の賛同者がいれば、世界のどの地域でも貴団体の「サークル」を立ち上げることができると伺いました。
  
 その通りです。現在、110以上のサークルがあります。宗教団体に所属している人もいれば、そうでない人も参加しています。宗派にとらわれず一緒に集まって、宗教間対話や勉強会など、さまざまな取り組みを行っています。
  
 例えば、東アフリカのあるサークルでは、石油パイプラインの建設を中止し、再生可能エネルギーに切り替えるよう政府に働きかける活動をしています。ドイツのサークルでは、炭鉱の拡張を取りやめさせるための抗議運動をしています。
  
 日本のサークルは、太陽光と風力発電を推進し、化石燃料からの脱却を早めるための活動に取り組んでいます。国によって、文化や事情も違うので、全てのサークルで同じ活動をしているわけではありません。

「なぜ」に立ち返る

 ――多様な背景を持つ人々が、市民社会で草の根のパートナーシップを築くカギは何だと考えますか。
  
 「なぜ私たちは、この問題を大切だと思うのか」という点を、常に問い続けることだと思います。それぞれ、信仰の対象や考え方、立場も違います。また、多忙な生活の中で、活動する意義を見失うこともあります。だからこそ、「なぜ」という共通の原点に立ち返ることが重要です。
  
 また、私たちのような事務局の存在も、パートナーシップを継続する上で有益だと考えます。先日も、あるサークルの責任者から、「気候変動対策のために、公共の場で、多宗教で祈りをささげる機会をつくりたいのですが、どうすればいいでしょうか」と問い合わせを受け、さまざまな提案をしました。
  
 相談できる窓口とサポート体制があれば、孤独になって草の根の活動を維持できなくなることは少ないのではないでしょうか。
  
 ――ハーパーさんは、20年以降の気候変動対策の国際的枠組みであるパリ協定の策定過程で、宗教者の声をまとめ国連事務局に提出するなど、宗教者による環境運動をリードしてきました。地球環境を守るため、宗教者の果たすべき役割は何だとお考えですか。
  
 宗教はこれまでの長い歴史で、それぞれの国や地域の文化を形成する重要な役割を果たしてきました。
  
 世界には現在、平和への脅威、環境への脅威、人々の安全と健康への脅威、そして女性に対する脅威など、解決しなければならない問題が山積しています。だからこそ、こうした脅威を克服するために、正しい道を指し示し、精神的な励ましを送り続ける責任と使命が、宗教者にはあると信じます。
  
 パリ協定で定められた目標を達成するためには、もうこれ以上、化石燃料による発電所を増やすわけにはいきません。それは科学的観点からも明らかです。多くの政府が、そして多くの大企業が、この現実を直視しようとしていません。多数の金融機関が、環境破壊を進める企業への融資をいまだ中止しようとはせず、多額の収益を得ているのです。
  
 環境破壊や気候変動で最も被害を受けるのは、弱い立場に置かれた人々です。富裕層は、そうした「置き去りにされた人」の苦しみを想像できない。なかには自らの利権が侵害されると思い、環境保全の話を聞こうとしない人もいます。だからこそ宗教者が、信仰心からあふれ出る善意と誠意と勇気をもって、問題を提起し続ける必要があると思うのです。

オーストラリアの山火事。気候変動による異常気象で干ばつや山火事が増えている ©Andrew Merry/Getty Images
オーストラリアの山火事。気候変動による異常気象で干ばつや山火事が増えている ©Andrew Merry/Getty Images
パキスタンでは昨年、異常気象による洪水で国土の3分の1が水没し、3300万人以上が被災。政府は気候変動が原因であるとしている ©Anadolu Agency/Getty Images
パキスタンでは昨年、異常気象による洪水で国土の3分の1が水没し、3300万人以上が被災。政府は気候変動が原因であるとしている ©Anadolu Agency/Getty Images

 ――活動を続ける中で、反対されることはありましたか。
  
 私にはキリスト教の牧師として、集会で話す機会が多くあります。裕福な地域の集会で説教する時に、事前に「環境問題については怒る人もいるから話さないでほしい」と言われたこともありました。私は、自らの信仰心にもとづいて「話します」と答えました。確かに、問題を提起すると怒る人がいるかもしれません。しかし、重要な問題である以上、避けて通るわけにはいかないのです。
  
 「個人の心の平穏」と「社会の安穏」はつながっています。別々のものではありません。宗教は、人々に心のよりどころを提供するとともに、その人たちが良い人生を送れることに責任を持つべきです。そのために、「良い社会を築く」という責任も、宗教者は負うべきだと考えます。
  
 世界史を振り返る時、宗教が暴力と分断を生んだという過去の経験から、宗教が公共問題に関わることは避けるべきだという意見もあります。宗教には、そうした側面があることも否めません。ですが、平和や環境保全、人権や福祉の向上のため、素晴らしい取り組みをしている宗教者や宗教団体が多く存在してきたのもまた事実です。
  
 日本では、宗教について公共の場で話すべきではないという風潮が強いように感じます。最近、訪日した際、明らかに宗教に対して理解を示さない人から、“昨年の元首相の銃撃事件は宗教が原因だった”と、あたかも全ての宗教が悪いとでもいうような説明を受けました。
  
 一方で私は、多くの日本人が宗教について、公の場で語られているよりもずっと、それぞれの人生を支える大切な存在だと捉えているとも感じています。
  
 ――ハーパーさんは19年、創価学会総本部を訪れ、学会代表と懇談された際、「有限な地球環境を前に“人間の欲望をいかにコントロールしていくか”という点について、宗教組織はさまざまなレベルで貢献することができる」と語られました。
  
 どのような宗教も、“モノや資源をできるだけ消費することが人生の目的である”とは教えていません。反対に、多くの企業にとっては、いかに人々の消費を増やして、最大の利益を生み出すかが目的になっています。ですから、平和と環境を守るために、宗教では何をすべきだと教えているかを広く社会に伝えていくことは、極めて重要です。
  
 他者への慈愛、周囲や環境への思慮がなくては、人生はわびしいものになってしまいます。異なる宗教を信じる人たちがパートナーシップを築いて、そうした共通のメッセージを社会に発信していけば、人々の希望になるのではないでしょうか。平和で持続可能な世界を築きたいという宗教者の声が、もっと公共の議論の場で聞かれるようになるべきです。

ハーパー事務局長(中央)が東京・信濃町の総本部を訪問(2019年6月)
ハーパー事務局長(中央)が東京・信濃町の総本部を訪問(2019年6月)
SGIの声は重要

 ――池田SGI会長は、「人間の精神の変革」を基盤として、「大自然との共生」「人類の平和共存」の実現に寄与していくことが「現代における宗教の存在意義」であると述べています。
  
 宗教が持つ偉大な力の一つは、困難に挑戦する強さを、人々に与えられる点ではないでしょうか。
  
 私はキリスト教徒として毎年の受難節(キリストの受難に思いを寄せる期間)の時、何かを諦めるようにしています。イスラム教徒の友人はラマダンの時期、日中に断食を行っています。自己を律し、欲望を抑えるなど、私たちにとって大切なことだけど、実践するのが難しい事柄に、あえて挑戦する精神力を、宗教は与えてくれるのです。
  
 地球環境を守るには、私たち自身の心を変え、生活様式を変えていかなくてはいけません。この点において、宗教が果たせる役割は極めて大きい。たとえ反対されたとしても、人類の未来のために正しいことを言い切っていく勇気の源泉として、宗教は必要不可欠なのではないでしょうか。
  
 私たちは現在、気候変動抑制のために化石燃料生産の段階的廃止や代替エネルギーへの移行を目指す「化石燃料不拡散条約」の制定を推進していますが、そうした意味で、SGIがこの条約に賛同していることを高く評価しています。
  
 SGIは、世界において非常に重要な宗教団体であり、地球環境を守るために素晴らしい取り組みを継続してこられました。SGIの同条約への賛同は、再生可能エネルギーへの転換を早急に成し遂げなければならないという声を、力強く後押しするものです。
  
 これからもSGIには世界各地で、人々の心の変革を促す活動を続けてもらいたい。SGIの皆さんの声が非常に重要なのです。今後も、地球と人間の尊厳を守るために手を携えていけることを念願しています。

気候変動への対策を訴えるデモでスピーチするハーパー事務局長(右端) ©グリーンフェイス
気候変動への対策を訴えるデモでスピーチするハーパー事務局長(右端) ©グリーンフェイス

 フレッチャー・ハーパー キリスト教・米国聖公会の牧師。プリンストン大学、ユニオン神学校を卒業後、教区司祭などを務め、2002年より現職。著書に『GreenFaith: Mobilizing God’s People to Save the Earth』がある。

  
●ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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