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〈特集〉 情報社会の荒波を生き抜くために――②ITジャーナリスト 高橋暁子さんに聞く 2025年9月25日

  • あふれるデマから身を守る行動を――情報リテラシーは一生涯必要な生活スキル!
増え続ける偽・誤情報

 ――昨今、ニュースを見ると、デマやフェイクニュースに関する報道が後を絶ちません。高橋さんは、ここ数年の状況をどのように見ていますか。

 現代は、SNSの影響力がますます大きくなっています。災害時には、架空の住所が書かれた虚偽の救助要請や「再び地震が起こる」という根拠のない情報が一斉に拡散し、救助隊や被災者を大きく混乱させる事態が相次いで発生しました。現場では、限られた人員や時間をデマの対応に割かざるを得ず、救助の遅れにつながったケースも報告されています。

 また選挙の場面でも「投票用紙が書き換えられる」といった偽情報が広まったり、生成AIで候補者の発言を捏造したフェイク動画が出回ったりするなど、民主主義の根幹を揺るがす深刻な事態も起きています。

 真偽不明の情報が大量に流れ、デマと見破ることが難しい投稿も多いです。現在のSNSは非常に混沌としたものになっていると感じています。さらに近年は、多くの人から自分の投稿を注目してもらうことによって、収益を得る仕組みを利用し、虚偽情報を大量投稿する“インプレッションゾンビ”が出現。これらのユーザーが“情報汚染”を加速させています。
  
 

コロナ禍の中では、「トイレットペーパーが不足する」という誤情報がSNSを中心に拡散され、全国各地の店頭で、買い占めが続出した=2020年3月、東京都(AFP時事)
コロナ禍の中では、「トイレットペーパーが不足する」という誤情報がSNSを中心に拡散され、全国各地の店頭で、買い占めが続出した=2020年3月、東京都(AFP時事)

 ――こうした状況に対して、どのような対策が講じられていますか。

 政府やX(旧ツイッター)などのプラットフォームは、悪質なデマを防ぐための制度設計を整えています。通報された投稿を削除する仕組み、アカウントを停止する規定、非営利団体によるファクトチェック(事実確認)、さらにSNSの利用者が協力して投稿に情報を補足できる機能などの導入です。これにより、意図的に虚偽情報を広めるアカウントの一部は抑え込まれつつあります。

 しかし、デマが広がる現象には「これは大切だから皆に伝えたい」「こんなことが起きている、知らせなきゃ」という善意や勘違いがあるということも現実です。例えば、2018年の「大阪北部地震」の際には、「京阪電鉄の電車が脱線した」というデマが拡散されました。しかし時系列を追っていくと、「脱線するかと思った」という投稿から「脱線したの?」という疑問文の投稿、さらに「脱線しているらしい」という臆測の投稿が増え、やがて「脱線した」という確定的な表現を用いて拡散されました。こうした投稿は、悪意がない分、完全に防ぐことは難しいです。これらの類いは、制度の側面だけでなく、一人一人の情報の受け止め方や対応の仕方、つまり情報リテラシーの向上にかかっています。

デマの広がりは個人化の影響?

 ――だまされやすい人、勘違いを起こしやすい人の傾向はありますか?

 大きく二つあります。まず一つ目は、「SNSのみを情報源としている人」です。SNSでは、自分と似た価値観や属性を持つ人をフォローしやすいことから、タイムライン上には自身と似たような意見を持った人物やニュースが表示されやすくなります。するとその情報が世論であるかのような錯覚に陥りやすくなるのです。私自身、仕事柄、メディアや教育、IT業界の人を多くフォローしていますが、彼らは大卒で東京在住、ホワイトカラーという背景の人が中心です。しかし日本全体で見れば、地方で暮らす人、工場や農業で働く人、大学に進学しない人も多くいます。したがって、SNSで見える世界は現実のごく一部に過ぎないということを常に意識しています。

 さらに、かつては地域の集まりや職場の飲み会といった多様な意見・価値観に触れる機会が日常的にありましたが、現代は複合的な理由で個人化が進み、コミュニティーが希薄になりつつあります。その結果、オンライン上での交流や情報収集が主流になり、「この意見が多数派で正しい」と錯覚する“エコーチェンバー現象”が起こりやすくなります。こうした偏りは、知らないうちに自分の判断を狭め、自然とデマを見極める材料が手に入りにくくなっていきます。

 ――自分と異なる意見を聞く機会が少ない人ほど惑わされやすくなるのですね。

 だまされやすい人の傾向の二つ目は、「当事者意識が低い人」です。特に大人に多い傾向です。物心がついた時からスマホやパソコンなどを使うデジタルネイティブと言われる若者世代は、SNSを日常的に使う分、自身もしくは身近な誰かの失敗談に触れる機会があり、その経験から学びます。一方、大人は若者に比べてSNSを“見るだけ”で投稿しない人が多いため、身近な失敗談が存在せず、当事者意識を失わせるのです。

 現代は、学校教育でのネットモラルや情報リテラシーの授業が浸透しており、若者世代は総じてリテラシーが高い傾向にありますが、それ以前の大人の世代はそれらの知識を学ぶ機会がほとんどありませんでした。結果として、情報社会の変化に追いつけず、知らぬ間に誤情報の受け手や拡散に加担することにつながるリスクが高まるのです。

複数媒体から情報を得る習慣を

 ――デマに惑わされず、正しい情報を見極めるための対策はあるでしょうか。

 まず、新聞や公共放送、専門家の発信など複数の媒体から情報を得る習慣を持つことが必要です。SNSではあえて自分と異なる意見を持つアカウントをフォローし、偏りを避ける環境をつくることも有効になるでしょう。さらに拡散したくなるような投稿を見た時は発信元を調べ、複数の信頼できる情報源を確認し、「これは真実か」と一度立ち止まるだけで、誤情報による被害を大幅に減らすことができます。

 情報が氾濫する時代だからこそ、情報リテラシーは“生涯にわたって学び続けるべき生活スキル”です。またその力は、実際にSNSを利用する中で、養われていきます。

 これまでの話から、SNSは怖いものとの印象が強くなりがちですが、SNSでの拡散力を利用して、ペットの迷子に関する情報を投稿し、発見につながったなどの事例にも象徴されるように、速報性やユーザー同士のつながりは、社会の希望ともなり得ます。読者の皆さんが、この機会に自らの情報リテラシーを一歩深めるきっかけになれば幸いです。

〈プロフィル〉
たかはし・あきこ ITジャーナリスト。成蹊大学客員教授。SNSや情報リテラシー教育が専門。東京学芸大学卒業後、小学校教諭、Web編集者などを経て独立。著書に『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α新書)など。

取材後記

 記者は23歳のデジタルネイティブ世代です。10代の頃からSNSには慣れ親しんできました。友人に聞けば、ニュースは基本的にX(旧ツイッター)で検索するといいます。タイムラインに流れてくる200字にも満たないネットニュースから世の中の流れを把握しているようです。若者世代にとっては、誰でも心当たりがあるのではないでしょうか。
 このように若者世代を中心に、情報の収集源として、SNSが主流になりつつある中で、報道機関の存在意義とは何でしょうか。高橋さんは取材の中で、新聞社やテレビをはじめとするオールドメディアの特質について、「一次情報を入手し、複数のソースと照らし合わせて検証する」ことを挙げており、「信頼性の高い情報源」と評価していました。また、デジタルコンテンツの訂正のしやすさに触れ、一度市場に出ると修正できない紙媒体(メディア)への信頼について言及。特に紙の新聞において、「自分の興味・関心を基準としない世の中のトピックの価値を、見出しや記事の大きさから知ることができる」と語っていました。
 総務省の調査によれば、各メディアの信頼性に関するアンケートでは、新聞が61・2%、テレビが53・8%なのに対して、SNSは27・5%と、いずれも報道機関の信頼性が高いことが分かります。情報過多の時代だからこそ、正確な情報を発信する私たちメディアの使命と責任は大きいと、今回の取材を通して改めて感じました。

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