• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈Seikyo Gift〉 全身に影響する「歯周病」対策〈健康PLUS〉 2025年6月28日

昭和医科大学歯学部教授(歯周病学)
山本松男さん

 日本では、約8割の成人が歯周病の何らかの所見が認められています。歯周病の影響は口腔内にとどまらず、全身の健康に悪影響を与えていることも明らかになっています。昭和医科大学歯学部教授で歯周病の指導医である山本松男さんに対策を聞きました。(2025年4月19日付)
 

歯垢の付着が原因

 歯磨きが不十分だと、歯垢(プラーク)が付着してしまいます。歯垢は、粘着性のある沈着物で、1ミリグラム当たり1億個ともいわれる非常に多くの細菌が含まれています。
 プラークが歯に付着し続けると、う蝕(虫歯)の原因となり、歯と歯肉(歯茎)の境目などに付着した状態が続くと、歯周病の原因になります。
 また、歯垢が放置され続けると、石灰化した歯石となり、歯磨きでは除去できなくなり、その凸凹した形状などから、歯垢がさらに付着しやすい状態をつくり出してしまいます。
 

 歯周病は大きく「歯肉炎」と「歯周炎」の二つに分けられます。「歯肉炎」とは、歯肉(歯茎)の炎症で、歯肉が腫れたり、歯磨き時に血がにじんだりするのが主な症状です。
 「歯周炎」は歯肉炎が慢性化して、歯茎に覆われた歯槽骨(顎の骨の一部)にまで炎症が及び、歯槽骨が溶けていく状態です。「歯周炎」が進行すると、ロウソクが溶けるように歯を支える歯槽骨が溶け、歯と歯茎の間の溝(歯周ポケット)がどんどん深くなります。歯がぐらぐらしたり、膿が出たり、重度になると歯が抜けてしまいます。
 歯周病が難敵である理由の一つが、歯茎に多少の違和感があったとしても、強い自覚症状がないことです。
 その結果、放置されがちで、日本人が歯を失う最大の原因となっており、抜歯の約4割を占めている実態があります。
 

血管に侵入する細菌

 歯周病は歯の健康を損なうだけではありません。
 歯茎に付着した細菌(歯周病菌)やその成分が、歯肉の血管内に侵入して運ばれるなどして全身に悪影響を与えています。
 特に強調したいのが糖尿病との関連です。糖尿病は口腔内の炎症を進行させる一方、歯周病の炎症によって細菌成分が血流に入り、糖尿病を悪化させてしまいます。
 歯周病治療によって糖尿病の薬を減らせるほどの影響があります。2008年に日本の糖尿病治療ガイドラインにも明記され、現在では医科から歯科への紹介という医療連携も進んでいます。
 糖尿病との関連だけでなく、歯周病菌が動脈硬化を手助けする可能性があり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まると考えられています。
 その他にも、誤嚥性肺炎、関節炎や腎炎、皮膚疾患との関連も指摘されており、妊婦の方で歯周病が進行すると、子宮収縮を促し、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性もあります。
 

進行度の見分け方

 歯周病の進行度は、歯周ポケットの深さによって判断します。深さが2ミリ以下は正常な状態で、4ミリ未満が軽度の「歯周炎」です。4~6ミリで中等度になり、歯が水平方向に動揺するなどの症状が見られます。
 さらに6ミリ以上の深さになると、重症で歯を失ってしまう可能性が高くなります。
 一方で、歯磨きによって口腔内を清潔に保ち、歯肉炎が治まれば、歯周ポケットが深くなることを抑えられます。しかし、溶けた歯槽骨は元の状態に戻すことができません。
 歯周ポケットが4ミリ以上になると、歯槽骨が溶けていると判断し、歯周治療が必要です。投薬や歯肉を切り開く外科手術で、歯槽骨などを再生する治療の一部が現在、保険適用されています。
 歯科疾患実態調査(22年、厚生労働省)によると、4ミリ以上の歯周ポケットを保持している人の割合は全体の約半数です。
 20代後半~30代前半は約30%で、若いうちから歯周病が始まっていることが明らかになっています。
 

予防・軽減のために

 歯周病を予防したり、軽減させたりする一丁目一番地は何といっても、しっかりと歯を磨くことです。日本でここまで歯周病が多いということは、歯磨きが不十分という証拠でもあります。しっかりと歯を磨いているという方でも、磨き残しがあるかもしれません。
 また、歯磨きには、それぞれの癖があり、それに応じた対策は一様ではありません。歯科衛生士がいる歯科医院を受診し、あなたの歯の状態に合わせた磨き方を教えてもらうことをおすすめします。
 親身になって磨き方を教えてくれない場合は、歯科医院の変更を検討してもいいでしょう。また、定期的に歯科医院を受診し、歯のクリーニング(歯石除去)を行うことも有用です。
 歯周病を治療する際、受診先に迷う場合は、一つの目安として、日本歯周病学会の認定医・歯周病専門医がいる歯科医院を探してみるといいでしょう(https://www.perio.jp/roster/)。
 歯周病対策のための基本的な歯磨きのポイントをお伝えします(下記)。
 

●歯磨きのポイント●
歯と歯茎との境目を磨く

 歯周病予防のためには、歯だけを磨くのでは不十分です。歯垢は歯と歯茎の境目にたまりやすく、ここをしっかり磨きましょう。歯と歯茎の境目にブラシを当てて、小刻みに左右に動かして汚れを落とします(スクラッピング法)。歯1本に対して20回程度、ブラシを左右に動かしましょう。歯間ブラシやフロスで歯と歯の間を磨くことも忘れないでください。
 手を左右に大きく動かして一度に3~5本の歯を磨く「横磨き」は、歯と歯の間や境目の歯垢を十分にかき出すことができないため、避けてください。
 

前歯の裏側は縦に当てる

 前歯の裏側も細菌がたまりやすい場所。ブラシを歯の1本ずつ、歯と歯茎の境目に当てて、かき出すように縦に動かします。
 

奥歯の内側は特に念入りに

 上下の奥歯の内側も歯垢がたまりやすい場所。しっかりと、歯と歯茎の境目にブラシを当てて、スクラッピング法でしっかりと磨きましょう。
 

小さな手鏡を見ながら

 手鏡を持って、境目に当たっていることを確認しながら磨くことをおすすめします。上手に磨けない方は大きめの歯ブラシを使用するといいでしょう。
 

電動歯ブラシの使用も検討

 電動歯ブラシも進化しています。手で細かく磨けない方などは、電動歯ブラシの使用を検討してみてください。1分間に2万回程度、振動するのは手とはけた違いという利点もあります。乾電池式ではない充電式のエントリークラスのものから試すといいでしょう。歯科医院で電動での磨き方を教えてもらうと安心です。
 

 やまもと・まつお 博士(歯学・歯周病学)。日本歯科専門医機構歯周病専門医・指導医。昭和医科大学歯科病院の歯周病科診療科長。東京医科歯科大学(現・東京科学大学)大学院の博士課程修了後、米国アーカンソー州立医科大学内分泌部門・骨粗鬆症センター留学などを経て現職。
 
 
 取り上げてほしいテーマなど、ご意見・ご要望をお寄せください。
dokusha@seikyo-np.jp

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP