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〈インタビュー〉 映画監督・脚本 平一紘さん 映画「木の上の軍隊」 2025年6月12日

  • 6月13日(金)から沖縄先行公開
  • 7月25日(金)全国公開

 まぶしい日差しとともに、じわっとした空気が肌にまとわりついてきた――。5月23日朝、沖縄県の那覇空港に降り立った。太平洋戦争下における沖縄・伊江島での実話を基にした映画「木の上の軍隊」の沖縄完成披露上映会がこの日、那覇市内で行われ、W主演の堤真一さん、山田裕貴さんと、監督・脚本を務めた平一紘さんが登場した。来月の全国公開に先駆け、あす6月13日(金)から同県で先行上映される。

◆あらすじ

 1945年、沖縄本島北部の西側に位置する伊江島では、凄惨な地上戦が繰り広げられていた。米軍の銃弾が飛び交う中、青年兵・安慶名セイジュン(山田)とその上官の山下一雄(堤)は、命からがらガジュマルの木の上に身を潜め、援軍を待つことに。二人は、攻撃がやむ夜中に木を降り、わずかな食料を探し出して命をつないでいく。その後、太平洋戦争は終結するも、そのことを知るすべもない二人の“孤独な戦争”は続いていた……。

©2025「木の上の軍隊」製作委員会
©2025「木の上の軍隊」製作委員会
◆沖縄で終戦を知らずに生き抜いた二人の物語

 ――こまつ座による舞台「木の上の軍隊」が原作です。
 
 生まれ育った地で争いが起こり、「この島には帰れない」と伊江島出身の安慶名が心の内をこぼす。その土地に住んでいた時の感情、価値観が戦争によって壊され、“元に戻ることはない”という彼の叫びに、映像化する意義があると思いました。
 
 本作では、戦中における思想から、日本が負けた戦後の価値観へと変化していく波にものまれない「人間の善意」を描きたかったんです。
 
 戦争というのは、目の前の人を理解しようとする努力を放棄した結果だと思います。壮絶な樹上生活の中で安慶名と山下は、どちらも互いにとっての正しいことを主張し合います。“争いの最小単位”とも言える二人の口げんかの先にあるものは、「相手を知ろうとする心」であると考えて、そこを映画の着地点にしようと思いました。

平一紘監督
平一紘監督

 ――この物語を映画化するに当たり、意識したことはありますか?
 
 井上ひさしさんの原案も舞台版も、反戦のテーマがありながら、時にはユーモラスに描かれていました。「戦争を二度としてはいけない」ことは当たり前だし、「命を大切にしないといけない」のは素直な言葉。ただ、そうした言葉を作品から真っすぐに観客へ突き付けてしまうと“平和な時代”を生きる若い人たちから“心の盾”を出されてしまうはず。過酷を極める環境の下、生きることに必死な山下と安慶名の泥臭い姿をシンプルに描くことで、沖縄戦の歴史を、これまで届かなかった人たちに届けたいと思いました。
 
 ――公開を待つ人へメッセージをお願いします。
 
 本作で、特徴的に出てくるのがアリなんです。アリは何があっても、ひたすらに働き続けます。山下も安慶名も、大きな指導者の下では、たとえ仲間が殺されても戦い続け、“アリ”のように一生懸命に生きようとします。アリの描写が、後半になってどう変化していくかも注目してみてください。
 
 タイトルを見て、堅苦しそうだなと思っている方にこそ、肩の力を抜いて見てほしいです。見終わった後に、心に何か残ったら、僕は沖縄出身の映画監督として役割を一つ果たせたかなと思います。

◆完成披露上映会から

 撮影は、全て沖縄で行われた。山下と安慶名が過ごしたガジュマルの木は、伊江島にある公園に元々移植されていたものなどが使われている。
 
 撮影現場の雰囲気について、山田さんは「みんなで作っている感覚が強く、自分の持ち場だけを守っているのではないという沖縄の人の温かさを感じた」と振り返った。
 
 堤さんは、「沖縄の人は(沖縄戦における旧日本軍の組織的戦闘が終結した)6月になると、戦争というものと向き合われています。本当に見ていただきたいのは、沖縄県外に住む若者や子どもたちです。沖縄で撮ったこの映画を、沖縄の皆さんに力になってもらって、少しでも多くの方に見ていただけたら」と願い、会見を締めくくった。

山下役を務めた堤
山下役を務めた堤
安慶名役を演じた山田
安慶名役を演じた山田
◆プロフィル

 たいら・かずひろ 1989年8月29日生まれ、沖縄県出身。大学在学中に沖縄を拠点にして活動する映画製作チームを立ち上げ、これまで50本以上の自主映画を手がける。2019年に未完成映画予告編大賞を受けて製作した映画「ミラクルシティコザ」(22年)では、監督・脚本として、沖縄市コザの歴史をコミカルに描いた。
 
 【記事・写真】鈴木将大
 
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