「偶然の出会い」「寄り道」が人生を豊かに――作家 「イクサガミ」原作者 書店経営者 今村翔吾さん
「偶然の出会い」「寄り道」が人生を豊かに――作家 「イクサガミ」原作者 書店経営者 今村翔吾さん
2026年5月12日
- 電子版連載「著者に聞いてみよう」
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今村翔吾事務所提供
今村翔吾事務所提供
Amazonや電子コミックが台頭し、街の書店が約25年前に比べて半減しています。直木賞作家で、昨年11月にNetflixで配信され、世界的なヒットを記録したドラマ「イクサガミ」の原作者である今村翔吾さんが3月、新著『書店を守れ!』(祥伝社新書)を発売。書店経営者でもある今村さんに「読書の魅力」などを聞きました。
Amazonや電子コミックが台頭し、街の書店が約25年前に比べて半減しています。直木賞作家で、昨年11月にNetflixで配信され、世界的なヒットを記録したドラマ「イクサガミ」の原作者である今村翔吾さんが3月、新著『書店を守れ!』(祥伝社新書)を発売。書店経営者でもある今村さんに「読書の魅力」などを聞きました。
■帰宅せず全国の書店めぐり
■帰宅せず全国の書店めぐり
――今村さんは著書『塞王の楯』で直木賞を受賞後、日本全国の書店めぐりをされたんですよね。
――今村さんは著書『塞王の楯』で直木賞を受賞後、日本全国の書店めぐりをされたんですよね。
僕の作品を売ってくれた書店員さんたちにお礼を伝えたくて、「僕に来てほしい書店があったら連絡ください。全部、行きます」と告知して、回ったんです。
全国47都道府県の本屋にお邪魔し、どんな業態があるのか、仕入れの仕方などを教わりました。僕は当時、大阪の小さな書店の経営者でもあり、書店業界の厳しさは知っているつもりやったけど、さまざまな現場に身を置き、この目でじかに見ないと分からないことがあった。
うれしい発見は、そんな中でも、各地の書店員さんがファイティングポーズを崩さず、諦めていなかったこと。というのも、減少傾向ですが、やっぱり書店ファンってまだまだ多いんです。改めて、おもろい、不思議な業界やな、って思います。
あの旅でのあまたの出会いが、“もっと書店に深く関われ”と僕の背中を押し、今後の人生を決定づけたのは間違いありません。
僕の作品を売ってくれた書店員さんたちにお礼を伝えたくて、「僕に来てほしい書店があったら連絡ください。全部、行きます」と告知して、回ったんです。
全国47都道府県の本屋にお邪魔し、どんな業態があるのか、仕入れの仕方などを教わりました。僕は当時、大阪の小さな書店の経営者でもあり、書店業界の厳しさは知っているつもりやったけど、さまざまな現場に身を置き、この目でじかに見ないと分からないことがあった。
うれしい発見は、そんな中でも、各地の書店員さんがファイティングポーズを崩さず、諦めていなかったこと。というのも、減少傾向ですが、やっぱり書店ファンってまだまだ多いんです。改めて、おもろい、不思議な業界やな、って思います。
あの旅でのあまたの出会いが、“もっと書店に深く関われ”と僕の背中を押し、今後の人生を決定づけたのは間違いありません。
――書店めぐりは4カ月ほどかかり、一度も帰宅されなかったらしいですね。執筆活動もある中、なぜ、アグレッシブな旅を敢行されたんですか。
――書店めぐりは4カ月ほどかかり、一度も帰宅されなかったらしいですね。執筆活動もある中、なぜ、アグレッシブな旅を敢行されたんですか。
ぶっちゃけ、帰らない方が話題づくりになるから(笑)。「直木賞作家が全国の書店を回っている。本当に街の本屋って大変なんや」と、世の中が認識してくれたらええな、って。
でも、関西エリアの書店を回る際、一度、自宅近くを通過した時、「帰りたい、帰りたい」って車内で騒いでね。近くのホテルに泊まるほど徹底してましたからね。
ぶっちゃけ、帰らない方が話題づくりになるから(笑)。「直木賞作家が全国の書店を回っている。本当に街の本屋って大変なんや」と、世の中が認識してくれたらええな、って。
でも、関西エリアの書店を回る際、一度、自宅近くを通過した時、「帰りたい、帰りたい」って車内で騒いでね。近くのホテルに泊まるほど徹底してましたからね。
今村翔吾さんの新著『書店を守れ!』
今村翔吾さんの新著『書店を守れ!』
■本嫌いが、なぜ読書家に⁉
■本嫌いが、なぜ読書家に⁉
――今村さんは小さい頃、年間100冊以上を読む少年だったそうですね。そんな読書家も、元々は「本嫌い」だったとか……。
――今村さんは小さい頃、年間100冊以上を読む少年だったそうですね。そんな読書家も、元々は「本嫌い」だったとか……。
僕、課題図書が苦手だったんですよ。課題図書って、言い方を変えたら、大人が子どもたちに読ませたい本でしょ。もちろん、良書で読むべき価値があるのは分かるんやけど、当時は押し付けられているように感じちゃって。
でも、幼少期のある日、母に連れられて街の書店に行った際、『真田太平記』が目に留まってね。関西では秀吉が好かれていて、彼の力になった真田幸村が人気なのを子どもながらに知っていたんやと思います。「あれがほしい!」とおねだりして、夏休みの40日間で全巻読了しました。
僕、課題図書が苦手だったんですよ。課題図書って、言い方を変えたら、大人が子どもたちに読ませたい本でしょ。もちろん、良書で読むべき価値があるのは分かるんやけど、当時は押し付けられているように感じちゃって。
でも、幼少期のある日、母に連れられて街の書店に行った際、『真田太平記』が目に留まってね。関西では秀吉が好かれていて、彼の力になった真田幸村が人気なのを子どもながらに知っていたんやと思います。「あれがほしい!」とおねだりして、夏休みの40日間で全巻読了しました。
――子どもたちには「本との出合い方」が大事ということですね。子どものために親ができることって何でしょうか。
――子どもたちには「本との出合い方」が大事ということですね。子どものために親ができることって何でしょうか。
例えば、自宅のリビングに絵本を並べておくのはいいかもしれません。「これ読んだら?」と親は言わず、子どもがいつでも本を手に取れる環境を整えておくことが大事でしょうね。
中には、「読書って、意味あるの?」と疑っている親御さんもいてます。以前、親子の集まりで、「本を読んでいる家の方が、生涯年収が上がる」というデータがあると紹介したら、親たち全員、自分の子どもに本を買い与えていましたね(笑)。
読書って即効性はないんですよ。でも、スマホみたいにすぐ答えが出るものと違って、本は「すぐに答えが出せないもの」と向き合う時間をつくれるんです。その経験が、思考の土台を築き、後々の人生でじわっと効いてくるんやと思います。子どもがスマホを触り始める前に「本って面白い」と思ってもらえるかどうか。一つここを勝負点にして、子どもたちが本を手に取れる機会を増やしていってほしいですね。
例えば、自宅のリビングに絵本を並べておくのはいいかもしれません。「これ読んだら?」と親は言わず、子どもがいつでも本を手に取れる環境を整えておくことが大事でしょうね。
中には、「読書って、意味あるの?」と疑っている親御さんもいてます。以前、親子の集まりで、「本を読んでいる家の方が、生涯年収が上がる」というデータがあると紹介したら、親たち全員、自分の子どもに本を買い与えていましたね(笑)。
読書って即効性はないんですよ。でも、スマホみたいにすぐ答えが出るものと違って、本は「すぐに答えが出せないもの」と向き合う時間をつくれるんです。その経験が、思考の土台を築き、後々の人生でじわっと効いてくるんやと思います。子どもがスマホを触り始める前に「本って面白い」と思ってもらえるかどうか。一つここを勝負点にして、子どもたちが本を手に取れる機会を増やしていってほしいですね。
直木賞受賞作『塞王の楯』
直木賞受賞作『塞王の楯』
■不遇な時代も後に生かされる
■不遇な時代も後に生かされる
――本が好きになってから作家になることが夢になった今村さんですが、お父様の家業であるダンス教室を支えるため、大学卒業後、インストラクターになられます。多忙で満足に読書できなかったそうですが、その期間は“寄り道”しているようにも映ります。
――本が好きになってから作家になることが夢になった今村さんですが、お父様の家業であるダンス教室を支えるため、大学卒業後、インストラクターになられます。多忙で満足に読書できなかったそうですが、その期間は“寄り道”しているようにも映ります。
一見、夢から逸れたように映るダンスインストラクター期間やけど、僕にとってはとても大事な時期でした。
教室に通う子どもたちの家庭環境は、さまざまでした。母親がなかなか帰ってこない夜を過ごしていた子。暴走行為で警察のご厄介になった子……。そうした子どもたちの人生に向き合えた経験は、後の作家人生に生かされました。
作家の宮城谷昌光先生に以前、お会いした際、「なぜ、君の小説は『子どものシーン』から始まることが多いんですか?」と聞かれました。自分では意識していなかったので驚いたのですが、確かに『塞王の楯』も『童の神』も、その通りでした。宮城谷先生に「君の来し方を聞かせてください」と問われ、インストラクター時代の話を伝えたところ、「得心しました」と言われました。
一見、夢から逸れたように映るダンスインストラクター期間やけど、僕にとってはとても大事な時期でした。
教室に通う子どもたちの家庭環境は、さまざまでした。母親がなかなか帰ってこない夜を過ごしていた子。暴走行為で警察のご厄介になった子……。そうした子どもたちの人生に向き合えた経験は、後の作家人生に生かされました。
作家の宮城谷昌光先生に以前、お会いした際、「なぜ、君の小説は『子どものシーン』から始まることが多いんですか?」と聞かれました。自分では意識していなかったので驚いたのですが、確かに『塞王の楯』も『童の神』も、その通りでした。宮城谷先生に「君の来し方を聞かせてください」と問われ、インストラクター時代の話を伝えたところ、「得心しました」と言われました。
――今村さんといえば、直木賞を受賞した際、熱い涙を流したことでも知られています。「30代で直木賞を取る」という約束をダンス教室の生徒たちとしていたそうですね。
――今村さんといえば、直木賞を受賞した際、熱い涙を流したことでも知られています。「30代で直木賞を取る」という約束をダンス教室の生徒たちとしていたそうですね。
あの瞬間はいまだに忘れられへんな。スマホが鳴って受賞を知らされた時、教え子たちの姿が頭の中でブワーってフラッシュバックして、泣けてきたんですよ。お金でも、名誉でもなく、「翔吾君が夢をかなえた!」と子どもたちが言ってくれたのが一番うれしかったですね。
あの瞬間はいまだに忘れられへんな。スマホが鳴って受賞を知らされた時、教え子たちの姿が頭の中でブワーってフラッシュバックして、泣けてきたんですよ。お金でも、名誉でもなく、「翔吾君が夢をかなえた!」と子どもたちが言ってくれたのが一番うれしかったですね。
『イクサガミ』など今村さんの作品
『イクサガミ』など今村さんの作品
■龍馬を描き、司馬遼太郎に挑戦
■龍馬を描き、司馬遼太郎に挑戦
――今村さんは今42歳で、45歳から司馬遼太郎の『竜馬がゆく』に挑むため、坂本龍馬の小説を書くと宣言されました。先日も龍馬ゆかりの長崎へ取材に行かれたとか。“司馬・竜馬”と“今村・龍馬”。どう違いを見せていきますか。
――今村さんは今42歳で、45歳から司馬遼太郎の『竜馬がゆく』に挑むため、坂本龍馬の小説を書くと宣言されました。先日も龍馬ゆかりの長崎へ取材に行かれたとか。“司馬・竜馬”と“今村・龍馬”。どう違いを見せていきますか。
夢、希望を抱き、昭和という時代から長年愛されてきた、司馬さんが描く竜馬。僕は、そんな彼をダークに書くつもりはないし、むしろ、自分が描く龍馬と司馬・竜馬は、限りなく似ていると思う。でも、向いている方向が違っていて、司馬・竜馬は空を向いていて、今村・龍馬は地面を見ているような気がします。
どちらかというと竜馬は、未来へ未来へというダイナミックな人物像がイメージされがちやけど、僕は“土の味”を知っている龍馬を描きたい。だから作品には、名もなき庶民、百姓が多く出てくるんじゃないかな。
夢、希望を抱き、昭和という時代から長年愛されてきた、司馬さんが描く竜馬。僕は、そんな彼をダークに書くつもりはないし、むしろ、自分が描く龍馬と司馬・竜馬は、限りなく似ていると思う。でも、向いている方向が違っていて、司馬・竜馬は空を向いていて、今村・龍馬は地面を見ているような気がします。
どちらかというと竜馬は、未来へ未来へというダイナミックな人物像がイメージされがちやけど、僕は“土の味”を知っている龍馬を描きたい。だから作品には、名もなき庶民、百姓が多く出てくるんじゃないかな。
――「土の味」って、いい表現です。どうして、泥臭い龍馬を描こうと思ったんですか。
――「土の味」って、いい表現です。どうして、泥臭い龍馬を描こうと思ったんですか。
全国の書店を回った時の経験が大きいんじゃないかな。田舎の山道を車で走っていて、ふと窓の外を見ると、くわを背負ったおばあちゃんが、ぽつんと一人で立っていました。
その姿を見て、“ああ、この人にはこの人の時間と重さがあるんやろうな”と、しみじみ思ったんです。畑を耕して、野菜を育てて、今日を生きていく。その営み自体で一つの世界が完結しているように感じて。
その時、“龍馬があのおばあちゃんを見たら、何を思うんやろな”と思ったんです。もしかしたら、「自分は未来を案じ、世の中を動かしているつもりでいたが、実は一人一人の暮らしをかき回しているだけなんじゃないか」と、立ち止まることもあるんじゃないか。
薩長同盟のような大きな出来事も大事やけど、そういう庶民の生活に目を向けた時に見えてくる龍馬もいると思うんです。
若い世代をはじめ、多くの人に「本っておもろいな」と思ってもらえるよう、これからも僕なりにチャレンジしていきます。
全国の書店を回った時の経験が大きいんじゃないかな。田舎の山道を車で走っていて、ふと窓の外を見ると、くわを背負ったおばあちゃんが、ぽつんと一人で立っていました。
その姿を見て、“ああ、この人にはこの人の時間と重さがあるんやろうな”と、しみじみ思ったんです。畑を耕して、野菜を育てて、今日を生きていく。その営み自体で一つの世界が完結しているように感じて。
その時、“龍馬があのおばあちゃんを見たら、何を思うんやろな”と思ったんです。もしかしたら、「自分は未来を案じ、世の中を動かしているつもりでいたが、実は一人一人の暮らしをかき回しているだけなんじゃないか」と、立ち止まることもあるんじゃないか。
薩長同盟のような大きな出来事も大事やけど、そういう庶民の生活に目を向けた時に見えてくる龍馬もいると思うんです。
若い世代をはじめ、多くの人に「本っておもろいな」と思ってもらえるよう、これからも僕なりにチャレンジしていきます。
〈プロフィル〉
いまむら・しょうご 1984年、京都府生まれ。関西大学文学部卒業。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、2017年、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。16年に「九州さが大衆文学賞」大賞・笹沢左保賞、18年に「童神」(刊行時に『童の神』に改題)で「角川春樹小説賞」、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で「歴史時代作家クラブ賞」文庫書き下ろし新人賞、20年に『八本目の槍』で「吉川英治文学新人賞」、『じんかん』で「山田風太郎賞」、22年に『塞王の楯』で「直木賞」を受賞。25年に『イクサガミ』がNetflixにてドラマ化、26年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』がTVアニメ化された。
〈プロフィル〉
いまむら・しょうご 1984年、京都府生まれ。関西大学文学部卒業。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、2017年、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。16年に「九州さが大衆文学賞」大賞・笹沢左保賞、18年に「童神」(刊行時に『童の神』に改題)で「角川春樹小説賞」、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で「歴史時代作家クラブ賞」文庫書き下ろし新人賞、20年に『八本目の槍』で「吉川英治文学新人賞」、『じんかん』で「山田風太郎賞」、22年に『塞王の楯』で「直木賞」を受賞。25年に『イクサガミ』がNetflixにてドラマ化、26年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』がTVアニメ化された。
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想はこちらからお寄せください。
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