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〈1928―2023 池田先生の足跡〉 ガンジー研究の第一人者に聞く ニーラカンタ・ラダクリシュナン博士(インド・ガンジー研究評議会議長) 2025年11月19日

 ガンジー研究の第一人者であるインド・ガンジー研究評議会議長のニーラカンタ・ラダクリシュナン博士は、池田大作先生と出会いを重ね、平和な未来を見つめて語らいを交わしてきた。
 
 今回、先生の逝去後として初となるインタビューを行った。長年、池田思想を探究し、世界へ発信してきた博士に、先生への思いや、創価の運動に寄せる期待などを聞いた。(聞き手=豊泉健太)

弟子の歩みを人類の宿命転換の因に
今こそ「不可能を可能にする」挑戦を

 ――博士はかつて池田先生のことを“生きたガンジー”と言われました。先生の逝去から2年がたった今の率直な思いをお聞かせください。
 
 ガンジーは銃弾によって命を奪われました。暗殺者は「これでガンジーはいなくなった」と思ったことでしょう。しかし、実際は違いました。
 
 ガンジーが亡くなった後、弟子たちによって彼の精神は受け継がれ、さらに強くなって人類史に大きな影響を与えていきました。
 
 池田先生の逝去についても同じことが言えるのではないでしょうか。
 
 世界各地には、池田思想に関する研究所や機関が多くあります。各国の識者や指導者も先生の精神を学んでいます。創価学会の方々はもちろんのこと、学会員ではない人たちが真剣に先生のことを研究しているのです。
 
 先生が放ってきた偉大な光は、崩れざる灯台として、これからも未来を照らし続けていくでしょう。池田思想は今まで以上に人類史に大きな影響を及ぼしていくことになると思います。先生がおられなくなってしまったとは全く思っていません。

平和への“青写真”

 ――博士は何度も池田先生と出会いを刻まれています。その思い出を聞かせてください。
 
 1984年に日本の創価大学で行われた国際セミナーに参加するために来日した際、初めて先生とお会いしました。
 
 一介の若き研究者である私に、手を合わせて「ナマステ」とあいさつされ、誠実を尽くして接してくださいました。
 
 先生の振る舞いや言葉を通して、この人こそ現代においてガンジーの精神を体現している方だと確信しました。人類の未来を決する人であると。
 
 長年、ガンジー研究をしてきた私にとって、新たな扉が開かれた瞬間でした。
 
 その後、多くの出会いを結びましたが、とりわけ心に残っているのは93年の長野・軽井沢での会見です。

 世界平和へどう行動するべきかなど、さまざまな考えを共有しました。
 
 戦争がいかに悪であるかも話題に上りました。戦争は一部の指導者によって引き起こされ、最も苦しむのは庶民にほかならないと。だからこそ、暴力に突き進む指導者たちの思想を変えなければならないと先生は訴えられたのです。
 
 平和のために大きな視野で物事を見つめられていると同時に、全ては人間の心の変革から始まるとの信念をもっておられました。
 
 席上、先生は一枚の原稿用紙を手に取り、私に尋ねました。「博士、私が何を書いたか、お分かりになりますか」
 
 その用紙にはこう記されていました。
 
 「平和ほど、尊きものはない。平和ほど、幸福なものはない。平和こそ、人類の進むべき、根本の第一歩であらねばならない」――それは、会見したその日に先生が書き始めた小説『新・人間革命』の一枚目の原稿だったのです。
 
 私は、小説『人間革命』『新・人間革命』は、“人類の平和の青写真”であると捉えています。
 
 私たちが平和を享受するための遠大な構想がつづられているからです。

ラダクリシュナン博士を歓迎する池田先生。「広島原爆の日」であったこの日の朝、先生は不戦への誓いを込めて小説『新・人間革命』を起稿した(1993年8月6日、長野研修道場で)
ラダクリシュナン博士を歓迎する池田先生。「広島原爆の日」であったこの日の朝、先生は不戦への誓いを込めて小説『新・人間革命』を起稿した(1993年8月6日、長野研修道場で)

 平和を希求する人はもちろん、戦争へ進む指導者へのメッセージとしても書かれたものだと思っています。
 
 未来において、小説『人間革命』『新・人間革命』は、多くの古典と並ぶ書となっていくでしょう。
 
 そして、池田先生の平和への貢献が一層高く評価される時が必ず来ます。先生は私たちがどのように生きていくべきかを指し示してくれる存在です。
 
 私の理解している「人間革命の哲学」とは、一人の人間が使命を自覚することでもあると思っています。
 
 多くの若者は自らの使命を自覚していません。使命を自覚した時に大きなエネルギーが生まれ、価値の創造を成し遂げることができるのです。

ラダクリシュナン博士と池田先生の対談集『人道の世紀へ』
ラダクリシュナン博士と池田先生の対談集『人道の世紀へ』
英知と慈悲を未来永遠に

 ――2002年、博士は「池田価値創造センター」を設立されました。不確実性の高い世界の中で、私たちはガンジーの非暴力の精神、池田先生の平和思想をいかにして受け継ぐべきでしょうか。また、創価の哲学は社会にどのような価値を提供できますか。
 
 池田先生は、人権のために戦い抜いたマハトマ・ガンジー、マーチン・ルーサー・キングと並んで、社会に変革をもたらす人であり、人類に新たな光を届けてくれる人です。
 
 彼らの生涯と思想は、人類にとって究極的な希望です。そのことを広く発信するためにセンターをつくりました。

インド・ケララ州にある「池田価値創造センター」。開所は2002年の池田先生の誕生日である1月2日。博士は語った。「世界中に生命の尊さのメッセージを伝える連帯を築いていかなければなりません。私たちが目指すのは、人間の生命の価値、理想の価値、思想の価値、希望の価値の宣揚に努める人々の連帯であります」(2002年1月2日)
インド・ケララ州にある「池田価値創造センター」。開所は2002年の池田先生の誕生日である1月2日。博士は語った。「世界中に生命の尊さのメッセージを伝える連帯を築いていかなければなりません。私たちが目指すのは、人間の生命の価値、理想の価値、思想の価値、希望の価値の宣揚に努める人々の連帯であります」(2002年1月2日)

 私は、これまで、ガンジーについて研究を重ねてきました。池田先生と出会ってから本当に多くのことを学び、先生についての本も、これまで20冊近く書いてきました。
 
 しかし、まだまだこれからです。残りの人生で、池田価値創造センターで池田思想の研究にさらに時間を費やしていきたい。
 
 私が得た知識や経験を、子どもや青年、女性たちに伝えていきたい。私には、やるべきことがまだたくさんあります。
 
 人類史の流れの根底には常に、誠実さや愛情などの「人間性」がありました。
 
 良き「人間性」は、人と人の緊密な交流の中でしか受け継いでいくことはできない。そのための重要な役割を果たしているのが「師弟」であると思います。池田先生は現代において師弟の概念を復興させました。
 
 ガンジーの非暴力・不服従の精神は、今も私たちの心の中に厳然と脈打っています。
 
 混迷の時代にあって、池田先生の平和思想もまた、師弟の道を歩む中で、私たちの心の中で深化されていくものであると思います。
 
 世界中でSGI(創価学会インタナショナル)のメンバーが師弟を根本とした民衆運動に連なっています。
 
 SGIでは、立場に関係なく多様な人々が共に活動しています。これ自体、驚くべきことです。
 
 これまでお会いしてきたSGIメンバーの中には、それぞれの場所で社会的なインパクトを与える方が多くいました。
 
 その原動力は一人一人の内面から出てくるものでありましょう。彼らと出会い、一人が変革をもたらすことができることを教わりました。それはつまり、人間の偉大さの証明に違いありません。
 
 私は、いつも3冊の本を持ち歩いています。その中の一冊が池田先生の『若き日の日記』(英語版)です。
 
 世界を旅して回ったり、悩みに直面したりする時にこの書を繙き、先生の青年時代の闘争に大きな勇気をもらっています。
 
 池田先生の著作は、私にとって英知と知識の宝庫なのです。
 
 先生は、平和・文化・教育の機関を多く設立されました。世界中にSGIの会館もあります。そして、多くの弟子がいます。先生亡き後も弟子の皆さんが人類の宿命転換への大きな因を常につくっているのです。
 
 彼らを通して、未来永遠にわたって先生の英知と慈悲が世界を包んでいくことを信じます。

揺るぎなき師への確信を

 ――今、世界中で創価の青年たちが師弟の道を力強く歩んでいます。SGIの発展の様子をどう感じていますか。
 
 インド創価学会(BSG)の同志の皆さんと交流を重ねる中で、私を信頼してくださり、BSGの名誉会長を仰せつかりました。
 
 身近にBSGの発展を見てきて、感銘を受けることがあります。
 
 それは、たとえ師匠に直接会ったことがなくても、師の生き方に続こうとする青年が多くいるということです。
 
 また、女性のリーダーが育まれていることも注目してきました。
 
 師弟の精神を学ぶということは、単なる机上の学習ではなく、自他共の幸福を目指す日々の実践の中で会得するものです。
 
 BSGをはじめ、全世界のSGIの歩みは、人類にとって大変に貴重な運動であり、より良き社会構築のための大きな原動力にもなっています。社会に貢献する人材も輩出され続けています。
 
 戦争のない世界を築くために池田先生が一貫して訴えたことは、若い世代が価値を創造していくことであったと感じています。
 
 正義が栄え、差別がない社会を青年たちの手で創り上げることを期待されたのです。

創大生に講演するラダクリシュナン博士。「徹底して学び抜き、勇気とリーダーシップを備えた創価教育を体現する一人一人に」と若き友に期待を寄せた(本年9月、東京・八王子市の創価大学で)
創大生に講演するラダクリシュナン博士。「徹底して学び抜き、勇気とリーダーシップを備えた創価教育を体現する一人一人に」と若き友に期待を寄せた(本年9月、東京・八王子市の創価大学で)

 世界中には今も争いがまん延しています。権力者たちは自国の力を誇示しています。
 
 エゴイズムがはびこる中で先生は、精神性、価値観、道徳性、宗教性の要素が重要であることを教えられました。
 
 これらは、持続可能な世界を実現するためにも大切な点なのです。
 
 互いの存在を尊敬し合い、文化の多様性を認め、宗教の多元性を尊重する。ジェンダーに対する理解を広げていく。
 
 生い立ちなどで人を判断するのではなく、その人自身の人間性が大切であることも教えてくださっています。
 
 そして、「確信」「勇気」「自信」をもった上で、何があっても諦めないことを、先生は生涯を通して私たちに示してくれました。
 
 社会が困難にぶつかり、皆で壁を越えようとする時、“はしご”が必要です。
 
 先生はそのはしごを、対話や教育、文化という方法を使っていろいろな角度でかけてくださいました。
 
 また私は、聖教新聞社の客員論説委員を務めたことがあります。
 
 これからの時代、池田先生の平和思想を世界に発信していく聖教新聞の使命は、より一層増していくと思います。
 
 ガンジーも、かつては新聞記者でした。新聞を通してペンの力で若い世代へ自身の非暴力の思想を訴え抜きました。
 
 今回のインタビューの最後に、未来を担う全世界の創価の青年の皆さんに伝えたいことがあります。
 
 池田先生の思想と行動に対して、揺るぎなき確信をもってください。
 
 そして、世界平和を実現するために、今こそ先生が貫いた「不可能を可能にする」挑戦を繰り広げていこうではありませんか。

ラダクリシュナン博士ら識者が著した新刊『ブッダの声と共に歩む――ラダクリシュナン博士と池田大作博士の交流に関する考察』
ラダクリシュナン博士ら識者が著した新刊『ブッダの声と共に歩む――ラダクリシュナン博士と池田大作博士の交流に関する考察』

 ニーラカンタ・ラダクリシュナン 1944年、インド・ケララ州生まれ。アンナマライ大学で博士号取得。ガンジーの高弟であったG・ラマチャンドラン氏に師事し、ガンジーの孫弟子に当たる。ガンジー研究の第一人者である。83年にG・ラマチャンドラン非暴力会議、84年に開発教育ナショナル・センターを創設。90年から2001年まで国立ガンジー記念館館長を務める。08年にはラジブ・ガンジー賞を受賞した。

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