スマホの時代こそ、五感で料理を――自炊料理家・山口祐加さん
スマホの時代こそ、五感で料理を――自炊料理家・山口祐加さん
2026年3月16日
- 電子版連載「著者に聞いてみよう」
- 電子版連載「著者に聞いてみよう」
スマートフォン一つで食事を注文できる時代。暮らしは、どんどん便利になりました。それでも、「自分が何をしたいのか分からない」「何となく満たされない」と感じる人は少なくありません。自炊料理家の山口祐加さんは、そんな時代だからこそ、「料理は自分の感覚を取り戻す練習になる」と語ります。著書『自炊の風景』(NHK出版)、『世界自炊紀行』(晶文社)などでは、料理を通して暮らしや自分自身を見つめ直すヒントを伝えています。
スマートフォン一つで食事を注文できる時代。暮らしは、どんどん便利になりました。それでも、「自分が何をしたいのか分からない」「何となく満たされない」と感じる人は少なくありません。自炊料理家の山口祐加さんは、そんな時代だからこそ、「料理は自分の感覚を取り戻す練習になる」と語ります。著書『自炊の風景』(NHK出版)、『世界自炊紀行』(晶文社)などでは、料理を通して暮らしや自分自身を見つめ直すヒントを伝えています。
■「今日、私は何が食べたい?」
■「今日、私は何が食べたい?」
――最近、若い人の話を聞いていると、「やりたいことが分からない」という言葉を聞くことがあります。便利な時代なのに、どこか満たされない感じがあるというか。
そういう感覚は、あるかもしれませんね。便利になった分、自分で考えなくても生活できる部分が増えている気がします。
SNSでもお店でも、「おすすめ」が出てきますよね。それは便利なんですけど、ずっとそれに乗っかっていると、自分は何が好きなのかが分からなくなることもあると思うんです。
――山口さんの著書には、毎朝「今日、私は何が食べたい?」と自分に聞くと書いてありますね。
「夜ご飯、何食べたい」って、家族に聞く人は多いと思うんですけど、それと同じことを自分にしているだけなんです。
今日はシリアルにしようかな、昨日のご飯を温めようかな、とか。
2択か3択くらい用意して、「どれがいい?」って自分に聞いています。だって、食べたいものが食べられたらうれしいじゃないですか。
――たしかに(笑)。でも、そうした「自分の声」を聞く感覚って、できそうで、なかなかできないかも。山口さんは、なぜできるんですか?
何ででしょうね。幼い頃からこんな感じだったと思います。
もしかしたら、自分の声を押し殺して生きている人は、「世間がこうだから」という意識を強く持っているからなのかもしれません。
逆に、私はあまり考えないんです。だって“世間っていう人”を知らないので。
自分の好きなものを作って食べられるって、すごくすてきだし、健やかじゃないですか。私は今の時代、心と体が健やかであることが、一番価値があると思っているんです。
――最近、若い人の話を聞いていると、「やりたいことが分からない」という言葉を聞くことがあります。便利な時代なのに、どこか満たされない感じがあるというか。
そういう感覚は、あるかもしれませんね。便利になった分、自分で考えなくても生活できる部分が増えている気がします。
SNSでもお店でも、「おすすめ」が出てきますよね。それは便利なんですけど、ずっとそれに乗っかっていると、自分は何が好きなのかが分からなくなることもあると思うんです。
――山口さんの著書には、毎朝「今日、私は何が食べたい?」と自分に聞くと書いてありますね。
「夜ご飯、何食べたい」って、家族に聞く人は多いと思うんですけど、それと同じことを自分にしているだけなんです。
今日はシリアルにしようかな、昨日のご飯を温めようかな、とか。
2択か3択くらい用意して、「どれがいい?」って自分に聞いています。だって、食べたいものが食べられたらうれしいじゃないですか。
――たしかに(笑)。でも、そうした「自分の声」を聞く感覚って、できそうで、なかなかできないかも。山口さんは、なぜできるんですか?
何ででしょうね。幼い頃からこんな感じだったと思います。
もしかしたら、自分の声を押し殺して生きている人は、「世間がこうだから」という意識を強く持っているからなのかもしれません。
逆に、私はあまり考えないんです。だって“世間っていう人”を知らないので。
自分の好きなものを作って食べられるって、すごくすてきだし、健やかじゃないですか。私は今の時代、心と体が健やかであることが、一番価値があると思っているんです。
山口さんのある日の夕食。牡蠣飯と豚汁
山口さんのある日の夕食。牡蠣飯と豚汁
■茹で上がったブロッコリーが気持ち良さそう
■茹で上がったブロッコリーが気持ち良さそう
――著書には、「野菜をトントンと薄切りしていく小気味よさ、鍋の中で玉ねぎを炒めたときの香り、仕上げに入れたバターがゆっくり溶けていく」といった描写が出てきます。料理が五感の営みだと改めて感じました。
そういった五感からの刺激は、料理をしている人だけの特権ですよね。
切ったオクラの断面がきれいだなとか、茹でたブロッコリーが、ほかほかに茹で上がって気持ちよさそうとか――そんなものを感じると、心の真ん中が素直に喜んでいる実感があります。
普段の生活って、スマホの画面を見ている時間が多いじゃないですか。目と頭ばかり使っている感じですよね。でも、料理をしていると、体の感覚を全部使うことになるんです。
料理って、出来上がったものだけがゴールだと思われがちなんですけど、作っている時間そのものが豊かなんですよ。
――なるほど。一方で、料理に対してハードルが高いと思っている人もいます。
手芸とか、いろいろな創作活動も、もちろんすてきだと思うんですけど、例えば私、絵が苦手なんです。「リンゴの絵を描いてください」と言われただけで、ちょっとプレッシャーを感じるんですよ。“上手に描けないな”って。
料理を「やらなきゃいけない」と思っている人は、たぶん、そういう気持ちなんだと思います。
料理に関する発信は、どうしても、「どうしたらよりおいしくなるか」に偏ってしまいがちです。
炒め物はシャキシャキの方がいいし、チャーハンはパラパラの方がいい。その方が大多数の人がおいしいと感じるのは間違いない。
けれど、しなしなの炒め物も、ご飯粒がうまく離れないチャーハンも自炊ならではの風情があり、愛嬌がある料理です。そして、それらはどこにも売っていません。
――著書には、「野菜をトントンと薄切りしていく小気味よさ、鍋の中で玉ねぎを炒めたときの香り、仕上げに入れたバターがゆっくり溶けていく」といった描写が出てきます。料理が五感の営みだと改めて感じました。
そういった五感からの刺激は、料理をしている人だけの特権ですよね。
切ったオクラの断面がきれいだなとか、茹でたブロッコリーが、ほかほかに茹で上がって気持ちよさそうとか――そんなものを感じると、心の真ん中が素直に喜んでいる実感があります。
普段の生活って、スマホの画面を見ている時間が多いじゃないですか。目と頭ばかり使っている感じですよね。でも、料理をしていると、体の感覚を全部使うことになるんです。
料理って、出来上がったものだけがゴールだと思われがちなんですけど、作っている時間そのものが豊かなんですよ。
――なるほど。一方で、料理に対してハードルが高いと思っている人もいます。
手芸とか、いろいろな創作活動も、もちろんすてきだと思うんですけど、例えば私、絵が苦手なんです。「リンゴの絵を描いてください」と言われただけで、ちょっとプレッシャーを感じるんですよ。“上手に描けないな”って。
料理を「やらなきゃいけない」と思っている人は、たぶん、そういう気持ちなんだと思います。
料理に関する発信は、どうしても、「どうしたらよりおいしくなるか」に偏ってしまいがちです。
炒め物はシャキシャキの方がいいし、チャーハンはパラパラの方がいい。その方が大多数の人がおいしいと感じるのは間違いない。
けれど、しなしなの炒め物も、ご飯粒がうまく離れないチャーハンも自炊ならではの風情があり、愛嬌がある料理です。そして、それらはどこにも売っていません。
山口さんの新著『自炊の風景』
山口さんの新著『自炊の風景』
――山口さんは「料理は、そのままでは食べられないものを食べられるようにすることだ」とも述べていますね。
お刺し身にしょうゆをかけるのも料理です、とか。
――そうです! しょうゆやわさびなどの調味料で味をつけることも料理だ、と。その言葉に衝撃を受けたというか、何だか気が楽になりました。
私はまず、「食べられるもの」が作れていたらいいと思っています。「おいしい」に絶対の正解はありません。人によって好きな味は違いますから。気負わず、おのおのに合ったやり方で、その人なりの料理ができたらいいですよね。
――山口さんは「料理は、そのままでは食べられないものを食べられるようにすることだ」とも述べていますね。
お刺し身にしょうゆをかけるのも料理です、とか。
――そうです! しょうゆやわさびなどの調味料で味をつけることも料理だ、と。その言葉に衝撃を受けたというか、何だか気が楽になりました。
私はまず、「食べられるもの」が作れていたらいいと思っています。「おいしい」に絶対の正解はありません。人によって好きな味は違いますから。気負わず、おのおのに合ったやり方で、その人なりの料理ができたらいいですよね。
■各国の台所を訪ねて
■各国の台所を訪ねて
――『世界自炊紀行』では、各国の家庭の台所を訪ねています。実際に見て、日本の自炊との違いは感じましたか。
すごく感じました。例えば、スペインのおばあちゃん・ナティさんの家に行った時、一週間で作る料理が5、6品くらいだったんです。
それを二日続けて食べたり、次の週もまた同じ料理を出したりしている。でも、家族は全然困っていないんです。むしろ、「これ好きなんだよね」と言いながら食べていて、食卓では料理の種類より、家族で話す時間の方が大事にされていました。
――『世界自炊紀行』では、各国の家庭の台所を訪ねています。実際に見て、日本の自炊との違いは感じましたか。
すごく感じました。例えば、スペインのおばあちゃん・ナティさんの家に行った時、一週間で作る料理が5、6品くらいだったんです。
それを二日続けて食べたり、次の週もまた同じ料理を出したりしている。でも、家族は全然困っていないんです。むしろ、「これ好きなんだよね」と言いながら食べていて、食卓では料理の種類より、家族で話す時間の方が大事にされていました。
山口さんの著書『世界自炊紀行』
山口さんの著書『世界自炊紀行』
――料理の種類の多さが愛情、という感じではない?
日本だと、毎日違う料理を作らなきゃとか、品数を増やさなきゃとか、そういうプレッシャーを感じている人が多いと思います。
でも、世界を見ていると、そこまで頑張っている家庭はむしろ少ない。知っている料理を繰り返し食べて、満足しているんです。その方が生活として、自然に回っている感じもありました。
世界を取材して感じたのは、「自分たちは何を食べると安心するのか」を、それぞれが分かっている食卓が多いということでした。
「今日は何が食べたい?」と、自分に聞いてみる。その答えが昨日と同じ料理でもいいんです。自分が食べたいと思って選んだものなら、それで十分です。
――料理の種類の多さが愛情、という感じではない?
日本だと、毎日違う料理を作らなきゃとか、品数を増やさなきゃとか、そういうプレッシャーを感じている人が多いと思います。
でも、世界を見ていると、そこまで頑張っている家庭はむしろ少ない。知っている料理を繰り返し食べて、満足しているんです。その方が生活として、自然に回っている感じもありました。
世界を取材して感じたのは、「自分たちは何を食べると安心するのか」を、それぞれが分かっている食卓が多いということでした。
「今日は何が食べたい?」と、自分に聞いてみる。その答えが昨日と同じ料理でもいいんです。自分が食べたいと思って選んだものなら、それで十分です。
スペインのナティさんが、パエリアを作るためにパプリカをすりおろす
スペインのナティさんが、パエリアを作るためにパプリカをすりおろす
完成したパエリア。貝のだしがたっぷり
完成したパエリア。貝のだしがたっぷり
スペイン訪問時の一枚。ナティさんらと写真に納まる山口さん(左端)
スペイン訪問時の一枚。ナティさんらと写真に納まる山口さん(左端)
【プロフィル】
やまぐち・ゆか 1992年生まれ、東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳から料理に親しみ、料理の楽しさを広げるために料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や小学生向けの「オンライン子ども自炊レッスン」、レシピ・エッセイの執筆、ポッドキャスト番組「聞くだけでごはんができるラジオ」など多岐にわたり活動中。著書に『世界自炊紀行』『軽めし今日はなんだか軽く食べたい気分』、共著に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(星野概念)、『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』(佐々木典士)など多数。
【プロフィル】
やまぐち・ゆか 1992年生まれ、東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳から料理に親しみ、料理の楽しさを広げるために料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や小学生向けの「オンライン子ども自炊レッスン」、レシピ・エッセイの執筆、ポッドキャスト番組「聞くだけでごはんができるラジオ」など多岐にわたり活動中。著書に『世界自炊紀行』『軽めし今日はなんだか軽く食べたい気分』、共著に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(星野概念)、『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』(佐々木典士)など多数。
精神科医・星野概念さんとの共著『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』
精神科医・星野概念さんとの共著『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』
※料理とスペインの写真は本人提供
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想はこちらにお寄せください。
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