【特集】不登校を考える――現役世代ルポ それぞれの歩幅で自分らしく輝く
【特集】不登校を考える――現役世代ルポ それぞれの歩幅で自分らしく輝く
2026年8月27日
- #04 不登校の娘たちと共に
- #04 不登校の娘たちと共に
社会で生きる力を育む
社会で生きる力を育む
「今日、笑ってくれたら、それでいい」
「今日、笑ってくれたら、それでいい」
黒葛原亜希子さん(44)=兵庫県姫路市、地区女性部長=と圭さん(45)=常勝長(ブロック長)=夫妻には2人の娘がいます。
今春、通信制高校を卒業した次女・良美さん(18)=女性部員=は、小学校入学直後から中学校卒業まで不登校を経験。3歳上の長女・美友さん(21)=華陽リーダー=も、小学5年から学校に行かない日が続きました。
“普通に学校へ通ってほしい。でも親として、どうしてあげることがいいのか”。焦りや迷い、もどかしさ。時に涙を拭いながらも、黒葛原さんは娘たちと向き合い続けました。
悩み祈り抜く中、やがて黒葛原さんの視点が変わっていきます。わが子を信じ、娘たちそれぞれの歩幅で、自分たちらしく輝ける道を歩んできた――家族の軌跡をたどります。
黒葛原亜希子さん(44)=兵庫県姫路市、地区女性部長=と圭さん(45)=常勝長(ブロック長)=夫妻には2人の娘がいます。
今春、通信制高校を卒業した次女・良美さん(18)=女性部員=は、小学校入学直後から中学校卒業まで不登校を経験。3歳上の長女・美友さん(21)=華陽リーダー=も、小学5年から学校に行かない日が続きました。
“普通に学校へ通ってほしい。でも親として、どうしてあげることがいいのか”。焦りや迷い、もどかしさ。時に涙を拭いながらも、黒葛原さんは娘たちと向き合い続けました。
悩み祈り抜く中、やがて黒葛原さんの視点が変わっていきます。わが子を信じ、娘たちそれぞれの歩幅で、自分たちらしく輝ける道を歩んできた――家族の軌跡をたどります。
左から夫・圭さん、黒葛原さん、長女・美友さんと次女・良美さん
左から夫・圭さん、黒葛原さん、長女・美友さんと次女・良美さん
■行かない理由も違う
■行かない理由も違う
「学校行きたくない」
黒葛原亜希子さん(44)=兵庫県姫路市、地区女性部長=がその言葉を聞いたのは、次女・良美さん(18)=女性部員=が小学校に入学してすぐのことだった。幼稚園には元気に通っていただけに、「新しい環境に慣れれば、そのうち大丈夫」と楽観していた。
だが良美さんにとって、家族と離れることや集団の中で周囲に合わせて行動することは、人一倍、大きな不安を伴った。黒葛原さんが付き添い登校し、しばらく良美さんと共に教室で授業を受けたが、一人で登校する兆しは見えない。
“どうしよう……”。募る焦りと不安。次年度を迎えると、今度は小学5年になった長女・美友さん(21)=華陽リーダー=にも異変が現れた。ある日、朝食を口にせず、登校直前になってもトイレから出てこない。何とか出てきて玄関で靴を履くものの、ランドセルを背負って立ち尽くしたまま。「どうしたん?」と聞いても、言葉は返ってこなかった。
翌日、黒葛原さんが美友さんを連れて教室へ行くと、「誰も娘に見向きもしない異様な空気」を感じた。
「今日は帰ろうか」
いじめを受けていたことを美友さんが打ち明けてくれたのは、それから数カ月後のことだった。
「学校行きたくない」
黒葛原亜希子さん(44)=兵庫県姫路市、地区女性部長=がその言葉を聞いたのは、次女・良美さん(18)=女性部員=が小学校に入学してすぐのことだった。幼稚園には元気に通っていただけに、「新しい環境に慣れれば、そのうち大丈夫」と楽観していた。
だが良美さんにとって、家族と離れることや集団の中で周囲に合わせて行動することは、人一倍、大きな不安を伴った。黒葛原さんが付き添い登校し、しばらく良美さんと共に教室で授業を受けたが、一人で登校する兆しは見えない。
“どうしよう……”。募る焦りと不安。次年度を迎えると、今度は小学5年になった長女・美友さん(21)=華陽リーダー=にも異変が現れた。ある日、朝食を口にせず、登校直前になってもトイレから出てこない。何とか出てきて玄関で靴を履くものの、ランドセルを背負って立ち尽くしたまま。「どうしたん?」と聞いても、言葉は返ってこなかった。
翌日、黒葛原さんが美友さんを連れて教室へ行くと、「誰も娘に見向きもしない異様な空気」を感じた。
「今日は帰ろうか」
いじめを受けていたことを美友さんが打ち明けてくれたのは、それから数カ月後のことだった。
■目指すものを変えた
■目指すものを変えた
一日中、2人の娘と過ごす日々は、「ママ友さんたちと言うところの“地獄の夏休み”が永遠にある感じ」。穏やかな気持ちばかりではいられなかった。
平日の日中に娘たちと外出すると、人目を感じる。ランドセルを背負う子を見るのがつらくて、買い物に行くのは登下校の時間帯を避けた。
沈みゆく心を支えたのは、池田先生の『希望対話』の言葉だった。
「君が自分で自分を、だめだと思っても、私はそうは思わない。あなたが自分で自分を見捨ててしまっても、私は見捨てない」
黒葛原さんは、自らに言い聞かせるように祈った。“私も、娘たちを信じ抜ける人でありたい”
夫・圭さん(45)=常勝長(ブロック長)=は仕事から帰ると、妻や娘たちの話にじっと耳を傾けた。「娘が健康でいてくれれば、それだけで十分や」。そうした夫の言葉が、「1日のマイナスな感情をいつもリセットさせてくれた」。
一日中、2人の娘と過ごす日々は、「ママ友さんたちと言うところの“地獄の夏休み”が永遠にある感じ」。穏やかな気持ちばかりではいられなかった。
平日の日中に娘たちと外出すると、人目を感じる。ランドセルを背負う子を見るのがつらくて、買い物に行くのは登下校の時間帯を避けた。
沈みゆく心を支えたのは、池田先生の『希望対話』の言葉だった。
「君が自分で自分を、だめだと思っても、私はそうは思わない。あなたが自分で自分を見捨ててしまっても、私は見捨てない」
黒葛原さんは、自らに言い聞かせるように祈った。“私も、娘たちを信じ抜ける人でありたい”
夫・圭さん(45)=常勝長(ブロック長)=は仕事から帰ると、妻や娘たちの話にじっと耳を傾けた。「娘が健康でいてくれれば、それだけで十分や」。そうした夫の言葉が、「1日のマイナスな感情をいつもリセットさせてくれた」。
夫婦で話し合い、美友さんが小学6年、良美さんが小学3年の時に転校。車で片道30分の送迎を続けた。いい先生や友人に恵まれ、娘2人は「週に1回」や「1日2時間」など、自分のペースで登校するようになった。やがて、その学区内に家を購入し、転居。美友さんは中学校の修学旅行にも参加し、自らの意思で通信制高校に進学した。
一方、中学校へ進んだ良美さんは、再び学校へ行かなくなった。毎朝、登校しようとするものの、体が動かない。中学1年のある日、良美さんは初めて胸の内を言葉にした。
「学校に行こうと思うと、心臓に冷水をかけられたような感覚になる」
頑張り切った末の苦しさを、そこまで表現できた娘に、黒葛原さんは「むしろホッとした」と言う。
「分かったよ。もう行かんくてええから」
この日を境に、登校を目指すことはやめた。「娘たちが社会で生きていける力を、一緒に育んでいこう」――黒葛原さんの祈りと目標が明確に定まった。
夫婦で話し合い、美友さんが小学6年、良美さんが小学3年の時に転校。車で片道30分の送迎を続けた。いい先生や友人に恵まれ、娘2人は「週に1回」や「1日2時間」など、自分のペースで登校するようになった。やがて、その学区内に家を購入し、転居。美友さんは中学校の修学旅行にも参加し、自らの意思で通信制高校に進学した。
一方、中学校へ進んだ良美さんは、再び学校へ行かなくなった。毎朝、登校しようとするものの、体が動かない。中学1年のある日、良美さんは初めて胸の内を言葉にした。
「学校に行こうと思うと、心臓に冷水をかけられたような感覚になる」
頑張り切った末の苦しさを、そこまで表現できた娘に、黒葛原さんは「むしろホッとした」と言う。
「分かったよ。もう行かんくてええから」
この日を境に、登校を目指すことはやめた。「娘たちが社会で生きていける力を、一緒に育んでいこう」――黒葛原さんの祈りと目標が明確に定まった。
サンドイッチ店を閉じた後、同じ場所に美容サロンを開いた黒葛原さん。時折、手伝ってくれるネイリストの長女・美友さんの施術を優しく見守る
サンドイッチ店を閉じた後、同じ場所に美容サロンを開いた黒葛原さん。時折、手伝ってくれるネイリストの長女・美友さんの施術を優しく見守る
■今するべきことを
■今するべきことを
同じ年の2021年秋、黒葛原さんは、自宅の敷地内にサンドイッチ店をオープンした。娘に社会との接点を持たせたい。そして、自身も働く楽しさを感じたい――母としての願いと、働く一人の女性としての願いが重なった。
買い出し、仕込み、接客と、全て良美さんと担った。開店当初、良美さんは母の後ろに隠れ、不安になると客の前でも表情をこわばらせた。黒葛原さんは時に厳しく、時に褒めながら、一緒に店頭に立ち続けた。
常連客に見守られ、やがて良美さんは、自ら前に出て笑顔で接客するようになる。また、「今するべきことから逃げない」と母娘で約束し、良美さんは自宅で小学校の基礎から学び直して、姉と同じ通信制高校へ進んだ。
店はメディアでも紹介され、地域の人たちから愛された。ただ、「娘を近くで囲い過ぎても良くない」と、良美さんが高校3年になった昨年、店を閉じた。
良美さんは今春、通信制高校を卒業し、地元の接骨院で働いている。受付業務を担い、従業員や患者から「明るくて愛想がいい」と評判だ。
同じ年の2021年秋、黒葛原さんは、自宅の敷地内にサンドイッチ店をオープンした。娘に社会との接点を持たせたい。そして、自身も働く楽しさを感じたい――母としての願いと、働く一人の女性としての願いが重なった。
買い出し、仕込み、接客と、全て良美さんと担った。開店当初、良美さんは母の後ろに隠れ、不安になると客の前でも表情をこわばらせた。黒葛原さんは時に厳しく、時に褒めながら、一緒に店頭に立ち続けた。
常連客に見守られ、やがて良美さんは、自ら前に出て笑顔で接客するようになる。また、「今するべきことから逃げない」と母娘で約束し、良美さんは自宅で小学校の基礎から学び直して、姉と同じ通信制高校へ進んだ。
店はメディアでも紹介され、地域の人たちから愛された。ただ、「娘を近くで囲い過ぎても良くない」と、良美さんが高校3年になった昨年、店を閉じた。
良美さんは今春、通信制高校を卒業し、地元の接骨院で働いている。受付業務を担い、従業員や患者から「明るくて愛想がいい」と評判だ。
おしゃれ好きな美友さんは、母にしてもらっていたネイルに影響を受け、高校卒業後、ネイリストの道を選んだ。
「学校に行かなかったことを、私は後ろめたいと思ったことが一度もない」と美友さん。それは、不登校であることを責めず、一緒に夢中になれるものを探してくれた、母のおかげかもしれない。
「ネイルをしながら、お客さまの方から不登校の話題が出ることもあって。『私もでした』と言うと、めっちゃ驚かれます。自分の経験を話して『前向きになれた』と言ってくださるのがうれしいです」
おしゃれ好きな美友さんは、母にしてもらっていたネイルに影響を受け、高校卒業後、ネイリストの道を選んだ。
「学校に行かなかったことを、私は後ろめたいと思ったことが一度もない」と美友さん。それは、不登校であることを責めず、一緒に夢中になれるものを探してくれた、母のおかげかもしれない。
「ネイルをしながら、お客さまの方から不登校の話題が出ることもあって。『私もでした』と言うと、めっちゃ驚かれます。自分の経験を話して『前向きになれた』と言ってくださるのがうれしいです」
通信制高校を卒業後、地元の美容サロンで働く長女・美友さん
通信制高校を卒業後、地元の美容サロンで働く長女・美友さん
■誰かを励ます糧に
■誰かを励ます糧に
良美さんは小学生の時に買ってもらったギターを独学で学び、現在は接骨院で働きながら、シンガー・ソングライター「milo.」としてライブ活動に励む。これまで作った曲は100曲以上。不登校時代の思いや、家族への感謝を託した楽曲もある。
昨年は兵庫池田文化会館でも、未来部の会合でオリジナル曲を披露した。娘の姿を見つめる黒葛原さんの目には、熱く光るものがあった。
「率直に『よく頑張ったな』って。良美は、ずっと自分と向き合ってきたからこそ、こうやって歌で表現できるんやなと感じました」
良美さんは、姉とはまた違って、「不登校だったことはコンプレックスで、その気持ちは今も消えない」と言う。だからこそ、その感情を歌で届けられるのは「自分の特権です」と胸を張る。
良美さんは小学生の時に買ってもらったギターを独学で学び、現在は接骨院で働きながら、シンガー・ソングライター「milo.」としてライブ活動に励む。これまで作った曲は100曲以上。不登校時代の思いや、家族への感謝を託した楽曲もある。
昨年は兵庫池田文化会館でも、未来部の会合でオリジナル曲を披露した。娘の姿を見つめる黒葛原さんの目には、熱く光るものがあった。
「率直に『よく頑張ったな』って。良美は、ずっと自分と向き合ってきたからこそ、こうやって歌で表現できるんやなと感じました」
良美さんは、姉とはまた違って、「不登校だったことはコンプレックスで、その気持ちは今も消えない」と言う。だからこそ、その感情を歌で届けられるのは「自分の特権です」と胸を張る。
2人の娘の今を見て、黒葛原さんは思う。娘たちを怒り過ぎた日も、自分の「正しさ」を押し付けた時もあった。祈りも、初めは「学校に行けますように」ばかりだった。それでも、「家族や同志、池田先生の励ましの中で、たとえ学校に行かなくても、子どもが今日、笑ってくれたら、それでいいやんと思えるようになりました」。
目の前の娘たちの可能性を「絶対に諦めない」と決めてきた、親の深き祈りと愛情。家族に支えられた娘たちにとって今、これまでの自身の経験が、次の誰かを励ます糧となっている。
2人の娘の今を見て、黒葛原さんは思う。娘たちを怒り過ぎた日も、自分の「正しさ」を押し付けた時もあった。祈りも、初めは「学校に行けますように」ばかりだった。それでも、「家族や同志、池田先生の励ましの中で、たとえ学校に行かなくても、子どもが今日、笑ってくれたら、それでいいやんと思えるようになりました」。
目の前の娘たちの可能性を「絶対に諦めない」と決めてきた、親の深き祈りと愛情。家族に支えられた娘たちにとって今、これまでの自身の経験が、次の誰かを励ます糧となっている。
8月、大阪のライブハウスに出演した次女・良美さん。新曲を披露し、ファンを魅了した
8月、大阪のライブハウスに出演した次女・良美さん。新曲を披露し、ファンを魅了した
≪よこがおQ&A≫
≪よこがおQ&A≫
Q 両親はどんな存在ですか?
良美さん 母は、かけてくれた時間も“思いやりの量”もすごい。家にいる私に友だちをつくってあげたいと犬も飼ってくれて。父は一度も怒ったり否定したりせず、やりたいことを全て応援してくれる優しい人。目に500円玉を挟んで笑わせてくれるなど、おもろい一面もあります(笑)。
Q 黒葛原さんがサンドイッチ店を開業する時、会社から引き取ったコンテナを圭さんが改装したそうですね。どんな時も家族の選択を尊重する理由は?
圭さん 私は4人兄弟の3番目で、服も習い事も兄と同じ。自分で何も選べない不自由さに反発した経験がありました。だからこそ好きなことを思い切りやってほしいなと。何でも「やりたいならやったらええ」という思いです。
Q 小さい頃から祈ってきたことは?
美友さん ふとした時に落ち込んで暗い顔をしている母を見てきたので、「ママが元気でいられるように」とずっと祈っていました。
良美さん 「生まれ変わっても、この家族と一緒にいられますように」はずっと変わらない祈り。それぐらい家族が大好きだし、感謝しています。
Q 今、不登校の方にメッセージを。
美友さん 学校に行かないことがあっても、その後の選択肢はたくさんあります。周りと比べず、好きなことを探しながら、自分のペースで進んでほしいです。
良美さん 今でも、学校に行かなかった罪悪感や劣等感はあります。でも、それは、強みに変えられます。自分で自分を否定さえしなければ、どんな選択であっても間違いじゃない。
Q 両親はどんな存在ですか?
良美さん 母は、かけてくれた時間も“思いやりの量”もすごい。家にいる私に友だちをつくってあげたいと犬も飼ってくれて。父は一度も怒ったり否定したりせず、やりたいことを全て応援してくれる優しい人。目に500円玉を挟んで笑わせてくれるなど、おもろい一面もあります(笑)。
Q 黒葛原さんがサンドイッチ店を開業する時、会社から引き取ったコンテナを圭さんが改装したそうですね。どんな時も家族の選択を尊重する理由は?
圭さん 私は4人兄弟の3番目で、服も習い事も兄と同じ。自分で何も選べない不自由さに反発した経験がありました。だからこそ好きなことを思い切りやってほしいなと。何でも「やりたいならやったらええ」という思いです。
Q 小さい頃から祈ってきたことは?
美友さん ふとした時に落ち込んで暗い顔をしている母を見てきたので、「ママが元気でいられるように」とずっと祈っていました。
良美さん 「生まれ変わっても、この家族と一緒にいられますように」はずっと変わらない祈り。それぐらい家族が大好きだし、感謝しています。
Q 今、不登校の方にメッセージを。
美友さん 学校に行かないことがあっても、その後の選択肢はたくさんあります。周りと比べず、好きなことを探しながら、自分のペースで進んでほしいです。
良美さん 今でも、学校に行かなかった罪悪感や劣等感はあります。でも、それは、強みに変えられます。自分で自分を否定さえしなければ、どんな選択であっても間違いじゃない。