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〈インタビュー〉 16歳で両脚を失った私は今、この世界で自分の役目を見つけられた。 2023年7月2日

  • モデル 葦原海さん

 葦原海さんは16歳の時に事故で両脚を切断しました。現在はSNSで車いす生活に関わる発信を続け、総フォロワー数は70万人を超えます。今回のインタビュー企画「スタートライン」では、ファッションモデル、講演会の講師、バリアフリーアドバイザーとしても活動する葦原さんに話を聞きました。

何でも聞いてほしい

 ――SNSでは車いすでの生活についての発信だけでなく、フォロワーからの質問にもたくさん答えていますね。
  
 私には、どんなことでも質問してもらいたいと思っています。障がい者について気になることを気軽に聞けるような場所にしたいんです。
  
 例えば「どのように着替えているのか」とか、「トイレはどうしているの?」といった日常生活への質問から、「切断面がどうなっているのか」「いじめられたことはないの?」など、NGなしで答えています。
  

  
 ――どうしてこのような発信を始めたのですか?
  
 専門学校1年の18歳の時に、テレビ番組のファッションショーに出演したことがあります。その番組は東京パラリンピックに向けて、障がいへの理解を深めてもらい、パラスポーツを盛り上げるという目的のものでした。
  
 うれしい気持ちで参加しましたが、一方で放送後に頂いた応援のコメントが福祉関係者や当事者の家族などからがほとんどだったことに“偏り”を感じたんです。障がい者のことを知ってもらいたいのに、全然広まっていないんじゃないかなと。
  
 その時から「健常者と障がい者の間にある壁を壊したい」というのが、私の一つのテーマです。その壁は障がいがある人たちと接する機会が少なかったり、知らなかったりすることから生まれると思うんです。
  
 ――たしかに、普段の生活の中だと、電車内や街中でたまに見かけるぐらいしかありません。
  
 私も自分が当事者になるまでは、障がい者の方と接する機会はありませんでした。だから、街中で見かけたら“手伝わないといけないのかな”とか、“でも手伝わなかったら冷たい人間だと思われるんだろうな”と思っていました。
  
 この世界で同じように暮らしているのに接する機会が少ないことが、障がい者への関心の低さや、知ろうとならないにつながっていると思うんです。
  

  
 ――知るきっかけがないと、相手がどのように思っているか分からないものですね。
  
 当事者になると、手伝ってもらえなくても特に冷たいなんて思わないんですよ。それはさっき話したような経験があったからかもしれませんが、断った人も遅刻ギリギリだったかもしれないとか、別のタイミングだったら手伝ってくれたかもしれないとかって思えたんです。
  
 そういったことも含めて、健常者と障がい者の両方の立場に立って発信できたらなと。それを若い世代の人たちに響くフィールドで伝えるために、SNSでの発信を続けています。
  
 ――投稿を見た人から感想が送られてくることもありますか?
  
 そうですね。これまでどう接したらいいか分からなかったけれど、私の動画を見て初めて声をかけることができました――そんな感想をいただいたこともあります。
  
 あとは中学生から「夏休みの課題作文でみゅうさんのことを取り上げてもいいですか?」という相談のメッセージをもらったり、コンビニでアルバイトをしている高校生から「コンビニで店員に何をしてもらったら助かりますか?」といったコメントも届いたりしました。
  
 私は聞かれた質問に答えていただけで、何かを呼びかけたわけではありませんが、それを見て自分の生活環境の中で何ができるのか考えてくれていて、うれしかったです。
  
 SNSを見る時に、わざわざ何かを学ぼうと思っている人は少ないと思うんですけど、私の投稿が今まで知らなかった障がい者のことを知るきっかけ、そして行動するきっかけになったらいいなと思います。
  

本年春には世界四大ファッションショーの一つ「パリ・コレクション」への出演を果たし、車いすでランウェイを進んだ ©SumiyoIDA
本年春には世界四大ファッションショーの一つ「パリ・コレクション」への出演を果たし、車いすでランウェイを進んだ ©SumiyoIDA

  
 ――SNSでの発信だけでなく、バリアフリーに関するアドバイスやモデルの活動もしておられますね。
  
 ホテルなどの宿泊施設や行政から、観光地のバリアフリー化を進めるにあたって意見を求められる時もあります。実際に現地へ足を運んで、当事者目線で気づいたことをお伝えしています。
  
 ファッションモデルとしてショーに出演させていただきましたが、車いすユーザーのモデルとして成功したいわけではありません。
  
 子どもの頃って、プロ野球を見て野球選手を夢見たり、レストランでおいしい料理を食べてシェフに憧れたりするじゃないですか。でも障がいのある人には、そういった憧れの存在ってほとんどいないと思うんです。
  
 だったら私が「障がいがあってもできるんだ」というのを示したい。いつか私の姿を見て、憧れて追いかけてくれる人が出てきたらいいなと思っています。
  

葦原さんの著書『私はないものを数えない。』(サンマーク出版)
葦原さんの著書『私はないものを数えない。』(サンマーク出版)
やりたいことばかり

 ――今年5月には初の著書『私はないものを数えない。』(サンマーク出版)を発刊しました。タイトルがとても印象的です。
  
 私には、やりたいことがたくさんあります。ヒッチハイクもしてみたいし、キッチンカーで販売とかも楽しそうだなって。だから「できないこと」を意識的に数えないというよりも、「やりたいこと」をどうやったらできるかばかり考えてきたので、結果的に数えていなかっただけなんです。
  
 SNSでも前向きな発信をしていますが、自分としては、あえて前向きに生きようとしているわけでもないし、前向きなことばかりが正しいと言いたいわけでもないんです。
  
 もちろん私の言葉を聞いて「元気をもらえた」と言ってもらえるのはうれしいです。ただ私は私らしく、ありのままの発信をしているだけです。それがたまたまポジティブだと捉えていただいているんです。
  
 そうやって自分らしくしていたから、自分の表現の仕方も自然と見えてきたのかなと。そうした先に、いつか世界の中で、自分の役目を果たせるようになる。そんなふうに考えています。

 【プロフィル】
 あしはら・みゅう 1997年生まれ。高校在学中の16歳の時に事故で両脚を切断。その後、車いすユーザーとしてファッションショーへの出演や、ホテルなどのバリアフリーへの助言を行うほか、SNSを通して車いすユーザーの日常生活を発信。2021年東京パラリンピック閉会式や、ミラノ・コレクション、パリ・コレクションにも出演。本年5月に著書『私はないものを数えない。』(サンマーク出版)を発刊。
  
 ●葦原さんのSNSはこちらから
 ・Tiktok
  
 ・Instagram
  

出版記念トークショー

 葦原さんの初の著書『私はないものを数えない。』の出版記念トークショーを地元・愛知県にて開催します。参加を希望する方は事前申し込みが必要です。詳しくはウェブページをご参照ください。
  
 日時:7月15日(土)午後2時から
 会場:三洋堂書店 新開橋店 5階大ホール(愛知県名古屋市瑞穂区新開町18番地22)

  
 ●インタビューを読んでの感想をぜひお寄せください。
 メール wakamono@seikyo-np.jp
 ファクス 03―3353―0087
  
 【記事】近藤翔平 【写真】手面香

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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