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〈SDGs×SEIKYO〉 “捨てる”という概念を捨てよう テラサイクル ジャパン代表 エリック・カワバタさん 2022年3月9日

  • インタビュー:地球を覆うごみ危機

 日本では、約7割のプラスチックごみが焼却炉や埋め立て地に送られていることをご存じですか。アメリカに本社を構えるテラサイクル社は、世界のごみ問題に取り組むリサイクル企業です。“全てのごみには使い道がある”との信念で、あらゆるごみを新しい製品に変えてきました。現在まで、21カ国に事業を展開。2014年からテラサイクルジャパン合同会社で代表を務めるエリック・カワバタさんに、国内の廃棄物の現状や、テラサイクルが目指す地球にやさしい社会について聞きました。(取材=サダブラティまや、木﨑哲郎)

◆始まりはミミズの糞

 ――テラサイクル社は、ミミズの糞を肥料に変えるという、創業者トム・ザッキー氏の革新的な発想から始まったと伺っています。
   
 2001年、アメリカ・プリンストン大学の1年生だったトム・ザッキーは、経済学入門の講義で投げ掛けられた「ビジネスの目的とは何か」という問いに対して、深く考え込んでいました。彼は1982年に共産圏だったハンガリーで生まれ、5歳の時に家族でカナダに移住。高校生の時、ビジネスによってゼロから夢をかなえた人々の姿に触発され、起業に関心を持つようになりました。

 最終的にザッキーが導き出した結論は、“理想的なビジネスとは、単なる利益目的ではなく、社会や地球環境をより良くすること”でした。そこで、大学の食堂から生ごみをもらい、ミミズの餌にして、糞を肥料に変えるというビジネスアイデアを思い付きました。洗浄した使い捨てペットボトルに肥料を入れて、ホームセンターで販売。本来ならば、捨てられる運命にある「廃棄物」にも、価値があることを身をもって学んだザッキーは、大学を中退し、テラサイクルを設立しました。
   
 ――テラサイクルの基本理念である「“捨てる”という概念を捨てよう」は、こうして生まれたのですね。
   
 私たちの事業の鍵は、“リサイクル不可と考えられてきた廃棄物をリサイクルすること”です。例えば、タバコの吸い殻、汚れた紙オムツ、かみ終わったガムなどにも新たな可能性を見いだし、これまで多くの製品に変えてきました。

 近年では、他の企業などと共同で製作した、去年の東京オリンピックの表彰台。洗剤やシャンプーなどの空き容器と、一部、海洋プラスチックも使っています。全国のイオングループ約2000店舗に回収箱を設置して、消費者の協力を募りました。

 また、学校で子どもたちにSDGs(持続可能な開発目標)やリサイクルについての学びの場を設け、容器回収に尽力してもらいました。世界初の“持続可能な表彰台”は、こうして完成しました。

プラスチック容器などから作られた世界初の“持続可能な表彰台”©UPI/アフロ
プラスチック容器などから作られた世界初の“持続可能な表彰台”©UPI/アフロ
◆日本はきれいな国?

 ――日本のプラスチックのリサイクル率は、世界的にも高い水準だといわれています。国内のごみ問題の現状を教えてください。
   
 実は、初めてザッキーと会った時、日本にテラサイクルは必要ないと思ったんです。

 私は長年、環境コンサルタントとして働いてきましたが、環境省のデータやニュースを見る限り、日本のリサイクル率は80%以上と高い。またニューヨークの街などと比べても、ほとんど東京にはごみが落ちていません。何より、日本人は各家庭できちんとごみを分別している。だから私は「回収されたプラスチックは、どこかで新しい製品に生まれ変わっているのだろう」と思っていました。

 ところが、日本における「リサイクル」の定義に問題がありました。日本では、プラスチックごみの6割が、「サーマルリサイクル(熱回収)」という方法で処理されています。廃棄物を高温で燃やし、その際に出るエネルギーを発電などに利用するのです。

 でも、熱回収は二酸化炭素を発生させ、温暖化の原因となるなど、地球環境に大きな負荷を与えます。そもそも欧米では、この方法はリサイクルの定義にも入っていませんでした。

 つまり、国内で循環型のリサイクル処理がされているプラスチックは、限られていることが分かりました。

 残念ながら、飲料ペットボトル以外は、リサイクル率が低いのが実情です。多くの場合は、焼却炉や埋め立て地に送られてしまうのです。

テラサイクル創業者のトム・ザッキー氏㊧と、日本代表のカワバタさん
テラサイクル創業者のトム・ザッキー氏㊧と、日本代表のカワバタさん

 ――深刻なごみ危機を招いた背景には、大量生産・大量消費の「使い捨て文化」があります。
   
 1950年代以降、プラスチックや他の化学製品によって、便利な使い捨て容器が開発され、人々の生活から物を長く大切に使う習慣が薄れていきました。

 ザッキーはよく、“自然界にごみは存在しない”と言います。一つの生物の排出物は、別の生き物にとっては、必要不可欠だからです。一方、人間が生み出す廃棄物の特徴は、他の生命体にとって使い物にならないことでしょう。

 新しいごみを出さないためには、どうすればいいのか。私たちは、三つの優先順位を設けています。1番がリユース(再利用)、2番がアップサイクル(本来の目的を変えて再利用すること)、最後にリサイクルです。世界各地に点在するテラサイクルのオフィスも、この三つの方法で内装されています。

 おそらく、一番聞き慣れないアップサイクルとは、お菓子の袋からかばんを作ったり、捨てられたタンスから棚を作ることです。原料を一度溶かして新たな製品を作るリサイクルよりも、リユースとアップサイクルの方が、持続可能性という観点では優れているのです。

古い靴を植木鉢としてアップサイクル ©lavizzara/Shutterstock.com
古い靴を植木鉢としてアップサイクル ©lavizzara/Shutterstock.com
◆消費者の選択が豊かな未来をつくる

 ――気候変動や環境汚染の根源は、消費や購買という人間の活動にある、ともザッキー氏は語っています。消費に対する私たちの価値観や心が変わらなければ、真の意味での解決にはなりません。
   
 一説によると、100年前の人々は、衣服を選ぶ際に10年から20年着る前提で、年に平均2着を購入していたといわれています。現代では、平均66着を購入し、3回ほど着ると捨ててしまうそうです。物を買う時には、長く使う前提で選んでみてください。また、「本当に必要かどうか」と考え、立ち止まることも大切かと思います。

 消費者は大きな力を持っています。私たちが環境にやさしい商品を望めば、企業も従わざるを得ない。ザッキーはこのことを、「財布で投票する」と言っています。

 消費者がAという商品を買わなくなれば、やがてAはなくなります。反対に、Bという商品を好めば、Bが増えます。私たちは日々、“買い物”という行為で、企業や社会を変える“投票”をしている、と。リサイクルだけでは、根本的な解決策にはなりません。買う側の意識が変われば、廃棄物の量を減らすことができます。

ごみ問題が深刻な課題となった20世紀から、人類は埋め立てか焼却の“解決策”に頼ってきた ©MOHAMED ABDULRAHEEM/Shutterstock.com
ごみ問題が深刻な課題となった20世紀から、人類は埋め立てか焼却の“解決策”に頼ってきた ©MOHAMED ABDULRAHEEM/Shutterstock.com
◆リサイクルから、リユースへ

 ――そうした考えから始めたのが、先駆的な循環型ショッピングシステムの「Loop」ですね。これは、リユースの仕組みを構築しようとする試みです。
    
 Loopは2019年にアメリカとフランスで始まり、昨年5月にアジア初の市場として日本に導入されました。普段使っている食品や洗剤、シャンプーなどの容器をリユース可能なガラスやステンレスに替えることで、プラスチックの削減に努めるサービスです。

 Loopの最大の狙いは、リユースを使い捨てと同じくらい便利で気軽にすること。消費者は、使い終わった容器を洗う必要はありません。小売店に設置された回収ボックスに入れるだけです。これらの容器は、地域の工場で洗浄された後、生産者によって充填され、再び小売店に販売されるという流れです。使用後すぐに埋め立て地や焼却炉に送られる、従来の直線型のごみ処理を回避できるのです。

 繰り返し使うことを想定しているため、美しく耐久性のある容器を提供できることも魅力の一つです。実は、以前に消費者調査をアメリカで実施した際に、とても興味深い結果が出ました。Loopを利用したい最大の理由として挙げられたのが、「環境への配慮」といったことではなく、「利便性」だったのです。その次は「容器のデザイン性」。そして、「家の中のごみが減った」ことでした。

 つまり、環境意識の高低にかかわらず、商品さえ気に入れば、人々は持続可能な取り組みに参加するのだということが分かりました。日本では、イオングループがまずLoopに高い関心を示し、現在では多くの消費財メーカーとも協力して販売を行っています。

大手小売企業のイオンで販売しているLoopの商品
大手小売企業のイオンで販売しているLoopの商品
Loopで販売中のステンレス容器に入ったガム
Loopで販売中のステンレス容器に入ったガム
◆大切なのは問題意識
循環型システムの図。消費直後に廃棄される直線型よりも地球にやさしい
循環型システムの図。消費直後に廃棄される直線型よりも地球にやさしい

 ――過剰包装に見られるように、日本はしばしば、環境意識が低いとも指摘されます。持続可能な社会を築く上で、今後どのようなことを期待しますか。
   
 私は、日本人の“環境意識”が低いとは思っていないんです。“問題意識”が低いのだと思います。「もったいない」という言葉に象徴されるように、資源が少ない島国の日本では、物を大事にしようとする精神性があります。さらに、日本では各家庭でごみを分別しますよね。飲み終わった牛乳パックを洗って切って乾かして……。環境意識が低い人にはできません。

 目には見えないから、日本にはごみ問題がないと思っている人が少なくない。問題の顕在化が必要です。特に、メディアの役割は非常に大きい。メディアがごみ問題をもっと取り上げれば、日本人は必ず協力して動きだします。日本には“皆で頑張る”という特徴があるからです。

 エコカーにしても、太陽光パネルにしても、これまで日本は世界のイノベーター(革新者)としての役割を果たしてきました。すでにある物を、より良くすることに長けています。リユースのシステムが日本で定着すれば、他のアジアの国々にとっても、良いモデルになります。深刻な環境危機に直面している今だからこそ、日本の優れた技術を生かして、世界のリーダーとしての役割を再び発揮してほしいと願っています。

©Sergey Mironov/Shutterstock.com
©Sergey Mironov/Shutterstock.com

〈プロフィル〉 
 Eric Kawabata 
 米国出身。東京大学大学院法学政治学研究科特別研究生、金融機関の法律顧問、投資銀行役員を経て、環境やサステナビリティの業務に10年以上従事。2013年に米テラサイクルに入社し、14年にテラサイクルジャパンの日本代表に就任。19年からはLoopのアジア太平洋統括責任者とLoop Japanの日本代表を兼務する。

 
 

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