〈インタビュー〉 分断や不信が渦まく現代社会の処方箋を探る NPO法人ほっとプラス理事 藤田孝典(第三文明3月号から)
〈インタビュー〉 分断や不信が渦まく現代社会の処方箋を探る NPO法人ほっとプラス理事 藤田孝典(第三文明3月号から)
2025年3月10日
ふじた・たかのり 1982年、埼玉県生まれ。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、NPO法人「ほっとプラス」の設立に参画。さいたま市を中心に生活困窮者や路上生活者の支援活動を始める。社会福祉士。聖学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。著書に『下流老人』『続・下流老人』(朝日新書)、『貧困クライシス』『コロナ貧困』(毎日新聞出版)、『脱・下流老人』(NHK出版)など多数。
ふじた・たかのり 1982年、埼玉県生まれ。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、NPO法人「ほっとプラス」の設立に参画。さいたま市を中心に生活困窮者や路上生活者の支援活動を始める。社会福祉士。聖学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。著書に『下流老人』『続・下流老人』(朝日新書)、『貧困クライシス』『コロナ貧困』(毎日新聞出版)、『脱・下流老人』(NHK出版)など多数。
相談会が映す社会のゆがみ
相談会が映す社会のゆがみ
先の年末年始9連休に行った生活困窮者向けの相談会には、700人を超える方々が来られました。さまざまな相談に耳を傾ける中で総じて印象的だったのは、年齢や性別や生活環境にかかわりなく、誰もが人や家庭、社会への信頼を失い、疎外感を抱いて社会的に孤立していたことです。
近年の日本は核家族化が進み、家族・地域単位の支え合いが機能しなくなっています。かつて祖父母・両親・親戚や、地域コミュニティが果たしていた共助の機能は失われ、個々人が孤立する状況が増えているのです。
その結果、「家族と一緒に暮らしていても孤独を感じる」と打ち明ける人も珍しくありません。また、家族関係が崩壊していて家出せざるを得なかった若者や、「頼るべき身内がおらず、いずれ孤独死するかもしれない」と語る高齢者もいました。
先の年末年始9連休に行った生活困窮者向けの相談会には、700人を超える方々が来られました。さまざまな相談に耳を傾ける中で総じて印象的だったのは、年齢や性別や生活環境にかかわりなく、誰もが人や家庭、社会への信頼を失い、疎外感を抱いて社会的に孤立していたことです。
近年の日本は核家族化が進み、家族・地域単位の支え合いが機能しなくなっています。かつて祖父母・両親・親戚や、地域コミュニティが果たしていた共助の機能は失われ、個々人が孤立する状況が増えているのです。
その結果、「家族と一緒に暮らしていても孤独を感じる」と打ち明ける人も珍しくありません。また、家族関係が崩壊していて家出せざるを得なかった若者や、「頼るべき身内がおらず、いずれ孤独死するかもしれない」と語る高齢者もいました。
一層深刻だと感じるのは、極限状態に追い詰められ、犯罪に手を染めてしまう人もいる点です。ある若者は生活に行き詰まり、誰にも相談できないまま闇バイトに応募し、わずかな報酬で特殊詐欺の「出し子」をして逮捕され、執行猶予付きの判決を受けました。そして、行く当てもなく相談に訪れたのです。
そもそも他者や社会への信頼があれば、犯罪に手を染めるまで追い詰められることはなかったかもしれません。一方、被害者となった高齢者も、暮らしが安全・安心であれば、過剰にお金を蓄えて犯罪に巻き込まれることもなかったかもしれないのです。
近頃、民主主義の危機が叫ばれていますが、民主主義が正しく機能するためには、「他者」と「社会」への信頼が不可欠です。もしこのまま市井の人々の不信を放置するならば、民主主義国家としての日本の行方は、ますます厳しいものになるでしょう。
一層深刻だと感じるのは、極限状態に追い詰められ、犯罪に手を染めてしまう人もいる点です。ある若者は生活に行き詰まり、誰にも相談できないまま闇バイトに応募し、わずかな報酬で特殊詐欺の「出し子」をして逮捕され、執行猶予付きの判決を受けました。そして、行く当てもなく相談に訪れたのです。
そもそも他者や社会への信頼があれば、犯罪に手を染めるまで追い詰められることはなかったかもしれません。一方、被害者となった高齢者も、暮らしが安全・安心であれば、過剰にお金を蓄えて犯罪に巻き込まれることもなかったかもしれないのです。
近頃、民主主義の危機が叫ばれていますが、民主主義が正しく機能するためには、「他者」と「社会」への信頼が不可欠です。もしこのまま市井の人々の不信を放置するならば、民主主義国家としての日本の行方は、ますます厳しいものになるでしょう。
生活の脱商品化で不信を乗り越える
生活の脱商品化で不信を乗り越える
一方で相談会では、一筋の希望も感じました。たくさんの方々が、「話を聞いてもらえて心が軽くなった」「救われた」と語ってくれたのです。
例えばある高齢者は、最終的に地域の支援ネットワークにつながることができ、「誰かが自分を見ていてくれて、支えてくれる。安心感が得られてとてもうれしかった」と話してくれました。
もちろん、1つの福祉の現場だけでは、大きな変化を生むことは難しいかもしれません。それでも互いを信頼し、一緒に「あるべき社会福祉の姿」を考えていく中で、たとえ時間はかかっても、必ず社会を立て直すことができると私は信じています。
その上で持続可能な福祉を確立するには、人々の納得と共感が不可欠です。税金を「負担を強いられるもの」と受け止めるのではなく、自分や家族の暮らしを守り、社会を支える「将来への投資」だと前向きに考えられる社会保障のあり方、すなわち「社会福祉はみんなのもの」との価値観の確立が急務であると考えます。
そのためには、基礎的な生活の脱商品化と5大ニーズの無償化、つまり「ベーシックサービス」の導入が必要です。現在の日本は住宅・教育・医療・介護・福祉の5大ニーズが商品化され、しかも、その価格が高騰していることが人々の負担を重くしています。そのため仮に賃金が増えても生活の不安感が和らぐことはなく、「いったいどれほど働けばよいのか」との焦燥感に苛まれてしまうのです。
一方で相談会では、一筋の希望も感じました。たくさんの方々が、「話を聞いてもらえて心が軽くなった」「救われた」と語ってくれたのです。
例えばある高齢者は、最終的に地域の支援ネットワークにつながることができ、「誰かが自分を見ていてくれて、支えてくれる。安心感が得られてとてもうれしかった」と話してくれました。
もちろん、1つの福祉の現場だけでは、大きな変化を生むことは難しいかもしれません。それでも互いを信頼し、一緒に「あるべき社会福祉の姿」を考えていく中で、たとえ時間はかかっても、必ず社会を立て直すことができると私は信じています。
その上で持続可能な福祉を確立するには、人々の納得と共感が不可欠です。税金を「負担を強いられるもの」と受け止めるのではなく、自分や家族の暮らしを守り、社会を支える「将来への投資」だと前向きに考えられる社会保障のあり方、すなわち「社会福祉はみんなのもの」との価値観の確立が急務であると考えます。
そのためには、基礎的な生活の脱商品化と5大ニーズの無償化、つまり「ベーシックサービス」の導入が必要です。現在の日本は住宅・教育・医療・介護・福祉の5大ニーズが商品化され、しかも、その価格が高騰していることが人々の負担を重くしています。そのため仮に賃金が増えても生活の不安感が和らぐことはなく、「いったいどれほど働けばよいのか」との焦燥感に苛まれてしまうのです。
よって、人々が生きていく上で不可欠な生活の基礎部分をすべての人に現物給付できれば、低所得層の暮らしを守るとともに、中間層や富裕層の税に対する不公平感や、「貧困世帯ばかり優遇されてずるい」との誤解を解消することができます。その意味で、「積極的に税金を払ったほうが得をする」と実感できる社会福祉の制度設計こそが、現在の分断や相互不信を乗り越え、日本社会の信頼を高めるカギになるでしょう。
他方、福祉政策は一足飛びに進めることができません。特にベーシックサービスのような福祉のあり方を大変革する仕組みであればなおさらです。何より急進的に進めた取り組みは、世論の理解が得られず、往々にして破綻しやすいものです。ゆえに、世論との丁寧な対話が必要で、対話を通じた市民の納得と共感と支持が必要になります。
大衆福祉の旗を掲げる公明党は、この取り組みの重要性を理解し、貫徹しうる実力を持つ政党だと受け止めています。資本主義社会では貧富の差が進み、必ずこぼれ落ちる人が出てきます。公明党は野党時代からこうした人々に寄り添い、その声を政治に反映するため、与野党との合意形成を図ってきました。
昨年の衆院選は、公明党にとって不本意な結果に終わったかもしれませんが、期せずして政治の世界は合意形成がテーマになっています。財源確保や制度設計など難題は多いでしょうが、多くの政党や多様な国民と議論を交わし、その理解と共感を得て事を進めてほしい。それこそが政治、ひいては社会への信頼を取り戻す一歩になると思います。
よって、人々が生きていく上で不可欠な生活の基礎部分をすべての人に現物給付できれば、低所得層の暮らしを守るとともに、中間層や富裕層の税に対する不公平感や、「貧困世帯ばかり優遇されてずるい」との誤解を解消することができます。その意味で、「積極的に税金を払ったほうが得をする」と実感できる社会福祉の制度設計こそが、現在の分断や相互不信を乗り越え、日本社会の信頼を高めるカギになるでしょう。
他方、福祉政策は一足飛びに進めることができません。特にベーシックサービスのような福祉のあり方を大変革する仕組みであればなおさらです。何より急進的に進めた取り組みは、世論の理解が得られず、往々にして破綻しやすいものです。ゆえに、世論との丁寧な対話が必要で、対話を通じた市民の納得と共感と支持が必要になります。
大衆福祉の旗を掲げる公明党は、この取り組みの重要性を理解し、貫徹しうる実力を持つ政党だと受け止めています。資本主義社会では貧富の差が進み、必ずこぼれ落ちる人が出てきます。公明党は野党時代からこうした人々に寄り添い、その声を政治に反映するため、与野党との合意形成を図ってきました。
昨年の衆院選は、公明党にとって不本意な結果に終わったかもしれませんが、期せずして政治の世界は合意形成がテーマになっています。財源確保や制度設計など難題は多いでしょうが、多くの政党や多様な国民と議論を交わし、その理解と共感を得て事を進めてほしい。それこそが政治、ひいては社会への信頼を取り戻す一歩になると思います。
良識ある市民社会の協働こそ
良識ある市民社会の協働こそ
他方、「他者」への信頼の欠如という意味では市民社会、とりわけ宗教団体の果たす役割に注目しています。相談会における多くの相談に共通していた孤立の問題。そこに私は、利他の精神の必要性を感じてならないのです。
この点、創価学会の皆さんは、池田大作第3代会長の指導の下で、多角的な社会活動を展開されています。そこに見える池田会長の人間主義の哲学、言い換えれば「他者の幸福があってこそ、自分の幸福もある」との信念は、他者への信頼が欠如した現代社会にこそ、光るものだと感じます。
現在、急速な高齢化の進展により自治会などあらゆる市民社会で縮退が起こっています。恐らく、創価学会の皆さんも同様に苦労されているのではないでしょうか。
それでも私は、理念を掲げた活動こそ、強靱で長期的な信頼を築く力になると考えています。1つの活動を継続すること、そして活動の意義を若い世代に伝え、次世代に継承していくこと、それ自体に価値があります。引き続き創価学会の皆さんには、社会の安定と人々の融和に資する重要な存在として、活躍を期待しています。
その上で私は、「誰一人置き去りにしない社会をつくる」という点において、創価学会の皆さんを同志だと思っています。だからこそ、さらに広く社会に門戸を開いていただき、理念を共有しうる多様な団体・個人と協働してほしいと願っています。
他方、「他者」への信頼の欠如という意味では市民社会、とりわけ宗教団体の果たす役割に注目しています。相談会における多くの相談に共通していた孤立の問題。そこに私は、利他の精神の必要性を感じてならないのです。
この点、創価学会の皆さんは、池田大作第3代会長の指導の下で、多角的な社会活動を展開されています。そこに見える池田会長の人間主義の哲学、言い換えれば「他者の幸福があってこそ、自分の幸福もある」との信念は、他者への信頼が欠如した現代社会にこそ、光るものだと感じます。
現在、急速な高齢化の進展により自治会などあらゆる市民社会で縮退が起こっています。恐らく、創価学会の皆さんも同様に苦労されているのではないでしょうか。
それでも私は、理念を掲げた活動こそ、強靱で長期的な信頼を築く力になると考えています。1つの活動を継続すること、そして活動の意義を若い世代に伝え、次世代に継承していくこと、それ自体に価値があります。引き続き創価学会の皆さんには、社会の安定と人々の融和に資する重要な存在として、活躍を期待しています。
その上で私は、「誰一人置き去りにしない社会をつくる」という点において、創価学会の皆さんを同志だと思っています。だからこそ、さらに広く社会に門戸を開いていただき、理念を共有しうる多様な団体・個人と協働してほしいと願っています。