〈大学は何ができるか 創大✕八王子〉 本屋とコラボで町おこし
〈大学は何ができるか 創大✕八王子〉 本屋とコラボで町おこし
2026年2月23日
- 「シュリーマン」「ベートーヴェン」に「高尾山」
- 「シュリーマン」「ベートーヴェン」に「高尾山」
国内の書店数が減り続けています。この四半世紀で、その数は半減しました。全国の約3割の自治体に書店がありません。今も1日1店以上のペースで街から本屋が消えています。東京・八王子市における創価大学の社会貢献の実践を追う企画「大学は何ができるか」。今回は「本屋とコラボで町おこし」です。(取材=大宮将之)
国内の書店数が減り続けています。この四半世紀で、その数は半減しました。全国の約3割の自治体に書店がありません。今も1日1店以上のペースで街から本屋が消えています。東京・八王子市における創価大学の社会貢献の実践を追う企画「大学は何ができるか」。今回は「本屋とコラボで町おこし」です。(取材=大宮将之)
■一冊の本から
■一冊の本から
書店には、インターネットの通販サイトでは見つからない“良書との出逢いの場”があります。
JR八王子駅北口、地上5階建てビルに店舗を構える、明治創業のある老舗書店。最上階・人文書フロアに、創価大学文学部の有志が手がけた「学生選書コーナー」が誕生したのは、2021年の秋でした。
「学びを地域にどう生かすか」。大学の教室で生まれた問いへの答えが、街の本棚に並んだ瞬間でした。
書店には、インターネットの通販サイトでは見つからない“良書との出逢いの場”があります。
JR八王子駅北口、地上5階建てビルに店舗を構える、明治創業のある老舗書店。最上階・人文書フロアに、創価大学文学部の有志が手がけた「学生選書コーナー」が誕生したのは、2021年の秋でした。
「学びを地域にどう生かすか」。大学の教室で生まれた問いへの答えが、街の本棚に並んだ瞬間でした。
これまで期間限定キャンペーンとして実施されたのは全3回。テーマは――
①トロイ遺跡を発掘した考古学者シュリーマン
②「交響曲第9番」を作曲した楽聖ベートーヴェン
③八王子の名所・高尾山(日本遺産)――です。
学生たちは本選びから、ポップと呼ばれる手書き広告、ポスターのデザインまで担いました。反響は大きく、①の際には「近年では考えられないくらいの売り上げ」(書店員)を記録したといいます。
実はこの取り組みの出発点も、一冊の本でした。文学部の伊藤貴雄教授がある日、八王子市内の古書店で何げなく手に取った『シュリーマン旅行記 清国・日本』(講談社学術文庫)。ページをめくると、目に飛び込んできたのは「八王子」の三文字でした。幕末の日本を訪れたシュリーマンは、「絹の道」で横浜と結ばれていた八王子へ。織物産業や街並みを観察した足跡が記されていたのです。
これまで期間限定キャンペーンとして実施されたのは全3回。テーマは――
①トロイ遺跡を発掘した考古学者シュリーマン
②「交響曲第9番」を作曲した楽聖ベートーヴェン
③八王子の名所・高尾山(日本遺産)――です。
学生たちは本選びから、ポップと呼ばれる手書き広告、ポスターのデザインまで担いました。反響は大きく、①の際には「近年では考えられないくらいの売り上げ」(書店員)を記録したといいます。
実はこの取り組みの出発点も、一冊の本でした。文学部の伊藤貴雄教授がある日、八王子市内の古書店で何げなく手に取った『シュリーマン旅行記 清国・日本』(講談社学術文庫)。ページをめくると、目に飛び込んできたのは「八王子」の三文字でした。幕末の日本を訪れたシュリーマンは、「絹の道」で横浜と結ばれていた八王子へ。織物産業や街並みを観察した足跡が記されていたのです。
かつてシュリーマンが八王子に入る時に歩いたであろう現・子安町の上空から、北の方角を望む。右のタワーマンションが立つ地点がJR八王子駅周辺。中央のかなたには、丹木の丘に立つ創価大学の本部棟がかすかに見える。手前の工事中のエリアには本年秋、公園や図書館、ミュージアム、交流スペースが一体となった拠点「桑都(そうと)の杜(もり)」が誕生する
かつてシュリーマンが八王子に入る時に歩いたであろう現・子安町の上空から、北の方角を望む。右のタワーマンションが立つ地点がJR八王子駅周辺。中央のかなたには、丹木の丘に立つ創価大学の本部棟がかすかに見える。手前の工事中のエリアには本年秋、公園や図書館、ミュージアム、交流スペースが一体となった拠点「桑都(そうと)の杜(もり)」が誕生する
■都まんじゅう
■都まんじゅう
これは、八王子の町おこしや文化資源として活用できるのではないか。学生が本をひもとき、歴史と文化を「知る」営みを、「今」「この街」「この暮らし」に結びつけられないか。
そう考えた伊藤教授に、折しも声をかけてくれたのが、同僚の西川ハンナ准教授(文学部)でした。「学生と共に地域に出ていけるようなプロジェクトを一緒にやりませんか」と。シュリーマン生誕200周年に合わせて、2021年から翌22年にかけ、書店とコラボした町おこしプロジェクトが展開されたのです。
まずは学生選書。シュリーマンの著作は2冊しかありません。しかし学生たちは彼の足跡を軸にして視野を広げ、書店員の助言を受けながら「哲学」「経済」「語学」「旅行」「料理」に関する書籍や絵本まで、数十冊を選びました。
これは、八王子の町おこしや文化資源として活用できるのではないか。学生が本をひもとき、歴史と文化を「知る」営みを、「今」「この街」「この暮らし」に結びつけられないか。
そう考えた伊藤教授に、折しも声をかけてくれたのが、同僚の西川ハンナ准教授(文学部)でした。「学生と共に地域に出ていけるようなプロジェクトを一緒にやりませんか」と。シュリーマン生誕200周年に合わせて、2021年から翌22年にかけ、書店とコラボした町おこしプロジェクトが展開されたのです。
まずは学生選書。シュリーマンの著作は2冊しかありません。しかし学生たちは彼の足跡を軸にして視野を広げ、書店員の助言を受けながら「哲学」「経済」「語学」「旅行」「料理」に関する書籍や絵本まで、数十冊を選びました。
シュリーマンをテーマにした選書。書店員は「学生の皆さんの熱量がすごい。それは、お客さまに伝わるんです」と
シュリーマンをテーマにした選書。書店員は「学生の皆さんの熱量がすごい。それは、お客さまに伝わるんです」と
書棚には、学生が考え、デザインした鮮やかなポップがずらり。「シュリーマンと一緒に江戸、そして八王子を旅しませんか」「日常にギリシャの味を」――思わず足を止めたくなる雰囲気が生まれ、多くの市民が本を手にレジへ向かいました。
さらにご当地銘菓「都まんじゅう」と協働し、シュリーマンのかわいい似顔絵の焼き印が入ったまんじゅうも考案しました。その名も「シュリーまん」です。これが大ヒット! 老若男女が「シュリーマンと八王子」のつながりを楽しく知り、味わいました。
書棚には、学生が考え、デザインした鮮やかなポップがずらり。「シュリーマンと一緒に江戸、そして八王子を旅しませんか」「日常にギリシャの味を」――思わず足を止めたくなる雰囲気が生まれ、多くの市民が本を手にレジへ向かいました。
さらにご当地銘菓「都まんじゅう」と協働し、シュリーマンのかわいい似顔絵の焼き印が入ったまんじゅうも考案しました。その名も「シュリーまん」です。これが大ヒット! 老若男女が「シュリーマンと八王子」のつながりを楽しく知り、味わいました。
シュリーマンの似顔絵が入った「シュリーまん」(現在は販売終了)
シュリーマンの似顔絵が入った「シュリーまん」(現在は販売終了)
■貢献と学習と
■貢献と学習と
日本の大学では今、「サービス・ラーニング」という学びの在り方が追求されています。社会への「貢献(サービス)」と大学における「学習(ラーニング)」を統合し、地域の人々と学生とが協働することで、双方に良い影響をもたらすことを意図したものです。
書店とコラボした町おこしを通して、創大生たちは「歴史研究の視点」「文学作品の読み方」を磨き、深め、その学びを地域活性化に生かす「表現力」を培っていきました。
日本の大学では今、「サービス・ラーニング」という学びの在り方が追求されています。社会への「貢献(サービス)」と大学における「学習(ラーニング)」を統合し、地域の人々と学生とが協働することで、双方に良い影響をもたらすことを意図したものです。
書店とコラボした町おこしを通して、創大生たちは「歴史研究の視点」「文学作品の読み方」を磨き、深め、その学びを地域活性化に生かす「表現力」を培っていきました。
伊藤貴雄教授(左端)と学生たち
伊藤貴雄教授(左端)と学生たち
シュリーマンに続いて創大生の有志が取り組んだのは、楽聖ベートーヴェンを扱ったブックフェアです。「第九」初演200周年に合わせた2024年に実施されました。八王子においても、市民が参加する「第九演奏会」が毎年のように開かれています。
選書に当たり、学生たちが書店員から受けたアドバイスは「書店に来る前と来た後とで、ベートーヴェンの人物像と仕事が、より一歩深まって見えるような本棚を目指してほしい」。
創大生にとって、楽聖の生涯と真正面から向き合う挑戦が始まりました。
突然の家族の死、貧困と孤独、聴覚の喪失……相次ぐ苦難と闘い続けた楽聖の歩みが、“単なる知識”としてではなく、“私はどう生きるのかという問い”として、創大生の胸に迫りました。選んだ書籍は33冊。看板、ポップ、ポスターにも思いを凝縮しました。
「苦悩を突き抜けて歓喜へ」――このベートーヴェンの信念が、書棚を媒介として、市民の心と心に共鳴音を響かせました。
シュリーマンに続いて創大生の有志が取り組んだのは、楽聖ベートーヴェンを扱ったブックフェアです。「第九」初演200周年に合わせた2024年に実施されました。八王子においても、市民が参加する「第九演奏会」が毎年のように開かれています。
選書に当たり、学生たちが書店員から受けたアドバイスは「書店に来る前と来た後とで、ベートーヴェンの人物像と仕事が、より一歩深まって見えるような本棚を目指してほしい」。
創大生にとって、楽聖の生涯と真正面から向き合う挑戦が始まりました。
突然の家族の死、貧困と孤独、聴覚の喪失……相次ぐ苦難と闘い続けた楽聖の歩みが、“単なる知識”としてではなく、“私はどう生きるのかという問い”として、創大生の胸に迫りました。選んだ書籍は33冊。看板、ポップ、ポスターにも思いを凝縮しました。
「苦悩を突き抜けて歓喜へ」――このベートーヴェンの信念が、書棚を媒介として、市民の心と心に共鳴音を響かせました。
ベートーヴェンのブックフェア。創大文学部の科目「哲学・思想特講A」の受講生らが中心となって取り組んだ
ベートーヴェンのブックフェア。創大文学部の科目「哲学・思想特講A」の受講生らが中心となって取り組んだ
創大生が手がけた看板。「第九」の「9」の文字とベートーヴェンの肖像を組み合わせて
創大生が手がけた看板。「第九」の「9」の文字とベートーヴェンの肖像を組み合わせて
■異なる人々が交差する場として
■異なる人々が交差する場として
インターネットと街の書店。
その違いは、何でしょうか。
インターネットは「探す場所」です。常に「検索」から始まります。検索履歴から“私が求めているもの”を自動で計算して、好みの本まで示してくれます。けれど、ともすれば「見たいものだけ」を見て「見たくないものは見ない」、閉じた状態に陥りやすい。
一方、書店は「出逢う場所」です。知らなかった本が多く目に入ります。固定観念を揺さぶられるタイトルにも出合うでしょう。書棚づくりそれ自体が「思想」を帯びているからです。
取材した書店員の方は「店舗を訪れるお客さまが、生き方を選び直すことができるような選書内容を提示し続けたい」と考えています。不安や不信、社会的分断が広がる時代だからこそ、「この地域に生きる自分に誇りを持ちながら、排他的ではない“開かれた公共の物語”を育める場に、書店がなっていけたら」――とも。
創大生との協働は、書店が単なる販売空間ではなく、異なる立場の人々が地域を足場に視野を世界へ開き、交差する場になることを示しました。
インターネットと街の書店。
その違いは、何でしょうか。
インターネットは「探す場所」です。常に「検索」から始まります。検索履歴から“私が求めているもの”を自動で計算して、好みの本まで示してくれます。けれど、ともすれば「見たいものだけ」を見て「見たくないものは見ない」、閉じた状態に陥りやすい。
一方、書店は「出逢う場所」です。知らなかった本が多く目に入ります。固定観念を揺さぶられるタイトルにも出合うでしょう。書棚づくりそれ自体が「思想」を帯びているからです。
取材した書店員の方は「店舗を訪れるお客さまが、生き方を選び直すことができるような選書内容を提示し続けたい」と考えています。不安や不信、社会的分断が広がる時代だからこそ、「この地域に生きる自分に誇りを持ちながら、排他的ではない“開かれた公共の物語”を育める場に、書店がなっていけたら」――とも。
創大生との協働は、書店が単なる販売空間ではなく、異なる立場の人々が地域を足場に視野を世界へ開き、交差する場になることを示しました。
創価教育の創始者・牧口常三郎先生が32歳の時に著した『人生地理学』。増刷に次ぐ増刷を経て、第11版まで版を重ねた。多くの新聞・雑誌に書評が掲載された
創価教育の創始者・牧口常三郎先生が32歳の時に著した『人生地理学』。増刷に次ぐ増刷を経て、第11版まで版を重ねた。多くの新聞・雑誌に書評が掲載された
創価教育の父・牧口常三郎先生は、1903年発刊の『人生地理学』で「郷民」「国民」「世界民」という三つの自覚を促しています。郷土を丁寧に観察すれば、世界から流入した文物を発見できる。人は郷土においてこそ世界とのつながりを実感し、開かれた「世界民」の自覚を抱ける――と。 世界一の登山者数を誇る「高尾山」の特集に携わった創大生たちは、口々に振り返っていました。
「今まで関心のなかったジャンルの本まで、幅広く読むようになった」という千葉出身の学生。「自分が生まれ育った故郷のことも調べたい」と語ったのは、同じ千葉から2時間半かけて通学している学生です。
三重出身の学生は他の地域の書店にも足を運ぶようになり、「郷土コーナーに目が留まるようになった」と言います。福岡育ちの学生は「大学は大学に行けなかった人のためにある」との創立者の言葉をかみ締め、学びを地域に還元できる喜びを語っていました。
創価教育の父・牧口常三郎先生は、1903年発刊の『人生地理学』で「郷民」「国民」「世界民」という三つの自覚を促しています。郷土を丁寧に観察すれば、世界から流入した文物を発見できる。人は郷土においてこそ世界とのつながりを実感し、開かれた「世界民」の自覚を抱ける――と。 世界一の登山者数を誇る「高尾山」の特集に携わった創大生たちは、口々に振り返っていました。
「今まで関心のなかったジャンルの本まで、幅広く読むようになった」という千葉出身の学生。「自分が生まれ育った故郷のことも調べたい」と語ったのは、同じ千葉から2時間半かけて通学している学生です。
三重出身の学生は他の地域の書店にも足を運ぶようになり、「郷土コーナーに目が留まるようになった」と言います。福岡育ちの学生は「大学は大学に行けなかった人のためにある」との創立者の言葉をかみ締め、学びを地域に還元できる喜びを語っていました。
創大生が作成したポスター
創大生が作成したポスター
大学は何ができるか。
書店は何ができるか。
二つの「問い」が交差して、八王子に新たな価値を創造しています。
大学は何ができるか。
書店は何ができるか。
二つの「問い」が交差して、八王子に新たな価値を創造しています。
高尾山に関連した書籍を扱う「学生選書コーナー」で、携わった創価大学生が本を手に。昨年9月から先週末まで実施され、好評を博した
高尾山に関連した書籍を扱う「学生選書コーナー」で、携わった創価大学生が本を手に。昨年9月から先週末まで実施され、好評を博した
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想を、こちらからお寄せください。
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想を、こちらからお寄せください。
●前回の記事(今月6日付)は、こちらから読めます。八王子駅北口商店会と創価大学生が協働し、「地域の『担い手不足』解消と『つながり』づくり」に取り組んだ模様を紹介しています。
●前回の記事(今月6日付)は、こちらから読めます。八王子駅北口商店会と創価大学生が協働し、「地域の『担い手不足』解消と『つながり』づくり」に取り組んだ模様を紹介しています。