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フリーランス国際協力師・原貫太さんがアフリカの現場で学んだ「世界の正しい捉え方」 2026年1月29日

  • 電子版連載「著者に聞いてみよう」

 今回の「著者に聞いてみよう」では、「フリーランス国際協力師」として、主にアフリカの貧困・紛争地域を中心に世界各地で取材し、国際協力の情報発信に力を入れている原貫太さんが登場。原さんの著書『世界は誰かの正義でできている アフリカで学んだ二元論に囚われない生き方』(KADOKAWA)は、出来事を一つの見方だけで断じてしまうことの危うさや、事実と向き合い続ける姿勢を描いた一冊だ。本書を手がかりに、原さんが、どのように世界と向き合ってきたのかを聞いた。

■原点は、マニラで突きつけられた無力感

 「ある時、途上国でまん延する社会問題を扱った動画の再生回数が、急に伸び始めたんです」

 動画のタイトルは「世界の闇『レンタルチャイルド』とは?」。コメント欄には、「こうした問題をもっと知りたい」「初めて考えさせられた」といった声が次々に寄せられた。
 
 原貫太さんは、フリーランス国際協力師として、アフリカの貧困・紛争地域を取材し、その実情をYouTubeなどで発信する。チャンネル登録者数は約40万人。オンラインサロンでは、視聴者同士が議論を交わしながら、「今、自分に何ができるのか」を考える場もつくってきた。
 
 その活動の原点は、学生時代に参加したフィリピン・マニラでのスタディーツアーにある。
 
 街角で目にしたのは、ボロボロのワンピースを着て物乞いをする7歳の少女だった。

 「生まれた場所が違うだけで、人生がここまで変わってしまう。その現実を、初めて突きつけられました」

 原さんは、世界の不条理さに衝撃を受けると同時に、「この現実を伝えなければならない」という思いが込み上げたという。

 だが、帰国後にSNSで発信しても、反応はほとんどなかった。「何も変えられていない、という感覚が強かったです。無力感ばかりが残りました」

YouTubeを撮影している原さん
YouTubeを撮影している原さん
■問題を「正しく」伝える難しさ

 無力感を抱えながらも、原さんは発信をあきらめなかった。2020年に本格的にYouTubeチャンネルを立ち上げ、現地での取材を重ねながら動画を投稿し続けた。徐々に視聴者が増え、影響力を持つようになるにつれて、新たな壁に直面することになる。

 原さんはこれまで、ウガンダ、タンザニア、コンゴ民主共和国東部などを訪れた。

 だが、現地で見えてきたのは、単純な「善と悪」では切り分けられない現実だった。

 例えば、武装勢力。

 外から見れば、「悪」として一つにくくられがちだが、現地に足を運ぶ中で、原さんの見方は大きく揺らいだ。

 「武装勢力と呼ばれる人たちにも、それぞれ名前があって、家族がいて、人生がある。現地でそれを知った時、自分の中にあった見方が崩れました」

 また、多くの若者は、教育を受ける機会や仕事の選択肢が極端に限られた中で、武装勢力に参加するような危険な道を「選ばされている」状況に置かれている。

 「彼らの現実を説明するにはどうしたらいいのか。知れば知るほど、発信の難しさを感じるようになりました」

 YouTubeで影響力を持つようになった分、批判も寄せられるようにもなった。

 「自分はどこか一つの正義に寄ってしまっていないか。その問いは、常に頭の中にあります」

タンザニア取材。現地のガイドに奴隷貿易の話を聞く
タンザニア取材。現地のガイドに奴隷貿易の話を聞く
■事実は、「一つの答え」にならない

 原さんが一貫して大切にしているのは、「事実を伝える」ことだ。

 ここで言う事実とは、「何が起きたのか」という出来事そのものを指す。この部分は、正確でなければならない。

 一方で、その出来事を「どう見るか」「どう意味づけるか」は、人によって変わる。

 「同じ現実を見ても、立つ場所が違えば、受け取り方は変わります。だから、事実から導かれる意味は一つではないと思うんです」

 例えば、国境を越えて移動する人々の姿を見て、「安全を求めた当然の行動だ」と受け取る人もいれば、「受け入れ側の社会に負担を与えるのではないか」と懸念する人もいる。
 
 「だからこそ、自分の解釈や結論を、先に提示しすぎないようにしています」

 事実を丁寧に伝えることで、受け手が「自分ならどう考えるだろうか」と立ち止まる余地を残したいからだ。

 「社会問題を“遠い世界の出来事”で終わらせず、“自分事”として捉えてもらうには、その余白が必要だと思っています」

世界最貧国ともいわれるブルンジの避難民キャンプで
世界最貧国ともいわれるブルンジの避難民キャンプで
■歌声が響く紛争地で

 アフリカの人々と関わる中で、原さん自身の価値観も大きく変わった。

 コンゴ東部を訪れた初日、楽しげに歌い、演奏する若者たちと出会った。

 「正直、もっと沈んだ雰囲気を想像していました。でも、目の前にいたのは、生き生きとした若者たちだったんです」

 死と隣り合わせの日常の中で、人々は「生きていること」そのものに深い喜びを見いだしている。眠る前に、今日一日を生き抜けたことに感謝する人もいる。内戦から逃れてきた人々が、何もない土地に教会を建て、祈りをささげる姿もあった。

 「貧困や紛争がある一方で、確かに幸福もある。その両方が同時に存在しているのが現実なんだと、現地で学びました」

紛争地・コンゴ東部の子どもたちと
紛争地・コンゴ東部の子どもたちと
■結論を急がないために

 SNSの世界では、短く、強い結論が求められがちだ。だが、原さんはその風潮に違和感を覚えている。

 「社会問題って、そんなに簡単に答えが出るものじゃないですよね」

 それでも、ソーシャルメディアの力を使わないわけにはいかない。

 「最初から正論を語っても、ほとんどの場合、見てもらえません。だからまずは、関心を持ってもらう工夫が必要だと思っています」

 原さんが意識しているのは、動画のタイトルやサムネイルの作り方だ。「世界の闇」「なぜこんなことが起きているのか」といった言葉で、見る人の「少し気になる」「一度見てみたい」という好奇心を引き出す。

 「あおりたいわけではないんです。ただ、まず見てもらえなければ、事実も背景も届かない」

 原さんにとって大切なのは、関心を集めること自体ではない。

 その先で、何が起きているのかを丁寧に伝え、視聴者が自分なりに考える材料を受け取れるようにすることだ。

取材では、主に自らカメラを持ち、現地の様子について紹介している(コンゴ東部で)
取材では、主に自らカメラを持ち、現地の様子について紹介している(コンゴ東部で)
■小さな決意が、うねりになるまで

 発信を続ける中で、原さん自身も迷い、心が折れそうになることがあったという。そんな時、支えとなったのが、コンゴ東部で性暴力に傷ついた女性たちを救い、ノーベル平和賞を受賞したコンゴ人婦人科医、デニ・ムクウェゲ氏の言葉だった。

 「(スマートフォンやノートパソコンに使われる鉱物が紛争の火種になっている事実を踏まえて)この悲劇に目をつぶることは、それに加担することを意味する」

 現地の実情を知ってしまった一人として、見なかったことにはできない。その感覚が、原さんを前に進ませてきた。

 原さんは言う。

 「一人で世界を変えることはできません。でも、一人の決意が、うねりを生むことはあると思っています」

 貧困や紛争の中にいる人々を、「かわいそうな存在」として消費しない。

 その現実をありのままに見つめ、そこから「生きるとは何か」を、一緒に考えていけたら――。

 原貫太さんの発信は、その姿勢を示し続けている。

『世界は誰かの正義でできている アフリカで学んだ二元論に囚われない生き方』(KADOKAWA)
『世界は誰かの正義でできている アフリカで学んだ二元論に囚われない生き方』(KADOKAWA)

〈プロフィル〉
 はら・かんた 1994年生まれ。早稲田大学卒。アフリカを中心に世界各地で取材を行い、国際協力の情報発信に力を入れている。YouTubeチャンネルの登録者数は約40万人(2026年1月現在)。主な著書に『あなたとSDGsをつなぐ「世界を正しく見る」習慣』『世界を無視しない大人になるために』など。

※YouTubeを撮影している写真および現地を取材している様子の写真は本人提供

●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想はこちらにお寄せください。

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