74D2BA43C4D40B6085E61B6FA0F18A94
知らなかった世界が広がる――現代アートの楽しみ方〈著者に聞いてみよう〉
知らなかった世界が広がる――現代アートの楽しみ方〈著者に聞いてみよう〉
2026年10月31日
美術解説家 鈴木博文(美術解説するぞー)さん
美術解説家 鈴木博文(美術解説するぞー)さん
「現代アート」と聞くと、“よく分からないもの”と感じる人も多いのではないでしょうか。美術解説家の鈴木博文さんは、「深く味わうためには“視点”を知る必要がある」と言います。『現代アートがよくわからないので楽しみ方を教えてください』(日本実業出版社)の著者であり、SNSで「美術解説するぞー」と名乗り、アートの面白さを発信する鈴木さんに話を聞きました。
「現代アート」と聞くと、“よく分からないもの”と感じる人も多いのではないでしょうか。美術解説家の鈴木博文さんは、「深く味わうためには“視点”を知る必要がある」と言います。『現代アートがよくわからないので楽しみ方を教えてください』(日本実業出版社)の著者であり、SNSで「美術解説するぞー」と名乗り、アートの面白さを発信する鈴木さんに話を聞きました。
「分からない」には理由がある
「分からない」には理由がある
――現代アートとは、どういったものをいうのでしょうか。
大きく捉えれば、第2次世界大戦後に作られた美術を指すことが多いです。「何が描かれているのか分からない作品」というイメージがあると思いますが、風景画もあれば、ものを置いたり、空間を使ったりする作品もあります。
現代アートについて、“理解できない”とよくいわれるのは、作品自体が理解不能だからではなく、その表現の仕方、「造形言語」をまだ知らないからだと思います。僕らがアラビア語を読めなくても、アラビア語そのものが「意味のない言葉」ではないのと似ています。
――美術に興味を持ち始めたきっかけは?
高校3年生の頃、美術館へ通うようになって、エッシャーの作品と出あいました。彼は数学の図形的な世界を、風景に変換したような作品をつくるアーティストです。受験勉強中だった当時の僕にとって、無機質に感じていた数学の図形がこんなに面白い風景になるのかと驚きました。
また、モネの絵との出あいも印象的でした。朝の川を描いている作品なのですが、ちょっと涼しくて空気が澄んでいる感じまで伝わってきたんです。絵画で、リアルさだけではなくて、温度やその場の空気感も伝えられるってすごいなって。
――作品を見て心の内側から強い感覚が湧き上がることを、鈴木さんは「ゾワる」という言葉で表現されています。そんな作品との出あいを教えてください。
金沢21世紀美術館にあるアニッシュ・カプーアの《L’Origine du monde(世界の起源)》です。黒い部分は実際には壁に開いた穴なのですが、目の前に立つと、底の見えない穴にも手前へ膨らんだ球にも見える。彫刻といえば、物に形を与えるものだと思いませんか? この作品は空っぽの部分で形を見せているのです。こんな手法があるのかと気付かされます。
そういう作品に出あうと、自分の中にある発想の幅が広がるんです。気づかずに作られていた当たり前が覆されて、選択肢が増える。そうした体験も、アートの面白さだと思います。
――現在の仕事をする以前は、中学校の美術教諭をされていたと伺いました。どうして、大人に美術の面白さを伝えようと考えたのですか。
約5000人の生徒に美術を教えてきて、授業も楽しんでくれていました。でも、大人からは「受験に使わないから、美術の宿題は出さないでほしい」と言われることもあって。子どもの周囲にいる大人が楽しさを知っていないと、結局、子どもたちに伝わっていかないのでは、と考えるようになったのです。
ちょうどコロナ禍でもあって、自分が本当にやりたいことは何なのか、本心と向き合う時間もできて、独立することに決めました。
現在は、主宰する「×art-かけるアート」でのアートを楽しむワークショップのほか、企業での講座や展覧会解説のアンバサダー、美術寄稿、アーティストステートメントの考案作成、制作アドバイスなどを行っています。
――現代アートとは、どういったものをいうのでしょうか。
大きく捉えれば、第2次世界大戦後に作られた美術を指すことが多いです。「何が描かれているのか分からない作品」というイメージがあると思いますが、風景画もあれば、ものを置いたり、空間を使ったりする作品もあります。
現代アートについて、“理解できない”とよくいわれるのは、作品自体が理解不能だからではなく、その表現の仕方、「造形言語」をまだ知らないからだと思います。僕らがアラビア語を読めなくても、アラビア語そのものが「意味のない言葉」ではないのと似ています。
――美術に興味を持ち始めたきっかけは?
高校3年生の頃、美術館へ通うようになって、エッシャーの作品と出あいました。彼は数学の図形的な世界を、風景に変換したような作品をつくるアーティストです。受験勉強中だった当時の僕にとって、無機質に感じていた数学の図形がこんなに面白い風景になるのかと驚きました。
また、モネの絵との出あいも印象的でした。朝の川を描いている作品なのですが、ちょっと涼しくて空気が澄んでいる感じまで伝わってきたんです。絵画で、リアルさだけではなくて、温度やその場の空気感も伝えられるってすごいなって。
――作品を見て心の内側から強い感覚が湧き上がることを、鈴木さんは「ゾワる」という言葉で表現されています。そんな作品との出あいを教えてください。
金沢21世紀美術館にあるアニッシュ・カプーアの《L’Origine du monde(世界の起源)》です。黒い部分は実際には壁に開いた穴なのですが、目の前に立つと、底の見えない穴にも手前へ膨らんだ球にも見える。彫刻といえば、物に形を与えるものだと思いませんか? この作品は空っぽの部分で形を見せているのです。こんな手法があるのかと気付かされます。
そういう作品に出あうと、自分の中にある発想の幅が広がるんです。気づかずに作られていた当たり前が覆されて、選択肢が増える。そうした体験も、アートの面白さだと思います。
――現在の仕事をする以前は、中学校の美術教諭をされていたと伺いました。どうして、大人に美術の面白さを伝えようと考えたのですか。
約5000人の生徒に美術を教えてきて、授業も楽しんでくれていました。でも、大人からは「受験に使わないから、美術の宿題は出さないでほしい」と言われることもあって。子どもの周囲にいる大人が楽しさを知っていないと、結局、子どもたちに伝わっていかないのでは、と考えるようになったのです。
ちょうどコロナ禍でもあって、自分が本当にやりたいことは何なのか、本心と向き合う時間もできて、独立することに決めました。
現在は、主宰する「×art-かけるアート」でのアートを楽しむワークショップのほか、企業での講座や展覧会解説のアンバサダー、美術寄稿、アーティストステートメントの考案作成、制作アドバイスなどを行っています。
「×art」でのワークショップの風景
「×art」でのワークショップの風景
「型」は見るための手がかり
「型」は見るための手がかり
――本書では、現代アートの見方を「9つの型」に整理しています。こうした「型」を提示したのには、どういった意図があったのですか。
「自由に見てください」と言われても、初めての人は、どこから見ればいいか分からないですよね。こういう時は見方の「レンズ」を渡してあげる必要があります。
例えば、「どこを見るか」という視点でいえば、①作品の中(描かれているもの)に注目するのか、②表面(作品の質感)に注目するのか、③作品の外にある背景や作品を含めた展示空間を見るのか、という3つの型があります。
細かくは書籍を読んでもらえたらと思いますが、その他に「何がしたいのか」「何を扱っているのか」という視点でそれぞれ3つの型があり、全部で9つあります。
もちろん、すべての作品が9つの型のどれかに収まるわけではありません。鑑賞を始めるための手がかりの一つです。
――本書では、現代アートの見方を「9つの型」に整理しています。こうした「型」を提示したのには、どういった意図があったのですか。
「自由に見てください」と言われても、初めての人は、どこから見ればいいか分からないですよね。こういう時は見方の「レンズ」を渡してあげる必要があります。
例えば、「どこを見るか」という視点でいえば、①作品の中(描かれているもの)に注目するのか、②表面(作品の質感)に注目するのか、③作品の外にある背景や作品を含めた展示空間を見るのか、という3つの型があります。
細かくは書籍を読んでもらえたらと思いますが、その他に「何がしたいのか」「何を扱っているのか」という視点でそれぞれ3つの型があり、全部で9つあります。
もちろん、すべての作品が9つの型のどれかに収まるわけではありません。鑑賞を始めるための手がかりの一つです。
「なにこれ?」が「なるほど!」に変わる「9つの型」
「なにこれ?」が「なるほど!」に変わる「9つの型」
大人の方と一緒に鑑賞すると、「自分は何も知らない」と遠慮する人がいます。でも、ぽろっとこぼした感想が、作品の核心に触れていることがある。その言葉をちゃんと拾い上げて、作者の考えとどうつながるかをお伝えする、“翻訳”作業をする人が必要なんですよね。
――「型があるからこそ自由が生まれる」という言葉が印象的でした。
教員時代、「何でも自由に描いてごらん」と言ったこともあります。でも、不思議なことに、子どもたちの絵は似た傾向になるんですよ。それは、どうしていいか分からなくて、隣の人の表現を参考にすることで、影響を受けるからなんです。
つまり、何もないところから「自由に描いて」と言われても、何を描けばいいか迷ってしまうということです。そこで、例えば「縦、横、斜めの線を組み合わせて描いてみよう」と、一つルールを決める。線の長さや太さ、組み合わせ方は自分で選べるので、選択肢は無限にあります。
条件を作ることで、それが手がかりとなって自由に発想できるんです。自由と放任は、全く別物なのです。
――現代アートに距離を感じる読者へ、最初の一歩を教えてください。
まずは本物を観に行ってほしいです。何も分からなくても構いません。美術館だけでなく、気軽に入れるギャラリーもあります。そして、作品の「中」「表面」「外」のどこが気になるか、一つだけでいいので考えてみてください。
展示する空間や光の当たり方まで含めて、写真やスマホで見るのとは違う発見があるはずです。
大人の方と一緒に鑑賞すると、「自分は何も知らない」と遠慮する人がいます。でも、ぽろっとこぼした感想が、作品の核心に触れていることがある。その言葉をちゃんと拾い上げて、作者の考えとどうつながるかをお伝えする、“翻訳”作業をする人が必要なんですよね。
――「型があるからこそ自由が生まれる」という言葉が印象的でした。
教員時代、「何でも自由に描いてごらん」と言ったこともあります。でも、不思議なことに、子どもたちの絵は似た傾向になるんですよ。それは、どうしていいか分からなくて、隣の人の表現を参考にすることで、影響を受けるからなんです。
つまり、何もないところから「自由に描いて」と言われても、何を描けばいいか迷ってしまうということです。そこで、例えば「縦、横、斜めの線を組み合わせて描いてみよう」と、一つルールを決める。線の長さや太さ、組み合わせ方は自分で選べるので、選択肢は無限にあります。
条件を作ることで、それが手がかりとなって自由に発想できるんです。自由と放任は、全く別物なのです。
――現代アートに距離を感じる読者へ、最初の一歩を教えてください。
まずは本物を観に行ってほしいです。何も分からなくても構いません。美術館だけでなく、気軽に入れるギャラリーもあります。そして、作品の「中」「表面」「外」のどこが気になるか、一つだけでいいので考えてみてください。
展示する空間や光の当たり方まで含めて、写真やスマホで見るのとは違う発見があるはずです。
『現代アートがよくわからないので楽しみ方を教えてください』(日本実業出版社)
『現代アートがよくわからないので楽しみ方を教えてください』(日本実業出版社)
プロフィル
プロフィル
すずき・ひろふみ 1990年生まれ。東京学芸大学中学校教員養成課程美術専攻卒業。約9年間、主に中学校で美術教員の職に就く。2020年から「美術解説するぞー」のハンドルネームで、SNSを中心として美術解説に特化したコンテンツを発信する。22年には教員を辞め、フリーランスに。
すずき・ひろふみ 1990年生まれ。東京学芸大学中学校教員養成課程美術専攻卒業。約9年間、主に中学校で美術教員の職に就く。2020年から「美術解説するぞー」のハンドルネームで、SNSを中心として美術解説に特化したコンテンツを発信する。22年には教員を辞め、フリーランスに。
※鈴木さんの写真は本人提供
※鈴木さんの写真は本人提供
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想はこちらにお寄せください。
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想はこちらにお寄せください。