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〈インタビュー〉 平和のために重要な「自分の小さな一歩」 2024年3月18日

  • NPO法人テラ・ルネッサンス理事/創設者 鬼丸昌也さん

 混迷の度を深める世界情勢。脅かされる平和のために、市民ができることは何か。(「第三文明」4月号から)

1979年、福岡県生まれ。立命館大学4年生の時にカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。2001年、大学在学中に「テラ・ルネッサンス」を設立。ラオスでの地雷や不発弾処理支援、生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立支援を実施している。また、地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演を、これまでに約22万人もの人々に届けた。22年、NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の理事長に就任
 
1979年、福岡県生まれ。立命館大学4年生の時にカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。2001年、大学在学中に「テラ・ルネッサンス」を設立。ラオスでの地雷や不発弾処理支援、生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立支援を実施している。また、地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演を、これまでに約22万人もの人々に届けた。22年、NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の理事長に就任  
平和は儚いが人類には不可欠

 現在、ウクライナ戦争やパレスチナ・ガザ地区での戦闘のニュースが、毎日目に飛び込んできます。国連安保理常任理事国が主権国家へ武力侵攻する、あるいは閉ざされた狭い区域に主権国家が大規模な武力攻撃を加える――主義・主張の違いはあるにせよ、現代世界に共通であったはずの「権力(軍事力)は抑制的に行使されるべき」との価値観が蔑ろにされる様相に、無力感を覚える人も多いのではないでしょうか。

 一方で、平和を願う国際社会・市民社会の声が、完全にかき消されたわけではありません。その端的かつ雄弁な証しは、世界に広がるウクライナ市民・ガザ市民に対する人道支援と、命の尊さや平和の大切さを願う連帯の声です。「確かに平和は儚いかもしれないが、人類には不可欠だ」と平和の力を信じる人々が、そこにはいるのです。

 私たち認定NPO法人テラ・ルネッサンスも、「すべての生命が安心して生活できる社会の実現」を目指し、平和教育や地雷・小型武器・子ども兵の問題に取り組んできました。例えばウガンダ共和国では、武装勢力に拉致されたりして戦うことを強いられた元子ども兵約200人の社会復帰を支援。職業訓練の実施などを通じて、平均月収を同国の国家公務員並みにまで引き上げました。

 また、ウクライナ支援においても、隣国ハンガリーの首都ブダペストに拠点を開設。ウクライナからの避難民に対する避難場所の整備、炊き出し、食料・日用品の提供、CSCs(社会貢献型現金給付支援)の実施など、緊急人道支援・生活再建支援を展開してきました。

 さらに、未来を見据えた平和の担い手育成事業では、佐賀県基山町の東明館学園と「グローバル人財」の育成に向けた包括連携協定を締結。同校の「探究コース」に学ぶ高校1・2年生向けの授業プログラム開発・実施に取り組んでいます。

 プログラムの一例を挙げれば、「ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援」をテーマとする総合的な平和学習を実施。ウガンダの現地職員による遠隔授業や、生徒発案による現地交流企画などを通じて、生徒たちの自主性など内在的な力を育んでいます。

 特に印象的なのは、授業を通じて生徒たちの価値観が変わった点です。例えば、現地交流企画の「希望祭り」では、実際に生徒がウガンダを訪れ、サッカー大会や平和をテーマにした巨大アートの作成などを行いました。すると現地の人から、「あなたたちは『知る』だけでなく、実際に会いに来てくれた。それがうれしい。ありがとう」と笑顔で励まされたのです。

 帰国後ある生徒は、「『なぜ支援をするのか』と問われると、以前は理論的なつながりや先進国の義務と説明していました。でも今は、『家族だから』と答えます。家族だから、困っていたら支援するのは当たり前だと。また、身近な社会課題の解決にも同じような気持ちを持つようになりました」と語っています。まさに、「道徳は感動体験の異名である」(上江洲安吉・初代うるま市教育長)との言葉通りです。

「微力」は決して「無力」ではない

 私は、世界平和を実現する「変革者」とは特定のヒーローではなく、無数の個人と家庭こそが主体者であると考えてきました。個人や家庭の小さな日々の実践が積み重なって、社会・国家・世界がより良い方向に変わっていくと信じるからこそ、私たちの支援も個人や家庭にスポットを当ててきたのです。

 もちろん、「一人にできることなど微々たるものだ」と考える人もいるでしょう。しかし、「微力」は決して「無力」ではないのです。同時に、一人の力が微力であるからこそ、異なる価値観を持つ団体・個人が協働・連帯していくことが、今後ますます重要になっていくと考えます。

 この点、世界規模の若者の連帯を有する創価学会青年部の活動に注目しています。昨年、池田大作会長は逝去されましたが、生命尊厳・万人尊敬の思想や、民衆の幸福と世界平和を願う哲学が消え去ることはないでしょう。

 そんな池田会長を師に持つ青年部の皆さんに期待するのは、「師が生涯をかけて追い求めたものは何だったのか」を再確認し、その志を継承して運動を続けてほしいということです。

 この点、核兵器廃絶と気候危機の解決をテーマに今春開催される「未来アクションフェス」にも関心を寄せています。SGI(創価学会インタナショナル)ユースとして市民団体と協働するイベントだと聞いていますが、連帯には主に支えるプラットフォーム(基盤)が必要であり、それをSGIが担うということなのでしょう。

 目的が一致しているとはいえ、他団体とはルーツや価値観に違いがあるものです。ですが、それを乗り越えて構築された多様な連帯だからこそ、多くの人の共感が得られるのだと思います。そして、それを証明されたのが池田会長ではないでしょうか。宗教間対話や異文化交流を大事にしてこられたその足跡は、協働する際の何よりの手本になると思います。

 私は、世界には「絶望」と同じくらい「希望」が存在すると考えています。しかし、絶望が人々の心にひそかに忍び寄るのに対して、希望は自分でつかみとりに行かねばなりません。そうした意味でも未来アクションフェスが、人々に「希望」を提示する場となることを期待します。

自分と社会と世界はつながっている

 2001年にテラ・ルネッサンスを設立し、瞬く間に20年を超える歳月が過ぎ去りました。1人で始めた社会変革の挑戦は、世界9カ国17万人以上の人々を支える事業に発展しています。

 よく「なぜそこまでやるのか」と聞かれます。答えは、純粋に「見てみたいから」です。世界平和の実現という誰も見たことのない景色を、この目で見たいのです。

 だからこそテラ・ルネッサンスは、国境や人種・言語の壁を超え、あらゆる団体・個人と連帯しながら、眼前の課題に取り組んできました。そして、理想の実現が一朝一夕には成し遂げられないからこそ、「小さな変化」に目を向けることが大切だとも考えています。

 ゆえに肝心なことは、「自分の小さな一歩」を諦めないことです。自身の一歩を諦めることは、自身の可能性を否定することに通じ、それがひいては、世界平和そのものの可能性を否定することにつながるためです。

 そしてその一歩とは、未来アクションフェスに参加することや、参加の感想を身近な友人・家族と語り合うことでもよいと思います。あるいは日々の暮らしにエシカル消費、すなわち人道・環境に配慮した企業の商品購入を取り入れることでもよいでしょう。

 また、自分が使うスマートフォンや家電に、内戦を誘発する紛争鉱物(レアメタル)が使われていないか確認することも、人道危機を未然に防ぐ、小さいけれど確実な実践になります。

 かつて、「遠い国で起きていることに鈍感な人は、隣の家で起きる事件・事故にも気がつかない」という話を聞いたことがあります。その意味では、世界の現状を「知る」ということもまた、社会変革、平和創出の大事な一歩といえるでしょう。

 自分と社会と世界はつながっている。だから自分の一歩には必ず意味がある――そんな価値観が広まってくれることを願いつつ、私たちも引き続き、平和のための活動を続けていきます。

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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