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〈インタビュー〉 温室効果ガスと食品ロスに密接な関係!? 2023年11月13日

  • 食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美さん

 温室効果ガス抑制のために、市民にできることを探る。(「第三文明」11月号から)
 

奈良女子大学食物学科卒。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン株式会社、青年海外協力隊フィリピン食料加工隊員を経て、日本ケロッグ合同会社に入社。広報室長と社会貢献業務を兼任し、東日本大震災では被災地への食糧支援に携わる。その際、大量の食料廃棄に衝撃を受け、独立して株式会社「office3.11」を設立、食品ロス問題に取り組み始める。2020年度食品ロス削減推進大賞・消費者庁長官賞受賞。著書に『食料危機』(PHP新書)、『SDGs時代の食べ方』(ちくまQブックス)など多数

 
奈良女子大学食物学科卒。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン株式会社、青年海外協力隊フィリピン食料加工隊員を経て、日本ケロッグ合同会社に入社。広報室長と社会貢献業務を兼任し、東日本大震災では被災地への食糧支援に携わる。その際、大量の食料廃棄に衝撃を受け、独立して株式会社「office3.11」を設立、食品ロス問題に取り組み始める。2020年度食品ロス削減推進大賞・消費者庁長官賞受賞。著書に『食料危機』(PHP新書)、『SDGs時代の食べ方』(ちくまQブックス)など多数  
温室効果ガスと食品ロスの関係性

 国連の専門機関「世界気象機関」(WMO)は、今夏の世界の平均気温が観測史上最高を記録したと発表しました。国連のグテーレス事務総長も「地球温暖化を超え、沸騰化の時代が到来している」と述べています。

 その沸騰化の大きな要因が「温室効果ガス」であることはだいぶ知られてきましたが、他方で、いかなる要因が温室効果ガスを増加させるのかについては、いまだ十分な理解が進んでいません。意外に思われるかもしれませんが、「食品ロス」(廃棄)こそ温室効果ガスの増加に深刻な影響をもたらしているのです。

 食品廃棄物(いわゆる生ごみ)には水分が多く含まれており、紙などのごみを燃やすよりも大量の燃料を必要とします。当然、二酸化炭素の排出量も比例して多くなります。また、世界には食品廃棄物を埋め立て処理しているところも多く、そこから発生するメタンガスは、二酸化炭素の25倍以上の温室効果があるとされています。
 

 その上で具体的な数字を見ていくと、環境NPOの世界資源研究所(WRI)が温室効果ガスの排出量をまとめたデータ(2011~12年)によると、航空が1・4%、鉄鋼が3・3%なのに対し、食品廃棄物は8・2%。これは道路輸送の10%に次ぐ数字となっています。

 実際、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書でも、10~16年に排出された温室効果ガスのうち、8~10%は食品ロスから出たものと推定しています。さらに驚くべきは、これを「食料システム」にまで広げると、その割合は21~37%に上昇するのです。

 これほど温室効果ガスと食品ロスに密接な関係があるにもかかわらず、こうした実情はあまり知られていません。その意味では暑さに苦しんだ今こそ、この事実に目を向けてほしいと思います。

 ※食料システム……食料の生産、加工、輸送、消費に関わる一連の活動
 

政治の力で市民の行動変容を

 去る6月、日本の食品ロス量(2021年度推計値)が523万tであると発表されました。前年度から1万t増加しており、世界全体の食料支援量(2022年で年間約480万t)の約1・1倍に相当する食料が捨てられているのです。

 あらためて日本の「食」の仕組みやあり方を考えると、いびつな構造を持ち、知らず知らずのうちに「負のスパイラル」に陥っていることに気がつきます。食料自給率(カロリーベース)が約38%であることが問題視されているにもかかわらず、海外から食べきれないほどの食料を輸入し、大量に廃棄している。それによって温室効果ガスを出して温暖化の一因となり、その温暖化が食料生産に影響を与えている。それでいて、今度は食料危機の不安にさいなまれている――といった具合です。

 最近の物価高においても、年間6万8760円の家計負担増大(帝国データバンク調べ)に対し、年間5万6000円の食品ロス(京都市のデータ)を出しています。つまり地域差はあるにせよ、食品ロスを見直せば、物価高の半分以上を吸収できる可能性があるのです。
 

 負のスパイラルを断ち切るためにも、生活を守っていくためにも、さらなる食品ロス削減が重要なわけですが、その有効性に世界も注目しています。世界190人の科学者・専門家による「プロジェクト・ドローダウン」は、地球温暖化を逆転させる100通りの方法を検証し、二酸化炭素削減量・費用対効果・実現可能性を考慮して有効性をランク付けしました。その結果、食品ロス削減を、冷媒(代替フロンなど)、風力発電(陸上)に次ぐ3位に挙げたのです。

 ここで1つ、事例を紹介します。隣国の韓国は、1996年には生ごみリサイクル率がわずか2・6%でした。これではいけないと、政府が2005年に生ごみの埋め立てを禁止。続く13年には、生ごみの分別回収やリサイクルも義務付けました。併せて、ごみ出しに「従量制」も導入。専用ごみ袋でのごみ出しを義務付け、ごみの量が多くなるほどお金がかかる仕組みを作ったのです。その結果2012年には、生ごみリサイクル率が97%にまで達しました。

 これによって食品ロスがどの程度削減されるか、温室効果ガスの抑制に寄与するか、まだ検証が必要ですが、少なくとも生ごみの水分をしぼる、できるだけ生ごみを出さないようにするといった行動変容が起こっているといいます。そして、人々にこうした行動変容を促すことが、政治の役割の1つといえるでしょう。
 

 この点、いち早く食品ロス問題に関心を寄せ、食品ロス削減推進法(2019年)を先導してきた公明党に、食品ロス削減をさらに前へ進めてほしいと思います。一例を挙げれば、「賞味期限」に関するさらなる普及・啓発です。現在、日本の消費者の約7割が賞味期限と消費期限の違いを知っているとされます。ところが、消費者の9割弱が、少しでも賞味期限の長い食品を手にしようとするというのです。

 SDGs達成度(2022年)ランキング世界2位のデンマークでは、政府が「賞味期限の書き方キャンペーン」を展開。賞味期限の横に「期限を過ぎてもおいしくいただけます」との表記が付け加えられました。そして、5年で約25%の食品ロス削減を達成したのです。同様の改革は日本でもできるはずです。
 

命を育む「食」への敬意こそ

 気候危機や食品ロス削減というと、自分の想像を超える話題、自分には解決できない内容だと錯覚しがちです。けれど、先に紹介した523万tの日本の食品ロスのうち、家庭から排出されるものが244万tで、実に半数近くを占めています。つまり、私たち一人一人が意識と行動を変えれば、食品ロス削減が大きく進むのです。

 そこでぜひおすすめしたいのが、生ごみの乾燥やコンポスト(堆肥)化です。現在、多数の家電メーカーが家庭用生ごみ処理機を開発し、全国の自治体の6割以上が購入費を助成しています。コンポスト化が難しければ、乾燥させるタイプのごみ処理機でもよいと思います。私も実践していますが、ごみが目に見えて減ることで自信につながり、ごみ減量化が楽しみの1つになります。

 食品は私たちの「命」を育みます。その食品には、多くの資源や材料が使われ、当然、それを守り、育てた人々の努力や思いがあります。食品ロス削減は、そうした「食」への敬意を払うことでもあると銘記したいものです。

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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