• ルビ
  • 音声読み上げ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

【「手塚治虫展」特集】 手塚プロダクションの松谷孝征社長にインタビュー 「漫画は人と人を結ぶ」 2025年7月26日

  • 東京富士美術館で開催中(9月15日まで)

 東京富士美術館(八王子市)で好評開催中の「手塚治虫展」(9月15日まで)。数々の名作を生み出した漫画家・手塚治虫氏(1928~89年)の直筆原稿、セル画や絵コンテなど約200点が並ぶ。同展の魅力をはじめ、手塚氏の人柄や漫画への思いなどを、手塚プロダクションの松谷孝征社長に聞いた。(聞き手=石塚哲也、畑山伸一)

手塚プロダクションの松谷孝征社長。新宿区内にある本社ロビーには、手塚作品のグッズが並んでいる
手塚プロダクションの松谷孝征社長。新宿区内にある本社ロビーには、手塚作品のグッズが並んでいる
 ――「手塚治虫展」をご覧になっての感想をお願いします。

 手塚がデビューしてから亡くなった1989年ごろまでは、漫画は子ども向けの娯楽とされ、文化的価値は低いものと見られていました。

 それが今や、一つの芸術作品として認められ、各地で漫画展が開催されるようになり、今回、美しい自然に囲まれた東京富士美術館で展示されるまでになりました。

 “漫画の表現能力によって、人の心を動かすことができる”と信じていた手塚も、きっと喜んでいることでしょう。

 本展では、「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」「ブッダ」といった代表作の原稿と一緒に、手塚が実際に使っていたペンや道具など、愛用の品々も展示されています。

手塚氏の愛用品と絵コンテなども(24日、東京富士美術館で)
手塚氏の愛用品と絵コンテなども(24日、東京富士美術館で)

 手塚は、生涯で約15万ページにも及ぶ原稿を手掛けました。デビューしてからの年月で換算すると、1日当たり約10枚を、365日休まず描き続けた計算になります。

 展示で紹介しているものは、そのごく一部となりますが、手塚がいかに漫画を愛したのかを感じてもらえるのではないでしょうか。

 この展覧会をきっかけに、ぜひ、手塚の作品を読んでいただけたら、これ以上、うれしいことはありません。

 ――松谷社長は手塚氏が亡くなるまでの16年間、マネジャーとして支え続けてこられました。どんな方だったのでしょうか。

 手塚と私は、普通の会社の上司と部下というような関係とは全然違います。手塚は休みをほとんど取りませんでしたから、ずっと一緒。私は1週間に2度ぐらいしか家に帰れませんでした(笑)。

 とても優しい人で、笑顔がすてきでした。漫画を描くのは速かったのですが、多くの原稿を抱えていたため、編集者を待たせることもありました。

 でも、描き終えると、「すみません。来週はきちっとやりますから」と、手塚がにこやかな顔で言うんです。その太陽のような笑顔に編集者も許しちゃって……。

 不思議な魅力の持ち主でした。

 締め切りはいつもぎりぎりですが、内容については決して妥協を許しませんでした。

手塚プロダクションの本社内にある手塚作品グッズたち(手塚プロダクション本社で)
手塚プロダクションの本社内にある手塚作品グッズたち(手塚プロダクション本社で)

 20ページの読み切り漫画「ブラック・ジャック」を毎週連載していた時のこと。

 19ページまで完成し、あと1ページとなった夜中の0時近く、手塚が「この話、どうですか?」と私と編集者に聞いてきました。

 締め切り直前です。私も編集者も当然「いいですね」と答えました。手塚は納得していないようで、今度はアシスタントに聞いて回りました。

 その中の一人が「いまいちですね」と答えました。すると、手塚は原稿を全て回収し、「8時間ください」と言って、全部描き直し始めたのです。私は仕方なく、編集長に電話して平謝り(笑)。

 手塚は朝までに20ページを描き上げ、素晴らしい作品ができました。

 子どもに自分の納得のいく最高の作品を届けたい!――そんな思いを感じました。

「ブラック・ジャック」©手塚プロダクション
「ブラック・ジャック」©手塚プロダクション
 ――手塚氏が一連の作品を通して伝えたかったこととは、何だと思いますか。

 それは、漫画を読んでもらうのが一番ですね(笑)。手塚は歴史もの、SF、ホラー、学園ものなど、ありとあらゆる分野を描いています。

 読者に喜んでもらえるよう、真摯に仕事に取り組みましたが、特に子ども向けの作品は、必死になっていました。

 手塚は子どもが大好きで、子どもたちのことを「未来人」と呼んでいました。「大人はすぐいなくなるんだから、子どもたちにメッセージを残さなければいけない」と話した時もあります。

 今、子どもの間で何がはやっているのか。社会では、どんな問題が起こっているのか。さまざまなことに関心を持っていました。

 どんなに忙しくても読書は欠かさず、新聞も毎日チェック。テレビをつけっぱなしにして、仕事をすることもありました。

「火の鳥」©手塚プロダクション
「火の鳥」©手塚プロダクション

 自身が体験した戦争の悲惨さ、戦後の平和の素晴らしさ、そして地球には人間だけでなく、尊い命がたくさんあること。手塚は漫画を通して、子どもたちにこうした思いを伝えてきました。

 例えば、「火の鳥」では、悪い行いをすれば必ず報いを受ける因果応報や、生死を繰り返す輪廻などをテーマに、今を懸命に生きることの大切さや命を慈しむ心を表しました。

 また、第2次世界大戦当時の日本とドイツを舞台にした「アドルフに告ぐ」では、戦争の中で人はどこまで正しく生きられるのかなど、平和への思いをつづっています。

 手塚作品に触れて、漫画の表現能力の素晴らしさを知ってもらえるとありがたいです。

「アドルフに告ぐ」©手塚プロダクション
「アドルフに告ぐ」©手塚プロダクション
 ――漫画が持つ力とは何だと思いますか。

 漫画やアニメは国境を超え、人と人を結ぶ――これが、手塚の信念でした。手塚は漫画やアニメを通した文化交流に力を入れ、それぞれの国の相互理解を深めることに努めました。

 1988年11月、がんで闘病中だったにもかかわらず、中国・上海で開かれた第1回国際アニメーションフェスティバルに参加し、海外のアニメーターと交流を深めました。亡くなる3カ月前のことでした。

 手塚は、国が違えども“みんな、同じ地球人である”と考えていました。

 「世界中の子どもたちが漫画を読み、アニメを見て、お互いを理解し、行動してくれたら。それが、きっと平和につながる」と話していたのを思い出します。

 平和を願う心は今、世界に広がっていると思います。

 手塚が亡くなって35年以上がたちましたが、手塚作品は英語や中国語、イタリア語、フランス語など17言語に翻訳され、世界中の人に愛され続けています。

手塚作品は17言語に翻訳され、世界中で読まれている(手塚プロダクション本社で)
手塚作品は17言語に翻訳され、世界中で読まれている(手塚プロダクション本社で)

 今回の展示を通し、手塚が漫画に込めた情熱や優しさ、平和への思いなどを感じてもらえたら幸いです。

 また、手塚漫画を読んだ大人の方は懐かしさとともに、改めて作品に触れていただければうれしいです。

 同じ作品でも、大人になってから読むと、また違った印象を受けると思います。

 館内には、手塚漫画でおなじみのアトムやヒョウタンツギなどのキャラクターもあちらこちらに飾られています。

 ぜひ、お子さんと一緒に探しながら、手塚作品の面白さを伝えていってほしいと思います。展覧会が、親子の語らいが弾む楽しいひとときになれば、うれしい限りです。

大人から子どもまで楽しめる「手塚治虫展」。漫画「ブッダ」の特集コーナーも設けられている(24日、東京富士美術館で)
大人から子どもまで楽しめる「手塚治虫展」。漫画「ブッダ」の特集コーナーも設けられている(24日、東京富士美術館で)
【プロフィル】

 まつたに・たかゆき 株式会社手塚プロダクション代表取締役社長。1973年に手塚プロダクションに入社後、手塚治虫のマネジャーに。85年4月から同社長に就任。著書に『手塚治虫 壁を超える言葉』(かんき出版)がある。

【展示案内】

 ▽会期=9月15日(月・祝)まで。月曜休館(祝日は開館し、翌火曜休館)。

 ▽開館時間=午前10時~午後5時(入館は同4時30分まで)。

 ▽入場料=一般1500円(1200円)、大学・高校生900円(800円)、中・小学生500円(400円)。未就学児は無料。土曜は中・小学生無料。カッコ内は20人以上の団体、65歳以上の方、東京富士美術館のLINE公式アカウント登録者等の各種割引料金。

※詳細は東京富士美術館のホームページを参照。

円筒を回転させて、すき間からのぞくと絵が連続して動いているように見える「ゾートロープ(回転のぞき絵)」(24日、東京富士美術館で)
円筒を回転させて、すき間からのぞくと絵が連続して動いているように見える「ゾートロープ(回転のぞき絵)」(24日、東京富士美術館で)

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

※写真は本人提供

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP