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〈手記〉 真の“グロリア(栄光)”を探求し続けて――作曲家で創価グロリア吹奏楽団の指揮者を務める伊藤康英氏
〈手記〉 真の“グロリア(栄光)”を探求し続けて――作曲家で創価グロリア吹奏楽団の指揮者を務める伊藤康英氏
2025年11月9日
- 創価グロリア吹奏楽団の「全日本吹奏楽コンクール」金賞に寄せて
- 創価グロリア吹奏楽団の「全日本吹奏楽コンクール」金賞に寄せて
私は昨年から2年間、創価グロリア吹奏楽団の指揮者を務めてきました。本年の全国大会での演奏は、よくぞここまで曲の音楽性を引き出してくれたと感じています。
終演後、客席には感動で涙を流す人もいたそうです。楽曲の背景を知らない人の心をも揺さぶった。これは本当にすごいことです。
思えば、グロリアとの初めての出あいは2001年のこと。楽団からの委嘱で「吹奏楽のための序曲『平和と栄光』」を作曲しました。
「20世紀は二つの大きな戦争があり、決して平和な時代ではなかったかもしれない。だからこそ、21世紀は平和の世紀になってほしい」――この時は、漠然とした思いで楽曲を制作しました。
しかし、その年の9月にアメリカで同時多発テロが勃発しました。「21世紀はこんな幕開けになってしまったのか……」と衝撃を受けました。このことをきっかけに、より意識的に平和への願いを楽曲に込めるようになりました。
今回の全日本吹奏楽コンクールでグロリアが演奏した「オペラ『ある水筒の物語』によるパラフレーズ」は、私にとって、とても大切な作品です。
17年のある日、たまたまラジオをつけると、日米の戦没者の慰霊を続ける静岡の医師・菅野寛也先生のエピソードが流れてきました。
80年前の静岡大空襲でのこと。爆撃機が墜落し、米軍兵士が亡くなりました。その時の遺品が、手の形が刻まれた「黒焦げの水筒」。菅野先生は、亡くなってしまえば敵味方は関係ないと、その水筒を使って日米両国の戦没者の追悼を続けている――このような趣旨の話でした。
この話に心の底から感動しました。その後、知人を介して菅野先生にお会いし、その水筒を見せていただきました。私は「この話を音楽として残したい」と思い、仲間と共に結実させたのが、「オペラ『ある水筒の物語』」です。私は作曲を手がけました。
19年には、私がミュージック・アドバイザーを務める創価大学パイオニア吹奏楽団の委嘱で吹奏楽曲となり、全国大会で同楽団が奏でました。その時の演奏も素晴らしかった。
グロリアは全国大会で何度も金賞を取ってきた楽団です。
でも、私は賞の“色”以上に、良い音楽をつくる楽しさ等を通して、喜びを積み重ね、「自分たちの目指す音楽を後悔なく表現できたのかにこだわること」が最も大事だと思っています。
全国大会で舞台から退場する時、グロリアの皆さんの満面に笑みが輝いていました。それがうれしかったですし、金賞以上の価値があったと思います。
グロリアは純粋に音楽を愛し、切磋琢磨する楽団です。中にはレッスンの残り5分でも、諦めずに駆け付けてくる人もいます。みんな真剣に音楽と向き合っている。だからこそ、素晴らしい演奏ができるのでしょう。
日本の吹奏楽のレベルは世界の中でも高い水準にあると感じます。それぞれが良い個性を持っています。もっと世界に視野を広げ、いろんな表現方法を深められたなら、これほど素晴らしいことはないと思います。
私は来年度の吹奏楽コンクールの課題曲の作曲を担当しています。吹奏楽に限らない、いろんなジャンルの音楽への興味を持てるような工夫をしています。奏者の皆さんには、ぜひとも楽曲を読み解いて演奏に臨んでほしいです。
私が音楽指導の際に確認しているローマの格言に、「栄光を軽んずる者こそ、真の栄光を得るであろう」(『ギリシア・ローマ名言集』柳沼重剛編、岩波書店)とあります。名誉に溺れるのではなく、研さんを積み、音楽の本質を探求し続ける――それが本当の「グロリア(栄光)」を得る道に通ずるのではないでしょうか。
グロリアの皆さんには、「本当の栄光とは何か」を自身に問いかけながら、今後も素晴らしい音楽を奏でてほしいと願っています。
私は昨年から2年間、創価グロリア吹奏楽団の指揮者を務めてきました。本年の全国大会での演奏は、よくぞここまで曲の音楽性を引き出してくれたと感じています。
終演後、客席には感動で涙を流す人もいたそうです。楽曲の背景を知らない人の心をも揺さぶった。これは本当にすごいことです。
思えば、グロリアとの初めての出あいは2001年のこと。楽団からの委嘱で「吹奏楽のための序曲『平和と栄光』」を作曲しました。
「20世紀は二つの大きな戦争があり、決して平和な時代ではなかったかもしれない。だからこそ、21世紀は平和の世紀になってほしい」――この時は、漠然とした思いで楽曲を制作しました。
しかし、その年の9月にアメリカで同時多発テロが勃発しました。「21世紀はこんな幕開けになってしまったのか……」と衝撃を受けました。このことをきっかけに、より意識的に平和への願いを楽曲に込めるようになりました。
今回の全日本吹奏楽コンクールでグロリアが演奏した「オペラ『ある水筒の物語』によるパラフレーズ」は、私にとって、とても大切な作品です。
17年のある日、たまたまラジオをつけると、日米の戦没者の慰霊を続ける静岡の医師・菅野寛也先生のエピソードが流れてきました。
80年前の静岡大空襲でのこと。爆撃機が墜落し、米軍兵士が亡くなりました。その時の遺品が、手の形が刻まれた「黒焦げの水筒」。菅野先生は、亡くなってしまえば敵味方は関係ないと、その水筒を使って日米両国の戦没者の追悼を続けている――このような趣旨の話でした。
この話に心の底から感動しました。その後、知人を介して菅野先生にお会いし、その水筒を見せていただきました。私は「この話を音楽として残したい」と思い、仲間と共に結実させたのが、「オペラ『ある水筒の物語』」です。私は作曲を手がけました。
19年には、私がミュージック・アドバイザーを務める創価大学パイオニア吹奏楽団の委嘱で吹奏楽曲となり、全国大会で同楽団が奏でました。その時の演奏も素晴らしかった。
グロリアは全国大会で何度も金賞を取ってきた楽団です。
でも、私は賞の“色”以上に、良い音楽をつくる楽しさ等を通して、喜びを積み重ね、「自分たちの目指す音楽を後悔なく表現できたのかにこだわること」が最も大事だと思っています。
全国大会で舞台から退場する時、グロリアの皆さんの満面に笑みが輝いていました。それがうれしかったですし、金賞以上の価値があったと思います。
グロリアは純粋に音楽を愛し、切磋琢磨する楽団です。中にはレッスンの残り5分でも、諦めずに駆け付けてくる人もいます。みんな真剣に音楽と向き合っている。だからこそ、素晴らしい演奏ができるのでしょう。
日本の吹奏楽のレベルは世界の中でも高い水準にあると感じます。それぞれが良い個性を持っています。もっと世界に視野を広げ、いろんな表現方法を深められたなら、これほど素晴らしいことはないと思います。
私は来年度の吹奏楽コンクールの課題曲の作曲を担当しています。吹奏楽に限らない、いろんなジャンルの音楽への興味を持てるような工夫をしています。奏者の皆さんには、ぜひとも楽曲を読み解いて演奏に臨んでほしいです。
私が音楽指導の際に確認しているローマの格言に、「栄光を軽んずる者こそ、真の栄光を得るであろう」(『ギリシア・ローマ名言集』柳沼重剛編、岩波書店)とあります。名誉に溺れるのではなく、研さんを積み、音楽の本質を探求し続ける――それが本当の「グロリア(栄光)」を得る道に通ずるのではないでしょうか。
グロリアの皆さんには、「本当の栄光とは何か」を自身に問いかけながら、今後も素晴らしい音楽を奏でてほしいと願っています。
いとう・やすひで 1960年、静岡県生まれ。作曲家。東京藝術大学作曲科、同大学院修了ののち、同大学非常勤講師を務め、現在、洗足学園音楽大学教授。これまで100作以上の吹奏楽作品を発表してきた。現在、創価大学パイオニア吹奏楽団総顧問の山岡政紀氏からの招聘で、同楽団のミュージック・アドバイザーとして指揮者を務めている。
いとう・やすひで 1960年、静岡県生まれ。作曲家。東京藝術大学作曲科、同大学院修了ののち、同大学非常勤講師を務め、現在、洗足学園音楽大学教授。これまで100作以上の吹奏楽作品を発表してきた。現在、創価大学パイオニア吹奏楽団総顧問の山岡政紀氏からの招聘で、同楽団のミュージック・アドバイザーとして指揮者を務めている。