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〈インタビュー〉 日本がとるべき国連外交の進路 2023年12月11日

  • 東洋英和女学院大学名誉教授 滝澤三郎さん

 混迷する世界情勢を前に、日本は国連とどう向き合うべきか。元UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)駐日代表の滝澤三郎氏に聞いた。(「第三文明」12月号から)
 

1948年、長野県生まれ。米国カリフォルニア大学バークレー経営大学院で経営学修士(MBA)、米国公認会計士(USCPA)を取得。大学院修了後、81年に国連ジュネーブ本部に採用。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国連工業開発機関(UNIDO)を経て、最終キャリアは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表。ケア・インターナショナル・ジャパン副理事長。専門は移民・難民政策。編著書に『難民を知るための基礎知識』(明石書店)、『「国連式」世界で戦う仕事術』(集英社)などがある
 
1948年、長野県生まれ。米国カリフォルニア大学バークレー経営大学院で経営学修士(MBA)、米国公認会計士(USCPA)を取得。大学院修了後、81年に国連ジュネーブ本部に採用。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国連工業開発機関(UNIDO)を経て、最終キャリアは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表。ケア・インターナショナル・ジャパン副理事長。専門は移民・難民政策。編著書に『難民を知るための基礎知識』(明石書店)、『「国連式」世界で戦う仕事術』(集英社)などがある  
日本に渦巻く国連無力論の背景

 目下、ウクライナ戦争が長期化し、先の見えない状況に陥っています。また、先日にはガザ地区(パレスチナ自治区)を実効支配するイスラム組織「ハマス」によるイスラエル攻撃が勃発し、中東情勢も予断を許さない状況です。

 こうした事態を前に、「国連は無力だ」といった声が国民の間でも聞かれるようになりました。その証左は近年の統計調査にも表れています。

 アメリカのシンクタンク「ピュー・リサーチ・センター」では、主要14カ国で国連への好感度を尋ねています。2020年の調査では「好ましい」と回答した割合が、日本のみ29%(前年は47%)に落ち込んでいるのです。他の国が59~80%であるのを見ると、非常に低い数値と言えます。

 その背景には、ロシアの暴走を止められない安全保障理事会の機能不全などの要因が挙げられますが、根本的には「国連信仰」とも呼ぶべき幻想と幻滅があると思います。
 

 太平洋戦争に敗れた日本は、国連加盟が遅れました。そうした中で国民の間では国連への憧れや期待が膨らみ、いつしか国連が「世界政府」であるかのように錯覚したのです。そのため、国連が紛争の予防や解決ができない時、幻滅してしまうのです。

 他方、5大国(米英仏中ロ)を筆頭に多くの国は、自分たちの作った国連をツール(道具)と見なしています。つまり、国際社会の中で自国の利益を図る「場」だと認識しているのです。ゆえに過剰な期待を寄せることもなく、うまくいかない時に失望することもないのです。

 ここで強調したいのは、国連が持つ三つの顔――国連本体・国連傘下の専門機関・国連を支援する国際NGO――のうち、少なくとも後者の二つは、現在も機能し続けている点です。実際、UNHCRなど多くの専門機関がウクライナやガザ地区で支援に奔走し、国連と協働する国際NGOや各国市民社会も懸命にこれを支えています。危機の時代だからこそ、この事実を冷静に受け止めることが大切です。
 

中規模国によるネットワークこそ

 では、日本は国連とどう向き合うべきでしょうか。結論から言えば、日本を取り巻く国際環境を踏まえると、国連と関わらずに自国の生存を図るのは現実的ではありません。むしろ、国連とのより良い関わり方を模索すべきです。

 ただし、日本が目指す「安保理常任理事国入り」は、難しいと考えます。そもそも常任理事国であるロシアは、アメリカの追従者と見なす日本の参加を認めませんし、国際社会の側も、普段の国際会議で積極的に発言しない日本に特別の活躍は期待していないでしょう。

 また、日本の国際的地位の低下もそれを許しません。OECD(経済協力開発機構)の統計等によれば、2021年の世界のGDP(国内総生産)に占める日本の割合は、5%(約5兆ドル)台にまで落ち込んでいます。それでも米中に続く3位となっていますが、今後も長期低下の見通しです。

 つまり、あらゆるインジケーター(指標)は、日本が長期的に衰退し、いわゆる「中規模国」になることを示唆しているのです。持ち得る外交リソース(資源)にも限りがある以上、他の目標達成に活用すべきと考えます。
 

 そこで国連との関わり方で興味深いのが、北欧のスウェーデンです。日本の約1・2倍の国土に1000万人が暮らし、GDPは世界第24位(2022年)。日本とは開きがありますが、国連での存在感は大きいものがあります。例えば、国連が目標に掲げる「対GNI比0・7%」を達成しているのです。

※対GNI比……ODA(政府開発援助)の国民総所得に対する比率。2021年の日本は0.34%

 加えて、紛争予防、人道支援、SDGs推進など、世界規模の諸課題について積極的に意見を述べ、多数のアイデアやノウハウも提供。民主主義の理念を共有できる国々とも幅広く連携し、「連帯の力」で国際社会におけるプレゼンス(存在感)を高めています。

 この点、日本もスウェーデンのような姿勢で国連に関わり、国際社会におけるプレゼンス向上を目指すべきと考えます。具体的には、まずアジアにおける地盤を固め、次いで北欧諸国やカナダ、オーストラリアなど、理念を共有できる中規模国のネットワークを構築するのです。
 

 そうした背景をもとに、国連における発言力を高めていく。もちろん、日本のプレゼンスが高まったからといって、ただちにすべての問題が解決し、国連改革が達成されるわけでも、日本の安泰が確保されるわけでもありません。

 それでも、平和を希求する諸国が、連帯して声を上げ続けることは決して無価値ではないのです。一例を挙げれば、「保護する責任」の概念です。もともと国連憲章第2条第7項は、主権国家への内政干渉を禁じています。このため、独裁者による自国民虐殺などを招来してきました。

 そこでカナダは、2001年に国際委員会を立ち上げ、自国民保護の義務を果たさない国に代わり、国際社会が当該国民を保護する責任を負う、との新概念を提唱。2006年4月に国連安保理決議として認めさせたのです。
 

世界の若者と平和への連帯を

 こうした確固たるビジョンに基づく国連外交を成し得るためには、国内における安定的な政治基盤やそれを支える良識ある市民社会の存在が不可欠です。

 国連中心主義を掲げる日本において、公明党はその理念を体現するように日本の人道支援策をリードしてきました。ごく最近でも入管法(出入国管理及び難民認定法)の改正に尽力し、今年12月からは「補完的保護対象者」の認定制度が始まります。これまで国連難民条約上の「難民」に該当しなかった紛争避難民を、準難民として保護する仕組みが始まるのです。同制度は、海外の学識者や専門家から高い評価を受けています。

 そして、公明党がこうした活躍ができるのも、国連を通じた平和運動をグローバルに展開する支持母体・創価学会の存在が大きいのでしょう。

 私はこれまで、さまざまな場面で創価学会の皆さんと関わりを持ちましたが、いつも「若い人が本気で平和のために取り組んでいる。素晴らしいな」と思ってきました。近年も、国際機関で働くことを目指す創価大学の学生や創価高校の生徒と会っていますが、その目の輝きや平和への思いに触れるたびに、「このような若者がいること自体、世界にとっての一筋の希望だ」と受け止めています。

 とりわけ、冒頭の国連無力論を打ち消していくためには、若い世代へのアプローチが不可欠です。ぜひ若い皆さんの力で、日本・世界の若者に、平和について考えることの尊さ、行動することの大切さを伝えてほしいと思います。

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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