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〈Seikyo Gift〉 伝統と革新がいいあんばい 人気ベーカリー3代目〈信仰体験〉 2024年4月27日

  • 私らしく ひたむきに
「精いっぱい」の積み重ねを貫く山本さん。その“ひたむきさ”の先に、笑顔の花々が咲き誇る
「精いっぱい」の積み重ねを貫く山本さん。その“ひたむきさ”の先に、笑顔の花々が咲き誇る

 
 【愛知県岡崎市】「道の駅で食べたお宅の食パンが、とってもおいしくて、ぜひお店でも、と買いに来ました」。県外から訪れた女性客の言葉に、しばし、沈黙の店主。感激のあまり、涙目に。心熱きマダム・ナオミこと山本直美さん(58)=地区女性部長。知る人ぞ知る、パンと洋菓子の名店「ヤマモトベーカリー」の3代目だ。
 

労を惜しまぬパン作り

 外観はどこにでもある街のベーカリー。だが、侮ることなかれ。提供品目は70近くに及ぶ。

 店の奥にある工房は、決して広くはない。それでも、この品ぞろえをまかなえるのは、毎日午前2時過ぎから作り出す、労を惜しまぬ誠実さにある。

 開店は午前9時。時間との勝負だ。
 定番のメロンパンから変わり種の菓子パンや惣菜パン。焼き菓子に、創作ケーキも。
 どれもこれも、芳しい香りを放ち、艶やかな見栄えで、まるで手招きするかのよう。

 〈辛くないので子どもさんでも食べられます〉〈見た目はジミですが生地にはクルミがたっぷり〉等々、素材や味など商品説明も細やかに。

 だが、お客さま視点が高じてしまい、〈上あごにひっつきます〉などと、力いっぱい筆も滑らせる。

 今ではすっかり創価学会の理解者となった87歳の父・美男さんと、3年前から店に入った長男・大喜さん(33)=男子部員=の、3世代で店を切り盛り。

 創業から百年近くにもなるが、“今、良い物を提供できているかが肝心”との父のこだわりから、逆サバを読み、“創業はだいたい80年くらい”と煙に巻く。

圧巻の品ぞろえは、十人十色のおもてなし
圧巻の品ぞろえは、十人十色のおもてなし

 
 「お客さんが見せてくれる何ともいえない、あの笑顔。ありきたりですけど、そのご褒美があるから頑張れます」と山本さん。

 とりわけ疲れが吹き飛ぶのは、子どもたちが喜ぶ姿。
 十数年前から週1回、地元の幼稚園から「パン給食」を引き受けている。園児にも大好評だ。

 また、保育園からも誕生日会用のケーキ作りを、30年ほど前から依頼されている。

 「昔はへこみやすい性格で、何でも卑下してしまう自分が嫌で。店を継ぐ気もさらさらなし。でも今は、店を愛してくれる人たちのため、挑戦できる喜びをかみ締めています。心の財、功徳って、こういうことなのかしら」

 “口福”は幸せの扉を開く――それを届けるのが使命だと、心の底から思えたのは学会に入ってからだ。

自体顕照のことわり

 手作り、無添加にこだわったのは、父が店に入ってからのこと。

 食パンやアップルパイは、たちまち評判となり、山本さんが物心つく頃には繁盛店に。

 たくさんの笑顔があふれる店は、突然、試練に見舞われた。

 陰で支える母・良子さんが、がんに倒れ、1年後、帰らぬ人に。

 当時、山本さんは中学1年生。“母親がいないことを同情されたくない”と思いつつも、多感な時期ゆえ、悩みは尽きない。
 一生懸命、仕事で家族を支える父には、迷惑をかけたくなかった。

 高校に入っても人間関係で悩むが、相談する相手もおらず、孤独に包まれ、自分を卑下しては落ち込む日々。

 そんな娘を見かねて、父は言った。
 「店、手伝わないか」

 パン職人になりたいわけではなかった。

 だが、父の助けとなるならば……山本さんが、ようやく首を縦に振ったのは18歳の春のこと。

 23歳で結婚。仕事、子育てと目の回る忙しさが続くが、心の穴は空いたまま。
 “このまま年とって、人生、終わっちゃうのかな”

 不安と徒労感にさいなまれていた時、かつてアルバイトに来ていた女性から、仏法の話を聞いた。

 懐かしさもあってか、山本さんは堰を切ったように、思いの丈を打ち明けた。

 一つ一つの悩みに耳を傾けてくれ、「変毒為薬」の信心、「自他共の幸福」を目指す学会の哲学について教えてくれた。

 「“毒を薬に変えるってすごくない? 自分だけでなく周りも幸福にしていくって、最高じゃん”って感動してしまって」

 山本さんは1997年(平成9年)、自ら進んで入会した。

 座談会に訪問・激励にと、「励まし合って生きる」という環境に身を置くなかで、いつも見てきた日常が、全く違って映るようになった。

 ひたむきな父のパン作り、小躍りするように笑顔で店を後にするお客の姿――。
 “この道を、私らしく歩めばいいんだ”

 仏法で説かれる「自体顕照」のことわり。
 山本さんは、輝きを放ち始めた。

尊敬できるたくさんの同志がいる。励まし合う中で、山本さん㊥は自分らしく輝く
尊敬できるたくさんの同志がいる。励まし合う中で、山本さん㊥は自分らしく輝く
 
“口福”は幸せの扉を開く
口に入れると、あら不思議。頰が自然と緩みだす
口に入れると、あら不思議。頰が自然と緩みだす
 
「本物」は色あせない

 人気店にも苦難の冬がやってきた。

 20年ほど前から、周囲に大手スーパーや複合商業施設が進出。それに伴い、市内の個人商店は少しずつ、看板を下ろしていった。

 さらに10年前からは、高級食パンがブームに。ブランド各社が競合し、岡崎にも、その波が押し寄せた。

 「“『冬は必ず春となる』と御書にあるけれど、うちの冬、長すぎません?”と愚痴っては先輩に励まされて」

 廃業の二文字が何度も頭をよぎるなか、山本さんを支えたのは池田先生の指針だった。

 「一番苦労した人が、一番幸せになる」――師の言葉を信じ、学会活動と仕事に励み抜いた。

 耐えに耐え、成長曲線が上向きに戻ったのは、4年前のこと。

 要因は、美男さんが60年以上も貫いてきた、ひたむきなパン作りの姿勢にあった。

 一時は高級食パンに移ったお客も、店に戻ってきてくれた。昔ながらのアップルパイも客足の回復を助けた。

 苦境のなか、ヒット商品も生まれた。

 その一つが、だし巻きテイストの「卵サンド」。甘い卵焼きが食べたいと、わが子にせがまれたのがヒントになった。

 長男・大喜さんが作る「ベーコン・エピ」など、売れ筋商品が増えていく。

 最近では、山本さんが作るオーダーメードの“映える”デコレーションケーキも人気を博している。

 評判を聞きつけ、県外からのお客も増えた。

 「いろんな食パンを食べたけど、お宅のがやっぱり一番よ!」

 人の舌は、“秋の空”のように気まぐれだ。
 それでも、心地よい笑顔を見せてくれる人たちのために、心を込めて、今朝も工房はフル回転する。(3月16日付)

後継の道を歩み始めた大喜さん㊧
後継の道を歩み始めた大喜さん㊧

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