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〈信仰体験〉 娘のクローン病に向き合う 2024年5月29日

  • 寧々ならきっと大丈夫
  • 「祈りってね、自分を信じることなんだよ」
明るい未来を信じて、どんな時も共に歩んできた、森合さん㊧と寧々さん。楽しそうに走る娘を見ると母の顔には笑みがこぼれる
明るい未来を信じて、どんな時も共に歩んできた、森合さん㊧と寧々さん。楽しそうに走る娘を見ると母の顔には笑みがこぼれる

 
 【山形市】幼い頃から読書が好きだった。うれしい時も、つらい時も、森合文香さん(42)=白ゆり長=のそばには本があった。特に、長女の寧々さん(11)=小学6年=が、国の指定難病「クローン病」(炎症性の腸疾患)と診断されてからは、池田先生の書籍を何度も開いてきた。「どれほど支えられたか分かりません」。一進一退の病状は続いている。ただ師弟に生き抜く森合さんは、悲観を全く感じさせない。
 

 
 ランドセル姿が板についてきた小学2年の春、寧々さんの唇が腫れた。
 2020年(令和2年)5月、かかりつけ医に診てもらうが、「様子を見ましょう」とのこと。そのうちに微熱や口内炎、腹痛が続くように。
 総合病院の皮膚科、小児科、消化器内科、婦人科を受診。それでも病名は分からない。どんどん体調は悪くなった。
 「寧々、子ども病院に行こうよ」。だが、これまでの検査に恐怖を覚えた寧々さんは、嫌がった。
 
 背中を押してくれたのは、看護師だった実母・橘啓子さん(65)=女性部副本部長=だった。21年6月、県外の子ども病院へ。内視鏡検査の結果、「クローン病」と診断された。消化管に慢性的な炎症が生じる病。“やっと治療ができる”。入院生活が始まった。
 お昼、森合さんは個室で寝息を立てる娘の手を握る。“寧々は大好きなハンバーガーやフライドポテトを一生、食べられないのかな”。ふと窓の外を眺めると鉛色の空が広がっていた。
 

●里芋の煮物

 誰かと話したい。だがコロナ禍は距離を求めてきた。寧々さんを心配する夫・広さん(50)や長男・漣さん(15)=中学3年=との面会も、外出もできなかった。
 スマホで「クローン病」「経過」と調べることが多くなった。ため息も増えていった。そこに1通のメッセージが届いた。
 〈入り口に来られる?〉
 母からだった。
 
 病院の出入り口。啓子さんから手提げを受け取った。ほんのり温かかった。
 「祈ってるからね」
 「うん、ありがと」
 短い会話をして病室に戻る。中身を見ると、里芋の煮物など、手作りのおかずが入っていた。病院食を口にする寧々さんの隣で、森合さんは煮物を食べた。“母の存在”の大きさを感じた。 
 約2カ月後の8月3日、寧々さんは退院した。
 

●信じ続ける人

 寧々さんは日常生活で、薬の服用に加え、消化管への刺激が少ない食べ物しか口にできなくなった。
 学校で4時間目の授業が終わる。給食を食べる輪の中で一人、持参した弁当を食べた。
 夕方、家族で食卓を囲む。寧々さんだけ違うおかずが並んだ。隣に座る兄が食べるハンバーグを、寧々さんは食べられなかった。
 
 ある夜、日頃の我慢が爆発した。
 「なんで私だけ、こんなに我慢しなくちゃいけないの!」
 放り投げた8本のペンがリビングの床に散らばった。泣き声だけが響いている。森合さんは黙って、転がるペンを拾っていった。
 深夜、森合さんは祈った。“大丈夫、大丈夫”。自分に言い聞かせるように。
 
 食事制限を心がけても、寧々さんは時折、激しい腹痛に襲われた。入退院も繰り返した。森合さんの心は引き裂かれそうになった。“乗り越えてみせる”との自信も薄れていった。
 そんな時だった。
 
 〈たとえ諸君が、自分で自分をだめだと思っても、私はそうは思わない。全員が使命の人であることを疑わない〉
 『青春対話1』につづられる池田先生の言葉が、迷いの生命を覆していく。
 〈今がどうであれ、すばらしい未来が開けることを私は絶対に確信しています〉
 
 ページをめくるほどに心は強くなった。“私には信じ続けてくれる人がいる”
 薬の副作用や合併症の可能性など、心配事を挙げれば切りがない。
 「だから前だけを見ることにしました」
 床にペンが散乱する日があっても、再入院をしても、森合さんは素晴らしい未来を信じて疑わなかった。
 

●隣り合って座る

 家族で出かけた時のこと。車の助手席に座る寧々さんが、ハンバーガー店を目で追っていた。
 医師のアドバイスを踏まえ、森合さんは試行錯誤を重ねた。“これなら”。脂質の少ないパンと鶏肉で、特製のハンバーガーを作ってみせた。
 

森合さん㊨の調理中に寧々さんがつまみ食い
森合さん㊨の調理中に寧々さんがつまみ食い

 
 病と向き合う日々の中で、母と娘が新たに始めたことがある。一緒に祈ることだ。
 「寧々、私たちの祈りってね、自分を信じることなんだよ」
 森合さんは少女部時代に、合唱団の練習を通して、そのことを教わった。大人になった今も自身に言い聞かせていることでもあった。寧々さんは今、小学6年生。当時の自分と娘を重ねては、思いの丈を語っている。
 

 
 寧々さんは服薬しながら、登校している。
 吹奏楽部に入った。クラリネット奏者として2年連続で「吹奏楽コンクール」の東北大会に出場。会場にはいつも、寧々さんを見守る森合さんの姿があった。
 帰宅後、くたくたになった寧々さんと一緒にハンバーガーを食べた。「おいしいね」。母と娘はかみ締めた。
 

森合さん㊧が作った特製ハンバーガーを寧々さんと一緒に食べる
森合さん㊧が作った特製ハンバーガーを寧々さんと一緒に食べる

 
 発症から4年。自宅の仏間で隣り合って座るのが日課になった。ある日、勤行・唱題を終え、寧々さんが口を開いた。
 「お母さん。祈るとさあ、私は大丈夫、病気も絶対に良くなるって思えるんだ!」
 寧々さんを見つめる森合さんは、笑顔でうなずいた。
 “寧々なら今後、どんなことが起きても、きっと大丈夫だね”
 森合さんの心には青空が広がっていた。
 (山形支局)
 

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