工務店を営む友人の元を訪れた時のこと。彼の腰袋には、年季の入った工具が差してあった。亡き親方から譲り受けたという▼駆け出しの頃、寸法の採り方、木の削り方、釘の打ち方など、丁寧に取り組むよう徹底的にたたき込まれたこと。「これから住む家族の顔を思って作業しろ」と言われたこと……。道具を見るたび、そうした薫陶を思い出すと教えてくれた▼「規矩」という言葉がある。大工道具に欠かせぬコンパス（規）とさしがね（矩）を指すが、「物事を考える基準」「規範」との意で使われてきた。親方の姿勢は彼にとって、まさに規矩だったに違いない▼信仰にも規矩とすべきものがある。師匠の存在だ。「『人生の師』をもつことは、『生き方の規範』をもつことであり、なかでも、師弟が共に、人類の幸福と平和の大理想に生き抜く姿ほど、すばらしい世界はありません」と池田先生。この言葉を終生、貫かれた▼きょうで池田先生の逝去から600日となる。戸田先生が亡くなって同じ頃、池田先生は日記に「師恩を忘るる卑劣な徒だけにはなることなかれ」とつづり、師の遺訓のままに生き抜く「真実の師弟」について思いをはせた。我らもまた、師恩を知り、師恩に報いる人生を貫きたい。（麻）

　工務店を営（いとな）む友人の元を訪（おとず）れた時のこと。彼の腰（こし）袋（ぶくろ）には、年（ねん）季（き）の入った工具が差（さ）してあった。亡（な）き親（おや）方（かた）から譲（ゆず）り受（う）けたという▼駆（か）け出（だ）しの頃（ころ）、寸（すん）法（ぽう）の採（と）り方、木の削（けず）り方、釘（くぎ）の打ち方など、丁（てい）寧（ねい）に取り組むよう徹（てっ）底（てい）的（てき）にたたき込（こ）まれたこと。「これから住む家族の顔を思って作業しろ」と言われたこと……。道具を見るたび、そうした薫（くん）陶（とう）を思い出すと教えてくれた▼「規（き）矩（く）」という言葉がある。大工道具に欠（か）かせぬコンパス（規）とさしがね（矩）を指（さ）すが、「物事を考える基（き）準（じゅん）」「規（き）範（はん）」との意で使われてきた。親方の姿（し）勢（せい）は彼にとって、まさに規矩だったに違（ちが）いない▼信（しん）仰（こう）にも規矩とすべきものがある。師（し）匠（しょう）の存（そん）在（ざい）だ。「『人生の師』をもつことは、『生き方の規範』をもつことであり、なかでも、師弟が共に、人類の幸福と平和の大理想に生き抜（ぬ）く姿（すがた）ほど、すばらしい世界はありません」と池田先生。この言葉を終（しゅう）生（せい）、貫（つらぬ）かれた▼きょうで池田先生の逝（せい）去（きょ）から600日となる。戸田先生が亡くなって同じ頃、池田先生は日記に「師恩を忘（わす）るる卑（ひ）劣（れつ）な徒だけにはなることなかれ」とつづり、師の遺（い）訓（くん）のままに生き抜く「真実の師弟」について思いをはせた。我（われ）らもまた、師恩を知り、師恩に報（むく）いる人生を貫きたい。（麻）