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マレーシア国際イスラム大学思想・文明研究所での宗教間交流行事 原田会長の講演(要旨) 2025年8月25日

曇りなき眼で開く人間主義の連帯──池田大作先生の「如実知見」
世界の良識と共に人類の平和を築く

 一、8月24日は、創価学会の第3代会長であり、私たちの師である池田大作先生が1947年、19歳で信仰の道、師弟の道を歩み始めた記念すべき日でもあり、深い感慨を覚えずにはいられません。
 本日は師・池田先生から学んだ人間主義の哲学の一端をお話しさせていただきます。
 一、法華経では、釈尊が今世で初めて仏になったのではなく、無限の過去から無限の未来まで常に存在する「永遠の仏」であることが明かされました。のみならず、一切衆生――あらゆる人、この世に生きとし生けるもの全てに仏の生命があることが説かれています。その法華経28章(品)の中でも最重要と位置付けられる寿量品第16には「如来如実知見三界之相」という経文があります。「如来」すなわち仏は、「三界」――迷いと苦悩に満ちた現実世界を、曇りなき眼で、ありのままに知見していると説かれます。この経文について、私どもが信奉する日蓮大聖人は、ここでいう如来とは、釈尊だけでなく衆生のことである。また如来が知見している三界とは「生老病死」という現実の苦悩のある社会である。その生死の苦しみや恐怖から逃れようとすることを「迷い」といい、永遠の生命に備わる働きとしての生死を知見することを「悟り」というのである、と仰せになりました。
 この現実世界にあっては、誰人も生老病死から逃れることはできません。しかしそれも、過去・現在・未来を貫く法華経の三世の生命観からすれば、本然的に生命に備わった働きであり、「死」はすなわち「終わり」を示すものではない。夜に睡眠をとって翌日の活力とするように、死は次の生への充電期間のようなものである。ゆえに「永遠の過去」から「永遠の未来」の連続性の中で、「今」から目を背けることなく、責任を持った生き方を選びとっていく――これが私どもの人生観となっています。

青年こそ宝

 一、こうした日蓮大聖人による法華経の解釈は「御義口伝」と題する書に記されています。法華経を身読したがゆえに、経典通りの数々の難を受け、それでも民衆救済の信念を貫き通して会得した法華経の真髄を、大聖人は晩年、弟子たちに請われて講義されました。この日蓮仏法の核心ともいうべき「御義口伝」を、池田先生は第3代会長に就任して2年後という、多忙を極めた1962年から5年の歳月をかけ、講義してくださいました。相手は学生たちであり、実は、そのうちの一人が私でした。
 先生の講義は、大学で受けていた授業とは全く違いました。信仰者として経典を学ぶ姿勢、持つべき求道心を峻厳に指導してくださいました。その上で、深遠ゆえに難解な仏法の哲理を、自分の命、自分の生活、自分の人生に照らして拝していけるよう、常に、具体的に、明快に講義してくださいました。のみならず、貧乏学生が多かった受講者の生活や食事、交通費のことまで心配してくださいました。講義の内容だけでなく、まさに厳父慈母のごとき先生の振る舞いこそが、私を含めた受講者の思想、信仰、生き方の原点となりました。
 貴国のマハティール元首相と池田先生が2000年に会見した際、はじめに話題とし、完全に一致をみたのも「青年こそ宝」という一点でした。人類の未来を担う青年を、どこまでも愛し、守り、育む――この先生の行動は弟子に受け継がれ、年間テーマに「青年学会」を掲げる私どもの行動原理になっています。これからも私どもは、貴国はもとより世界中で、未来を担う青年の育成に全力をあげていく決心です。

万人が尊厳の存在

 一、とともに、私どもは世界の平和と相互理解への貢献を、いっそう力強く果たしていきたい。そのための鍵も、「如実知見」にあると確信しています。
 池田先生は1968年9月8日、平和と共存の未来を見据え、日本と中国の国交正常化を提言されました。当時は米中ソの対立が激化し、日本国内では中国寄りの発言をしただけで猛烈な批判を浴び、命の危険まであるような時代でした。しかし先生は友好の信念を堂々と語られました。提言を披露されたのは、この時も学生たちの前でした。
 4年後には、さまざまな困難を乗り越えて日中の国交が結ばれ、74年5月に池田先生は初めて中国を訪問されることになりました。私も派遣団の一員として懸命に事前準備に当たりました。関係者から話を聞き、難解な本や資料を買い集めては山のように積み上げました。その準備室に、ある日突然、池田先生が来られました。「よくやっているな」と褒めていただけるかと思いきや、先生は語気鋭く「何をやっているのかと思えば案の定だ。資料ばかり集めても、真実の中国が分かるわけではない。かえって先入観に左右され、真実の姿を把握できない。大事なことは、仏法者として『如実知見』していくことである。集めた資料は全部、机からどけなさい」――こう言われ、机上の本はバサッと床に下ろされてしまいました。私は目の覚めるような思いでした。
 この初訪中から一貫して池田先生は「如実知見」で中国と向き合われました。万人が仏の生命を具えた尊厳無比の存在と説く仏法の実践者として、人と会い、語り、友情を結び、信頼を築く。先生は要人や関係者だけでなく、何のてらいもなく市井の人々にも声をかけられました。一人の少女から「おじさんは、何をしに中国に来たのですか?」と問われた際、先生は「あなたに会いに来たのです」と即答された場面もありました。政治的な信条や立場を超えた、この人間主義の行動に、同年12月の2度目の訪中で、重篤な病の床にあった周恩来総理は、周囲の反対を押し切って会見するという信義で応えてくださいました。周総理の命がけの信義に池田先生も信義で応え、生涯、両国友好への貢献を続けました。
 振り返れば、バカール学長が池田先生を知るきっかけとなったトインビー博士との対談や、貴大学出版社からマレー語版を刊行していただいたインドネシアのワヒド元大統領との対談等、先生の1600回以上となった世界の指導者・識者との語らいは一回一回が「如実知見」の実践でありました。
 実りある語らいのためには、前提となる知識や教養が不可欠であることは当然です。しかし、いくら情報を頭に詰め込んでも、相手をどこまでも尊敬し、深く知り合おうとする開かれた心がなければ真の友情は築けません。差異へのこだわりを乗り越え、同じ人間としての共通項、一致点を見いだす作業には、根幹となる哲学が不可欠です。仏法の哲学を根本として、人間を、社会を、世界を「如実知見」してきたからこそ、池田先生の語らいには、新たなる価値創造があった――数々の生命と生命の触発の対話に同席させていただいた一人として、こう確信しています。
 これほどグローバリズムの広がった世界にあって、イスラムと仏教の間には、いまだ深い相互理解が築かれているとはいえません。日本にあってもイスラムに対するステレオタイプにとらわれた誤解や偏見が渦巻いているのが実情であると言わざるを得ません。だからこそ貴研究所が、両者の共通点を見いだし、平和と共存、人類共通の課題解決への貢献を果たされようとする尊き姿勢には、深い共感と尊敬を抱かずにはいられません。私どもも、いっそうの曇りなき眼でイスラムの叡智を「如実知見」し、人類の未来のために、貴研究所との連帯をさらに強固にしていきたいと心から念願しています。

共通の価値

 一、ベルグート前所長は6月の会談の折、イスラムの中核をなす四つの価値を教えてくださいました。
 第一に「慈悲」。「御義口伝」でも「自他共に智慧と慈悲と有るを、『喜』とは云うなり」(新1061・全761)と仰せの通り、仏法でも慈悲は根幹となる価値観です。
 第二は「名誉ある代理人」としての倫理観であり、その使命が神、自分自身、さまざまな世界観を持つ他者、そして宇宙との関係を築くことにあると教えてくださいました。一方、私どもは法華経に登場する末法の民衆救済のために出現した無数の菩薩である「地涌の菩薩」と自らを捉え、大聖人が「地涌の菩薩の出現にあらずんば唱えがたき題目なり」(新1791・全1360)と仰せになった、宇宙の根源の法である南無妙法蓮華経を朗々と唱えながら、「良き市民、良き国民」として模範の人生を生き、自他共の幸福を目指しています。
 第三は「平和」。“一人を殺した者は全人類を殺したのと同じ”とのコーランの倫理観は、「不殺生戒と申すは一切の諸戒の中の第一なり」(新1463・全1075)、「命と申す物は一身第一の珍宝なり」(新1308・全986)と大聖人が仰せになられた仏法の生命尊厳の教えと深く共鳴しています。
 第四は「正義」。大聖人が天変地異や飢饉、疫病など、塗炭の苦しみを味わう民衆のために、時の最高権力者に送ったのが「立正安国論」――正法正義を立てて国を安穏ならしめる諫暁の書でした。正義によって立ち、正義によって民衆の幸福を実現することこそ私どもの永遠の信念です。
 語り合えば合うほど、学べば学ぶほど、イスラムの教えへの共感は、いっそう深まります。それは、時代を超えて多くの民衆に支持されてきた世界宗教が、本質的に「人間の幸福」「世界の平和」という共通の価値を志向するゆえではないかと推察します。
 中国初訪問の74年、池田先生はアメリカも訪れ、青年たちとの懇談で、こう言われました。「宗教があって人間が存在するのではなく、人間のために宗教があるのです。宗教が人間から完全に遊離してしまったところに現代文明の行き詰まりがある」と。そして、同行していた私たちに向かって、「今、話したことは非常に重要なことだよ。よく覚えておきなさい」と念を押すように言われました。
 貴国のことわざに「木は実をつけるために生き、人は社会に貢献するために生きる」との素晴らしい言葉があると伺いました。信仰も、人生も、対話も、友情も、根本の目的を見失わないところに真の充実があり、価値創造がある。地道であっても、目の前の一人への誠心誠意の行動の先に、人として成し得る社会への貢献、世界平和という果実があると信じます。
 池田先生の小説『人間革命』『新・人間革命』の根幹のテーマは「一人の人間における偉大な人間革命は、やがて一国の宿命の転換をも成し遂げ、さらに全人類の宿命の転換をも可能にする」でした。
 今、人類は共に立ち向かわざるを得ない諸問題を抱えています。私どもは無限の可能性をもつ「一人の人間」として、世界の同志と共に、とりわけ青年たちと共に、師である池田先生の理想を受け継ぎ、思想を体現し、行動を永遠に共にして、曇りなき眼で21世紀を如実知見して、この解決に挑んでいきたい。そして貴大学・研究所に代表される真の理性と知性をもつ世界中の良識と善の連帯を広げ、人類の平和と幸福の未来に貢献しゆく決意です。

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