〈教育本部ルポ・つなぐ〉第17回=「使命のない子なんて、誰もいません」
〈教育本部ルポ・つなぐ〉第17回=「使命のない子なんて、誰もいません」
2024年12月28日
8年前まで都内の区役所に勤めていたという。
鈴木嘉行さん(副本部長)、55歳。今は小学校で特別支援学級「かもめ組」の担任をしている。「1時限目の『かもめタイム』を始めます!」
8年前まで都内の区役所に勤めていたという。
鈴木嘉行さん(副本部長)、55歳。今は小学校で特別支援学級「かもめ組」の担任をしている。「1時限目の『かもめタイム』を始めます!」
鈴木嘉行さん
鈴木嘉行さん
朝の会。楽しみにしている給食のメニューをみんなで確認
朝の会。楽しみにしている給食のメニューをみんなで確認
机と椅子を端に寄せた教室で、児童たちが1列に並んだ。床には、青色のビニールテープが一直線に貼られている。一人また一人、その上を歩き出した。鈴木さんが笑顔で呼びかける。「前足の『かかと』と、後ろ足の『つま先』を、順番にくっつけながら進もう」
机と椅子を端に寄せた教室で、児童たちが1列に並んだ。床には、青色のビニールテープが一直線に貼られている。一人また一人、その上を歩き出した。鈴木さんが笑顔で呼びかける。「前足の『かかと』と、後ろ足の『つま先』を、順番にくっつけながら進もう」
両手でバランスを取りつつ一歩一歩。その先で鈴木さんが待っている。「足元じゃなく、前を見て。ほら、このイケメンの顔を見て!」。児童が思わず吹き出した。みんな楽しそう。さらに後ろ歩きで進んだり、左右にジャンプしたり……。
「体幹」「感覚」を鍛える遊びらしい。発達障がいのある児童の中には、感覚が未発達の子が少なくない。感覚は「脳の栄養」といわれる。その発達が集中力、情緒の安定感、対人関係の力を高め、自己肯定感を育む基盤にもなるという。
両手でバランスを取りつつ一歩一歩。その先で鈴木さんが待っている。「足元じゃなく、前を見て。ほら、このイケメンの顔を見て!」。児童が思わず吹き出した。みんな楽しそう。さらに後ろ歩きで進んだり、左右にジャンプしたり……。
「体幹」「感覚」を鍛える遊びらしい。発達障がいのある児童の中には、感覚が未発達の子が少なくない。感覚は「脳の栄養」といわれる。その発達が集中力、情緒の安定感、対人関係の力を高め、自己肯定感を育む基盤にもなるという。
テープの上を歩く子どもたちにエールを送る
テープの上を歩く子どもたちにエールを送る
タンバリンをたたいて、歩くテンポを次第に上げると、児童はさらに盛り上がる
タンバリンをたたいて、歩くテンポを次第に上げると、児童はさらに盛り上がる
かもめタイムでは「大縄跳び」も
かもめタイムでは「大縄跳び」も
なぜ鈴木さんは、特別支援教育の世界に飛び込んだのか。「自閉スペクトラム症のある娘のことで悩み、同じような困難を抱える子どもたちを支えたいと思ったからです」
長女・創心さん(女子学生部員)は、他者の気持ちや文章の理解が難しい。小学生の時、いじめに遭った。担任から「娘さんの行動が遅いから、周りのみんなもイライラするんです」と言われてしまう。発達障がいへの理解が乏しかった時代。担任も対応に悩んでいたに違いない。
鈴木さんは決心する。「だったら、自分が」。42歳で創価大学通信教育部へ。働きながら勉強を重ね、教員採用試験に合格した。
なぜ鈴木さんは、特別支援教育の世界に飛び込んだのか。「自閉スペクトラム症のある娘のことで悩み、同じような困難を抱える子どもたちを支えたいと思ったからです」
長女・創心さん(女子学生部員)は、他者の気持ちや文章の理解が難しい。小学生の時、いじめに遭った。担任から「娘さんの行動が遅いから、周りのみんなもイライラするんです」と言われてしまう。発達障がいへの理解が乏しかった時代。担任も対応に悩んでいたに違いない。
鈴木さんは決心する。「だったら、自分が」。42歳で創価大学通信教育部へ。働きながら勉強を重ね、教員採用試験に合格した。
絵本の読み聞かせでリラックスする場面も
絵本の読み聞かせでリラックスする場面も
わが子にも転機が訪れる。2019年、創価学会未来部主催の英会話寸劇コンテスト「E―1グランプリ」に、当時中学3年の創心さんが挑戦した。東京・北区の女子未来部員たち3人とチームを組む。だが、英文をなかなか覚えられない。
チームメートや担当者は「大丈夫!」「私も同じだよ」と、ありのままを受け止め、励ましてくれた。懸命の努力が実を結び、創心さんの演技力も開花して、全国大会出場を果たす。「励まし」と「共感」が心をつなぐことを教えてもらった。
わが子にも転機が訪れる。2019年、創価学会未来部主催の英会話寸劇コンテスト「E―1グランプリ」に、当時中学3年の創心さんが挑戦した。東京・北区の女子未来部員たち3人とチームを組む。だが、英文をなかなか覚えられない。
チームメートや担当者は「大丈夫!」「私も同じだよ」と、ありのままを受け止め、励ましてくれた。懸命の努力が実を結び、創心さんの演技力も開花して、全国大会出場を果たす。「励まし」と「共感」が心をつなぐことを教えてもらった。
2019年11月に東京・八王子市の創価大学で行われた「E-1グランプリ」の全国大会。東京・北総区のチーム「MIX☆シスターズ」のメンバーが躍動した(右端が創心さん)
2019年11月に東京・八王子市の創価大学で行われた「E-1グランプリ」の全国大会。東京・北総区のチーム「MIX☆シスターズ」のメンバーが躍動した(右端が創心さん)
地区の創価家族と。前列左から右へ鈴木嘉行さん、長女・創心さん、妻の敬子さん
地区の創価家族と。前列左から右へ鈴木嘉行さん、長女・創心さん、妻の敬子さん
鈴木さんが教育実践で心がけてきたことも、子どもたちへの励ましであり、保護者への共感にほかならない。児童一人一人の良いところを毎日、一つは見つけて、その日のうちに伝えて褒める。保護者の話に耳を傾ける「対話の時間」をつくる。共通して届けているメッセージは「使命のない子なんて、誰もいません」。
前任校では、自閉スペクトラム症で運動障がいもある児童・陸斗さんに約2年間、伴走した。不登校で落ち込んでいた状態から、両親も周囲も驚くほどの明るさと自信を取り戻す。鈴木さんが、多くの教職員たちを前に行った「研究授業」で、クラスメートの中心者としてもり立てたのは、ほかならぬ陸斗さんだった。
鈴木さんが教育実践で心がけてきたことも、子どもたちへの励ましであり、保護者への共感にほかならない。児童一人一人の良いところを毎日、一つは見つけて、その日のうちに伝えて褒める。保護者の話に耳を傾ける「対話の時間」をつくる。共通して届けているメッセージは「使命のない子なんて、誰もいません」。
前任校では、自閉スペクトラム症で運動障がいもある児童・陸斗さんに約2年間、伴走した。不登校で落ち込んでいた状態から、両親も周囲も驚くほどの明るさと自信を取り戻す。鈴木さんが、多くの教職員たちを前に行った「研究授業」で、クラスメートの中心者としてもり立てたのは、ほかならぬ陸斗さんだった。
陸斗さん㊧と笑顔で
陸斗さん㊧と笑顔で
今月4日に行われた現任校での「研究授業」にも、子どもたちの躍動する姿があった。実施したゲームは「キーパンチ」。3人1組のチームに分かれ、1から20までの数字が書かれた紙を、1枚ずつ順番にたたき終えるタイムを楽しく競い合う。
今月4日に行われた現任校での「研究授業」にも、子どもたちの躍動する姿があった。実施したゲームは「キーパンチ」。3人1組のチームに分かれ、1から20までの数字が書かれた紙を、1枚ずつ順番にたたき終えるタイムを楽しく競い合う。
「キーパンチ」のルールを示す
「キーパンチ」のルールを示す
「キーパンチ」をやる上で心がけてほしいことは?
「キーパンチ」をやる上で心がけてほしいことは?
児童たちが協力して「キーパンチ」に挑戦。「次は16番! あそこ!」
児童たちが協力して「キーパンチ」に挑戦。「次は16番! あそこ!」
オッケー!
オッケー!
次にたたく数字を見つけるのが速い子。声を出して協力し合うのが上手な子。素早く動いてたたくのが得意な子――鈴木さんは言う。「みんなが何かの『天才』なんだ」。
それを見つけることが、「使命」を見つけることにもつながるのだろう。
次にたたく数字を見つけるのが速い子。声を出して協力し合うのが上手な子。素早く動いてたたくのが得意な子――鈴木さんは言う。「みんなが何かの『天才』なんだ」。
それを見つけることが、「使命」を見つけることにもつながるのだろう。
キーパンチをやってみた気持ちに、一番近いものはどれ?
キーパンチをやってみた気持ちに、一番近いものはどれ?
子どもたちの頑張りをたたえて
子どもたちの頑張りをたたえて
【ご感想をお寄せください】
kansou@seikyo-np.jp
※ルポ「つなぐ」の連載まとめは、こちらから。子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。
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