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【18時配信・SDGs×SEIKYO】 核兵器が存在する恐怖。これも私にとっての“現実”――。できることは、きっとある。 2024年8月6日

  • インタビュー シンガー・ソングライター 瀬戸麻由さん

 広島、長崎に原爆が投下されてから今年で79年。世界には、いまだ1万2000発以上の核兵器が存在し、私たちの暮らしを脅かしています。今回は、広島を拠点に音楽活動や学びの場づくりを通して、核兵器の廃絶に向けて活動する瀬戸麻由さんにインタビューしました。「問題が大きすぎて、『私には何もできない』と感じてしまう人もいると思うんです。でも、できることって、案外たくさんある」。そう語る瀬戸さんと一緒に、“核兵器廃絶のために何ができるか”を考えてみましょう。(取材=玉川直美、橋本良太)

<プロフィル>
 せと・まゆ 1991年生まれ、広島県呉市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。シンガー・ソングライターとして音楽活動をする傍ら、Social Book Cafeハチドリ舎のスタッフや広島市の平和記念公園でガイドなどを務める。また「世界のヒバクシャと出会うユースセッション」のコーディネーターを務めながら、「核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」のメンバーとしても活動する。

今回のテーマは「パートナーシップで目標を達成しよう」
広島、長崎だけではなかった

――瀬戸さんは2017年から、広島を拠点にシンガー・ソングライターとして活動されています。

 自分を表現する一つの方法として、音楽って大事だなと思います。もともと歌が好きで、「出会った人に何か伝えたい」「一緒に経験したことを形にして残したい」という気持ちで歌を作っています。
 フリーで活動しているので、ゆるくやっていますが、広島を訪れた修学旅行生たちに披露したり、カフェや、町の平和集会で頼まれて歌ったりもします。
 ずっと大事に歌っている「Colorful World」という曲があります。これは、被爆者の方々と交流し、体験を聞く中で感じたことや学んだことを歌にしました。

平和への願いを込めて「Colorful World」を歌う瀬戸さん(本人提供)
平和への願いを込めて「Colorful World」を歌う瀬戸さん(本人提供)

――核兵器廃絶への活動を始めたきっかけは、何だったのでしょうか?

 19歳の時に、世界一周の船旅をするピースボートに乗船しました。私は広島県の呉市出身ですが、その時に初めて、被爆者の方々の話を直接お聞きしたんです。原爆のことは教科書で学んではいましたが、一緒に船旅をする中で、孫のようにかわいがってくれる被爆者の方々が経験した話だと思った時に、どこか遠い話ではないと感じたんです。

 さらに衝撃的だったのが、その船旅でオーストラリアの北部準州出身の人と出会ったことです。北部準州にあるレンジャー鉱山では当時、原子力発電のためのウランが採掘されていました。採掘によって被ばくをした人たちがおり、そのウランは、日本にも輸出されていたという事実を知りました。
 それまで「ヒバクシャ」と聞くと、広島、長崎での原爆の被害者を思い浮かべていたけれど、それだけではなかった。しかも、自分が使っている電気が作られる原子力発電のための過程で被ばくした人がいる。そう気付いた時、自分もこの問題の加害者の側にいてしまっているのかもしれない、とショックでした。何か行動を起こさなくてはと思いました。

 大学卒業後は、東京でウエディング関連の企業に就職しました。その仕事も、私にとっては「平和」というキーワードとつながっていました。世界で起きている暴力をなくすには、身近な「家族」というコミュニティーが平和であることから始まる――その最初の入り口になるウエディングに携わることで、平和に貢献できると感じていたからです。でも、「いずれは大好きな広島に戻る」と決めていたので、2年間会社員として働いた後、広島に戻って平和活動の仕事を始めました。今、働いているSocial Book Cafeハチドリ舎では、人と人、人と社会、広島と世界をつなげながら、さまざまな社会課題について知るきっかけや、語り合える場を提供しています。また、平和記念公園のガイドの仕事もしています。

79年前に投下された原子爆弾の悲惨さを今に伝える広島市の原爆ドーム
79年前に投下された原子爆弾の悲惨さを今に伝える広島市の原爆ドーム
“自分自身の痛み”として

――2022年6月に行われた核兵器禁止条約の第1回締約国会議に、瀬戸さんは日本のユースの一員として参加されました。印象的だった場面はありますか?

 世界各地、特に“核被害地域”から、同世代の多くのユースが参加していました。条約と聞くと、偉い人たちだけで議論されているものと思いがちですが、核兵器禁止条約は市民の声が反映されてできた条約です。「核による被害を受けた人たちの声を真ん中に置いていこう」という意識が、第1回締約国会議の場でも感じられました。

 特に印象に残っている場面は、マーシャル諸島出身のユース世代の方の話です。同諸島では、1946年から1958年にかけて、アメリカによる67回の核実験が行われ、多くの人が被ばくしました。その方は、マーシャルで起きたことを、過去の話ではなく、今ここにいる“自分自身の痛み”として話していたんです。
 被ばくによって、女性が流産に苦しんでいること、「ジェリーフィッシュ・ベイビー(クラゲのような胎児)」と呼ばれる出産異常が起きたこと。核実験が、自分たちのコミュニティーをどれだけ傷つけてきたかを涙ながらに話してくれました。
 実際、核実験によって、生まれ育った故郷から避難せざるを得なくなり、いまだ帰れていない住民もいます。彼らにとって核被害とは、文化も暮らしも、そこで生きてきた証しも、すべて根こそぎなくなってしまうということなんです。さらに、今もなお健康被害によって苦しんでいる人たちもいます。

本年2月28日から3月7日にマーシャル諸島を訪問し、現地の人たちと交流を重ねた(本人提供)
本年2月28日から3月7日にマーシャル諸島を訪問し、現地の人たちと交流を重ねた(本人提供)

――瀬戸さんは、核兵器禁止条約の第1回締約国会議を経て、「世界のヒバクシャと出会うユースセッション」という団体を立ち上げ、コーディネーターをされていらっしゃいますね。

 第1回締約国会議で、「こんなにも多くの、核被害地域の同世代の人たちが声を上げてるんだ」と刺激を受けました。日本では、世界の核被害について学ぶ機会がなかなかありません。せっかく出会ったユース世代の人たちと、これからもつながり続け、学び合えたらと思い、同団体を立ち上げました。
 主に、日本のユース世代を対象にしたオンライン学習会を開催しています。毎回、核被害地域の若手活動家や、核問題に関する研究者などを招いて、世界各地の核被害の現状について学んでいます。

 今年の2月末から3月上旬にはマーシャル諸島を訪問し、核被害者追悼の日の式典にも参列しました。マーシャル諸島の小中高の学校では、これまでアメリカの教科書が使われていて、核実験の被害について学ぶ機会はほとんどなかったそうです。でも近年になって、学校教育の中でどう教えていくか、新しい教育カリキュラムの検討が進んでいるそうです。その中心メンバーの方が、「学んで、感じて、憤りを持って、はじめて声を上げていくことができる」と語っていました。

私にとっての“現実”

――一部には、核兵器なき世界を築くのは、“現実的に難しい”との声もありますが……。

 いろんな「現実」があると思うんです。確かに、国と国のさまざまな関係で、核兵器をすぐにはなくせないという「現実」がある。けれど、いつ使用されるかも分からない核兵器の脅威が今も存在している「現実」もある。この状態を薄氷を踏むようにキープしながら、私たちはこの先も生き続けていけるのだろうか。そうした恐怖を感じることも、私にとっての「現実」なんです。

 核兵器の問題って、「自分一人の意志だけでどうにかなる問題ではない。私にできることはない」と思ってしまう人も多いのではないでしょうか。でも私は、「そんなことはないよ。できること、めっちゃあるよ。一緒に何かやりましょう」って言いたいですね。

 例えば、私が所属しているカクワカ広島では、広島選出の国会議員に、核兵器禁止条約への賛否と理由を尋ね、核なき世界の実現のためにできることを一緒に考えるという活動をしています。「地元の政治家の人に会う約束を取って、核政策について尋ねる」ということは、広島に限らず、どの地域でもできることかもしれません。

――今年3月、核兵器廃絶と気候危機解決をテーマに青年たちが集う「未来アクションフェス」が東京で開催されました。SGIユース(国連と連携するNGOであるSGIの平和活動を推進する青年世代の総称)、また瀬戸さんが所属しているカクワカ広島も、実行委員会として参画しました。若い世代では、組織の垣根を越えて手を取り合い、諸課題に立ち向かおうという意識が高まっているように感じます。

 そうですね。私たちの世代では、目の前の脅威に対して、個々人が「自分に何ができるかな」と考えて、ゆるやかにつながって連携しながら活動していこうとする人が多いように感じます。

 私の中にも、「この方法が一番です」みたいなものはなくて、あったら誰でもいいので教えてほしいです(笑)。みんなで発明していくことが大切ですよね。それと、“これをしなきゃいけない”っていうよりも、「自分自身がワクワクするために、何とつなげてみたいか」を考えていく方が大事なのかなと思います。私の場合は、「歌」とつなげていますが、自分が得意なことや、好きなこととかを生かせたらいいですよね。

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