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〈SDGs×SEIKYO〉 本を読めば、新たな“窓”が開かれる 翻訳家・日本国際児童図書評議会(JBBY)会長 さくまゆみこさん 2022年7月12日

  • インタビュー:希望の未来つくる本の力

 第2次世界大戦後の荒廃したドイツで、本を通して子どもたちに希望を送った一人の女性がいました。ユダヤ人ジャーナリストのイエラ・レップマンです。彼女は、子どもの本には人と人、国と国を結ぶ力があると信じ、世界初の国際児童図書館を設立。さらに、国際児童図書評議会(IBBY)というネットワークを発足させました。SDGs(持続可能な開発目標)の目標16には「平和と公正をすべての人に」が掲げられています。日本国際児童図書評議会(JBBY)の会長であり、翻訳家でもある、さくまゆみこさんに、平和を築く「本の力」について聞きました。(取材=サダブラティまや、木﨑哲郎)

◆アフリカに図書館を建設

 ――さくまさんは、絵本から中高生世代の小説に至るまで、約250点にも及ぶ作品の翻訳に携わってきました。昔から子どもの本が好きだったのですか。
  
 大学時代、私はフランス語フランス文学科で学んでいて、卒業論文はサン=テグジュペリについて書きました。本が好きだったので、卒業後は出版社に入社したのですが、ちょうどその出版社が子どもの本の編集を始めるタイミングだったんです。サン=テグジュペリと聞くと、おそらく皆さんは『星の王子さま』を1番に思い浮かべるのではないでしょうか。大人の本の編集がしたかったのですが、児童書の編集部に配属されました(笑い)。

 最初は両方に関わっていたのですが、時流に流されず、かつ本質的なことを描くことができる子どもの本の魅力に、次第に引き込まれていきました。もっと専門的に学びたいと思い、会社を辞めて、イギリスで勉強しながら子どもの本を見てまわりました。
  
 ――アフリカをテーマにした児童書も多く翻訳されていますが、アフリカの文学や文化と出合ったのも、この頃ですか。
  
 イギリスではロンドンに住み、いろんな国の方と知り合う機会がありました。アフリカセンターという場所で、アフリカの音楽や文化に親しんでいるうちに、友人もでき、実際に行ってみたくなったのです。

 周囲のアドバイスを受けて、ナイジェリアに行くことにしました。カノという北部の都市で、偶然にもWHO(世界保健機関)の仕事をしている日本人医師と知り合いになり、家に泊めていただきました。

 その方が、アフリカ文学のコレクションをたくさん持っていて、ますます興味が湧いたんです。当時、アフリカのことを紹介する翻訳家というのは、まだ少なかったので、そこに携わっていきたいと思いました。

 また、2004年には有志で「アフリカ子どもの本プロジェクト」というNGOを立ち上げ、ケニアの二つの村に図書館をつくりました。今も、同NGOを通して支援を続けています。

 “なぜ食料や医療の援助ではなく、図書館なの?”と聞かれることがあります。でも私は、生物的に生きるだけでなく、人間として生きていくためには、物語や本はとても大切だと思っています。識字能力の向上だけでなく、自分の世界を広げることにもつながるからです。

さくまさんたちが2004年にケニア西部のエンザロ村につくった「エンザロ・ドリームライブラリー」
さくまさんたちが2004年にケニア西部のエンザロ村につくった「エンザロ・ドリームライブラリー」
エンザロ村の子どもたちに語り掛けるさくまさん(中央)
エンザロ村の子どもたちに語り掛けるさくまさん(中央)
◆戦禍が続く世界だからこそ

 ――イエラ・レップマンが創設したIBBYは、明年で70周年の佳節を迎えます。その日本支部として、JBBYは国内で幅広い活動を行ってきました。
  
 JBBYは、1974年に発足しました。日本の作家や画家を、子どもの本の国際的な賞であり、“小さなノーベル賞”と呼ばれる「国際アンデルセン賞」へ推薦もしてきました。

 スイスのバーゼルに本部を置くIBBYでは、六つの使命を掲げています。その一つに、「どんな場所にいる子どもたちも、文学的、美術的に質の高い本にめぐりあえるようにすること」というのがあります。

 この考えに基づき、日本では、東日本大震災と、それに続く原発事故が起きた時に、「子どもたちへ〈あしたの本〉プロジェクト」を発足させました。

 具体的には、陸前高田市に子ども図書館を開き、気仙沼市や石巻市に図書館バスを走らせ、南相馬市に定期的に本を届ける活動を、5年間行いました。

東日本大震災の被災地を回った図書館バス 写真提供:JBBY
東日本大震災の被災地を回った図書館バス 写真提供:JBBY

 そして、この時に得た経験と反省を生かし、2017年には、国内でさまざまな困難(災害、家庭内暴力、障がい、貧困など)を抱える子どもたちを対象に、「JBBY希望プロジェクト」(別掲)をスタートしました。つい先日は、少年院や少年鑑別所にいる子どもたちのために、本のリストを作成したばかりです。

 さらにプロジェクトの一環として、各国から日本に避難してきた子どもたちに、本を寄贈する取り組みもしています。基本的には、文字が少ない、または文字がなくても理解できる本を選んでいます。

 最近では、ウクライナ語の子どもの本をデータで準備し、JBBYが印刷して無料配布する活動も始めました。戦禍を逃れてきた子どもたちが、少しでも安らぎの時間を持てるよう、尽力していきます。 

世界60カ国から約200冊もの作品を集めたJBBY主催の「世界の子どもの本展」 写真提供:JBBY
世界60カ国から約200冊もの作品を集めたJBBY主催の「世界の子どもの本展」 写真提供:JBBY
◆「平和というなら、まず子どもたちから始めさせてください」

 ――世界では、いまだに多くの子どもが戦争や飢餓に苦しんでいます。「平和というなら、まず子どもたちから始めさせてください」というレップマンの呼び掛けが、今ほど求められている時はありません。
  
 2022年現在、世界80の国と地域がIBBYに加盟しています。ロシアとウクライナにも支部があるのですが、戦争が起きてしまい、とてもショックでした。ちょうど昨年、レップマンの理念を伝える絵本『子どもの本で平和をつくる――イエラ・レップマンの目ざしたこと――』(小学館)を出版した後だったので、なおさらでした。

さくまさんが翻訳し、昨年7月に出版されたイエラ・レップマンについての絵本
さくまさんが翻訳し、昨年7月に出版されたイエラ・レップマンについての絵本

 彼女の「子どもの本を通して国際理解を深める」という精神を、もっと浸透させるために、努力を続けていかなければならないと痛感しました。

 いろんな政治状況を踏まえると、“それは単なる理想に過ぎない”と言う人がいるかもしれません。でも、子どもの未来を考える時、どこまでも理想を追求する団体があってもいいじゃないかと思うんです。 

 今、戦争や平和をテーマにした書籍が多く出版され、子どもたちにも読まれています。「戦争はダメ」と唱える本も大事だと思いますが、子どもたちが物語に入って、主人公と一緒に戦争や飢餓を“疑似体験”できる書物の存在は、それ以上に重要ではないかと感じています。

 映像のみで残酷なシーンを体験してしまうと、ゲーム感覚で戦争を捉える子が出てくる危険性もある。“ひどかったね”“かわいそうだね”で終わるのではなく、何かを一緒に考えることのできる本を、これからも編集・翻訳していきたいと願っています。

IBBY創設者のレップマン(上)と彼女が1949年に設立し、その後移設されたミュンヘン国際児童図書館(下)
©Stiftung Internationale Jugendbibliothek/Foundation International Youth Library
IBBY創設者のレップマン(上)と彼女が1949年に設立し、その後移設されたミュンヘン国際児童図書館(下) ©Stiftung Internationale Jugendbibliothek/Foundation International Youth Library
◆安心できる居場所の確保

 ――創価学会では、これまで世界の絵本や書籍を紹介する展示を行うなど、本の魅力を人々に伝える取り組みを行ってきました。テレビやインターネットから学べることもありますが、子どもが想像力(創造力)を育み、より深い人生を生きていく上で、読書は欠かせないものです。
  
 想像力は本当に大切です。ただ、私は最近、想像力の前に、子どもたちの居場所を確保してあげることが最優先なのではないかと考えてもいます。国内外において、“自分は生きていていいのかな”と居場所を失った子どもたちが増えているからです。

 アフリカ系アメリカ人の作家で、数年前に他界したジュリアス・レスターという人がいます。彼は子どもの頃に、人種差別が激しい地域で育ちました。レスターさんは「もし自分が今いる場所とは異なる世界があることを、本を通して知ることができなかったら、生きていくことは難しかっただろう」と語っています。

 厳しい時代を生きる今の子どもたちにとっても、本の存在は、生死に関わるほど大事なものになっている場合があります。特に日本の子どもたちは、学校、社会、家庭などの枠に組み込まれて、抜け出せないことが多い。同調圧力に大きく影響を受けてしまうこともあると思います。

 一番良いのは、落ち着いた空間を確保してあげること。でも、すぐにそれができないのであれば、本の世界で“逃げ場”を見つけて、想像力を育んでいけるよう、大人が関わっていくことが大切だと感じます。

◆心に種はまかれていく

 ――最後に、子どもたちが本をもっと身近に感じられるようになるには、何が大切でしょうか。
  
 子どもは、年齢によって、感じ方や理解度も違うので“正解”はないのですが……。例えば、野球やサッカーが好きな子なら、それに関わる本から読み始めてもいいと思います。

 ただ、“好き”の先の段階に行くためには、本を手渡す人の役割が鍵だと思うんです。私は、本とは「窓」だと思っています。子どもの周りにどれだけ新しい窓を用意できるかは、大人の仕事です。

 「良いことが書いてあるから、読んでみなさい」と言っても、当然、聞きませんよね。開けてみたいと思う窓にするには、それなりに魅力的な表紙や内容であることが肝心です。そして、いざ開けてみて、“面白い”と感じたら、子どもたちは次の窓を自分で開けていきます。 

 たとえ、その時に全てを理解できなくても、心に種はまかれていきます。頭の隅に何となく残っていて、だんだんと育っていくことがあります。実は、そういう本って、なかなか本屋さんには並んでいないものなんです。

 幾つになっても新たな発見ができる本――。そんな一冊を手渡すために、私たちの仕事はあるのだと思っています。

 
 

〈プロフィル〉 さくま・ゆみこ 東京生まれ。出版社勤務、大学教員などを経て、フリーの翻訳者・編集者に。「アフリカ子どもの本プロジェクト」代表。著書に『エンザロ村のかまど』(福音館書店)、『どうしてアフリカ? どうして図書館?』(あかね書房)など。訳書に『シャーロットのおくりもの』『ゆき』(あすなろ書房)、『明日をさがす旅』(福音館書店)など多数。

 
 

【JBBY希望プロジェクト】
 困難を抱える子どもへ図書の贈呈や教育事業を実施しています。また、ウクライナをはじめ、各国から日本に避難してきた子どもたちに対し、本を通したサポートなども行っています。同プロジェクトの詳細は下記をご覧ください。
https://jbby.org/jbby_kibop-towa

 
 

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●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。下記のリンクから閲覧できます。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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