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〈医療〉 最新研究「睡眠の謎」㊦ 2025年1月20日

  • 「依存性の少ない睡眠薬も登場」
  • 〈今日のポイント〉時間の確保を優先して

 ノーベル賞級といわれる、睡眠に関わる物質(オレキシン)を発見した医師・柳沢正史教授(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長)。前回に引き続き、すべての人間が関係する“睡眠”の、知られざる最先端研究を語ってもらいました(㊤は13日付に掲載)。

よく眠ると
洞察力も向上

 睡眠は、日中の記憶を選別し、必要なものを定着させます。また、通常の言語化できる記憶の他に、「技能記憶」「マッスルメモリー」と呼ばれる、体で覚える記憶も、睡眠時間が少ないと定着しづらくなります。
 また、睡眠をしっかり取った被験者は「洞察力」が高まり、睡眠不足の被験者は低くなったというドイツの研究もあります。条件によっては3倍の差が生まれました。クリエーティビティーが向上し、朝起きた時に“気付き”を得られる確率が大きく高まるのです。

子どもの脳は
寝るほど発達

 子どもの睡眠時間(平日)が増えると、脳の認知機能を担う海馬は発達し、容積が増えます。子どもに必要な睡眠時間は、9歳で10時間、15歳で8時間45分といわれます。
 子どもの睡眠不足は、海馬の発達を阻みます。学力面から考えると、受験への影響など、人によっては一生のハンディにつながることも起こりうるでしょう。

20歳代が
夜型のピーク

 「朝型」「夜型」という言葉がありますが、これは年齢で大きく変化します。ドイツとスイスで5万5000人を調査した大規模な研究があります。それによると、子どもは朝型ですが、思春期から夜型になり、20歳代が夜型のピーク。その後は朝型に戻っていきます。
 ですので、高校生・大学生は本来、朝早く起きない方がよいといえます。早起きすると、夜型体質のため「遅寝早起き」となり、最も大事な“睡眠時間”が減ってしまうからです。
 現実的には、登校で早起きする分、早く寝て、時間を確保することを心がけてください。

覚醒を促す
オレキシン

 脳の“覚醒”を保つ物質が、私たちが25年前に発見した「オレキシン」です。
 日中でも突然眠気に襲われ、“居眠り病”といわれる「ナルコレプシー」という病は、オレキシンを作る細胞の消失が原因です。
 現在、オレキシンの働きを“抑える”ことによる不眠治療薬(睡眠薬)が実用化されています。既存の薬と比べて「依存性」「リバウンド」が少ないため、“必要な時だけ飲んで、簡単に卒業できる”薬です。大切なレム睡眠も抑制しない、はっきり言って、とても良い薬です。
 今、私たち筑波大学の睡眠研究機構では、約1万匹のマウスを使った、世界最先端の大規模な実験を行っています。“睡眠に関わる物質や遺伝子の発見”につながる可能性のある、とても重要な研究です。
 睡眠は、本質的に個体レベルの現象なので、実験は大変です。睡眠から覚醒はすぐ促せても、覚醒から睡眠には簡単に誘導できないことも、睡眠研究を難しくしています。
 その半面、仮説や予測を立てずに進める探索的研究の余地があり、とてもワクワクします。

不眠の65%は
“睡眠誤認”

 不眠症の治療で大切なのは、個々人の“睡眠の質”です。しかし、睡眠の質を客観的なデータで測ると、本人が自己申告する質とは大きく異なっているケースがあります。これを「睡眠誤認」と呼びます。
 私たちは、筑波大学発のベンチャー企業(S’UIMIN)を立ち上げ、おでこにシール状のセンサーを貼るだけで、睡眠時の脳波を自宅で測定できるデバイスを開発しました。測定値がクラウド上に集められ、個別の「睡眠レポート」を分析します。すると、不眠を自覚する人の65%が睡眠誤認していました。
 ある40代の女性。常に不眠に悩んでいるといい、「昨晩も朝4時まで眠れませんでした。時計を見たので間違いありません」と訴えます。しかし、前の晩の脳波を確認すると、4時ごろを含む複数の時間で中途覚醒はみられるものの、実際はかなり良質の睡眠が取れていました。この女性は、客観的には健やかに眠れていることを丁寧に説明することで、睡眠に対する不安が消え、不眠の訴えもなくなりました。
 レム睡眠時に無呼吸イベントが多発している人もしばしば見つかります。抱き枕を使って横向きに眠る時間を増やすことで、睡眠時無呼吸が軽減しました。
 高血圧の治療は、手軽に毎日測定できる「家庭用血圧測定器」の登場で、“教科書”が書き換わりました。客観的な値を自覚することで、患者の行動変容が起こるため、「毎朝測ることで、血圧は下がる」と言われるまでになりました。
 睡眠も、脳波で“見える化”することで同じようなイノベーションを起こせればと考えています。この脳波検査は、全国300以上の医療機関で申し込める他、簡易体験もできます(S’UIMINのホームページからも申し込み可能)。
 自分の睡眠は、自分では客観的に分かりません。手前みそですが『今さら聞けない 睡眠の超基本』という本を出しています。分かりやすい本ですので、興味がある方は、ぜひ読んでみてください。

柳沢教授の近著(朝日新聞出版)
柳沢教授の近著(朝日新聞出版)
時差ボケ生む
週末の寝だめ

 睡眠不足の借金(睡眠負債)を返すには約4日かかります。「平日の睡眠不足を、週末の寝だめで解消する」は、無理な注文なのです。さらに、睡眠中央時刻(入眠時刻と起床時刻の中央の時刻)が、平日と土日とで大きくずれることはマイナスです。中央時刻が4時間ずれれば、4時間の「社会的時差ボケ」が発生します。日本と中東の時差と同程度の時差ボケを、自ら作り出しているのです。
 時差ボケは簡単には解消しません。私も1週間ほど前に欧州から帰ってきたばかりですが、まだ時差ボケが続いています。
 私は睡眠学者として「紺屋の白袴」ではいけないと思い、普段から事情が許す限り、午前0時に寝て7時に起きる規則的な生活習慣を守る努力をしています。

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