• ルビ
  • 音声読み上げ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

世界一「男女平等な国」アイスランドのヤコブスドッティル首相に聞く 2024年1月11日

  • 〈SDGs✕SEIKYO〉 仕事と育児の両立を当たり前に
©Kjartan Thorbjoernsson/Bloomberg/Getty Images
©Kjartan Thorbjoernsson/Bloomberg/Getty Images

 “世界で最も男女平等が進んでいる国”といわれる、北欧のアイスランド。世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数ランキングで、2009年から14回連続で1位に輝いています。一方、日本は昨年の調査で、146カ国中125位。政治や企業における女性のリーダー不足、男女の賃金格差などが要因とされています。男女平等の達成へ、アイスランドではどのような取り組みをしてきたのでしょうか。SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」をテーマに、同国のカトリン・ヤコブスドッティル首相にインタビューしました。(取材=山科カミラ真美)

〈アイスランドは、北大西洋に浮かぶ北海道よりやや大きい島国で、首都はレイキャビク。多くの氷河と火山があり、「火と氷の国」とも呼ばれる。人口は約38万人。公用語はアイスランド語。議会は一院制で、閣僚の半数が女性である〉
〈アイスランドは、北大西洋に浮かぶ北海道よりやや大きい島国で、首都はレイキャビク。多くの氷河と火山があり、「火と氷の国」とも呼ばれる。人口は約38万人。公用語はアイスランド語。議会は一院制で、閣僚の半数が女性である〉

 ――アイスランドは、“世界一、ジェンダー平等な国”として知られています。何が男女平等を進める力となってきたのでしょうか。
  
 アイスランドは男女格差が最も少ない国といわれていますが、完全なジェンダー平等にはまだ到達していないと思っています。その上で、今があるのは、何十年、何世紀にもわたり、女性たちが自身の権利を求め戦ってきた結果です。

 特に大きな転換点となったのは、私が生まれた前年の1975年10月24日に起きた出来事です。この日、アイスランドの9割の女性たちが参加したといわれる大規模なストライキが行われました。

 女性たちは、「同じ仕事をしているのに、男性と同じ給料が支払われないのはおかしい」と声を上げ、仕事も、家事も拒否したのです。

 この日は、「女性の休日」と呼ばれるようになりました。以来、何度も同様のストライキが行われています。女性たちが立ち上がり、社会を変革してきた象徴的な事例です。

 〈昨年の「女性の休日」には、男女の賃金格差、また女性やLGBTQ(性的少数者)への差別・暴力の撲滅を求めるストライキが行われ、ヤコブスドッティル首相も含め、約10万人が参加した。こうした行動を通じて、アイスランドではジェンダー平等への意識が深く根付いている〉

 また、女性の社会進出とジェンダー平等の推進を後押ししたのは、二つの制度です。

 80年代には「皆保育」の政策が導入されました。これにより、2歳以上の幼児が無条件で幼稚園での保育を受けられるようになり、女性は子育てと仕事を両立させることが可能になりました。

 また2000年には、父親も育児休業を取ることができるようになり、現在の「共有育児休業制度」に拡充しました。

昨年10月、ジェンダー平等を求める大規模なストライキがレイキャビクで行われた。市民と共にヤコブスドッティル首相も参加した(本人提供)
昨年10月、ジェンダー平等を求める大規模なストライキがレイキャビクで行われた。市民と共にヤコブスドッティル首相も参加した(本人提供)
“育休を取得しないと損”

 ――「共有育児休業制度」とは、どのようなものですか。
  
 かつては、母親だけが育児休業を取得した場合、その期間は6カ月と制限される一方、夫婦それぞれが3カ月ずつ取得すると、追加で3カ月が付与されるという仕組みでした。

 つまり男性が育休を取得すれば、休業の延長が可能となる。この「使うか失うか」方式が、“父母共に育休を取得しないと損する”という、社会全体の意識を定着させるきっかけとなりました。

 現在では、母親、父親それぞれに6カ月間の育児休業が付与され、さらに追加で6週間は、親同士で分け合って好きな時に取ることができます。育休中は給料の80%が国から支給されます。

 今や男性の育休の取得率は90%を超え、男性も育休を取ることが当たり前になりました。
  
 ――国会の議会中に乳児を連れ、“授乳をしながら答弁した女性議員”が世界で話題になったこともありますね。母親が子どもを抱えてジムに行くことなども普通のようですが、社会全体が子育てに寛容であると感じます。
  
 アイスランドもかつては“男性は仕事、女性は家事、育児”と、男女を役割で分けるような社会構造でした。

 そんな中、1980年代の初めに女性だけの政党が誕生しました。当時の国会議員の数は60人で、そのうち女性はたったの3人だけでした。

 男性主導の国会に女性だけの政党が現れると、ほかの伝統的な政党にも「私たちも、もっと女性議員を増やさねば」という意識が広がりました。初めは周囲から変わり者扱いされ、非常に過激だと見なされたこの女性だけの政党が、アイスランドの政治に極めて大きな変化をもたらしてくれました。

 また、アイスランドの多くの政党が採用しているのがクオータ(割り当て)制度です。2010年に導入されたこの制度は、企業役員や公共の委員会のメンバーの40%以上を女性とすることを義務付けています。

 これにより、社会全体において女性のリーダーシップが当然とされ、企業だけでなく政治にも大きな影響を与えました。法律で定められてはいないものの、政党も自主的にクオータ制を導入しました。現在、女性議員の比率は47・6%と、ほぼ半数に達しているのです。

首都レイキャビクの町並み。カラフルな家々が立ち並び、雄大な自然の風景が広がる ©Boyloso/Shutterstock.com
首都レイキャビクの町並み。カラフルな家々が立ち並び、雄大な自然の風景が広がる ©Boyloso/Shutterstock.com

  
 ――首相は3人の子どもの母親でもあります。育休を積極的に取得されたそうですね。
  
 初めて議員に当選した時、私は2人目の子を妊娠していました。ですので、議会に入ってすぐに、育児休業を申請しました。

 そして09年、私は教育・科学・文化大臣に任命されました。その頃、再び妊娠し、11年には三男を出産しました。この時もまた、私は育休を取得しました。

 当時、アイスランドでは、大臣が育児休業を取ることに対して批判的な声が多く寄せられました。

 しかし私は思ったのです。大臣、あるいは企業の管理職であれ、育児をすることは誰にとっても守られるべき大切な権利だと。共有育児休業制度が整備されているのなら、誰もがその制度を活用すべきであり、対象が特定の層に限られるべきではありません。

 私自身、母親として育児休業を4カ月間、利用した後、大臣の職務に戻りました。大臣職と育児の両立は、十分に可能であることを証明したかったのです。

 そもそも育児休業制度はなぜあるのでしょうか。私の考えでは、まず第一に、女性が家庭と仕事の選択を強いられる、そのジレンマから解放されるためにあると思っています。共働きが一般的な今、私たちは皆、家庭と仕事を両立したいと願っています。

 そして、私には協力的な夫がいました。夫もまた育休を取り、親としての責任を共に果たしてくれています。

 共有の育児休業制度ができて20年以上がたちました。さまざまな研究調査から、アイスランドの父親たちが育児休業を取得した結果、満足度が非常に高いことが分かりました。男性も育児に積極的に参加することで得られるメリットを実感しているのです。

 育児休業の取得後も父親として子どもとの関わりを大切にし、良い父子関係が形成されています。このように、育児休業は、女性だけでなく、男性のためのものでもあるのです。

夫や子どもたちと共に町を歩くヤコブスドッティル首相(右端)。アイスランドは治安が良く、種々の制度も整っていることから「子育てがしやすい国」としても知られる(本人提供)
夫や子どもたちと共に町を歩くヤコブスドッティル首相(右端)。アイスランドは治安が良く、種々の制度も整っていることから「子育てがしやすい国」としても知られる(本人提供)

  
 ――ジェンダー平等において日本の評価が低い要因の一つとして「男女の賃金格差」が指摘されています。ヤコブスドッティル首相が17年に就任してすぐに取りかかったのが、男女の賃金格差を違法とする世界で初めての法律である「同一賃金証明法」でした。これは、前年に行われた国会議事堂での女性たちのストライキに端を発しているとされています。なぜこの法律を力強く推進したのでしょうか。
  
 アイスランドでは、すでに1960年代に男女同一賃金を義務付ける法律が制定されていましたが、いまだに男女の賃金格差が解消されていない実情がありました。

 私が首相に就任する直前に、世界で初めての「同一賃金証明法」が議会で可決されました。そしてこの新法を施行させるのが私の役割となりました。

 同一賃金証明法のもとでは、25人以上の従業員がいる企業や団体は、同じ仕事をする男女に対して同額の賃金を支払っていることを証明する必要があります。もし雇用主が証明書を取得できない場合、罰金が科されます。

 ほかにも、賃金の公平性に関する新しい施策に力を注いでいます。女性、または男性が多数を占める企業間で賃金格差がないかどうかを調査し、改善に努めています。

緑、赤、黄色に輝き、星空を彩るアイスランドのオーロラ ©Arctic-Images/Getty Images
緑、赤、黄色に輝き、星空を彩るアイスランドのオーロラ ©Arctic-Images/Getty Images
経済指標だけではない

 ――首相は、「ウェルビーイング・エコノミー(幸福経済)」の実現を目指しています。今後のビジョンを教えてください。
  
 「ウェルビーイング・エコノミー」は、経済の数値だけを追うのではなく、人々の幸福を基盤とした社会の構築を目指すものです。経済成長を測るための指標には国内総生産(GDP)、インフレ、金利などが含まれますが、これに加えて、人々の健康や幸福についても考慮しなくてはなりません。

 人々の声を聞くことが最も重要です。生活に満足しているか、安全な住居を持っているか、医療サービスに容易にアクセスできるか、必要な教育を受けられたか、文化を楽しんでいるかなど……。

 環境指標も重視すべきです。例えば、ごみのリサイクルは実際にどれくらいできているのか。公害の有無や温室効果ガスの排出量はどうなっているか――。

 そして何より、人々が幸福に生きる社会を築くためには、ジェンダー平等の実現が欠かせません。ジェンダー平等を目指すことは、「正しい行動」であり、「公正な行動」なのです。

 このウェルビーイング・エコノミーのビジョンは長期的なものです。だから政治的には難しいのです。政治家は一般的に、再任されるために短期的な仕事で結果を出そうとするからです。

 私は幸運にも、21年に首相に再任されました。今後も継続的な取り組みを通して、このプログラムをアイスランド政府の中に根付かせていきたい――そう願っています。

ヤコブスドッティル首相(本人提供)
ヤコブスドッティル首相(本人提供)

 カトリン・ヤコブスドッティル アイスランドで史上2人目の女性の首相。1976年、レイキャビク生まれ。アイスランド大学で文学修士号を取得後、アイスランド国営放送などに勤務。2007年にアルシング(アイスランド議会)の議員に初当選した。09年から13年まで教育・科学・文化大臣を務め、17年11月から現職。

  
●ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP