〈ルポ〉 「あれから10年 これから10年」
〈ルポ〉 「あれから10年 これから10年」
2025年2月6日
- BS―TBS 土曜 午後8時54分
- BS―TBS 土曜 午後8時54分
◆東日本大震災からの日々を振り返り、前を向く
◆東日本大震災からの日々を振り返り、前を向く
現在放送中のBS―TBSの番組「あれから10年 これから10年」(土曜、後8・54=聖教新聞社提供)では、東日本大震災で被災した当時10代だった若者らを取材し、彼らの「10年を経ての今」と「これからの10年」を取り上げてきた。紹介した青年は170人を超える。先月、福島県川俣町での同番組の収録に同行するとともに、福島第一原子力発電所からほど近い双葉町などを訪問。番組プロデューサーの髙安恵司さんのコメントと併せて紹介する。
現在放送中のBS―TBSの番組「あれから10年 これから10年」(土曜、後8・54=聖教新聞社提供)では、東日本大震災で被災した当時10代だった若者らを取材し、彼らの「10年を経ての今」と「これからの10年」を取り上げてきた。紹介した青年は170人を超える。先月、福島県川俣町での同番組の収録に同行するとともに、福島第一原子力発電所からほど近い双葉町などを訪問。番組プロデューサーの髙安恵司さんのコメントと併せて紹介する。
【田んぼリンク】
【田んぼリンク】
1月18日午前10時。JR福島駅に降り立つと、粉雪が舞っていた。
車を走らせ、都市部から離れるにつれ、自然豊かな風景が広がる。1時間ほどで、川俣町の山木屋地区にある「かわまた田んぼリンク」に到着した。冬場の田んぼを活用した手作りのスケートリンク。取材日はプレオープンの日で、若い世代や家族連れでにぎわっていた。
1月18日午前10時。JR福島駅に降り立つと、粉雪が舞っていた。
車を走らせ、都市部から離れるにつれ、自然豊かな風景が広がる。1時間ほどで、川俣町の山木屋地区にある「かわまた田んぼリンク」に到着した。冬場の田んぼを活用した手作りのスケートリンク。取材日はプレオープンの日で、若い世代や家族連れでにぎわっていた。
かわまた田んぼリンク
かわまた田んぼリンク
震災後、同地区は2017年3月まで避難指示区域に指定され、住人は皆、避難生活を余儀なくされてきた。今から40年以上前に開設されたこのリンクも休止していたが、町の復興に先駆けて16年に再開した。
今回、番組制作クルーが取材したのは、同リンクの運営メンバーの一人で、川俣町の地域おこし協力隊としても活動する、ベラルーシ出身のスタルジンスカヤ・ナスタッシャさん(2月8日放送予定)。彼女の故郷は、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故により、大きな被害を受けた地域だ。「人ごととは思えなかったんです」
大学生の時、福島の大学に留学生として来日。福島の原発事故について深く知るとともに、川俣町の人の心に触れ、居心地の良さを感じたという。「ここで暮らしたい」。彼女の人生が大きく動いた瞬間だった。
震災後、同地区は2017年3月まで避難指示区域に指定され、住人は皆、避難生活を余儀なくされてきた。今から40年以上前に開設されたこのリンクも休止していたが、町の復興に先駆けて16年に再開した。
今回、番組制作クルーが取材したのは、同リンクの運営メンバーの一人で、川俣町の地域おこし協力隊としても活動する、ベラルーシ出身のスタルジンスカヤ・ナスタッシャさん(2月8日放送予定)。彼女の故郷は、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故により、大きな被害を受けた地域だ。「人ごととは思えなかったんです」
大学生の時、福島の大学に留学生として来日。福島の原発事故について深く知るとともに、川俣町の人の心に触れ、居心地の良さを感じたという。「ここで暮らしたい」。彼女の人生が大きく動いた瞬間だった。
【ありのままの言葉】
【ありのままの言葉】
午前11時30分。ナスタッシャさんのメインインタビューは、スケートリンクに近接する公民館で行われた。
制作クルーは、ディレクター、カメラ担当、音声担当の3人。クルーのあうんの呼吸で、機材などの調整・準備が進んでいく。
ナスタッシャさんとは時間をかけてコミュニケーションを取り、急ぐ様子はない。彼女の言葉が自然と出てくるのを待ち、一つ一つのコメントを掘り下げていく。丁寧にありのままの言葉を引き出す――心の底にある本音をすくい上げるため、労力を惜しまない姿が印象的だった。
午前11時30分。ナスタッシャさんのメインインタビューは、スケートリンクに近接する公民館で行われた。
制作クルーは、ディレクター、カメラ担当、音声担当の3人。クルーのあうんの呼吸で、機材などの調整・準備が進んでいく。
ナスタッシャさんとは時間をかけてコミュニケーションを取り、急ぐ様子はない。彼女の言葉が自然と出てくるのを待ち、一つ一つのコメントを掘り下げていく。丁寧にありのままの言葉を引き出す――心の底にある本音をすくい上げるため、労力を惜しまない姿が印象的だった。
インタビュー・収録の様子
インタビュー・収録の様子
髙安さん「毎回、1日半かけてロケを行い、その中で素材を選択して(番組の放送時間である)5分にそぎ落としていく作業が大変です。取材相手に対して“あなたの言いたいことは、こういうことですよね”と提示してしまえば、取材はすぐに終わるんですけど、それは本当の意味での、その人の言葉ではなくなってしまいます。番組がその人の気持ちを“代弁”するのではなく、その人の言葉をそのまま“生”で届けるということにこだわっています」
髙安さん「毎回、1日半かけてロケを行い、その中で素材を選択して(番組の放送時間である)5分にそぎ落としていく作業が大変です。取材相手に対して“あなたの言いたいことは、こういうことですよね”と提示してしまえば、取材はすぐに終わるんですけど、それは本当の意味での、その人の言葉ではなくなってしまいます。番組がその人の気持ちを“代弁”するのではなく、その人の言葉をそのまま“生”で届けるということにこだわっています」
プロデューサーの髙安恵司さん
プロデューサーの髙安恵司さん
【思いをはせて】
【思いをはせて】
翌19日、福島駅をスタートし、車を走らせること約2時間。阿武隈高地の山間部を越えると、青々とした海が臨める沿岸部に着いた。
現在も新築や増改築などが制限される災害危険区域を通り、双葉町へ。前日に訪れた川俣町には、震災当時、この双葉町から多くの人が避難してきた。
「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪ねた。同館で語り部をする20代の女性に話を聞くと、彼女も長期間にわたって避難を強いられていたという。「コンビニ、スーパーと同じくらい、原発はあって当たり前のもの」「今も帰還困難区域のままの地元に一日も早く帰って、普通に生活したい」。誰もが抱くであろう願いですら、いまだにかなわない現実を改めて突き付けられた。
翌19日、福島駅をスタートし、車を走らせること約2時間。阿武隈高地の山間部を越えると、青々とした海が臨める沿岸部に着いた。
現在も新築や増改築などが制限される災害危険区域を通り、双葉町へ。前日に訪れた川俣町には、震災当時、この双葉町から多くの人が避難してきた。
「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪ねた。同館で語り部をする20代の女性に話を聞くと、彼女も長期間にわたって避難を強いられていたという。「コンビニ、スーパーと同じくらい、原発はあって当たり前のもの」「今も帰還困難区域のままの地元に一日も早く帰って、普通に生活したい」。誰もが抱くであろう願いですら、いまだにかなわない現実を改めて突き付けられた。
東日本大震災・原子力災害伝承館
東日本大震災・原子力災害伝承館
髙安さん「震災に対する感じ方は、千差万別だと思うんです。だからこそ、“番組を見て、こう思ってほしい”というメッセージは出さないよう心がけています。あくまで、こういう人がいるという『事実』を多くの人に伝えたい。被災地の現状をご覧いただき、視聴者の皆さん一人一人が思いをはせ、考えていただくきっかけになればと思っています」
髙安さん「震災に対する感じ方は、千差万別だと思うんです。だからこそ、“番組を見て、こう思ってほしい”というメッセージは出さないよう心がけています。あくまで、こういう人がいるという『事実』を多くの人に伝えたい。被災地の現状をご覧いただき、視聴者の皆さん一人一人が思いをはせ、考えていただくきっかけになればと思っています」
◆「人の思いという“点”を、未来に“線”としてつなぎたい」
◆「人の思いという“点”を、未来に“線”としてつなぎたい」
番組の取材クルーの真剣なまなざし、語り部の女性がこぼした本音、車窓から見えた、いまだに消えることのない震災の爪痕の数々。復興途上の町並みと、その地で現状を変えようと奮闘している人たちの姿が目に焼き付いた。震災の記憶を決して風化させてはならないとの思いを強くした。
髙安さん「毎年、3月11日付近になると、震災から何年たちましたとか、区切りという話が出てきます。でも、復興には区切りはないと思うんです。本来は、いろんな人の思いという“点”を、未来に“線”としてつないでいかなければいけないものだと思っています」
番組の取材クルーの真剣なまなざし、語り部の女性がこぼした本音、車窓から見えた、いまだに消えることのない震災の爪痕の数々。復興途上の町並みと、その地で現状を変えようと奮闘している人たちの姿が目に焼き付いた。震災の記憶を決して風化させてはならないとの思いを強くした。
髙安さん「毎年、3月11日付近になると、震災から何年たちましたとか、区切りという話が出てきます。でも、復興には区切りはないと思うんです。本来は、いろんな人の思いという“点”を、未来に“線”としてつないでいかなければいけないものだと思っています」
【記事】小滝清 【写真】木村英治
制作協力=タイレル
公式ホームページはこちら
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制作協力=タイレル
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