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〈文化〉 100年で国民食に 日本の中華料理 岩間一弘(慶應大学教授) 2025年11月6日

  • ラーメン、餃子など食卓に
  • 卓袱料理から本場の中華へ
栄養価高く、安価に提供

 世界的に広がっている日本食といえばラーメン、カレー、寿司の3種。海外の日本料理では、このメニューは欠かせません。
 ラーメン、餃子、ジンギスカン……。いずれも約100年前に日本に入ってきた中華料理です。ただ、日本で独自の進化を遂げ、世界的には中華料理ではなく日本料理として認識されています。中国でも、日本風のラーメンは日本食として親しまれています。
 これらの料理がどうやって成立して、日本中に広まっていったのか。そんなことを明らかにしたく、拙著『中華料理と日本人』(中公新書)を出しました。
 世界的に人気の高い中華料理ですが、一般的には、チャイナタウンを中心に広がっていきます。つまり、華僑や華人が店舗を運営し、中華料理を提供しているのです。それに対し日本では、ラーメンや餃子などを日本人が広めたのが特徴的です。
 中華料理が流行したのは1920年代以降。23年に関東大震災があり、震災後には、おいしくて、安く、栄養価の高い食べ物が求められました。そこで登場したのが、当時の「支那料理屋」だったのです。東京だけでも、1500~2000店余りもできたといいます。
 それ以前にも、屋台の「南京蕎麦屋」がありましたが、震災後には店舗を構えるようになり、その結果、東京は中華料理店全盛になりました。
 さらに第2次世界大戦後には、満州から引き揚げてきた人々が、餃子やジンギスカンなど、さまざまな料理を持ち帰って、広めました。
 中華料理の日本における流行のキーワードは「帝国主義」です。
 明治維新とともに始まった欧化政策。帝国主義を進める欧米列強に対抗するため、肉食が推奨されました。肉をおいしく食べるために、洋食や中華が注目されたのです。
 当初、洋食はバタ臭い料理だと敬遠されました。一方、中華料理は日本人の味覚にも合っていて、手軽に豚肉を食べられる料理だったわけです。
 また、帝国ができることで、移動・交流がしやすくなります。特に日露戦争後には、大陸から料理人や留学生がたくさん来て、そこで中華料理が伝えられます。こうして、人、物、情報、文化などが広がったのです。

撮影協力:「ラーメン太陽(千葉市)」
撮影協力:「ラーメン太陽(千葉市)」
庶民を支える食べ物に

 日本で独自進化を遂げた中華の代表例はラーメンでしょう。もともと中国の麺料理は、汁をかけ、いくつかの具材をのせたシンプルなものが中心でした。日本のうどんを想像すると良いでしょうか。
 それが日本に伝わり、1884年には北海道・函館の外国人居住地で「南京そば」が提供されたという記録があります。これが、明治末頃までに、醬油ラーメンになるのです。ラーメン店は、安い資本で、すぐに開業できるため、多くの日本人が店舗を持つようになりました。
 各地に広がったラーメンは、戦後にさまざまな味に変化し、札幌では味噌ラーメン、九州では白濁豚骨ラーメンに。今では、各地でオリジナルの“ご当地ラーメン”が楽しめます。
 一方、餃子は、戦後、引き揚げ者が広めます。最初は、珍しい大陸の料理として紹介されていたものが、おいしく栄養価も高いため、皆が食べるように。中国では、皮を食べる主食ですが、日本では、ご飯とともに食べるおかずになります。
 ただ、中国で食されている水餃子や蒸し餃子では、おかずになりにくい。そこで、日本では焼き餃子が主流になったのです。ラーメンと同様、満州から帰ってきた日本人が新しい商売として始めやすかったわけです。
 さまざまな中華料理が日本文化として定着してきました。江戸時代には長崎で卓袱料理が生まれました。戦後広がった中華料理は、今では“町中華”として懐かしい味になっています。近年は本場の中華料理、“ガチ中華”が注目されています。
 最近、都市部では麻辣湯の店が増えています。当初は、ガチ中華として、客層は中国の人がほとんどでしたが、ヘルシーさから女性人気が高まりました。今後、日本風の料理として取り入れられていくか。そんな動向にも注目していきたいと思います。=談

 いわま・かずひろ 1972年生まれ。慶應義塾大学文学部教授。専門は東アジア近現代史、食の文化交流史、中国都市史。著書に『中華料理と日本人』(中公新書)、『中国料理の世界史』(慶應義塾大学出版会)がある。

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