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〈SDGs×SEIKYO〉 太平洋の島の未来を守り抜く――パラオ共和国 レメンゲサウ前大統領 2022年2月8日

  • インタビュー:気候変動と島しょ国
©AFP=時事
©AFP=時事

 西太平洋のパラオ共和国は、気候変動による影響を大きく受けている国の一つ。海水面の上昇、台風の頻発、海洋環境の悪化など、多くの難題に直面しています。SDGs(持続可能な開発目標)の一つである気候変動対策に取り組んできたトミー・レメンゲサウ前大統領に、同国の現状や、世界の人々に伝えたいメッセージなどを聞きました。(取材=木﨑哲郎、福田英俊)

◆豊かな海と共にある島の生活

――日本から南へ約3000キロ、グアムとフィリピンの間に浮かぶ大小200以上の島々からなるパラオは、豊かな自然と海洋生物の宝庫です。
  
 パラオの海には1300種を超える魚など、さまざまな生物が生息しています。ジュゴンなどの絶滅危惧種をはじめ、パラオ周辺でしか見られないクジラ、オオシャコガイ(地球上で最大の二枚貝)、巨大なブダイ科の魚、ナポレオンフィッシュなどもいます。

 正式に確認されていない生物も多く暮らしていると言われ、研究者にとってもパラオの海は魅力的です。
  
――パラオでは、誰もが「釣り」に親しんでいると伺いました。レメンゲサウ前大統領は、ミクロネシアの釣り大会で2度、優勝されていますね。
  
 よくご存じですね(笑い)。パラオは、1%の陸地と99%の海からなる国です。ですので、釣りは人々の「生活の一部」です。

 島では誰もが「自分の腕前が一番」と言い張るものですから、大会で優勝を果たすのは皆の夢でして(笑い)。

 こんなことわざがあります。「友に魚を与えれば一日分の食事となる。友に釣りを教えれば一生分の食事となる」と。

 パラオの子どもたちは、幼い頃から「泳ぎ」を覚え、海への恐怖心を克服し、海への敬意を学びます。そして、環境に配慮しながら家族を養う「釣り」の方法を覚えるのです。

「海の皇帝」と呼ばれるナポレオンフィッシュ。オスの成魚は2メートル近くになる ©アフロ
「海の皇帝」と呼ばれるナポレオンフィッシュ。オスの成魚は2メートル近くになる ©アフロ
◆気候変動の影響の「最前線」

――美しい海の楽園であるパラオですが、一方で、地球温暖化の被害が深刻化しています。具体的な状況について教えてください。
  
 私の幼い頃と比べると、海面は大きく上昇しています。土壌が海水に浸食され、水が庭まで入ってくるようになったため、沿岸地域から内陸へ移住した人が多くいます。作物も塩水によるダメージを受けています。

 また、海水温の上昇や、海洋の酸性化(人間が排出した二酸化炭素が海に溶け込むことが原因とされる)によって、魚の数が減り、多様な生物のすみかであるサンゴの白化なども進んでいる状況です。

 温暖化の影響で、暴風雨や台風の頻度は明らかに増えました。昨年12月にも台風がパラオを襲い、被害を受けています。

パラオのサンゴ礁。水温の上昇や海水の酸性化により白化などが進む ©アフロ
パラオのサンゴ礁。水温の上昇や海水の酸性化により白化などが進む ©アフロ
巨大台風によって破壊された家屋(2014年2月) ©読売新聞/アフロ
巨大台風によって破壊された家屋(2014年2月) ©読売新聞/アフロ

 過去にも、こうした自然災害はありましたが、ある程度の予測が可能だった。しかし、近年の暴風雨は予測がつかなくなっている上、破壊的になっています。

 もちろん、パラオにおいても、気候変動対策のために、太陽光発電などクリーンエネルギーの導入に力を尽くしています。しかし、パラオを含む太平洋諸島が排出する温室効果ガスは、世界全体の1%以下にすぎません。

 にもかかわらず、気候変動の影響を最も受けているのは島しょ国の住民なのです。まさに私たちは、気候変動の影響の「最前線」に置かれているのです。

 先進工業国の人々には、こうした深刻な脅威をもたらしている、自身の日々の行動の「責任」について、思いを巡らせてほしい。温室効果ガスを削減し、クリーンエネルギーへの投資を増やしてほしい。そして、産業革命以降の平均気温上昇を、できれば「1・5度」に抑えるというパリ協定の目標に向け、行動を起こしてほしいのです。

 <2015年採択のパリ協定は気温上昇を2度未満、できれば1・5度に抑えることを目指しており、「2度未満」が主力の目標だった。昨年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、「平均気温の上昇を1・5度に抑える努力を追求することを決意する」と明記した成果文書が合意された>

 これは経済の問題ではありません。人間として何が正しいかという「倫理」の問題です。そして、私たちにとっては「生きるか死ぬか」という、生存に関わる問題なのです。

パラオでは海面上昇の影響で、暴風雨が起きると沿岸部で深刻な浸水被害が発生する(上=昨年10月 ©Ann Singeo)
パラオでは海面上昇の影響で、暴風雨が起きると沿岸部で深刻な浸水被害が発生する(上=昨年10月 ©Ann Singeo)
◆人と自然に「尊敬」のまなざしを

――4期16年の大統領の任期中、COPや国連総会などを舞台に、太平洋諸国のリーダーとして気候変動対策への連帯を強く訴えてこられました。こうした活動の原動力となったものは何でしょうか。
  
 もし私たちが声を上げなければ、子どもたちの未来はどうなってしまうのか。今、立ち上がらなければ、パラオの未来も、太平洋諸国の未来もない――この迫り来る危機感により、行動を起こさずにはいられなかったのです。

 私は池田SGI(創価学会インタナショナル)会長とお会いできたことに深く感謝しています(02年6月、東京・旧聖教新聞本社で)。

 なぜなら、「人間と自然の共生」という、私たちと同じ哲学を持った人々が、日本をはじめ世界各地にいることを知ったからです。私は、創価学会の皆さまの活動に敬意を抱いています。皆さまは友人以上の存在であり、兄弟姉妹です。

 私たちは、自然を大切にしなければなりません。人間は、自然なくしては生存できないのです。私たちの未来は、「自然とどう向き合うか」という点にかかっています。

 人と自然の間には「相互依存」のつながりがある。生態系の一部が傷つけば、地球の生命の営みは狂ってしまうでしょう。これは私をはじめとするパラオ人、池田会長、そして心ある人々に共通する思想です。

 そこで重要なのが「尊敬」の二字であると思っています。他者や自然への尊敬の念を失い、自分のことだけを考えて生きるようになると、さまざまな問題が生まれてきます。私たちは、次の世代のことも考えて行動しなければなりません。

 こうした思想を基盤とすれば、さまざまな戦略、技術、協力関係が生まれてくる。その一切の原点は、尊敬の心だと思うのです。

レメンゲサウ大統領(当時=手前左)と池田先生が会見。温暖化対策や自然との共生を巡り語り合った(2002年6月、東京・旧聖教新聞本社で)
レメンゲサウ大統領(当時=手前左)と池田先生が会見。温暖化対策や自然との共生を巡り語り合った(2002年6月、東京・旧聖教新聞本社で)
◆「父なる海」を守るために

――レメンゲサウ前大統領の尽力により、2015年、パラオで「海洋保護区」を設置する法律ができました。日本の国土面積をはるかに上回る広大な水域で、漁業を禁止しています。
  
 パラオの人々は、海を「父」、大地を「母」と呼びます。

 この「父」と「母」が、私たちの生命を支えている。父なる海が傷つけば、母なる大地も壊れてしまう。逆もまた、しかりです。

 また私たちには「ブル」という伝統文化があります。これは、漁獲を制限する水域を定め、海の生態系を守る習わしです。

 こうした文化に基づき、パラオでは、排他的経済水域の80%を保護区に指定しました。50万平方キロという世界屈指の広さです。

 したがって、魚を捕ることができるのは保護区以外の20%の水域のみとなります。保護区では魚の生活や繁殖が守られるため、個体数が増えていく。結果、20%の水域の漁獲のみで、持続可能な形で需要を満たすことができているのです。

 保護区には、マグロなどの回遊魚がいます。海には国境の壁などありません。現在、保護区の政策が他国の漁業や漁獲高にどのような影響を及ぼすのかなど、研究を続けているところです。

 また、パラオでは2017年から、入国する観光客に対し、「パラオ誓約」への署名を求めています。

 サンゴを足で踏まない、クラゲを捕らないなど、環境を破壊する行為をしないための案内を行い、約束していただくのです。これは世界初の試みです。

パラオの海と島々 ©Norimoto/Shutterstock.com
パラオの海と島々 ©Norimoto/Shutterstock.com
◆子や孫の世代に、どんな未来を残しますか

――パラオでは、レメンゲサウ前大統領の提案により、3月15日が「青年の日」と制定されています。世界の青年たちに、一番伝えたいことは何でしょうか。
  
 私がなぜ、どんな困難にも負けず活動を続けてこられたのか。それは、青年という「希望」があるからです。青年の皆さんが、必ずや、さまざまな問題を解決してくれると信じているからです。

 青年は「未来のリーダー」ではなく「現在のリーダー」です。もう少し年を取ってから行動を起こそうなどと、決して思わないでください。

 多くの政治家たちは外交に気を使うあまり、沈黙し、なすべき仕事を十分にしていません。

 地球上で人口の大半を占めるのは青年です。そして、政治家が何を考え、何をなすべきかを明確に主張しているのも、今や青年たちです。

 どんな大企業のトップであれ、自分の子どもから「お父さん、お母さんがやっていることは、私たち、そして将来の孫たちにとって良くないことだよ」「お父さん、お母さんは、私たちの未来に、何を遺産として残すつもりなの?」と言われたら、じっと耳を傾けるはずです。パラオの大統領の言葉よりも、わが子の一言の方が力があるのです。

 私には4人の子どもと7人の孫がいます。孫たちが子どもを産む頃には、私はもう、この世にはいないでしょう。だからこそ、せめて今、私が味わうことのできる喜びや幸せは残してあげたい。

 美しい海で泳いだり釣りをしたりすること。ビーチでピクニックをしたり、結婚式を挙げたりすること。そしてパラオにやって来る人たちと友情を育み、自然の恵みを分かち合うこと――これこそ、私が後世に残していきたい遺産です。
 皆で力を合わせ、子どもや孫の世代に、“より良い未来”を贈ろうではありませんか。 
  

 <プロフィル>
 Tommy Remengesau Jr.
 1956年、パラオ生まれ。米ミシガン州のグランドバレー州立大学卒業。パラオ議会の上院議員、副大統領を歴任し、2000年に大統領に選出。昨年1月まで計4期16年、大統領として気候変動対策などに尽力してきた。環境保護への貢献に対し、国連機関等から顕彰が贈られている。
  
  

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