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〈熊本地震10年 信仰体験〉 師弟の空へ 花と舞え 2026年4月16日

 どれだけ時が流れても、鮮烈に浮かぶあの日の記憶。熊本地震から10年を刻む。険しき日々をこらえ、友は師弟の空を仰いだ。「蓮はきよきもの、泥よりいでたり」(新2037・全1492)。凍てつく季節をくぐり抜け、今、不屈の花が咲き誇る。(熊本支局)

●笑顔の火種 俺らしく
仕事でも、学会活動でも、一期一会の縁を大事にする坂本さん。「新しい人との出会いが、ホント楽しいっすね」
仕事でも、学会活動でも、一期一会の縁を大事にする坂本さん。「新しい人との出会いが、ホント楽しいっすね」

 【熊本県益城町】メッシュの髪が揺れる耳元で、銀のピアスが光る。
 「思い描いていたオトナとは、ちょっと違うかも」と、坂本崚さん(20)=男子地区リーダー=が小さく笑う。
 あの日、小学5年だった少年は今、成人になった。

 2016年(平成28年)4月、益城町を2度の震度7が襲った。
 坂本さんの自宅は全壊。親に内緒で見に行くと、家は「く」の字に倒れていた。
 隙間から中に入り、ゲーム機を持ち出した途端、家が崩れ落ちた。後でこっぴどく叱られた。

 避難所で過ごした1年余り。ボランティアの人と一緒に炊き出しを手伝い、同じ部屋で寝泊まりした。
 「意外に楽しくて、不安とか、怖いとかはなかった」
 たくさんもらった優しさは、かっこいいオトナになりたいという種になった。

 うぶな瞳が鋭い目つきになったのは、高校生になってから。やんちゃが度を越え、中退となる。泥沼にハマり、危うい道を渡りそうにもなった。

 父・今朝幸さん(69)=壮年部員=と同じ設備工事の会社に雇ってもらったが、遅刻を繰り返し、現場では戦力外。
 感情に振り回され、青春をこじらせた。

 そんな自分に、新しい景色を見せてくれたのが題目だった。
 母・京子さん(60)=圏女性部長=と御本尊に向かう。生活リズムが整い始め、仕事のやる気がメラメラ。題目をサボれば、空回りでフラフラ。
 「おもしろいように題目効果が現れるっす」。その実感が自分を立て直した。

 悶々とした時は、母が池田先生の言葉を教えてくれた。
 〈若き日の苦労は最高の宝である。すべてが、自分を強く、大きくする糧となっていく〉

 心にズドンとくる言葉。
 「先生は、なんで俺の心を分からすと?」。師弟というぬくもりに初めて触れた。

 男子部の車座に入った。「自他共」に生きる哲学に驚いた。
 「自分じゃない誰かのために祈るって、仏すぎません?」
 素直にカッコいいと思った。

 思えば、いつも暗がりの足元を照らしてくれる人がいた。
 心がすさんだ時期も、あの震災の時も。
 「人のために火をともせば、我がまえあきらかなるがごとし」(新2156・全1598)。
 凍てつく日々を温めてくれた人たちのように、今度は自分が「笑顔の火種」になる番だと思った。

 忘れない光景がある。地震の時、自分と姉をかばい、覆いかぶさる母。その上から、父が倒れる家具を背中で受け止めていた。頭に傷を負いながら、家族の盾となった。

 寡黙な職人の父。坂本さんが退学になった時も「バカだな」の一言だけ。
 同じ現場で働くようになって4年。技術の高さも、信頼の厚みも桁違い。
 「年々、父親の背中のデカさを感じるっす」

 保育園の卒園アルバムに書いた将来の夢は、ハタチの今も変わっていない。
 〈お父さんみたいな人になる〉

●君に響け! 心の春よ
「心の思い」を響かせる岩下さん㊧。デュエットを組む高橋さんと。光をまとった歌声が、心の奥を優しく満たす
「心の思い」を響かせる岩下さん㊧。デュエットを組む高橋さんと。光をまとった歌声が、心の奥を優しく満たす

 【熊本市東区】歩んだ履歴がユニークだ。歯科衛生士、ラジオのMC、ジャズバンドのボーカル。
 岩下弘美さん(63)=副白ゆり長=はそこに縁あらば、軽やかに乗り込む。
 「私、欲張りなんですよ。アハハッ」。ごきげんなホップ・ステップで人生を渡ってきた。

 中でも、自分に自然とフィットしたのが、寺子屋学習教室。38年続けている。
 勉強嫌いな子どもが、ぐんぐん成績を伸ばし、「せんせー、見てー」と、笑顔で満点の答案用紙を掲げる。天職だと思えた。

 多くの教え子を送り出した。最後まで成績が伸び悩んだ子もいた。
 ある日、そんな教え子と再会した。親から“アンポンタン”と嘆かれていた少年は、社会で立派に活躍していた。

 かつて、少年にかけた言葉があった。
 「アンポンタンでもよかたい。誰かの力になれる人間になりなさい」
 岩下さんの言葉を、彼は胸にしまっていたという。「先生の一言があったから、頑張れました」と。

 不動の信念がある。
 〈無上の宝は自分自身の中にある〉
 池田先生の言葉を抱き締め、生徒にもよく「自分ば信じんね」と励ましてきた。
 岩下さんもまた、自分を信じた。

 歌い手への挑戦。
 40歳の初舞台は散々だった。だが、その悔しさの奥で何かが燃えた。
 喉を鍛え、信心で心を磨いた。たたき上げの歌声に、拍手が送られるようになった。

 「いい声ば持っとる」
 ライブハウスで声をかけられたのは2010年(平成22年)。高橋淳治さん(70)とデュエットを組んだ。音の景色が広がり始めた時、熊本地震が起きた。

 道路の脇で崩れる家屋。「街全体がうつむいているようだった」。
 2週間後、音楽機材を車に積み、避難所へ向かった。こんな時に歌っていいのか……。
 葛藤する胸の内で、記憶の風が吹き抜けた。

 若くして離婚、くも膜下出血で倒れ、後遺症にも苦しんだ。それでも立ち上がれたのは「揺るがぬ幹を、命にドンと置きなさい」と言う同志の励ましがあったから。

 題目を命に据え、岩下さんがつかんだのは「冬は必ず春となる」(新1696・全1253)の大確信。
 その心を少しでも、被災で癒えぬ友の胸に届けられたらと、岩下さんは避難所でマイクを握った。

 曲が進むにつれ、壮年のこわばった表情がほどけていく。涙ながらに口ずさむ女性もいた。
 歌で命がつながる。
 その手応えをつかんだ瞬間、「歌うこと」の意味が、確かに変わった。

 それから10年。地元のイベントや慰問活動で、ひだまりの歌声を届けた日々。
 熊本が、さらに好きになった。
 夢は大きく、紅白歌合戦に出場! 「大きく言いすぎですね」と笑い声をはじけさせる。

 いつだって欲張りに、楽しく、寺子屋の先生も全力で。歌い人は、今も挑戦の花盛り。
 ホップ・ステップ・題目で、春の響きを奏でている。

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