【電子版連載】被害者家族が、犯罪者支援をする理由――草刈健太郎さん
【電子版連載】被害者家族が、犯罪者支援をする理由――草刈健太郎さん
2024年5月11日
- 〈WITH あなたと〉#犯罪
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【プロフィル】
【プロフィル】
くさかり・けんたろう 1973年、大阪府岸和田市生まれ。近畿大学法学部卒業。カンサイ建装工業(株)、日之出塗装工業(株)、オープンブックマネジメント(株)の代表取締役を務める。また、日本財団の再犯防止プロジェクト「職親プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、受刑者の社会復帰促進就労支援に携わる。
くさかり・けんたろう 1973年、大阪府岸和田市生まれ。近畿大学法学部卒業。カンサイ建装工業(株)、日之出塗装工業(株)、オープンブックマネジメント(株)の代表取締役を務める。また、日本財団の再犯防止プロジェクト「職親プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、受刑者の社会復帰促進就労支援に携わる。
2023年、日本の殺人や強盗などの「重要犯罪」は前年比で約30%の増加となりました。また、全体の刑法犯罪は2002年をピークに19年連続で減少していましたが、2022年からは2年連続で増加しています。増えつつある犯罪に苦しむ人を減らす道はあるのでしょうか。今回は、大阪を拠点に3つの会社を経営しながら、元受刑者らの社会復帰をサポートする「職親プロジェクト」に取り組む、草刈健太郎さんに話を聞きました。(取材=松岡孝伸、宮本勇介)
2023年、日本の殺人や強盗などの「重要犯罪」は前年比で約30%の増加となりました。また、全体の刑法犯罪は2002年をピークに19年連続で減少していましたが、2022年からは2年連続で増加しています。増えつつある犯罪に苦しむ人を減らす道はあるのでしょうか。今回は、大阪を拠点に3つの会社を経営しながら、元受刑者らの社会復帰をサポートする「職親プロジェクト」に取り組む、草刈健太郎さんに話を聞きました。(取材=松岡孝伸、宮本勇介)
突然の絶望
突然の絶望
――草刈さんは2005年、当時アメリカに在住していた妹・福子さんを、彼女の結婚相手であるアメリカ人男性によって殺害されました。
もし生きとったら、ええおばちゃんになってますね。でも、犯罪被害者に共通してるのは、時間が止まるんですよ。僕にとって妹は「天使の子」だった。だから、おばちゃんになった顔は想像できなくて、ずっと、天使みたいなかわいい妹のまんまなんです。
だからこそ、殺された当時はもう訳が分からんかった。犯人を「どう殺したろうか」ってことばかり考えてましたよ。家族を、大事な宝物を、突然殺されたら、どうなりますか? 僕は神様じゃなくて、ただの人間だから、今でも犯人を許すことはできない。
ただ、恨み続けるのもしんどいんです。結局、恨みが転じて、今度は自分自身が「なんで生きてるんや」って、死ぬことまで考えるようになりました。でも、同じように家族を亡くして、自分よりつらい思いをしてる人もたくさんいることを知って、「まだ死なれへんな」と。
そこから、お世話になった人が、たまたま「職親プロジェクト」をやろうと声をかけてくれた。「なんで俺が犯罪者の面倒見なあかんねん」って思いましたけど、これは僕が人生をかけてやるべきことなんかなと感じて、11年前から続けてきました。
結局、今は、犯人に対して、許す許さないの間の、中間で生きてるような感覚です。
――草刈さんは2005年、当時アメリカに在住していた妹・福子さんを、彼女の結婚相手であるアメリカ人男性によって殺害されました。
もし生きとったら、ええおばちゃんになってますね。でも、犯罪被害者に共通してるのは、時間が止まるんですよ。僕にとって妹は「天使の子」だった。だから、おばちゃんになった顔は想像できなくて、ずっと、天使みたいなかわいい妹のまんまなんです。
だからこそ、殺された当時はもう訳が分からんかった。犯人を「どう殺したろうか」ってことばかり考えてましたよ。家族を、大事な宝物を、突然殺されたら、どうなりますか? 僕は神様じゃなくて、ただの人間だから、今でも犯人を許すことはできない。
ただ、恨み続けるのもしんどいんです。結局、恨みが転じて、今度は自分自身が「なんで生きてるんや」って、死ぬことまで考えるようになりました。でも、同じように家族を亡くして、自分よりつらい思いをしてる人もたくさんいることを知って、「まだ死なれへんな」と。
そこから、お世話になった人が、たまたま「職親プロジェクト」をやろうと声をかけてくれた。「なんで俺が犯罪者の面倒見なあかんねん」って思いましたけど、これは僕が人生をかけてやるべきことなんかなと感じて、11年前から続けてきました。
結局、今は、犯人に対して、許す許さないの間の、中間で生きてるような感覚です。
――犯人の男性は当時、躁うつ病を患っており、責任能力がなかったとして、無罪を訴えました。また、躁うつ病の原因は、彼自身が父親を殺害された経験を持つことにあったといわれています。
認めたくはないけれど、彼も「社会的被害者」だったといえるかもしれない。
初めて「職親プロジェクト」で関わった、第1号就労者のヤマモト(仮名)も、父親が認知症で母親はうつ病でした。両親から褒められたり、叱られたりした記憶はなく、小学生から自分でカップラーメンを作って腹を満たしていたと言っていました。まっとうに愛を与えられなかったから、自己肯定感も低く、最低限の善悪の基準すら分かっていない。
それで、盗みが悪いことだとも思わず、窃盗で逮捕されて、うちの会社にきました。それからも、ひどい虚言癖で、同僚にも僕にもうそついて、金を借りまくってましたよ(笑)。
でも、ヤマモトみたいな子らと何人も関わり、彼らの背景を知る中で、犯罪を行った「加害者」も、もしかしたら「社会的被害者」なのかもしれない。そう考えるようになったんです。
――犯人の男性は当時、躁うつ病を患っており、責任能力がなかったとして、無罪を訴えました。また、躁うつ病の原因は、彼自身が父親を殺害された経験を持つことにあったといわれています。
認めたくはないけれど、彼も「社会的被害者」だったといえるかもしれない。
初めて「職親プロジェクト」で関わった、第1号就労者のヤマモト(仮名)も、父親が認知症で母親はうつ病でした。両親から褒められたり、叱られたりした記憶はなく、小学生から自分でカップラーメンを作って腹を満たしていたと言っていました。まっとうに愛を与えられなかったから、自己肯定感も低く、最低限の善悪の基準すら分かっていない。
それで、盗みが悪いことだとも思わず、窃盗で逮捕されて、うちの会社にきました。それからも、ひどい虚言癖で、同僚にも僕にもうそついて、金を借りまくってましたよ(笑)。
でも、ヤマモトみたいな子らと何人も関わり、彼らの背景を知る中で、犯罪を行った「加害者」も、もしかしたら「社会的被害者」なのかもしれない。そう考えるようになったんです。
善人と悪人
善人と悪人
――近頃、インターネット上では、犯罪者に対して私的に制裁を加えるケースも散見されます。「悪人は悪人」、そう考える人も多いのではないかと感じます。
この前、80歳くらいのおっちゃんに「草刈さん、悪いやつは直れへんやろ」って言われたんです。僕は「分からんで」って答えました。これまで、プロジェクトを通して僕が関わった子で、更生できたのは約7割。
現実として、悪人が善人になる姿を見てきたから、「悪人は悪人」とは言い切れない。ただ、全員が更生したわけでもないから、善も悪も簡単に判断することはできません。
更生はそう簡単じゃないってことです。受刑者が、すぐにピカピカになって社会復帰できる。その通りにいく人間はどこにもいない。
2023年時点では、出所したうち、だいたい3人に1人が、5年以内に再犯をしている。刑務所というのは、基本的に懲罰と監視が目的なので、反省する心や社会復帰する力は育たないのかもしれない。また犯罪を行ってしまうんです。
だから、時間をかけて関わって、しつこく話していかないと、更生はできるものじゃない。出会ってから途中で刑務所に戻り、7年してようやく更生できた子もいました。
自分の子どもか、兄弟みたいな感じで、膝を突き合わせて、話を聞いてあげる。あとはご飯を食べさせて、腹いっぱいにさせてあげる。今見てる子は、全然働かないので、「取りあえず寝とけ」と言って、うちの会社の寮で10日くらいゴロゴロさせてます(笑)。
犯罪者をなんでそんな甘やかすんだって、言われるかもしれませんけど、心を育てるためには、こちらが愛を与えてあげないと。逃がさないようにしながら、少しずつ選択肢を与えていく、“釣り”みたいな感じですかね(笑)。
――近頃、インターネット上では、犯罪者に対して私的に制裁を加えるケースも散見されます。「悪人は悪人」、そう考える人も多いのではないかと感じます。
この前、80歳くらいのおっちゃんに「草刈さん、悪いやつは直れへんやろ」って言われたんです。僕は「分からんで」って答えました。これまで、プロジェクトを通して僕が関わった子で、更生できたのは約7割。
現実として、悪人が善人になる姿を見てきたから、「悪人は悪人」とは言い切れない。ただ、全員が更生したわけでもないから、善も悪も簡単に判断することはできません。
更生はそう簡単じゃないってことです。受刑者が、すぐにピカピカになって社会復帰できる。その通りにいく人間はどこにもいない。
2023年時点では、出所したうち、だいたい3人に1人が、5年以内に再犯をしている。刑務所というのは、基本的に懲罰と監視が目的なので、反省する心や社会復帰する力は育たないのかもしれない。また犯罪を行ってしまうんです。
だから、時間をかけて関わって、しつこく話していかないと、更生はできるものじゃない。出会ってから途中で刑務所に戻り、7年してようやく更生できた子もいました。
自分の子どもか、兄弟みたいな感じで、膝を突き合わせて、話を聞いてあげる。あとはご飯を食べさせて、腹いっぱいにさせてあげる。今見てる子は、全然働かないので、「取りあえず寝とけ」と言って、うちの会社の寮で10日くらいゴロゴロさせてます(笑)。
犯罪者をなんでそんな甘やかすんだって、言われるかもしれませんけど、心を育てるためには、こちらが愛を与えてあげないと。逃がさないようにしながら、少しずつ選択肢を与えていく、“釣り”みたいな感じですかね(笑)。
現在支援をしている若者と語り合う草刈さん
現在支援をしている若者と語り合う草刈さん
“愛”とは
“愛”とは
――なぜ赤の他人かつ、罪を犯した彼らに、そこまで“愛”をもって接することができるんでしょうか。
ホンマ、なんでやろな……。愛って言っても、感覚。「もうしゃあないな」みたいな感じですよね。ヤマモトなんかは結局、今また刑務所に入ってますから。また事件起こして、裁判までついてって、東京地裁の前で涙が止まらんかった。面倒見てきた子に裏切られて、ホンマに嫌やねんけど……。もう、これは僕の責任なんかなあ。
でも、今まで関わった子らが、ちょっとずつでも成長して、笑っている姿を思い起こすと、僕も彼らから大切な“つながり”みたいなものをもらっているんだなと感じます。
けど根本には、僕みたいに悲しむ人を、もうつくったらあかんという思いはありますよ。このまま彼らを放っておいたら、いつ殺人者になるか分からん。ほったらかしにしたらあかんって。
だから、彼らを見守る人が自分だけじゃなくて、たくさんおった方がいい。いろんな“つながり”があって、ようやく更生はできる。だから、みんな無関心になったらあかんのです。
やっぱり、犯罪者を遠ざけたくなる気持ちも分かります。けど、誰も自分や自分の家族が殺されるなんて考えもしない。そうなることを防ぐためには、誰かがやらないといけないんです。
――なぜ赤の他人かつ、罪を犯した彼らに、そこまで“愛”をもって接することができるんでしょうか。
ホンマ、なんでやろな……。愛って言っても、感覚。「もうしゃあないな」みたいな感じですよね。ヤマモトなんかは結局、今また刑務所に入ってますから。また事件起こして、裁判までついてって、東京地裁の前で涙が止まらんかった。面倒見てきた子に裏切られて、ホンマに嫌やねんけど……。もう、これは僕の責任なんかなあ。
でも、今まで関わった子らが、ちょっとずつでも成長して、笑っている姿を思い起こすと、僕も彼らから大切な“つながり”みたいなものをもらっているんだなと感じます。
けど根本には、僕みたいに悲しむ人を、もうつくったらあかんという思いはありますよ。このまま彼らを放っておいたら、いつ殺人者になるか分からん。ほったらかしにしたらあかんって。
だから、彼らを見守る人が自分だけじゃなくて、たくさんおった方がいい。いろんな“つながり”があって、ようやく更生はできる。だから、みんな無関心になったらあかんのです。
やっぱり、犯罪者を遠ざけたくなる気持ちも分かります。けど、誰も自分や自分の家族が殺されるなんて考えもしない。そうなることを防ぐためには、誰かがやらないといけないんです。
【映画情報】テレビ大阪ドキュメンタリー映画 「おまえの親になったるで」
【映画情報】テレビ大阪ドキュメンタリー映画 「おまえの親になったるで」
©テレビ大阪
©テレビ大阪
草刈社長に密着した、700時間以上に及ぶ映像記録を再編集し、社会の問題に迫るヒューマン・ドキュメンタリーとして映画化。
【上映日時・場所】6月28日~7月11日、テアトル新宿(東京都新宿区)。7月19日~、UPLINK京都(京都市中京区)。
草刈社長に密着した、700時間以上に及ぶ映像記録を再編集し、社会の問題に迫るヒューマン・ドキュメンタリーとして映画化。
【上映日時・場所】6月28日~7月11日、テアトル新宿(東京都新宿区)。7月19日~、UPLINK京都(京都市中京区)。
今回、本社所属の学生記者として、取材に同席しました。終始、親分肌の草刈さんの優しさに触れた取材でした。記者の悩みに耳を傾け、真剣にアドバイスする場面も。取材中に出所者の方に電話をかけて呼び出し、彼に会わせてくれることになりました。
出所者の方は、私と年齢が近く、どこにでもいるような普通の若者でした。ラップのリリック(歌詞)について語る、キラキラした彼の目は印象的。一方、犯してきた悪事を武勇伝のように語ることも。なかなか生活習慣を立て直せず、仕事に行く気が起きないようでした。草刈さんは他愛もない話に付き合いながら、「怒らない、威張らない、笑顔でありがとう、この3つだけ守れ」と、自分の子どものように、彼を諭します。
出所者が更生できるという保証はありません。常に葛藤しながらも、使命感に突き動かされるように、絶対に放り出さずにひとりひとりの面倒を見る草刈さんの“粘り強さ”が印象に残りました。
取材の終わりに、今を生きる若者に向け「せっかく人間同士つながったのなら、心で語ってほしい。しゃべるのを嫌がらないで」とメッセージをいただきました。私も、自分の心を隠したりごまかしたりせず、積極的に語りかけていきたいと思います。(インゲン)
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
メール youth@seikyo-np.jp
ファクス 03-5360-9470
今回、本社所属の学生記者として、取材に同席しました。終始、親分肌の草刈さんの優しさに触れた取材でした。記者の悩みに耳を傾け、真剣にアドバイスする場面も。取材中に出所者の方に電話をかけて呼び出し、彼に会わせてくれることになりました。
出所者の方は、私と年齢が近く、どこにでもいるような普通の若者でした。ラップのリリック(歌詞)について語る、キラキラした彼の目は印象的。一方、犯してきた悪事を武勇伝のように語ることも。なかなか生活習慣を立て直せず、仕事に行く気が起きないようでした。草刈さんは他愛もない話に付き合いながら、「怒らない、威張らない、笑顔でありがとう、この3つだけ守れ」と、自分の子どものように、彼を諭します。
出所者が更生できるという保証はありません。常に葛藤しながらも、使命感に突き動かされるように、絶対に放り出さずにひとりひとりの面倒を見る草刈さんの“粘り強さ”が印象に残りました。
取材の終わりに、今を生きる若者に向け「せっかく人間同士つながったのなら、心で語ってほしい。しゃべるのを嫌がらないで」とメッセージをいただきました。私も、自分の心を隠したりごまかしたりせず、積極的に語りかけていきたいと思います。(インゲン)
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